2018年の香港向け投資、2年連続で減少
米中貿易摩擦の情勢下に見る中国企業の対外直接投資動向調査

2020年2月14日

中国商務部などが発表した2018年度の「中国対外直接投資統計公報」によると、2018年の中国から香港への対外直接投資額(フロー)は868億6,917万ドルと、2年連続で減少した(図参照)。ただし、マイナス幅は前年比4.7%減で、2017年(20.2%減)よりも縮小した。

図:中国の香港への対外直接投資推移(フロー)
棒グラフは、中国から香港への対外直接投資額(フロー)を示している。対香港の直接投資額は2011年に356億5,484万億ドルと前年比で減少したものの、2012年から2016年にかけて5年連続で増加し、2016年には1,142億3,259万香港ドルと1,000億ドルを突破した。2017年は911億5,300万米ドルと、6年ぶりに減少に転じ、2018年は868億6917万米ドルと2年連続で減少した。 折れ線グラフは、中国の対外直接投資総額に占める香港の構成比を示している。香港の構成比は2015年をピークに2016~2017年にかけて2年連続で減少したものの、2018年には上昇に転じた。なお、香港は依然として国地域別で最多を維持している。

出所:2018年度中国対外直接投資統計公報を基にジェトロ作成

2018年の中国の対外直接投資総額(フロー)に占める香港の構成比は、60.7%(前年比3.1ポイント増)となった。依然として国・地域別で最大の投資先で、2位(ASEAN:9.6%)以下を大きく引き離している。

直接投資残高は、初の1兆ドル超え

2018年の中国企業による対香港直接投資(フロー)を業種別にみると、1位がリース・ビジネスサービス業(金額:399億6,070万ドル、構成比:46.0%)、2位が金融業(167億5,757万ドル、19.3%)、3位が卸・小売業(53億1,983万ドル、6.1%)となった(表参照)。

表:対香港投資の上位7業種(2018年)(フローの上位順)(単位:100万米ドル, %)(△はマイナス値)
業種 フロー ストック
金額 構成比 前年比 金額 構成比 前年比
リース・ビジネスサービス業 39,961 46.0 △ 2.0 535,279 48.6 9.2
金融業 16,758 19.3 △ 11.2 135,164 12.3 9.7
卸・小売業 5,320 6.1 △ 43.8 137,490 12.5 0.2
製造業 5,034 5.8 △ 20.7 75,422 6.9 73.0
情報伝送・ソフトウェアおよび
情報技術サービス
3,724 4.3 66.2 24,695 2.2 77.2
交通運輸および倉庫・郵便業 3,368 3.9 0.1 44,826 4.1 16.5
採鉱業 3,177 3.7 139.4 54,416 4.9 1.5
合計(その他を含む) 86,869 100.0 △ 4.7 1,100,391 100.0 12.1

出所:2017および2018年度中国対外直接投資統計公報を基にジェトロ作成

中国企業による対香港向け直接投資残高(ストック)は、2018年末時点で1兆1,003億9,108万ドルと、全体の55.5%を占めている。業種別にみると、1位がリース・ビジネスサービス業(金額:5,352億7,886万ドル、構成比:48.6%)、2位が卸・小売業(1,374億8,976万ドル、12.5%)、3位が金融業(1,351億6,404万ドル、12.3%)となった。また、香港に設立された中国企業の現地法人数は、2018年末時点で約1万4,000社に達した。

中国企業による香港企業に対するM&Aは、2018年は前年比46.2%増の57件(43億6,000万ドル)と2年ぶりに増加に転じた〔2017年は39件(76.2%減)、M&A金額28億8,000万ドル〕。

