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テクノロジーの世界で高まる中国企業の存在感(シンガポール)
米中貿易摩擦の情勢下に見る中国企業の対外直接投資動向調査

2020年1月10日

対シンガポール投資国として、中国は現時点では、第11位の投資国だ。しかし、どこよりもその投資額の拡大の勢いは速い。最近では、テクノロジーの世界において、中国企業の存在感が高まっている。アリババ集団(以下、アリババ)やテンセントなど中国の大手テック会社が、シンガポールやインドネシアなど東南アジアのスタートアップへの大型投資を加速している。また、アリババや華為技術(ファーウェイ)などテック会社は、相次いで人工知能(AI)の研究・開発拠点をシンガポールに設置している。

拡大トレンドにある中国の対シンガポール投資

シンガポール統計局によると、2018年の中国(香港を除く)の対シンガポール外国直接投資(FDI)は、前年比7.4%増の417億6,190万シンガポール・ドル(約3兆3,409億円、 Sドル、1Sドル=約80円、ストック)だった(図参照)。対シンガポールFDIの国・地域別で中国は11位だが、2005年の27位から大きく上昇した。香港の対シンガポールFDI(609億7,170万Sドル)を含めると、中国はシンガポールにとって第7位の投資国となる。

図:中国と香港の対シンガポールFDIの推移 (単位:100万Sドル、ストック)
2000年から2018年にかけて、シンガポールへの中国、香港のストックベースの投資は概ね右肩上がりで増加している。中国の対シンガポール投資は、前年比7.4%増の417億6,190万シンガポール・ドル(Sドル、約3兆3,409億円、1Sドル=約80円)だった。同年の香港の対シンガポール直接投資のストックは609億7,170万Sドルだった。

出所:シンガポール統計局

統計局の産業別FDIの最新統計によると、中国(香港を除く)の対シンガポールFDIのうち、8割を金融・保険と卸売取引が占める(2017年)。シンガポールには、中国銀行や中国工商銀行(ICBC)、中国建設銀行、中国平安保険集団、中国人寿保険(チャイナ・ライフ・インシュアランス)など、中国の大手銀行や保険会社が拠点を構える。これら中国の金融大手は、自社の東南アジア域内への投資活動だけでなく、顧客の中国企業が、シンガポールを拠点に域内投資活動の展開をするのを支えている(2016年10月13日付ビジネス短信参照)。

中国テック大手、成長著しい東南アジアのスタートアップへ大型投資展開

中国企業の中でも近年、アリババ集団やテンセントなど大手テック各社が、東南アジアのスタートアップや電子商取引(EC)関連企業への大型投資を加速している。これらテック各社は、中国国内の市場が成熟化して伸び悩みをみせる中、ECやオンライン旅行などネットビジネスの今後の成長が見込める、東南アジアでのスタートアップに着目している。

東南アジアの中でも、シンガポールは最もスタートアップのエコシステムが整う。シンガポールのベンチャーキャピタル(VC)、セント・ベンチャーズのレポート(2019年8月発表)によると、同国へのテック系スタートアップへの投資額は2018年に総額119億2,800万米ドルと過去最高を更新し、2019年上半期もその勢いが続いている。中国大手テック会社からの投資が東南アジアの中で最も集まるのも、シンガポールだ(表1参照)。アリババは、同国では2016年4月、東南アジア最大級のECであるラザダ(本社:シンガポール)の過半数の株式を取得して傘下とした。また、テンセントは2010年、ゲームやECなどを展開するシー(SEA、本社:シンガポール)に最初の投資を実施。その後、段階的に増資を行い、2019年1月時点で持ち株比率を33.4%まで引き上げている。滴滴出行も、東南アジア最大のスタートアップで、配車やフードデリバー、フィンテックなどを展開するグラブ(Grab、本社:シンガポール)に2015年8月、3億5,000万米ドルを出資。さらに同社は、2017年7月にはソフトバンクと共同で、合計20億米ドルを投資している。このほか、中国の動画配信YYは2019年3月、ライブ動画配信のビゴ(Bigo、本社:シンガポール)の持ち株を31.7%から100%へと引き上げ、完全子会社にしている。

