「日本独自のスパイス、東洋の高級ハーブ」生鮮わさびを世界へ
食品安全にかかる国際認証取得で輸出促進

2026年1月8日

2013年12月に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことや、インバウンド観光客の増加により、海外での日本食人気が高まった。世界的な寿司(すし)ブームも相まって、日本食を代表する調味料、スパイスであるわさびは定着しつつある。チューブわさび、わさびパックなどの練りわさびは長期間保存が可能で手軽に扱えるため、便利だ。本物志向の顧客や富裕層からは新鮮な寿司ネタとともに、本格的で新鮮なわさびに目が向けられており、海外需要は増加傾向となっている。

そのような状況で、生鮮わさびをはじめとした、わさび・わさび加工品の輸出に積極的に取り組む藤屋わさび農園外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:長野県安曇野市)の望月啓市専務取締役、山本優品質保証室長に、同社の輸出状況や今後の海外展開の展望などについて聞いた。また、同社工場の設計および施工を担当した建設会社のヤマウラ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:長野県駒ケ根市)島岡博営業本部企業建築チーム営業本部長に、FSSC22000などの食品安全にかかる認証や衛生管理体制について聞いた(取材日:2025年11月21日)

日本原産の本わさび、西洋わさびとは別物

わさびは日本原産のアブラナ科の植物だ。根茎をすりおろした時の強い刺激性のある香味が特徴で、寿司や刺身、そばなどに添えて食される。同じアブラナ科にはローストビーフの薬味などとして使われる、ヨーロッパ原産のホースラディッシュ(わさびだいこん)(注1)があり、区別のためにこちらを「西洋わさび」、わさびのことは「本わさび」と呼ぶ場合が多い。なお、本稿で単にわさびと表現する場合には、「本わさび」を指すこととする。

わさびは元々、山深い渓流に自生していたが、400年以上前から農産物として栽培されるようになった。わさびには湧水などを利用したわさび田で栽培される沢わさび(水わさび)と、涼しい山林中の畑地で栽培される畑(はた)わさびがある。水わさびは主に根茎をすりおろして食用にするが、畑わさびは葉や茎を食用にする。根茎だけでなく葉や茎にも独特の爽やかな辛味と香味があり、漬物などの加工食品として人気だ(詳細は、日本産食材ピックアップ「わさび」参照)。


長野県安曇野市内のわさび栽培の様子(ジェトロ撮影)

わさびの生産は減少傾向、新たな取り組みで今後に期待

農林水産省「特用林産物生産統計調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、2024年のわさび(根茎、葉柄)の国内生産量は前年比8.2%増の1,496.7トンであった。長野県が651.3トン、静岡県が416.4トン、岩手県が263.1トンと続く。

わさび全体のうち、水わさびは全国で1,034.2トンが生産されている。長野県が628.1トン、静岡県が330.6トンでこの2県の生産量の合計は全国の9割以上を占める。二大産地の長野県と静岡県は、豊富な湧水と穏やかな気候により、生産地として適しているとされる。一方、畑わさびは全国で462.5トン、岩手県の生産量が241.4トンでもっとも多く、全国の約5割を占めている。

過去10年間の国内生産量は2015年の2,213トンからおよそ3分の2となり、長期的に国内生産量は減少傾向にある。わさびの栽培には、豊富な水と、年間を通じて冷涼な気候が必要であることから生産地が限定されており、温暖化の影響で今後はより状況が厳しくなると予想される。また他農産物と同様に、生産者の高齢化や後継者不足なども生産量の減少に拍車をかける。

一方、最近では、従来のわさび栽培のみならず、農業DXの活用により、場所や天候を選ばない環境制御型農業として、植物工場やコンテナ型の栽培モジュールでわさびを生産する取り組みが始まっている。このような取り組みの背景には、海外からのわさび需要の高まりに対して、供給が不足していることなどがある。今後わさびの生産量の増加が期待される。

図:わさび(根茎、葉柄)生産量動向(2015年-2024年)
2015年2,213トンから徐々に減少して、2024年は1,497トンであった。過去10年間でおよそ3分の2となり、長期的に国内生産量は減少傾向にある。

