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特集:欧州市場に挑む「共感」をビジネスに-世界にファンを増やすキントーの取り組み

2018年9月10日

滋賀県彦根市に本社を置くキントーは、従業員34人の中小企業ながら、洗練されたデザインのコーヒー、ティーウェアなどのキッチン雑貨、食器、タンブラー、インテリア雑貨などを「KINTO」ブランドの下、企画製造し販売している。世界に自社ブランドのファンと、ライフスタイルショップやコーヒーブランドなど多方面にわたる取引先を抱える。2016年には同社初の海外拠点をオランダ・アムステルダムに設立した。同社の福井靖取締役と船橋嘉子氏に、現在のビジネススタイルを確立するに至った経緯と、欧州事業の取り組みを聞いた(7月18日)。

キントーは、1972年の創業当時は地域の食器卸売業者としてスタートした中小企業だが、現在は洗練されたデザインのコーヒー、ティーウェアなどのキッチン雑貨、食器、タンブラー、インテリア雑貨などを企画製造、販売し、バーニーズニューヨーク、コンランショップなどのライフスタイルショップや、スターバックス、ブルーボトルコーヒーなどのコーヒーブランド、ホテルやレストランなどが取引先に名を連ねる。製品ラインごとに自社ブランドも確立し、国内外にファンを抱えるだけでなく、取引先のオリジナル商品の開発も手掛ける。

同社は、アパレル業界のように毎年、秋冬、春夏の2シーズンに分けて新商品の提案を行い、展示会でも常に最新の商品を紹介している。最近の売れ筋商品は、コーヒーを入れて持ち歩ける携帯用のトラベルタンブラーだ。新商品の開発は、小出美樹代表取締役社長のエクスペリエンスとフィロソフィーがベースで、それは普段から、社長自ら海外のホテルやレストラン、カフェ、ライフスタイルショップなどに足を運び、常に実感を大事にしてアンテナを張っている中で生まれるものだという。


最近の売れ筋商品のトラベルタンブラー(キントー提供)

キントーの営業スタイルは独特だ。営業担当者が個別企業を訪問するような、いわゆる「売り込み」は行わず、国内外の展示会への出展などを通じたブランド確立が中心的な営業ツールだ。目指すのは、同社プロダクトの持つ「インティメント」(居心地の良さ)や「エンゲージメント」(愛着)というコンセプトに「共感」してくれるファンを増やすこと。これが、同社のビジネスモデルの根幹ともなっている。従来のマーケティングの理論では測ることが難しいが、「共感」が確かにビジネスとしての結果に結び付いていると、福井取締役はいう。

同社の現在のスタイルは、一朝一夕で生まれたものではなく、長い時間をかけてさまざまな事業に挑戦し、模索してきた中で確立されてきたものだ。現在のスタイルの確立には、海外が深く関係している。もともと、国内販売用に欧州から製品を調達する目的で、フランス、英国、ドイツなどで開催される世界的な見本市に1980年ごろから定期的に足を運んでいた。1988年ごろから始めた欧州製品の輸入販売が、ローカルの卸売業者だった同社が国内販路を全国規模に拡大したきっかけだ。当時はまだ、自社プロダクトはごくわずかな規模だった。

その後、国内市場の変化を受け、欧州製品の輸入事業が難しくなったことをきっかけとして、少しずつ中国などアジアでの委託製造による自社プロダクトの開発にシフトしていった。輸入販売で培った経験をもとに、商品カテゴリーは広範囲に、国内で販売できる商品を製造するスタイルだった。現在のブランド世界観が確立されたのは、2004年に現社長に代わり、事業構造を再構築し、輸出ビジネスに注力していった結果だという。さらに継続的に、製品の日本国内での生産シフトにも取り組んでいる。

展示会への出展は、「売り込まない」同社の販路拡大のほぼ唯一のツールだった。意欲的に世界中の展示会へ毎年出展した。初めて出展した2009年のホンコン・ハウスウェアショーを皮切りに、現在では、アンビエンテ(ドイツ・フランクフルト)、メゾンエオブジェ(フランス・パリ)、NY NOW(米国・ニューヨーク)インターナショナルホーム+ハウスウェア(米国・シカゴ)などの世界最大規模のインテリア展示会から、コーヒーフェスティバル(ロンドン、アムステルダム、米国西海岸)などの分野特化型の小規模見本市・商談会まで、毎月のように世界各地にブースを構える。

中でも、非営利の国際コーヒー団体「スペシャルティ・コーヒー・アソシエーション」が主催し、米国、欧州、日本などで定期的に開催されるさまざまなコーヒーイベントに特に手応えを感じるという。世界的に有名な大型展示会は業界でのプレゼンス維持のためにもちろん重要だが、同社が大切にする「世界観」を来場者と「共感」できるのは、むしろ来場者が限られる、小規模でテーマを絞った展示会だ。「共感」は単なる「共感」で終わらず、ビジネスとしての結果にも結び付いている。

