特集:欧州市場に挑む日本から厳選15のメンズ・キッズブランドを束ねて販売

2018年10月11日

日本のファッションブランドの多くは社員数10人以下の零細企業だ。それらの企業が、こだわりを持って素材を選び、デザインし、魅力あるファッション製品を生み出している。しかし、いざ輸出しようとするとさまざまな障壁にぶつかる。パドラーズUKは中小企業を中心に厳選した日本の15社(15ブランド)から製品を買い付け、英国を拠点に欧州15カ国の約100社に卸している。同社の現地法人責任者である藤野正規氏に、欧州市場開拓とそれに伴う苦労について聞いた(2018年9月21日)。

15ブランドの欧州での商流を担う

パドラーズUKは、繊維専門商社ノーザンスカイ(本社:大阪、注1)の英国現地法人として2015年5月に設立された。同社が扱うのは、日本製の紳士服と子供服。紳士服の中でも「高級カジュアル」を中心とし、ターゲットとする年齢層は20代後半から50代で、その中心は30代だ。同社は現在、ロンドンのショーディッチ(注2)に拠点を構え、1階は店舗、地下をショールームとしている。「英国で感じることができる身近な日本」をコンセプトとして店舗を運営し、衣類のほかに日本製の陶器や文房具などの雑貨も販売している。


「ロンドンで感じられる日本」がテーマの直営店(写真提供:パドラーズUK)

パドラーズUKの取引先は、英国、フランス、イタリア、ドイツなど欧州15カ国と一部アジア、中東などだ。欧州側の顧客は約100社。大半がセレクトショップだ。欧州には大規模にチェーン展開しているセレクトショップというのは多くなく、その大半は独立系個人経営で、大きいものでも1都市に複数の店舗を持つチェーンがある程度だ。

買い付け先の日本の15社の地理的内訳は関東10、関西4、九州が1。15社の大半は従業員数3人から5人程度の零細企業だ。日本の服飾ブランドの特徴は零細企業が多く、それぞれが多品種少量生産を行っていることだ。その結果、顧客の求める量を一度に生産できない。ファッションの旬の時期は短く、顧客はシーズンに先駆けて商品を入手したがるため、生産次第、出荷するのが理想だが、細かく輸送すればするほど、輸送コストがかさむ。そこに、EUの輸入関税(衣類は12%)が加算される。日本から衣料を輸入したい欧州企業、あるいは欧州に輸出したい日本企業は多いが、コストが予想以上に高くなること、日本との距離の遠さ、言葉や文化の違いなどが障壁となっている。商談がまとまり、取引開始にこぎつけても1~2シーズンで断念してしまうことが多い。

ファッションの旬を逃さず顧客に製品を届ける

パドラーズUKはそうした状況を、厳選した15ブランド分をまとめて仕入れ、輸出することで対応している。単独ではコストがかさみ輸出が難しいが、15ブランドの製品を組み合わせることで輸送コストや販売経費を抑えている。1年の事業活動は、春夏と秋冬の2回に分けられ、大きく6カ月を1つの単位としている。6カ月のうち約2カ月は製品の受注と納品に充て、残りの4カ月は次のシーズンに向けた準備や情報収集、顧客とのネットワークの構築に費やし、この時期の活動が商談の時期に大きく影響する。

同社が特に力を入れているのが、商談を通じて知り合った顧客とのネットワークの構築だ。実際にサンプルを持って得意客を訪問したり、こまめにメールで連絡をとったり、関係強化や新規の顧客の発掘に努めている。藤野氏は「自身の英語力も十分でなく、顧客とのコミュニケーションにも苦労することが多い」と苦笑しつつも、「だからこそ、気をつけているのは言葉をも超えたコミュニケーション、信頼関係の構築である」と語る。言葉や文化に差異がある分、より確実に相手に伝えるよう努力しており、特に「クイックレスポンス」を大事にしている。「言葉が拙くても、いかに早く、顧客の希望に応えるか、疑問や不満を解消するかが、中・長期的信頼関係を築く一番のポイントだ」と藤野氏は話す。言葉が不自由な外国では、日本にいたころ以上に「商売の基本」を認識したという。このため、欧州、中東、アジアなど世界中の顧客からの問い合わせには、24時間体制で対応することもあるという。

2018年は、6月12日から15日までイタリアのフィレンツェで開催された、メンズファッションでは世界最大級の展示会「ピッティウォモ」への出展を皮切りに約2カ月間、パリ、ベルリン、ロンドンを回り、日本から送られてきたサンプルを展示し、2019年春夏製品の商談を行った。


ベルリンで行われた展示会「SEEK」での商談の様子(写真提供:パドラーズUK)