出所:特用林産物生産統計調査からジェトロ作成

「わさび(Wasabi)」の広がり

日本食を代表する寿司は世界的に認知され、料理ジャンルとして定着した人気料理の1つとなった。それに伴い、寿司に欠かすことができない調味料として、「わさび(Wasabi)」 も世界に広がった。特にチューブや小分けされたパック(わさび小袋)などの練りわさびは、調味料としてのわさび加工品を中心に、日本から世界各国へ輸出されている。また、現地生産品や日本以外の他国産のわさびも多く流通している。チューブや小袋によって鮮度を保ちつつ、長期間保存可能で手軽な調味料として、寿司屋、日本食レストランを中心に利用されている。さらに、日系のみならず現地系スーパーや百貨店などの小売店でも、寿司や総菜コーナー、調味料コーナー、アジア系食品コーナーにまで広がっていった。

しかしながら、本来のわさびとはかけ離れた粗悪品も多い。ただ辛いのみで、着色料を使い緑色に色付けされたものなどだ。そもそも、日本人も含めて多くの人にとって、西洋わさびと本わさびが区別されていないのが現状である。 練りわさびやふりかけ、お茶漬けの素などの粉わさびは、西洋わさびのみが使用されていることがほとんどだ。もしくは、西洋わさびと本わさびが少量混合されたものや、根茎ではなく葉や茎わさびが混合されているものが多い。本わさびは、ただ辛いだけではない。根茎のみならず葉や茎であっても、鼻から抜ける辛みが癖になる、独特でさわやかな風味を持つのが特徴である。

富裕層をはじめインバウンド観光客の多くは、日本滞在中に高級寿司店や日本食店、市場で食事する機会がある。産地直送の鮮度や品質が良い寿司ネタや刺身、そばとともに、本わさびを知るきっかけとなる。これらの経験により、ほかの料理や食べ物同様に、本来の味への志向、いわゆる「本物志向」が高まっている。帰国後も同様に本わさびを求める人が増えており、需要がさらに伸びることが予想される。実際に、ニューヨーク、シンガポール、香港、ドバイなどの大都市にある高級寿司屋、日本食レストランでは、すりおろした本わさびを提供する店もある。また、わさびは「日本ならではのスパイス」「東洋の高級ハーブ」として、日本食のみならず、フレンチやイタリアン、肉料理にも使用され始めており、人気が高まっている。米国や欧州などでは、わさびへの関心の高まりから、現地で本わさびを栽培する現地企業が出てきている。

長野・安曇野 藤屋わさび農園、生鮮わさびの輸出拡大

わさびの有数の生産地である長野・安曇野では、全国的に珍しい平地式で、北アルプスの養分が豊富な湧き水を活用して、わさびを栽培している。同市などは、国内外で安曇野わさびプロモーション外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを実施している。

その中で、本稿では積極的に海外展開に取り組む藤屋わさび農園を取り上げる。同社は、1922年創業で100年以上にわたり、わさび栽培から製造、販売まで手掛ける老舗企業である。生鮮わさびをはじめ、おろしわさび、刻みわさび、葉わさび醤油漬けがメインの商品だ。中でも、生鮮わさびは、長野・安曇野で収穫されたわさびを新鮮な状態で、チルド(冷蔵)で空輸にて直接輸送しており、辛さ、香り、粘りがあることが特徴だ。原材料の調達先は、ほぼ長野・安曇野産で、自社農園を中心とし、近隣の農園からも買い付けしている。多くの高級寿司店やステーキハウスの有名店など、主に業務用に使用されており、供給の関係で日本国内であっても市場にはほぼ出回らない。

2022年4月に新工場を竣工し、わさび製品の輸出事業と、国内販売製品へのさらなる安心・安全を徹底するため、国際認証規格であるFSSC22000(注2)を取得した。生鮮わさびおよびわさび加工品を、韓国、米国、スペイン、香港、シンガポールなどへ輸出している。国内商社経由の間接輸出もあるが、多くは自社による直接輸出をしており、新工場設立後、輸出額は3倍以上の約5,000万円に増加した。