現地パートナーとの出会いをきっかけに欧州へ進出

同社の海外売り上げは売上高全体の3割程度を占める。その内訳としては、アジア大洋州向けが5割強、北米向けと欧州向けが残りの5割弱で、おおむね同程度で分けている。最近伸びているのもアジア地域だ。

同社の海外事業もまた、これまで大きく変遷をたどってきた。中でも欧州事業は一時期、北欧を中心に大ヒットした磁器製品があったため、売り上げも大きく伸びた。しかし、2012年にEUで中国をターゲットとして発動された、陶磁器を対象としたアンチ・ダンピング関税措置が同社製品を直撃し、欧州での売り上げは半分以下に大きく低迷した。

そんな中、同社は2016年に初の海外拠点として、オランダ・アムステルダムに欧州地域のマーケティングおよびセールス拠点を設立。拠点設立に至った最大のきっかけは、現地で信頼できる良い人材と知り合ったことだという。欧州では拠点設立以前から、迅速な納品のために在庫を現地に保管し、EU域内の取引を行っていた。従来の非居住者在庫の運用においてもある程度のコストがかっており、それならば多少コストが増えても市場にコミットすべきとの考えの下、良い人材が確保できたことをきっかけとして、現地法人設立を決断、現在は現地で2人を雇用している。

同時期に、国内事業では、よりテーマやメッセージを訴求した商品ラインアップによる販売促進が功を奏し、トレードショーマーケティングに加え、デジタルコミュニケーションやユーザーエクスペリエンスに注目する「ビジネスモデルの転換期」を迎えていた。拠点設立による現地担当者の配置と相まって、欧州事業も、ユーザーとの関係性を大事にするビジネスモデルに徐々に質的転換を図ることになった。ここから、ホテル、レストラン、カフェ、コーヒーブランドなどを主な取引先とする、現在のスタイルが確立された。


企業コンセプトである居心地の良さを体現する本社オフィス(キントー提供)

製品の強みはマーケティングを通じてつくっていくもの

決して自分たちが特別な製品を出しているという認識はなく、強みはマーケティングを通じてつくっていくブランディングのプロセスそのものだと考えている、と福井取締役は語る。企業としてのオリジナリティーや強みは、社長の美意識の中にこそある。「KINTOの商品を好きになっていただき、幸せを感じていただけたらそれで良い」―社長の口癖だ。お客様に訪れていただく機会をつくり、そこでおいしいお茶をふるまい、「ゆったり」していただく。

東京・恵比寿にあるショールームが、毎月2日間だけ、期間限定でオープンする。その場での商品の購入はできず、あくまで製品のコンセプトを体感してもらうための空間だ。著者も7月のオープンデーにのぞかせてもらった。ショールームのあるフロアで、ビルのエレベーターを降りた瞬間、たくさんのグリーンとあたたかな製品に囲まれた空間が現れ、駅前のにぎやかな雰囲気とは打って変わった、ゆったりとした時間が流れていた。ショールームに入ると、スタッフがにこやかに、丸みを帯びたグラスに注がれたおいしいお茶をふるまってくれるが、特にセールスは行わない。ショールームにこそ、同社が大切にしているコンセプトが感じられる。

このような方針を貫くのは、「数年単位で目標を設定し、達成を求められる雇われ社長の企業では難しいでしょう」と福井取締役はいう。また、現在の事業規模だからこそ、許されるスタイルともいえる。同社が事業において最も重視していることは、事業規模の拡大よりも継続だ。

今後の事業で注力していくこととしては、まずは日本、欧州、米州の三極共通のデジタルプラットフォームの整備と、海外マーケッツの深耕・製品の進化を引き続き大事にしていくことだという。また、EUでは、同社が日本で製造し輸出している陶磁器製品、特にテーブルウェアやキッチンウェアには9~12%の関税が課されているが、日EU経済連携協定(EPA)が発効すれば、発効と同時に撤廃されることから、同社にとっては追い風だ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
根津 奈緒美(ねづ なおみ)
2007年、ジェトロ入構。2007年4月~2012年6月、産業技術部(当時)地域産業連携課、先端技術交流課などで製造業、バイオ産業分野の地域間交流事業や展示会出展を支援。2012年6月~2013年5月、アジア経済研究所研究人材課。2013年5月~2015年7月、経済産業省通商政策局経済連携課にて関税担当としてFTA交渉に従事。2015年7月より海外調査部欧州ロシアCIS課にてEUなど地域を担当。

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