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中国からの直接投資とドイツのジレンマ
米中貿易摩擦の情勢下に見る中国企業の対外直接投資動向調査

2020年1月9日

2018年の中国からドイツへの直接投資額は、前年の引き揚げ超過から回復した。企業買収や資本参加が著しく多い中国からの直接投資に、ドイツは自由貿易主義と安全保障とのジレンマに陥っている。

2018年直接投資(フロー)は増加、M&Aは急減

ドイツ連邦銀行によると、2018年の中国からドイツへの直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は7億700万ユーロと、前年の3億8,300万ユーロの引き揚げ超過から持ち直しを見せ、国・地域順では13番目の投資国となった(表1参照)。

表1:ドイツの国・地域別対内直接投資(フロー)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値、―は値なし)
順位
(2018年)
国・地域 2016年 2017年 2018年
金額 構成比 金額 構成比 金額 構成比
1 オランダ 19,775 35.3 29,246 39.3 48,537 54.4
2 スイス 7,247 12.9 5,369 7.2 12,325 13.8
3 アイルランド △ 108 5,414 7.3 10,399 11.7
4 ルクセンブルク 2,798 5.0 1,525 2.0 5,156 5.8
5 オーストリア △ 2,778 1,894 2.5 4,352 4.9
6 米国 6,309 11.3 5,224 7.0 3,711 4.2
7 スペイン 3,557 6.3 2,072 2.8 2,868 3.2
8 イタリア △ 1,286 1,554 2.1 2,675 3.0
9 ハンガリー 32 0.1 3,192 4.3 2,395 2.7
10 フランス 5,910 10.6 8,913 12.0 1,766 2.0
11 韓国 707 1.3 198 0.3 1,281 1.4
12 香港 885 1.6 570 0.8 968 1.1
13 中国 54 0.1 △ 383 707 0.8
合計 56,018.0 100.0 74,395.0 100.0 89,151.0 100.0

出所:ドイツ連邦銀行 直接投資統計「Direktinvestitionen lt. Zahlungsbilanzstatistik Für den Berichtzeitraum 2015 bis 2018」を基にジェトロ作成

中国企業による対外直接投資では、M&Aが主流になりつつあるため、ドイツにおける中国の投資動向を知るにはM&Aも視野に入れることが適切だろう。アーンスト・アンド・ヤングがトムソン、マージャ―マーケットのデータや各社発表によりまとめたところでは、ドイツにおける中国企業によるM&A額は、2016年に前年比24倍の125億6,000万ドルと急成長を示し、2017年には過去最高額の136億8,400万ドルを記録した後、2018年は約2割減の106億8,100万ドルに、2019年上半期に至っては5億500万ドルと急激な減少を見せた(表2参照)。

表2:ドイツおよび欧州における、中国企業によるM&A額、取引件数(単位:100万ドル、件)
ドイツ 欧州
M&A額 取引数 M&A額 取引数
2006 153 5 4,462 40
2007 14 6 11,873 51
2008 78 8 7,810 61
2009 3 3 10,510 85
2010 67 8 16,971 91
2011 448 23 23,058 99
2012 1,496 26 17,504 119
2013 621 28 10,752 138
2014 2,456 36 21,534 165
2015 530 40 30,117 209
2016 12,560 68 85,827 309
2017 13,684 54 57,604 247
2018 10,681 35 31,211 196
2019上半期 505 11 2,388 81

出所:アーンスト・アンド・ヤング 「中国企業による欧州での企業買収・資本参加 2006~2019年のM&Aの分析(Chinesische Unternehmenskäufe und -beteiligungen in Europa Eine Analyse von M&A-Deals 2006-2019)」

