特集:欧州市場に挑むこだわりを追求して欧州のソースビジネスに食い込む(英国)
正田醤油に英国事業を聞く

2019年3月25日

醤油(しょうゆ)製造などを行う正田醤油(本社:群馬県)は、英国にも拠点を構え、欧州市場に製品供給を行っている。約20年前にウェールズ開発庁から投資誘致を受け、欧州進出を決めた。EU産原料へのこだわりを持った醤油・ソース類や、現地の人が使用しやすく、EU基準に適合した容器に充填(じゅうてん)した醤油を現地食品メーカーや小売業向け中心に供給している。現地企業との関係構築に注力しながら欧州の規制にも対応し、順調に売り上げを伸ばす。同社の欧州ビジネスについて、英国法人Shoda Sauces Europe Co., Ltd(略称SSE)の正田敏郎社長と須永浩将ファイナンシャルマネジャーに聞いた(2018年11月2日)。

正田醤油(本社:群馬県)は1873年創業、現在の従業員数は410人で、国内では醤油醸造・スープ製造販売などの事業を営む。海外向けとしては、日本から欧米、オーストラリア、東南アジアへの輸出に加え、ウェールズのアバーティスレイ市の英国拠点で醤油・ソース類や醤油用小袋の製造を行い、欧州市場向けに販売している。また、魚型容器入りの醤油を輸入、英国の現地スーパーに販売している。2018年の欧州での売り上げは約1,400万ポンド(約20億3,000万円、1ポンド=約145円)を見込んでおり、同社全体の売り上げの8~9%程度だ。そのうち、英国での販売が半分以上で、フランスが約30%、残りをオランダ、スペインなどが占める。

英国では、3人の日本人とウェールズ人従業員合わせて70人体制で製造や貿易などの事業運営を行う。醤油の生産工場を持つほか、渉外業務を行うセールス部を持ち、日本で製造した醤油の欧州市場への輸入は英国側が主導している。日本からの製品を直接EU内の顧客にコンテナで輸送する際も、仕向け地までのオペレーションは英国拠点で行う。このような手法が貿易による売り上げの約4割を占める。


英国法人の写真(正田醤油提供)

原料へのこだわりや周辺事業への取り組みも

英国進出のきっかけは、1998年にウェールズ開発庁から、醤油製品を製造していた現地企業の技術安定のため技術提携・供与を依頼されたことだ。同社は当時、海外需要を取り込む必要性を感じていた。現地企業はヌードル製品用の醤油を製造していたが、カラメルで着色するなど、本格的な醤油とは言えなかった。そこで、自社の製品を導入することでより高品質な製品を提供できるようになると考え、現地企業の株式の80%を取得し、同法人の現社長である正田敏郎氏が2000年から副社長として経営に携わるようになった。2005年には創業者の保有する残り20%の株式を取得して同法人の社長に就任、同時に現地企業名を上記のSSEに変更した。以降、設備を入れ替えて日本式の本醸造設備を導入した。さらに、欧州に拠点を有する同業の大手他社と差別化を図るため、オーガニックにこだわった醤油に活路を見いだした。EU市場は地元産へのこだわりが強いと語る同法人は、フランス産の有機大豆、英国産の小麦、ポルトガル産の塩、ウェールズ産の軟水など、厳選されたEU産の原料を使用することで付加価値を高めた。進出当初こそ製造量は少なかったが、売り上げの伸びと共に日本から醸造設備を導入して生産体制を強化した結果、現在では製造量も5倍以上に増えている。

現地では醤油用小袋の製造にも取り組む。消費者が開けやすく中身が漏れにくいのが特徴だ。他社のプライベートブランド向けのオリジナル小袋も製造している。自社ブランドへのこだわりよりも、商品の利用を通じた流通量の拡大を選んだ。生産量は毎月500万袋に上る。

さらに、英国の現地スーパー向けに、魚型容器に充填された醤油も日本から輸入している。価格は小袋よりも高いが、ふたをねじって開ける容器は英国人に扱いやすいためか、引き合いも多く、現地スーパーの多くのすし商品に使われている。

現地スーパー、食品メーカーとの関係構築、規制への対応、現地生産で売り上げを拡大

日本企業が現地のメインストリームに入ることは簡単なことではないというが、同法人は商流に入ることに積極的に取り組み、ノウハウを蓄積してきた。欧州や英国では現地スーパーの影響力が強い一方で、事業拡大には現地スーパーへの供給が欠かせない。同法人はスーパーに弁当を卸す食品メーカーにアプローチ、間接的に自社製品をスーパーに並べる戦略をとった。このような関係性を構築しておくことで、営業せずとも、スーパーの発注を受けた食品メーカーから注文を受けるようになった。

同法人ではウェールズの工場に研究開発担当のシェフを置き、顧客の要望に合わせて塩分濃度を調合した製品づくりもできるという。このように「黒子に徹する」ことが正田醤油のビジネスモデルとして売り上げ上昇に寄与している。

同法人は各スーパーの商品検査に合格し、多くのスーパーの原料調達先リストに掲載されている。英国では商品の原材料管理のため、各スーパーが原材料の調達先リストをウェブサイトで公開しており、食品メーカーはそのリスト内から調達することが求められる。リスト掲載前の検査に合格するためには膨大な書類の準備が必要で、同法人は約10年かけて現地主要スーパーのリスト掲載に至った。それによって売り上げも増えた。

同法人によると、欧州市場でネックとなるのは規制対応だ。例えば、原材料では遺伝子組み換え作物(GMO)の規制への対応が求められる。不使用とみなされる基準(意図せざる混入の許容率)は、日本の5%に対しEUは0.9%で非常に厳格だ。特に、現地スーパーなどが設ける自主基準は0.1%とさらに厳しい。同社では、日本からの輸入品もそうした基準に適合するよう、GMOが禁止されているインド産大豆を使用している。その大豆を日本で加工、日本産品として欧州に輸出している。インドではGMOに関する定期的な試験分析を行うとともに製品サンプルを保管、製品のトレーサビリティーも確保している。そのほか、グルタミン酸ナトリウム(MSG)などアミノ酸系の添加物が認められないなども、日本より基準が厳しい点となっている。

これらの点を踏まえると、現地生産のメリットは大きい。まずスーパーに卸す場合には、スーパー側の定期的な点検・検査を受ける必要がある。現地に工場があればこれらへの対応がしやすい。次に原材料についても、現地生産であれば既に欧州の規制を満たしたものを使用することができる。

日本食ブームを追い風に

2月1日に発効した日EU経済連携協定(EPA)により、醤油の関税(7.7%)が撤廃される。しかし、英国が合意なくEUを離脱した場合は日EU・EPAに基づく税率は適用されない。英国と日本が同様の貿易協定を締結しない限り、特恵関税の享受は受けられない。他方、日本から英国を除くEUへの輸出については、日EU・EPAにより客先の輸入コストが低減され、販売促進の追い風になる。

事業が欧州で拡大した背景には、欧州での日本食ブームもある。すしは定着し、ラーメン店も進出してきている。欧州の日本食市場は今後さらなる拡大が見込まれる。うどん・そばの普及によるだし需要の増大や、鮮魚の市場流入による醤油需要の増加など、今後の市場拡大にチャンスを見いだす。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
鵜澤 聡(うざわ さとし)
2013年、高圧ガス保安協会(KHK)入会。2016年10月よりジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課へ民間等研修生として出向、2017年10月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部海外調査計画課
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2018年3月から現職。

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