特集:欧州市場に挑む木製知育玩具「もくロック」に世界が注目
欧州で評価される丁寧な手仕事と確かな加工技術

2019年10月4日

電子機器メーカーであるニューテックシンセイ(山形県米沢市)が、地元の森林資源を活用し、開発した木製知育玩具「もくロック(MOKULOCK)」は、2012年の販売開始直後から国内外で注目され、これまでに約40カ国に輸出実績を持つ(2016年ジェトロ活用事例記事参照)。2018年度の海外売上高約1,000万円のうち、欧州は4割以上を占め、海外で最大の市場だ。ジェトロは9月20日、欧州事業を中心とした「もくロック」事業の海外展開について、同社販売戦略室の三浦理恵子課長に話を聞いた。

海外需要を感じて、いち早く人材確保など体制を準備

「もくロック」は、自然をテーマとした製品コンセプトと、同社の本業である精密加工技術に裏打ちされた品質の高さが評価され、世界の小売店から、知育玩具ブランド、幼児教育機関などに至るまで幅広い支持層を持つ。現在、海外の小売店の取引先の9割がコンセプトストアやミュージアムショップだ。また最近では、海外にも店舗網を持つ国内大手雑貨メーカーが大きな取引先となっている。2018年の輸出は、最大の輸出先オーストラリアと、それに続くドイツの2カ国で、輸出額の半分以上を占める。

豊富な海外向け販売の実績を持つ「もくロック」だが、輸出の最初のきっかけは、意外にも、2013年2月にイタリアのウェブマガジンに突如、掲載された後、自社サイトに届いた英国からの問い合わせだった。欧米各国から約50件の問い合わせが続き、輸出のポテンシャルを感じた同社は、同年7月に三浦氏を海外営業担当者として採用、同年11月には早くも出荷を成功させた。EU向けの玩具の輸出には、製品が安全性などに関するEUの基準に適合していることを示す「CEマーク」の表示が必須。CEマークを表示するためには、加盟国の認定を受けた第三者認証機関の認証または自己宣言による認証が必要となるが、同社は第三者認証機関の認証を選択。当時、国の補助金を受け、同社をサポートしていたアドバイザーの助言もあり、引き合いのあった直後からCEマークに関する情報収集を進めていたことが、迅速な認証取得につながった。

海外向けの情報発信については、英語サイトを立ち上げるとともに、インスタグラムの「もくロック」アカウントにイベントの様子の写真などを投稿するなど、SNSも活用している。同アカウントには、オーストラリアやニュージーランドからのアクセスが目立つという。インターネット経由での注文は、問い合わせフォームからきた引き合いに、三浦氏が個別対応。バイヤーの業態が多様なこと、また、製品の在庫に限りがあることを踏まえて、どんなコンセプトを持った店で誰をターゲットとしているのかを把握した上で、ひとつひとつ取引を決定している。越境EC(電子商取引)は、これまで自社の英語サイト内で試験的に導入したこともあるが、既存のECプラットフォームは柔軟さに欠け、各国の複雑な輸入手続きに対応できる仕様にすることが難しかったため、現在は対応していないという。


インスタグラム@mokulock_jp(ニューテックシンセイ提供)

欧州内でも消費者が持つ印象は国によって相違

現在の欧州最大の取引先は、玩具を取り扱うドイツのバイヤーで、継続的な取引先の1つだ。ドイツでは、着色した積み木などが幼児向け玩具として昔から身近な存在で、木製玩具の需要が安定している。もくロックは無着色で木の素材感がそのまま生かされているので、当地の消費者には斬新に映るという。また、欧州での店頭販売価格は、輸送コストに付加価値税、小売店のマージンを上乗せすると、国内販売価格の約2倍で、例えば英国では2.6倍にも上る。木製の家具や雑貨といえば、北欧地域のイメージがあるが、木が身近な存在である同地域では、同社製品は現地で生産された木製玩具と比較すると「高い」との印象をもたれるようだという。また、自社サイトを通じて海外の一般消費者から問い合わせを受けることも多いが、価格がネックとなり、購入を断念する消費者も多い。しかし三浦氏は、英国、ドイツ、スペインの消費者は、この価格帯でも個人輸入で購入する傾向があると分析する。

同社は、顧客からの依頼に最大限、応えられるように丁寧なサービスを徹底している。自社サイトに照会があれば、たった1セットの注文であっても、もくロックを選んだ顧客が輸入手続きに困らないよう配慮して、個別に対応している。また、商品を送付する際には、国内外を問わず、必ず礼状を添えている。


メゾン・エ・オブジェの出展ブース(フランスのパリ)
(ニューテックシンセイ提供)

需給バランスの難しさがある一方、新たなビジネスも

国内外から引き合いが増え続ける、もくロックだが、その一方で、供給が追い付かないという問題にも直面している。生き物である木材に精密加工を施すのは容易ではなく、切削にはまず、各樹種によって異なる最適な含水率まで乾燥させる必要がある。また、加工精度を維持するためには、温度や湿度が管理された生産環境の整備が求められ、さらに、特殊技術を要するオペレーターの育成も必要なため、増産に向けた体制強化に踏み切るのは容易ではなく、生産が追い付かないのが現状だ。加えて、玩具という産業の特性上、市場分析も難しく、ニーズの予測ができないことも課題だ。同社の主要取引先はインテリアなどのコンセプトストア、ミュージアムショップだが、三浦氏によると、コンセプトストアは長期の取引にはつながりにくい。ミュージアムショップはリピート率は高いものの、2~3年に1度のオーダーであることが多く、安定した供給先とは言い難いという。最も継続的な取引につながりやすいのが玩具のバイヤーだが、現在の同社の販売先の中で玩具のバイヤーが占める割合は1割程度だ。

そんな中、もくロックの木材加工の精巧さに目を付けた企業から、加工技術を応用した木材製品の製造依頼が舞い込むなど、新たなビジネスチャンスも生まれている。三浦氏が「もくロックを通して、木材でも精巧な加工が可能であることが注目されることがうれしい」と語るように、もくロックはニューテックシンセイの技術力のスポークスパーソンとしての役割も担っているようだ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
野々下 美和(ののした みわ)
2019年6月から海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
根津 奈緒美(ねづ なおみ)
2007年、ジェトロ入構。2007年4月~2012年6月、産業技術部(当時)地域産業連携課、先端技術交流課などで製造業、バイオ産業分野の地域間交流事業や展示会出展を支援。2012年6月~2013年5月、アジア経済研究所研究人材課。2013年5月~2015年7月、経済産業省通商政策局経済連携課にて関税担当としてFTA交渉に従事。2015年7月より海外調査部欧州ロシアCIS課にてEUなど地域を担当。