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中国企業による対内投資認可は減少、背景に両国政府の規制強化の動き(オーストラリア)
米中貿易摩擦の情勢下に見る中国企業の対外直接投資動向調査

2020年1月10日

2018年の中国企業によるオーストラリアへの直接投資は、前年と比べて、国際収支ベースでは増加したものの、認可ベースでは落ち込んだ。中国政府による対外投資制限の影響によるものとみられるが、一方でオーストラリア政府も、外国からの投資に関する監視を強化しはじめている。本レポートでは、こうした状況下における中国の対豪投資動向について報告する。

2018年の中国からの投資は国際収支ベースで増加

2018年の中国企業によるオーストラリアへの投資を国際収支ベース(フロー、ネット)でみると、大きく落ち込んだ2017年の4倍近くになり、35億700万オーストラリア・ドル(約2,630億円、豪ドル、1豪ドル=75円)となった(表1参照)。2016年の20億2,600万豪ドルと比べて73.1%増で、投資残高は401億500万豪ドルと、米国、日本、英国、オランダに次いで第5位になった。

表1:オーストラリアの主要国・地域別対内直接投資(単位:100万オーストラリア・ドル、%)(△はマイナス値)
国名 2016年 2017年 2018年 残高(2018年)
金額 金額 金額 構成比 金額 構成比
米国 10,783 8,560 21,858 27.0 214,291 22.1
日本 8,988 6,061 7,108 8.8 105,898 10.9
英国 16,240 14,622 11,240 13.9 98,747 10.2
オランダ 2,729 4,172 △ 6,762 △ 8.4 49,262 5.1
中国 2,026 914 3,507 4.3 40,105 4.1
バミューダ 1,282 4,537 3,897 4.8 39,780 4.1
カナダ 1,745 2,849 3,920 4.8 36,928 3.8
フランス 51 614 22,189 27.4 28,741 3.0
シンガポール △ 5,012 2,324 2,640 3.3 28,025 2.9
ドイツ 779 1,601 2,065 2.6 24,299 2.5

出所:オーストラリア統計局(ABS)

2017/2018年度の認可ベースでは減少、対外投資制限などの影響か

2017/2018年度(2017年7月~2018年6月)の対豪投資額(認可ベース)では、中国は前年度比39.0%減の236億9,700万豪ドルとなった。2012/2013年度以降、5年度連続で中国が首位を占めていたが、2017/2018年度では米国(365億1,000万豪ドル)に追い抜かれ、2位となった(日本は46億9,500万豪ドルで9位)。

中国からの投資を分野別にみると、不動産業が126億6,800万豪ドル(前年度比17.0%減)で全体の約半数を占めた。次いで、サービス業が38億7,800万豪ドル(39.7%減)、鉱物資源探査・開発が38億4,300万豪ドル(47.6%減)となった。中国からの投資はすべての分野で減少している。特に、製造業・電力・ガス分野の落ち込みが大きく、79.4%減の15億2,130万豪ドルだった。

表2:中国の業種別対豪直接投資(認可ベース)(単位:100万オーストラリア・ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2016/2017年度 2017/2018年度
金額 構成比 前年度比 金額 構成比 前年度比
不動産業 15,254 39.2 △ 52.2 12,668 53.5 △ 17.0
サービス業 6,434 16.6 135.1 3,878 16.4 △ 39.7
鉱物資源探査・開発 7,327 18.9 359.1 3,843 16.2 △ 47.6
農林水産業 2,212 5.7 122.0 1,619 6.8 △ 26.8
製造業・電力・ガス 7,396 19.0 △ 26.5 1,521 6.4 △ 79.4
金融・保険業 245 0.6 n.a. 169 0.7 △ 31.0
合計 38,867 100.0 △ 17.8 23,697 100.0 △ 39.0

出所:オーストラリア外国投資審査委員会(FIRB)

オーストラリア外国投資審査委員会(FIRB)は、2017/2018年度の年次報告書において、中国からの投資額の減少は、主に中国政府による対外投資制限の影響によるものだとしている。

ヘルスケア産業への投資が増加

シドニー大学と会計大手KPMGによる調査報告書では、2018年の中国からオーストラリアへの投資の傾向として、これまでの資源・インフラに対する大規模投資から、中国での高度なヘルスケアサービスへの消費者需要に資する戦略的な小規模投資への変化を指摘している。特に、2015年以降、ヘルスケア産業への投資が増加しており、2018年はヘルスケア関連製品・機器、ヘルスケアサービスに対して、医療・製薬関係企業だけでなく、プライベート・エクイティ・ファンドや金融・保険部門からの投資があったとしている。

