特集:欧州市場に挑む伝統工芸の銅器に新たな価値を加え、欧州市場へ
富山の四津川製作所の取り組み

2018年8月8日

江戸時代初期までさかのぼる富山県高岡市の伝統工芸品、高岡銅器のメーカー四津川製作所は、伝統を守りながらも現代のライフスタイルに合わせた新ブランドを立ち上げ、海外市場開拓にも取り組み始めている。代表取締役の四津川元将氏に、欧州展示会で商談に臨む際の工夫や現地の反響などについて聞いた(7月11日)。

ライフスタイルの変化に応じ新ブランドを立ち上げ

高岡銅器は、1609年に高岡城に入城した加賀藩2代目藩主である前田利長が、鋳物の発祥地である河内国(現大阪府)から鋳物師を呼び寄せて鋳物工場を開かせたことが始まりとされる。2016年には地域名と商品名を組み合わせた地域ブランドを保護する「地域団体商標」に登録されたが、銅器としての同商標登録は日本で唯一だ。

四津川製作所は、戦後の創業以来、香炉や花器、酒器、茶器などの銅器を販売してきたが、それまで培ってきた伝統と技術に新たな発想を加え、現代のライフスタイルに合わせた商品を展開するための「KISEN」ブランドを2014年に立ち上げた。KISENは、創業以来の屋号である「喜泉」から名付けたもの。四津川代表取締役によると、新ブランド立ち上げの背景には、バブル崩壊後の長期間にわたる景気低迷に加え、ライフスタイルの変化に伴う伝統的な銅器に対する需要減があったという。

KISENブランドでは、木と金属を組み合わせたカップ、ぐいのみ、酒器、箸置き、一口料理用の皿、ワインクーラー、ワインボトル用コースター、ワインボトルキャップなどを展開している。伝統的な銅器製品は単価が高いこともあり、KISENブランド商品が同社全体の売り上げに占める割合は2割ほどだが、販売は伸びているという。また、立ち上げ初年に同ブランド商品の1つ「Guinomi Sake Cup」が公益財団法人日本デザイン振興会の「グッドデザイン賞」を受賞。木と金属を組み合わせたスタイリッシュなデザインが評価されている。


KISENブランドの商品(四津川製作所提供)

伝統的な銅器製品(四津川製作所提供)

世界中からバイヤーが集まるドイツ・アンビエンテに魅力

同社の海外展開は、まず伝統的な銅器製品をジェトロのアジア・キャラバン事業(生活雑貨のアジア市場化販路開拓事業)などを活用し、中国や台湾など中国語圏向けに販売してきたが、四津川代表取締役によると、輸出先の多角化を検討した際、多くの国からバイヤーが集まる世界最大級の国際消費財見本市であるドイツの「アンビエンテ」に魅力を感じたという。アンビエンテへの初出展は2016年3月で、それ以降3年連続で出展している。アンビエンテでは、実際に欧州バイヤーとの商談が多いが、事前に聞いていたとおり、欧州以外にも米国やオーストラリア、中国、また日本など多くの国のバイヤーとネットワークを築くことができるという。

アンビエンテに臨むに当たって、四津川代表取締役は「自社製品は高岡銅器の歴史や日本の文化的背景に根差した製品であること、それを自分たちは今後こうしていきたいというストーリーに欧州の人から関心を示してもらうこと」が突破口だと考えたという。実際、出展回数に比例して同社製品に関心を示すファンの数や「今年もアンビエンテに来たね」と声を掛けてくれる人が増え、バイヤーからの認知度が高まっていることを実感している。

これまで3度のアンビエンテ出展を通じて、いろいろと見えてきたと語る。現地で生産される同等製品と比べると価格が高いため、同社製品はニッチでハイクラスな高級品市場となるが、ホテルにテーブルウェアを提供する業者との多くの商談を通じて、高級ホテルというこれまで考えていなかった市場に可能性を感じている。また、中国では茶器とみられることが多い日本酒用の酒器だが、欧州では日本酒への関心が高く、酒器と組み合わせて売り込んでいく可能性を指摘する。