香港機能を活用した「一帯一路」関連の投資活発

2018年は、中国政府が推進する「一帯一路」プロジェクトにおいて、金融などの香港機能を活用する中国企業の動きが目立った。例えば、中国の国務院国有資産監督管理委員会が管理する中央国有企業で、港湾・道路管理、海運業などを手掛ける招商局港口(以下、招商局)(本社:香港)は2018年2月、ブラジル南部パラナ州に位置し、貨物取扱量国内第2位のパラナグア港の管理会社を買収した(取得金額は非公表)。同港の引き渡し式典において、招商局の胡建華董事局副主席は「『一帯一路』構想の重要な推進役を担う当社は、パラナグア港を起点としてBRICS諸国と経済・貿易面の協力を引き続き推進していく。特に、ブラジルの総合物流、交通インフラ、物流園区開発などの分野を詳細に研究し、将来の投資、開発および運営の機会を模索していきたい」と述べ、今後、ブラジルでさらなる投資・開発に意欲を示した。

また、中国4大商業銀行の1つである中国工商銀行(ICBC)傘下の工銀金融租賃は2018年3月、同社100%子会社の「工銀航空金融租賃」を香港に設立し、ファイナンスリース事業を開始した。オープニングセレモニーにおいて、中国工商銀行の易会満董事長は「当社香港法人の設立は、香港の金融センターとしての優位性を活用しながら、香港の国際金融センターとしての地位向上、航空産業の発展に対する支援および『一帯一路』沿線国・地域との連結性向上を推進する中央政府の政策に合致するものだ」と述べ、香港進出の意義を強調した。

なお、中国企業の対香港投資にあたっては、香港の投資誘致機関である香港投資推進署(InvestHK)が、引き続き積極的に中国本土において投資誘致活動を展開するなど、中国企業による香港進出を手厚くサポートしている。2018年には、四川省・成都市をはじめ計11都市で、中国政府が推進する「一帯一路」構想関連のプロジェクト実行に際して、香港の活用を呼び掛けるイベントやセミナーを開催したほか、上海市でも香港への投資を呼び掛けるセミナーを開催した。また、2018年にInvestHKが支援した計436件以上の投資案件のうち、約23%にあたる101件が中国企業の案件であった(上記の工銀航空金融租賃による香港進出を含む)。

すでに生産拠点の一部を中国から移管した香港企業も

米中貿易摩擦の長期化に伴い、中国本土に生産拠点を持つ香港企業にも影響が出始めている。2018年時点では、東南アジア諸国でのサプライチェーン体制の不備を理由に生産拠点移管の検討にとどまり、慎重な姿勢を崩していない企業が大勢を占めるが、生産拠点の一部を中国本土から移管した企業もみられる。例えば、香港の電子機器受託製造サービス(EMS)の信佳国際集団は2018年8月、約2,000万香港ドル(約2億8,000万円、1香港ドル=約14円)を投じて、ベトナム・バクニン省の工業団地内に工場を新設する方針を明らかにした。同社はプレスリリースにおいて、「現状、米中貿易摩擦の影響を受けていないが、長期化が予想される米中貿易摩擦や中国における生産コストの上昇などを勘案し、次善の策として中国本土外での生産体制を整備することにした」とコメントしている。また、香港の経済紙「香港経済日報(2018年10月23日付)」によると、産業用自動機器およびIT機器の供給およびシステムインテグレーションサービスを提供する、香港の東興自動化投資も医療機器の生産工程を中国本土から香港に移管したとされる。

今後の米中間の交渉が低調に推移し、中国本土における生産コストの上昇など中国本土のビジネス環境の変化が加速すれば、生産拠点移管の流れが加速する可能性もある。

香港政府、2019年も中国企業の誘致活動を継続

2019年の中国から香港への対外直接投資については、各種報道および中国企業によるプレスリリースを確認する限り、目立った投資案件は見受けられない。同年6月以降、香港で活発化したデモ・抗議活動などが、中国企業の投資マインドに影響を与えたものとみられる。一方、香港政府は、浙江省・杭州市や四川省・成都市、陝西省・西安市などで、企業誘致に関するセミナーや「一帯一路」関連プロジェクトにおいて香港の活用を促すセミナーを開催した。香港政府は引き続き、海外進出にあたってのプラットフォームとして、香港を積極的に活用するよう中国企業に対して呼び掛けていく方針だ。

執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所 経済調査・企業支援部長
吉田 和仁(よしだ かずひと)
金融庁勤務を経て、2016年7月より現職。