商談期が終わると、次は納品作業だ。ファッションの旬の時期を逃さないよう、ブランドや製品ごとに細かく異なる製品をうまく組み合わせ、輸送コストを最小限に抑えつつ、顧客に製品を納めているが、苦労が多い作業だ。

藤野氏は「実際にこの仕事をしてみると、やはり大変だと感じることが多い」と語る。特に売上代金の回収の難しさに悩まされているという。欧州企業は日本やアジアの企業に比べて支払いが遅い傾向があり、商品を納品しても支払いがないことや、大幅な遅延も多々ある。契約書を交わして受注しても、納品前に一方的にキャンセルされることもある。個人ビジネスであっても個人保証という商習慣がないため、倒産に対する抵抗感が少ないのか、日本と比べて簡単に倒産させてしまう傾向にある。ただ、実際に店舗を訪れて支払いの催促することができるため、日本から遠隔で売掛金の回収を図ることに比べれば、効果的だ。また、日頃から人間関係を構築することにより、遅延や未払いが減らせるよう努力している。

「顧客は順調に増加しており、手応えを感じている」と藤野氏は話す。国別にみると、顧客が最も多いのが英国でほぼ半数を占め、フランス、イタリアと続く。欧州の顧客にとって、パドラーズUKは現地のブランドと同様に、スムーズな取引ができる日本ブランドであり、この点でほとんど競合はない。「日本市場が縮小していく中、欧州市場への展開は不可欠だ」と藤野氏は語る。

日本ならではの機能性を有する商品は高い人気

ファッションは感性で選びたいという人が多く、好みや流行は常に変化しているため、決まった売れ筋商品があるわけではない。「これだから確実に売れるといった傾向はなく、日々勉強だと感じている」と藤野氏は言う。とはいえ、「メード・イン・ジャパン」は強みだ。特に、日本製品に多い「機能性を有する商品」は総じて売れ行きが良い。例えば、英国は天候が目まぐるしく変わり、にわか雨が多いが、皆あまり傘を差したがらない。コートなどの上着については、防水機能付きへの需要が大きい。実際に英国には防水機能の技術で名高いブランドも多いが、日本製品の中には、「いかにも防水」という頑丈で堅い外観ではなく、起毛のようなソフトな風合いなのに防水機能も有しているといった製品もある。こういった商品がバイヤーに評価される。

このほか夏用の靴下などでは、涼しくするために足首から上は薄く編みながら、足底の部分は衝撃を和らげるようなクッション性のあるパイル編みになっていたり、通気性を良くするため外側は麻素材で内側は肌触りの良い綿素材といった製品もある。こういった細かな「気配り」の製品化を可能とする高い技術は、日本企業ならではのものである。


柔らかさとクッション性が高く評価されている靴下(写真提供:パドラーズUK)

「残念ながら、日本企業ならではの技術、気配りや感性も、大半が日本の中だけに埋もれてしまっているのが現状だ。それをいかに海外に売り込むかが、今後の日本のファッションブランド、さらにはその日本での生産を存続させるカギだろう」と藤野氏は語る。取扱商品としては、自分が好きになれるもの、さらに英国(あるいは欧州各国)市場に合うものを選んでいる。15ブランドとも、日本に帰国するたびに訪問しているのに加え、それらの企業の数社からは注文獲得の時期には1カ月程度、日本から応援に来てもらって、実際に顧客と面談し、要望などを聞いてもらう。ブランドとしての説得力を上げてもらうほか、顧客の要望を学び、新たな商品開発に生かしてもらうのが目的だ。

関税についても、日EU経済連携協定(EPA)の発効により、撤廃されれば大きな恩恵となる。その一方で、目下交渉中の英国のEU離脱(ブレグジット)には懸念もある。顧客の約半数はEU企業なので、英国からEUへの輸出に関税が賦課されることになれば、大きな打撃となり得る。その場合には、EU域内に新たな拠点を設置し、EU向け商品については英国を介さずにその拠点に直接送るといった対策が必要となると考えている。


注1:
ノーザンスカイは従業員数60人余りの中小企業で、欧米40ブランドの輸入代理店。
注2:
ショーディッチは、金融街として知られるシティ地区の北に位置し、かつては治安が悪い下町だったが、1990年代後半から若者向けの町として発展した。現在では、アーティストのスタジオ、IT企業のオフィス、レストランなどが並ぶ人気の地域となっている。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
岩井 晴美(いわい はるみ)
1984年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(1990年~1994年)、海外調査部 中東アフリカ課アドバイザー(2001年~2003年)、海外調査部 欧州ロシアCIS課アドバイザー(2003年~2015年)を経て、2015年よりジェトロ・ロンドン事務所勤務。著書は「スイスのイノベーション力の秘密」(共著)など。