特集:欧州市場に挑む高付加価値プレス機械を欧州に輸出する森鉄工
オーダーメード対応と細やかなサポートで商機をつかむ

2018年7月26日

佐賀県鹿島市に本社を置く森鉄工は、主に「ファインブランキングプレス」と呼ばれる高性能プレス機器の製造・販売を行っている。現在、同種製品を製造・販売できるのは世界で同社とスイス企業の2社のみで、競合他社と同等の世界シェアを有している。日EU経済連携協定(EPA)の発効を前に、同社の森孝一代表取締役社長に、欧州での事業の取り組みについて聞いた(5月23日)。

ファインブランキングプレスを開発し、収益の柱に

森鉄工の創業は1922年で、当初は肥料会社として事業を開始した。その後、関連業務として農業機械の製造・販売を開始し、時代に合わせて徐々に事業の形態を変更してきた。大手企業の下請けから脱却し、同社収益の柱となる事業を確立するため、ファインブランキングプレスを1981年に開発し、その1号機を納入した。通常、プレス機械で製造した金属部品は断面が粗くなることから、平滑にするために2次加工が必要となるが、同社のファインブランキングプレスを使用すれば、一度の打ち抜きで平滑な断面が得られ、2次加工が不要となる。製品の製造工程を省略するとともに、導入する機械が減ることで、従来と比べて省スペースでの製造を可能とする。

海外向けビジネスに関しては、1980年代半ばから開始したが、本格的には1992年から中国向けの輸出を開始した。同社製品は機械の説明に高い専門性が求められることから、当初から商社は通さずに、直接取引を進めた。当時は中国語が話せるスタッフがいなかったため筆談で取引を進めたとところ、同社の熱意とその高い製品力が伝わり、無事成約に至ったという。それ以降、徐々に海外ビジネスを拡大し、輸出先は現在、イタリア、スペイン、米国、中国、韓国、タイなど世界20カ国以上に広がっている。現在は各国語に堪能なスタッフを社内に有しており、商談やアフターサービスに際する言語の障壁はない。また、日本国外ではバンコク、上海、ソウル、トロントに事務所や協力企業を有しており、現地における迅速な対応を可能としている。ファインブランキングプレスを製造・販売できるのは現在、世界で同社とスイス企業の2社しかなく、同社の調べでは国内シェア75%、世界シェア50%程度となっているという。


同社主力製品のファインブランキングプレス(森鉄工提供)

欧州は付加価値を重視、イタリアは工場にもデザイン性を求める

同社のプレス機器納入先は、主に自動車の部品メーカーである。従って、必然的に世界の自動車産業において、重要な地位を占める欧州企業に認められることが重要と森社長は話す。同社製品をPRし、その高い品質を理解してもらうため、海外での展示会には積極的に参加するようにしているという。欧州市場の特徴について聞くと、コストよりも付加価値を重視するため、「機械に対して高い評価をしてもらえる市場」だと話す。付加価値の捉え方も、国や地域によって異なる。特徴的な例として、イタリアの納入先はデザイン性を付加価値の1つとして考えており、機械や壁などを自社でペイントし、「魅せる工場」にしたという。この件では、同社として直接的にデザインに関わることはなかったものの、こういった国ごとの考え方の違いを理解し、付加価値を提供していくことが重要という。

また、同社のファインブランキングプレスは、欧州の商品適合基準を満たすことを証明するCEマークを取得しており、欧州市場での信頼につながっているという。

オーダーメードの商品製造とアフターサービスで信頼を獲得

当社の強みは、取引先の要望に徹底的に寄り添うオーダーメードの商品製造と、アフターサービスにある。「設計者は現場に行って、お客さんの声を聞くことが重要。お客さんの声を聞いて、それを反映することが他社との差別化につながった」と森社長は説明する。機械は1台ごとに丁寧に顧客の声を取り入れるため、オーダーメードでそれぞれ仕様が異なる。また、納入後も使用方法の説明を含めたアフターサービスに余念がない。製品の金型を製造できる技術者も抱えているため、製造工程の初期段階からきめ細やかなサービスを提供することも可能としている。そのきめ細やかさから、他社で機械を購入した顧客から機械の使用方法の説明を請われることもあるという。「機械はわが子と同じ。しっかりとかわいがって(メンテナンスして)大事にしてほしい」との言葉から、製品一台一台に対するこだわりと、自信がうかがえる。同社製品を一台導入すれば、同社製品に満足し、リピーターとなることが多いという。

顧客と共同で製品を開発する施設「ものづくりlab(ラボ)」を、2015年に開設した。同施設内には5台のプレス機械を設置しており、同社の技術者が取引先の製品開発をサポートし、試作を行う。取引先の製品開発初期の段階から関与することで、同社のノウハウをフルに提供することが可能であるとともに、取引先は製品の試作を十分に行い、納得した上で、プレス機械の注文を行うことができる。「今後は機械をただ売るだけではなく、加工ノウハウなど総合的な情報提供を行っていくことが必要だ」と森社長は話し、あらためて同社としてオーダーメード型の営業を進めていく姿勢を強調した。


2015年に完成した「ものづくりlab」(森鉄工提供)

日EU・EPAが発効すれば、さらなるシェア拡大のチャンス

世界全体でみて、自動車生産台数はいまだ増え続けており、付随して、同社製品に対しては引き続き需要が高まっていくことが予想される。日EU・EPAが発効すれば、同社主力製品のファインブランキングプレスに課せられているEU輸入時の2.7%の関税が即時撤廃となり、競争力にプラスに作用する。EUでのシェアを拡大することで、市場における同社のプレゼンスをより強固なものとするチャンスだ。


本社前で森社長(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課長
田中 晋(たなか すすむ)
1990年、ジェトロ入構。ジェトロ・パリ事務所(1995~1998年)、海外調査部欧州課長代理(2000~2001年)、ジェトロ・ブリュッセル事務所(2002~2004年)、同次長(2004~2007年)、欧州課長(2008~2010年)、欧州ロシアCIS課長(2010年)、ジェトロ・ブリュッセル事務所次長(2010~2015年)を経て現職。著書は「欧州経済の基礎知識」(編著)など。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 欧州ロシアCIS課
芳賀 隼人(はが はやと)
2010年、七十七銀行入行。2018年4月からジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課へ出向。