欧州バイヤーの反応を製品開発に反映

他方で、当初は日本のものをそのまま欧州でも販売したいと考えていたが、ある程度現地の文化に配慮した商品を開発する柔軟性が必要とも語る。ワイン文化が深く根付いた欧州では、ワイン関連の商品が重要だ。木と金属を組み合わせたワイングラスは、グラスの底の円球型金属がバランスを取りながら揺れるコンセプトだが、欧州バイヤーから「ワインは色と香りを楽しむもの、(木製であることから)色が見えないのは残念」とのコメントを受け、新たなグラスの開発に取り組んでいる。また、冷蔵庫で冷やしたワインをボトルクーラーに入れずに飲むことが増えていることから、瓶の結露がテーブルにつかないよう、ワインボトル用のコースターを開発。ボトルの底が触れる部分にはワインで染めた軽石素材を使うことで、ワインが垂れた場合も染みが目立たない工夫がなされている。ボトルキャップは、金属部分を丸く加工することで自立させ、コルク部分が下について汚れない構造とした。


ワインボトル用コースターとボトルキャップ(四津川製作所提供)

バイヤーの心に訴え、購買意欲をかき立てるのは、デザイン力に加え、製品に使われている技術、付加価値の背景にある考えや伝統をしっかりと説明し、商品を提案していくことだ。2018年2月のアンビエンテでは、高岡の街並みや製造工程、商品の使用例などをまとめたプロモーションビデオをブースで流したほか、商談の際に和菓子や茶を自社製品のコップや皿で提供することで、バイヤーに製品を使ってもらいながら、くつろいで、長居してもらえるよう工夫したことが奏功したという。

四津川代表取締役は、海外ビジネスの最大の障壁は言葉だと説明する。文化やビジネス習慣の違いは言葉が分かれば説明することで分かり合えるので、商談相手とコミュニケーションを取れることが重要という。その点、欧州の展示会では英語が使われるので、中国語圏と比べると言葉の面ではハードルが低いという。

日EU・EPAの発効でEU関税は即時撤廃に

アンビエンテに3年連続で出展したが、四津川社長は出展がすぐに大きなビジネスにつながる「夢のような世界」はないと語る。単発での輸出はあるものの、現在、同社が継続的な取引を行っているのはドイツ、中国および台湾の数社にとどまる。欧州企業との安定した取引のためには、まずは現地で製品を取り扱ってくれるエージェントを見つける必要があり、そのためにも、今後も継続的に展示会でアピールしていくという。

日本国内では、バブル崩壊後の景気低迷、また銅器を飾ることが多い床の間がない住宅が増えたり、銅器を使用することの多い冠婚葬祭が自宅から外部施設に移るなど生活スタイルの変化により、伝統的な銅器のニーズが拡大していく要素が見えづらくなっているという。しかし、高岡では銅器に携わる若い世代が人的ネットワークや他業界との連携、大学とのコラボレーションなど新たな試みを行うなど前向きな動きが出てきている。また、高岡の製品が国内のデパートで外国人旅行客の目に留まる機会が増えているという。

2018年7月に署名された日本EU経済連携協定(EPA)が発効すると、銅器にかかる関税(3%)が撤廃される。また、富山県が台湾とビジネスを含む交流を続けていることや、ジェトロ富山が高岡市と覚書(MOU)を交わし実施する、海外バイヤーを招聘(しょうへい)した商談会なども高岡銅器の輸出を後押ししている。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
鷲澤 純(わしざわ じゅん)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ大分(2000~2004年)、市場開拓部(2004~2006年)、ジェトロ・ウィーン事務所(2010~2015年)などを経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 海外調査計画課
山崎 有馬(やまざき ゆうま)
2017年4月、ジェトロ入構。同月より現職。

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