表1:中国の大手テック社の東南アジアでの主な投資先
投資先国・
投資先企業
アリババ/アント・フィナンシャル テンセント JD.com(京東集団) 滴滴出行(DiDi) YY(歓衆時代)
シンガポール
  • シンガポール・ポスト
    (郵政、2014年)
  • ラザダ
    (EC、2016年)
  • m-Daq
    (フィンテック、2016年)
  • ハローペイ(HelloPay)
    (フィンテック、2017年)
  • シー(SEA)
    (EC、2010年)
  • グラブ
    (ライドシェア、2015,17年)
  • ビゴ(Bigo)
    (動画配信、2014、18年、19年)
インドネシア
  • トコペディア
    (EC、2017年)
  • ダナ(Dana)
    (フィンテック、2018年)
  • MNCメディア
    (メディア、2013年)
  • ゴジェック(Go-jek)
    (ライドシェア、2017~19年)
  • ゴジェック(Go-jek)
    (ライドシェア、2017~19年)
  • トラベロカ(Traveloka)
    (オンライン旅行、2017年)
タイ
  • アセンドマネー(Ascend Money)
    (フィンテック、2016年)
  • トゥルーマニー(TrueMoney)
    (フィンテック、2016年)
  • サヌーク・オンライン(Sanook Online)
    (デジタルメディア、2016年)
  • オークビー(Ookbee)
    (デジタルメディア、2017年)
  • セントラル・グループ(Central Group)
    (小売り、2017年)
  • ポメロ(Pomelo)
    (EC、2017~18年)
フィリピン
  • Mynt (Gcash)
    (フィンテック、2017年)
  • Touch 'n Go
    (高速道路料金スマートカード、2017年)
  • ABC360
    (教育、2016年)

出所:CBインサイツ、フォレスター、各社報道発表

米国グーグルと、シンガポール政府系投資会社テマセク・ホールディングスと、米国コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーの共同調査(2019年10月3日発表)によると、東南アジア主要6カ国のインターネット経済の規模は、総流通総額(GMV)ベースで、2015年の320億米ドルから、2019年に1,000億米ドル、2025年には3,000億米ドルへと拡大する見通しだ(2019年10月11日付ビジネス短信参照)。この拡大する市場に着目し、テック会社だけでなく、これまで中国で積極的に投資を展開していたベンチャーキャピタル(VC)も最近、相次いでシンガポールに進出している。2019年に入り、中国のVC、啓明創投(Qiming Ventures、本社:上海)、ZWCベンチャーズ(本社:上海)などがシンガポールに拠点を設立した。また、これまで中国と米国で活発に投資していた米国VCのGGVキャピタル(本社:カリフォルニア)も、2019年にシンガポールに拠点を設置し、東南アジアでの投資を拡大する方針だ。

アリババなどがAI研究・開発拠点を設置、専門人材を産官学連携で育成へ

また、シンガポールでは最近、中国の大手テックやスタートアップが相次いで、人工知能(AI)の分野の研究開発(R&D)拠点を開設している(表2参照)。アリババは2018年2月、シンガポールの南洋工科大学(NTU)のキャンパス内に、ヘルスケアや輸送でのAI技術の活用を研究する「アリババNTUシンガポール共同研究所」を設置した。アリババが中国国外に研究施設を開設するのは同大学が初めてであり、同社が2017年10月に発表した総額150億米ドルの研究プログラム「達摩院」(DAMOアカデミー)に基づき、世界7都市に研究所を設置するという計画に基づく。また、顔認証技術で知られるAIのスタートアップ、依図科技(Yitu)は2019年1月、中国外では同社としては初となるR&Dセンターを開設した。

表2:中国テック企業による最近の主なAIのR&D施設設置の動き
年月 企業名 内容
2018年
2月
アリババ集団 南洋工科大学(NTU)と共同研究センターを設置、AI中心に研究
2019年
1月
依図科技
(Yitu)
AIのR&Dセンター開設
2019年
8月
澎思科技
(Pansees Technology)
AIのR&D施設開設。シンガポール国立大学(NUS)と提携して研究へ
2019年
11月
華為技術
(ファーウェイ)
AIラボを開設

出所:各社報道発表、地元紙報道を基にジェトロ作成

さらに、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は2019年11月、同国東部チャンギ・ビジネス・パーク内に、AIラボを正式に開設した。シンガポールは2014年11月から、最新のデジタル技術を活用して経済活動を活性化し、豊かな暮らしを目指す「スマート国家構想」に基づくさまざまな実験的な取り組みが国内各地で行われている(2019年8月30日付地域・分析レポート参照)。スマート国家構想を実現する上で、AIは核となる技術の1つだ。同構想に基づき、シンガポール政府は2019年11月、2030年までの国家AI戦略(注)を発表している。ファーウェイのAIラボでは、政府機関や中小企業、スタートアップが自社のシステムを、第5世代移動通信システム「5G」に適応できるようテストすることができる。また、同社は同AIラボの開設により、向こう3年間でAIの開発人材1,000人の育成方針を発表している。また、シンガポールではAIの人材は不足しており、同国政府はファーウェイやアリババなどテック会社との連携で専門人材を育成している。


注:
シンガポール政府は2019年11月に発表した国家AI戦略で、2030年までに主要セクタへのAIソリューションの開発・導入で同国が主導的な役割を担うことを目指すとしている。 詳細はスマート国家のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。

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