中国による影響力を恐れる世論、当局が規制強化

2016年6月の中国家電大手、美的集団による産業用ロボットメーカーのクーカ買収が発端となり、技術流出と社会・経済・防衛インフラにおける、中国企業および中国政府からの影響力に対する不安が国内で高まりを見せた。これを受け、ドイツ連邦政府は2017年7月に対外経済法施行令を改正し、軍事産業やセキュリティーなどの特定産業に従事する企業の買収・出資の際の審査期間延長、重要なインフラ産業などの企業に対する、EUおよび欧州自由貿易連合(EFTA)非加盟国の企業による、買収・出資(25%以上の議決権に当たる資本の取得)の際の経済エネルギー省への買収通知と、同省による審査の義務化といった、外国企業によるドイツ企業の買収に係る規制を強化した(2017年8月10日付ビジネス短信参照)。しかし、その後も、2018年2月には吉利汽車によるダイムラーへの資本参加(決議権の9.7%を取得)や、同年の数度にわたる寧波継峰汽車零部件による自動車内装部品メーカー大手グラマー(Grammer)の株式取得(最終的に、2018年8月までに決議権の84%を取得)といった案件が続いた。そんな中、2018年7月には国家電網(SGCC)による送電網事業者50ヘルツ(50 Hertz)の資本参加を、ドイツ復興金融公庫(KFW)が20%の株式購入で阻止(2018年7月31日付ビジネス短信参照)、同8月には煙台市台海集団による精密機械メーカーのライフェルト・メタル・スピニング(Leifeld Metal Spinning)の買収を政府が拒否する事態にまで至った。2018年12月には、EUおよびEFTA非加盟国の外国企業が安全保障および防衛上重要なインフラ企業の株式を取得する場合の審査対象を、従来の決議権25%以上から10%以上に引き下げ、外国企業によるドイツ企業の買収に係る規制をさらに強化した。

また、複数のEU加盟国にまたがる投資に対して統一基準を設けるなど、EUレベルで規制を調和しようとする動きもあり、欧州委員会が2017年9月から検討を重ねていた投資スクリーニングに関する新しい枠組みは、2019年4月10日、正式に発効し(2019年2月15日付ビジネス短信参照)、適用開始は2020年10月となる。なお、中国によるM&Aは、欧州の全土においても2018年、2019年と大幅な減少を示している(表2参照)。

2016年のクーカ、2017年のイスタ(Ista)の事例のように、個別の大型買収案件がその年の取引額を大幅に引き上げたケースがあり、一概には言い切れないが、2018年のM&A総額の7割以上はダイムラーの取引額であり、また上記50ヘルツの取引が阻止されず、買収が2018年中に行われていれば、2016年とほぼ同額まで上昇していたと考えられる。直近2年間の急減は、規制強化も影響していると思われる。

「中国製造2025」に沿って戦略的にドイツ技術を入手か

2度の規制強化で、企業買収のハードルは上がり、取引件数および取引額は減少しているものの、依然として中国企業はドイツ国内で活発に活動しており、2019年に入っても1月にデータ分析を手掛けるスタートアップ、データ・アルチザンス(data Artisans)を、アリババ集団が9,000万ユーロで買収している(2019年1月11日付ビジネス短信参照)。

最近の中国企業のM&A戦略は、中国の産業戦略「中国製造2025」の影響が色濃い。「中国製造 2025」は、新中国建国100周年の2049年までに自国を産業大国にし、世界の産業をリードするという目標実現の土台を構築するために、2015年5月に中国政府により発表された産業戦略である。中国はこの政策の下で、2025年までに欧米先進国および日本に追いつき、2049年までに追い越すための10の重点分野を定めている。海外企業の買収は、先端技術を迅速に獲得するのに有効な手段だ。

キール世界経済研究所の調査では、2005年から2018年までの中国企業のドイツ企業買収のうち、金額ベースで78%は中国製造2025が発表された2015年以降の買収であり、ベルテルスマン財団の調査では、2014年から2017年までの中国企業の対ドイツM&A件数の64%は「中国製造 2025」が定める10の重点分野にカテゴライズされる。同財団によると、中国からの関心が顕著なのはドイツが先進技術を有する、(1)省エネルギー・新エネルギー自動車分野、(2)電力設備分野、(3)バイオ医療・高性能医療機械分野、(4) ハイエンド工作機械・ロボット分野で、特にバイオ医療・高性能医療機械分野では、従来、中国企業の動きがほとんどなかったところ、2015年以降に強い関心が示されたとしている。なお、同財団によると、中国企業による対ドイツM&Aの約60%は、いわゆる隠れたチャンピオンが多く存在するバーデン=ヴュルテンベルク、ノルトライン=ヴェストファーレン、バイエルンの3州に集中している(表3参照)。