望月啓市専務取締役は、「Instagramを中心にSNSを活用して、わさびに関する情報や自社の取り組みを積極的に発信している。その結果、国内のみならず海外バイヤーや消費者のわさびに関する理解が深まり、ストーリーに共感し興味を持ってもらい、新たな注文につながっている。現在はSNSをきっかけに、海外から多くの引き合いをいただき、生鮮わさびの供給が追いつかなくなってきている。今後は生鮮わさびのみならず、葉や茎わさびを使った、わさび加工品の海外展開も広げていきたい」と話す。

また、山本優品質保証室長は「単にFSSC22000を取得したから引き合いが増えたのではなく、認証取得によって会社に対する信用性が高まり、大手企業や海外企業との取引交渉が円滑に進むようになった」と語った。


藤屋わさび農園工場(ジェトロ撮影)

藤屋わさび農園の生鮮わさび(同社提供)

業務用葉わさび醤油漬け (同社提供)

同社Instagram、望月専務の海外向け発信の様子
(2017年頃、同社提供)

FSSC22000認証を取得し、食品安全の高まりへ対応

同社の新工場を設計および施工を担当したのが、建設会社のヤマウラ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますである。同社が手掛ける「オイシールド(Oishield)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」は、食の安全と美味しさを守る食品工場ブランドの名称だ。近年、食品工場に関するさまざまな建築ニーズにあわせて、同社の専門チームが最適な提案を行い、安全性と効率性を両立した衛生管理体制の構築をサポートしている。食品安全にかかるHACCP(注3)やISO22000(注4)、FSSC22000などの認証に関する相談を受けながら、長野県や山梨県を中心に多くの食品工場の施工実績がある(同社ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。


食品工場の設計ポイント(ヤマウラ提供)

藤屋わさび農園工場の製造充填室(ヤマウラ提供)

同社営業本部企業建築チームの島岡博営業部長は、「日本の食品への注目が高まる中、海外へ輸出を拡大したいというニーズとともに、食品に対する安全意識も高まっている。日本の大手取引先や海外の取引先から、製造企業側に取引条件として食品安全にかかる認証(ISO22000やFSSC22000など)を求められることが多くなっている」と話す。

海外ビジネスにおいて、現地での売り先探しや市場の開拓に目が行きがちだが、海外市場で求められる食品安全にかかる認証は重要なポイントだ。認証や国際規格取得においては、現地の需要に応える量や品質の良い製品を供給できるキャパシティーの問題など、足元の生産、製造、品質管理部門での入念な準備に時間をかけるとともに、会社全体の問題として中長期的な視点で取り組む必要がある。このような場合、食品安全認証の取得は企業のみで取り組むにはハードルが高く、本稿の事例のように、専門知識や施工実績のある建設企業やコンサル会社と相談しながら認証取得することは1つの解決策であろう。


注1:
西洋わさび(わさびだいこん、山わさび)は株分けや根の一部からの再生に非常に強く丈夫で、本わさびと比べると栽培が容易である。なお、わさびだいこんの日本国内収穫量は1,820トン(2022年)で、ほとんどが北海道で生産されている(農林水産省「令和4年地域特産野菜生産状況調査」)。海外では中国、オランダ、イタリアなどが主な産地である。
注2:
FSSC22000(Food Safety System Certification 22000)は、食品安全のためのシステム規格。食品小売業界が中心の非営利団体、国際食品安全イニシアチブ(GFSI:Global Food Safety Initiative)により、食品安全の認証スキームの1つとして承認された規格。ISO22000にさらに要求事項を加えたもの。
注3:
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point、食品危害要因の分析および重要管理点)は、食中毒菌の汚染や異物混入などの食品危害要因(ハザード)を分析した上で、原材料の入荷から食品の出荷に至る全行程の中で、特に重要な工程を管理し、食品危害要因を除去または低減させ、食品の安全性を確保しようとする衛生管理手法。方法論を基に規格化したもので、自治体HACCPや業界HACCP、国際規格のISO22000や民間規格のFSSC22000などの規格がある。
注4:
ISO22000(International Organization for Standardization 22000、国際標準化機構)は、適正な衛生管理の実施を前提とした食品の品質マネジメント規格。
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや)
2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。