特集:欧州市場に挑む欧州に有機茶葉を直接販売
宮崎の有機茶葉製造・太地園の取り組み

2018年5月25日

2017年12月8日に最終合意に至った日EU経済連携協定(EPA)の活用を視野に入れ、欧州向けにビジネスを行う企業の取り組みを紹介する。有機栽培の日本茶を製造し、輸出している太地園(宮崎県児湯郡)は、国内・海外のオーガニック認証を取得し、海外のバイヤーとも信頼を築いている。代表取締役社長の森本茂氏に海外輸出を開始した経緯や現状について聞いた。

EU向け緑茶輸出は6年間で3倍に

日本からEUへの緑茶の輸出は2000年以降増加しており、2016年の輸出額は統計開始(1988年)以来最高の23億円に達した。2017年は前年比0.6%減の22億8,600万円とほぼ横ばいで、東日本大震災の影響で輸出が減少した2012年比で3倍に達している。2017年の対EU輸出を国別にみると、ドイツが全体の輸出の58.5%を占め最大で、フランスが12.5%、英国が8.9%と続く。欧州における日本食ブームや健康志向を背景に2012年以降、日本からEUへの緑茶の輸出は急速に伸びており、特に英国向けは2017年の輸出額が2012年比11倍と大きく増加した。一方、EUの緑茶輸入国を見ると、2017年は金額ベースで約52%と最大の輸入国が中国で、日本からは約12%にとどまっている。EUは一般的に緑茶の栽培に際して散布される農薬について、日本より厳しい残留農薬基準を設けており、有機食品へのニーズも高い。EU緑茶市場は日本企業にとって、厳しいEUの基準への対応を進める必要はあるものの、そのような高い基準を満たしていくことで、品質・安全面での国際的なブランド力向上につながる可能性がある。

図:EU向け緑茶輸出額の推移(単位:100万円)
財務省の貿易統計によると、2000~2017年の日本からEU向けの緑茶輸出額は、2009年、2012年にそれぞれ前年比で減少したものの、全体的には増加傾向にある。特に2012年以降の輸出額の増加は著しく、2012年の約7億円から2016年には統計開始以来最高の23億円に達した。なお、この輸出額はHS0902.10、0902.20の合計で算出している。
注:
HS0902.10、0902.20の合計。
出所:
財務省貿易統計

国内外の有機認証取得

EU市場への輸出に10年以上継続的に取り組んでいる太地園は、森本氏が代表を務め、従業員4人で茶畑の経営を営む。1949年に茶葉栽培を開始し、1997年には全量を有機栽培に切り替え、有機茶葉の製造・加工・販売までを手掛ける。栽培する品種は、やぶきた、ゆたかみどり、みなみさやか、おくみどり、おくゆたかで、取り扱う製品も、かぶせ茶、煎茶、ほうじ茶、粉末茶などさまざまだ。

海外には、ドイツとカナダ向けに輸出している。輸出をはじめたきっかけは、2000年に森本社長がカナダに旅行をした際に知り合った人から輸出を求められたことだという。現在は、ドイツに拠点を置くバイヤーに海外輸出量の大部分を販売し、同バイヤーを通して欧州17カ国に販売しているという。なお、出荷から船積みまでは仲介業者を介さずに自社で直接行っている。

信頼を築きドイツへ輸出

ドイツへ輸出することになったのは、2007年に、宮崎産茶を販売していたドイツの青年バイヤーから輸出を求められたことがきっかけだという。森本社長が自社の茶畑をみせたところ、質の良い茶葉を求めていたバイヤーのニーズと合致し、以来10年ほど継続して取引を行っている。同バイヤーは毎年、森本社長の茶畑を訪れ、購入するお茶を選ぶという。森本社長がドイツを訪れる機会もあり、取引上の意見の衝突などもあるが、「直接顔を合わせること、信頼関係を築くことが大事」と語る。取引上は、リスクは必ずあるとする一方で、取引相手との関係性は情報の共有と信頼の確認があれば十分としている。取引相手を信頼しているので、できるだけ相手の都合に合わせるようにとの考え方で、バイヤーとの間では、バイヤーの独占販売権以外の契約を結んでいない。そういったお互いの信頼を基にした関係を続けるなかで、バイヤー経由で太地園のお茶を知った欧州の小売店が、自ら森本社長の茶畑を訪ねることもあるという。

一方で、品質上の管理は徹底している。出荷したお茶については、それぞれのサンプルを4~5年保存しているという。海外で品質管理上のトラブルが発生しないように、多少の設備投資コストを負っても品質管理は欠かさず、「リスクマネジメントをどれだけするか。1つ1つ自分たちで確認しなければいけない」と語る。有機認証に関しては、以前イタリアのバイヤーと取引する際に、イタリアの有機栽培認証機関「ICEA」の認証を取得し、有機栽培の緑茶として輸出した。現在では、日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会(JONA)の有機JAS認定やIFOAM(国際有機農業連盟)基準での認証を得ており、森本社長は「複数の有機認証を取得したことで、国際的な有機認証を得るハードルが理解できた」という。

自分たちの挑戦を若手にも

輸出には難しさもあるという。1つは言葉の問題で、通訳を挟んでも、どうしてもニュアンスの違いが生まれる。また、海外の規制への対応や品質管理、製品輸送についても国内取引と比較して費用がかさむ。費用に関しては、日EU経済連携協定(EPA)が発効し、日本から欧州へ輸出する緑茶の3.2%の関税(3kg以下の小口用)が撤廃された場合の効果は大きい。また、欧州における残留農薬の規制により、有機栽培でないとやっていけないという。

ただし、そういった難しさやコストの問題がありながらも、海外から買い付けがあるということは、有機栽培のお茶にはそれだけの価値があるということだと強調する。森本社長は、環境や食文化の違いなど現地を観察することでお茶が入り込むすき間を探しているといい、情報が少ない中で、ジェトロからの情報も活用している。森本社長は、海外との取引はチャレンジングであるものの、どれだけ相手を喜ばせるか、必ず取引相手との関係性を構築したうえで取引できるようにするとし、「自分たちがやっている、やれる、ということを若い人たちにも知ってほしい」と語った。


茶畑を背景に森本氏(ジェトロ撮影)

太地園では、高いレベルの安全・品質管理を行ったうえで、取引先と親しい関係を築き、日本の仲介業者を介さず欧州にも直接輸出を行っている。欧州の厳しい基準をクリアし、自ら輸出にも取り組む姿勢は、海外との取引に関する良い参考となりそうだ。


注:
本インタビューは2017年10月19日に実施した。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課長
田中 晋(たなか すすむ)
1990年、ジェトロ入構。ジェトロ・パリ事務所(1995~1998年)、海外調査部欧州課長代理(2000~2001年)、ジェトロ・ブリュッセル事務所(2002~2004年)、同次長(2004~2007年)、欧州課長(2008~2010年)、欧州ロシアCIS課長(2010年)、ジェトロ・ブリュッセル事務所次長(2010~2015年)を経て現職。著書は「欧州経済の基礎知識」(編著)など。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2018年3月から現職。