表3:中国からの直接投資件数と「中国製造 (MIC)2025」関連投資(2014年~2017年)
連邦州 直接投資
件数
MIC2025
関連分野
バーデン=ヴュルテンベルク 39 26
ノルトライン=ヴェストファーレン 38 22
バイエルン 26 18
ヘッセン 15 10
ニーダーザクセン 14 10
ラインラント=プファルツ 8 5
シュレースヴィヒ=ホルシュタイン 6 4
ザクセン 6 5
チューリンゲン 6 2
ザールラント 3 1
ベルリン 3 1
ハンブルク 3 1
ザクセン=アンハルト 2 2
メクレンブルク=フォアポンメルン 2 2
ブレーメン 2 2
ブランデンブルク 2 1

出所:ベルテルスマン財団「中国は組織的に中核技術を買っているのか? 中国製造2025の文脈での中国企業のドイツにおける企業買収(Kauft China systematisch Schlüsseltechnologien auf? Chinesische Frimenbeteiligungen in Deutschland im Kontext von "Made in China 2025")」 を基にジェトロ作成

経済と安全保障のジレンマに直面するドイツ

2019年3月20日に開催された、連邦議会の経済エネルギー委員会での中国による企業投資に関する公聴会における経済界と専門家らの発言からは、対内投資に対してドイツが現在、直面しているジレンマが浮かぶ。

経済界の代表者らの発言は、海外からの投資の重要性とドイツ企業の利益を強調(ドイツ産業連盟のシュテファン・マイヤー理事)、投資スクリーニング強化によって投資を呼び込むことが望ましい場合でも投資家が逡巡(しゅんじゅん)しかねないことの指摘〔ドイツ商工会議所連合会(DHIK)のフォルカー・トライヤー対外経済担当部長〕、米国の投資家が自国式の経営を押し付けるのに比べて中国投資家は経営管理には手を付けず、かつドイツ企業だけでは成しえない中国市場の参入機会を創出する〔ドイツ機械工業連盟(VDMA)のウルリヒ・アッカーマン対外経済部長〕など、外国、特に中国からの投資を歓迎する内容だった。

それに対し、専門家からは「開かれた社会はエネルギー、病院、決済システムなどの重要インフラが守られる前提によってのみ可能であり、こうしたインフラへの外国からの出資などに対しては明確な規制が必要」(ベルリン技術経済大学のセバスティアン・ドゥリエン教授)、「2015年以来の中国による投資の急増は政府の方針によって引き起こされており、それと同時に中国は国内インフラへの海外からの投資規制を一層強くしている。中国はOECD加盟国でも安全保障上のパートナーでもなく、例えば米国といった国々とは根本的に違う」(メルカトル中国研究センターのミッコ・フオタリ副所長)、「われわれの経済は市場主導型に設計されているが、中国においては規制する者とされる者の明確な区別はない。われわれはより多くの規制と透明性を必要としている」(デュイスブルク・エッセン大学のマルクス・タウベ教授)と、中国政府による影響への不安と自国の安全保障への憂慮を反映する内容であった。

輸出大国であるドイツは自国産業を促進し、利益を保持し続けるために、開かれた市場を支持する必要がある。また、対内投資を歓迎しており、実際に長期的な視野に立っている中国からの投資は国内に雇用と税収を生み、ドイツ企業には利益をもたらしている。しかし、中国政府の中国企業に対する実際の影響力は計りようがなく、中国資本の増加はドイツの安全保障を脅かす不安をはらんでいる。さらに、中国政府の国内における外国企業に対する扱いは不公平であり、自由主義を掲げるドイツおよびEUの方針とは相いれず、ここにも矛盾が生じている。

経済と安全保障のジレンマに直面するドイツ政府は、難しいかじ取りを迫られている。

執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所
髙田 勝敏(たかだ かつとし)
2015年からジェトロ・ベルリン事務所に勤務。

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