特集:欧州市場に挑むOEM企業から、世界の「WADO」ブランドへ
除雪機の和同産業、技術開発力が強み

2018年11月19日

岩手県花巻市に本社を置く和同産業は、70年以上の間、農業機械および除雪機の生産を柱としてきた中小企業だ。長年培ってきた技術開発力を強みに、近年、自社ブランド「WADO」の育成に取り組み、ジェトロ支援事業などを活用しながら2013年から海外展開を進めてきた。欧州では、2018年5月にスイス企業と代理店契約、8月には製品の発注につなげ、欧州事業に弾みをつける。矢内伸幸取締役兼グローバルCS統括本部長兼海外事業推進部長に、同社の取り組みと今後の海外展開のポイントを聞いた(8月29日)。

和同産業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は1941年の創業以来、開発型の企業として農業機械の製造から始まり1961年には日本で初めての除雪機スノーブルを開発した。現在では除雪機のOEM受注生産を主力とする78年の歴史を持つ企業である。ホンダ、ヤンマー、クボタなどが持つ除雪機ブランドの多くを製造している。特に国内市場シェアの6割を占め業界1位を誇るホンダブランドの除雪機は、和同産業が全て製造している。さらに、除雪機は売り上げが季節や天候に大きく左右される側面があることから、草刈り機、豆刈り機など、特殊分野の農業用機械の製造も行っている。農業用機械は、売り上げ全体の1割程度にすぎないが、安定的な経営を目指し、その強化にも取り組んでいる。

近年は長年培ってきた技術開発力を強みに、さらなる事業拡大を目指してさまざまな取り組みを行っている。その1つが、収益性の高い自社ブランドの育成だ。除雪機と言っても、家庭用の小型から業務用の大型まで、タイプもさまざまだ。同社はほぼその全てに対応し、自社ブランド「WADO」でも幅広いラインアップをそろえている。除雪機の売り上げの8割は小型除雪機が占め、市場規模としては圧倒的に大きい。自社ブランドでも小型タイプの売り上げが順調に伸びているが、その分ライバルも多い。他方、製造業者が限られる大型除雪機は、同社が特に競争力を持つフィールドだ。WADO製品の強みは、その使いやすさだという。品質の高さはもちろん、社内に開発チームをもっていることから、顧客のニーズに細部まで応えることができる。その対応も早く、「小回りが利く」ことが他社と差をつけているそうだ。

鮮やかな「和同レッド」が目を引く大型除雪機(和同産業提供)

ただ、もともと除雪機ニーズは積雪のある地域に限定される上、国内市場は既に確立されたブランドが占めており参入の余地が少ない。そこで同社は、自社ブランド育成と同時に、積雪地域をターゲットとした海外展開にも注力している。きっかけは、ジェトロの個別企業支援事業である「輸出有望案件支援サービス」に採択されたことだ。当時は社内に海外事業部もなく、限られた体制だったが、2013年頃から初めての輸出として韓国向けの販売を開始した。韓国向け輸出は軌道に乗り、現在の海外売り上げはほとんどが韓国、一部が台湾という状況だ。現在は売り上げ全体に占める海外の割合は約1%にすぎないが、さらなる海外事業の本格化を目指し、2017年4月には社内にグローバルCS統括本部を設置、矢内取締役が海外事業推進部長と統括本部長を兼務している。海外展開は、同社主軸の除雪機でまず攻め、販路ができたところで農業用機械も売り込んでいく戦略だ。現在、ジェトロの支援などを活用しながら、欧州、北米、ロシアと、多方面への展開に精力的に取り組んでいる。

欧州市場への展開は、まさに今動き出したところだ。2018年5月、スイス・ベルンの現地企業と代理店契約を締結、8月に同代理店を通じ欧州で初の除雪機の受注があったばかりだ。スイスの企業は、以前から欧州で除雪機販売を手掛けており、WADOブランドを知ってコンタクトしてきたことが、知り合ったきっかけだという。ほかにも複数のエージェント候補の紹介をジェトロから受け、実際に数社訪問し面談した。結果、オーナーの考え方がしっかりしていたこと、社内体制の整っていたことが決め手となり、2018年初めに現在の取引先との契約を決めた。

国内外へ向けた自社ブランドのPRも、2018年から本格化させている。7月、「INNOPROM(イノプロム) 2018」(ロシア・エカテリンブルク)ジャパンパビリオンへの参加が、同社として初の国際見本市出展となった。さらに、10月10~12日に「農業資材EXPO」(千葉)、10月17~19日には「GIE+ Expo(ジーアイイープラスエキスポ) 2018」(米国ケンタッキー州)と、国内外の展示会に立て続けに初出展し、自社ブランドの認知度向上に積極的に取り組んでいる。ロシア事業については、ジェトロの個別企業支援事業「ロシアビジネス・ハンズオン支援(ロシアデスク)」にも採択されており、それをきっかけとして現在、現地企業と契約の締結に向けた交渉を進めている。

海外展開には課題もある。国内であれば、購入後の製品にサポートが必要な場合やトラブルなどがあった際には、同社の開発チームが迅速にサポートする体制が整っているが、海外では行き届いたアフターサービスが難しい。この対策として、エージェント担当者らに対してアフターサービスを研修できる要員を育成する予定だ。また部品の供給に関しては、海外各地で契約するディストリビューターやエージェントに、部品供給の役割も担ってもらう仕組みを目指している。韓国では、既にアフターサービスも任せられるエージェントを確保しており、さらにその強化を目指しているところだ。エージェントを選定する上で1つの大きな要素は、サービスの質だという。「売ってからが始まり」と矢内取締役は語る。いかに顧客を守り、育てるかが、営業の本質だ。人の幸せを創造する企業、生涯を通して選んでもらえる企業を目指すという思いを込め、「WADO」ブランドのスローガンも、「Creative Human Comfort」とした。こうした考え方から、社内で強化している取り組みの1つが人材育成だ。ジェトロの「貿易実務オンライン講座」も、社員全員が受講し、輸出体制の強化を図る。まさに2018年から取引が始まった欧州地域では、競合他社が多いことも課題だ。矢内取締役は、現在は自社の競争力を見極める時期で、アフターサービスを通じた信頼構築などにも今後取り組んでいくと、意気込みを語る。

和同産業は、米国の「GIE+ Expo 2018」で新製品の無人ロボット草刈り機を発表した。ロボット草刈り機産業は、欧州企業が世界で初めて開発、最大の市場も欧州だ。同社の新製品は、今後欧州市場を攻める上で1つの武器になると期待される。さらに産業用ロボットに分類されるものは、EUでは1.7%の関税がかかっているところ、日EU経済連携協定(EPA)の発効と同時に無税になるため、同社にとって追い風の時期だ。

「GIE+ Expo 2018」で披露した新製品の無人ロボット草刈り機(和同産業提供)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
根津 奈緒美(ねづ なおみ)
2007年、ジェトロ入構。2007年4月~2012年6月、産業技術部(当時)地域産業連携課、先端技術交流課などで製造業、バイオ産業分野の地域間交流事業や展示会出展を支援。2012年6月~2013年5月、アジア経済研究所研究人材課。2013年5月~2015年7月、経済産業省通商政策局経済連携課にて関税担当としてFTA交渉に従事。2015年7月より海外調査部欧州ロシアCIS課にてEUなど地域を担当。