主な案件としては、中国の投資家グループ(チャイナ・グランド・ファーマスーティカル&ヘルスケア・ホールディングス、アウトウィット・インベストメントおよびCDHジェネテック)による、がん治療開発のサーテックス・メディカルの買収(19億豪ドル)や、中国の健康食品企業バイヘルスによるプロバイオティクス製品開発のライフ・スペースグループの買収(7億豪ドル)、中国建銀投資によるサプリメント製造のネイチャーズケアの買収(6億豪ドル)などがある。

同報告書では、越境電子商取引(EC)の発展による、中国市場における高品質なヘルスケア商品への需要の高まりとともに、オーストラリアのヘルスケア産業が有するマネジメントのノウハウやレベルの高いサービス、最先端技術、オーストラリア製品に対する「クリーン、グリーン、ヘルシー」なイメージなどが、投資を呼び込んでいると分析している。

鉱業部門については、小規模な投資が増えている。石炭などの伝統的な鉱物資源開発では、中国からの投資は縮小しているものの、リチウム資源開発については、電気自動車などの普及による世界的な需要の高まりによって、引き続き中国投資家からの関心を集めている。

不動産投資については、不動産大手ナイト・フランクの分析によると、2018年における中国からの投資は、鉱業部門と同様に、小規模投資へとシフトしており、商業不動産に対する投資の3分の2は5,000万豪ドル以下の案件だった。残り3分の1は、中国の不動産開発Yuhuグループによる、シドニーおよびゴールドコーストの複合施設に対する投資(11億豪ドル)だった。

中国にとってオーストラリアは安全な投資先

シドニー大学とKPMGは、中国の投資家に対して、オーストラリアの投資環境に関する意識調査も行っている。2018年の調査結果によると、中国の投資家は、オーストラリアは他国と比べて安全であり、オーストラリアの産業界や地方自治体は協力的だと見ていることが分かった。

他方、オーストラリアへの投資において、資金調達や収益性、豪中両政府の認可取得などの面で課題に直面しているとの回答が多く、一部の投資家は、現地報道などの影響から、中国の投資が歓迎されていない、と感じていることも明らかとなった。

外国からの投資に対する監視を強化

FIRBは、前述の年次報告書において、2017/2018年度の主なポイントとして、オーストラリア政府が、国家安全保障の観点から、通信、電力、港湾などの重要インフラに対する外国投資への監視を強化していることを説明している。

特に、通信インフラについては、2018年8月に政府が示した「第5世代移動通信システム(5G)のセキュリティ・ガイダンス」において、外国政府からの指示や影響を受ける可能性のある企業が、5Gネットワーク構築へ参入することを制限しており、事実上、ファーウェイの参入を禁止している。

2018年11月には、香港の不動産デベロッパーのCKアセット・ホールディングスが主導する企業連合による、天然ガスインフラ大手APAグループの買収案が、「国益に反する」として、連邦政府によって却下された。

最近では、2019年9月に、中国の乳業大手の蒙牛乳業がオーガニックの乳児用粉ミルクを製造するベラミーズを15億豪ドルで買収する案件がFIRBへ申請されたところ、「国益に反することはない」とされたものの、条件付きでの承認となった。ベラミーズの取締役の過半数をオーストラリア国民にすること、ベラミーズのオーストラリア本社を少なくとも10年は維持すること、ビクトリア州の粉ミルク加工施設を新設・修繕するために、最低1,200万豪ドルを投資することが、承認の条件として示された。

フライデンバーグ財務相は、外国投資への監視強化は、米国、英国、日本、中国でも行われており、エネルギー、水、運輸、通信などの従来のインフラ分野のほか、データ管理などの新しい分野についても、重要インフラとみなし、こうした分野における外国からの投資については、市場競争性や国家安全保障など、さまざまな影響を考慮する必要がある、と説明している。

このように、豪中両国政府による投資規制の動きはあるものの、中国は対豪投資残高で第5位の地位を占めており、ヘルスケア産業などの新しい分野への投資も進んでいることから、今後もその動向が注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
住 裕美(すみ ひろみ)
2006年経済産業省入省。2019年よりジェトロ・シドニー事務所勤務(出向) 。

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