アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探る(総論)アフリカでの日本のポップカルチャー、拡大の可能性広がる

2025年7月11日

アフリカでは、2025年に人口が14億7,000万人に達する見込みだ。これは、中国やインドと同規模で世界の約18%を占める。今後も増加が続く予測であり、現地市場の拡大が見込まれる。日本の年齢中央値は49歳だが、アフリカは約19歳で、若者も多い。

アフリカでも若者を中心に、日本のコンテンツを楽しむ層が増えている。都市部を中心にTVで、「ドラゴンボール」や「ドラえもん」「ONE PIECE」「NARUTO =ナルト=」など、日本のアニメを見たことがある人々もいる。近年はアフリカも既に都市部ではインターネットが普及しており、スマホを持つ人々も多い。YouTubeやNetflix、Amazonなど動画配信サービス、マンガ購読アプリなどにより、最新の日本のコンテンツを楽しむことができる。さらに、SNSを通じて、インフルエンサーがその魅力を発信しており、日本のアニメ、マンガ、ゲームなどがますます広まりつつある。また、アフリカ各地でイベントが開催され、コスプレをする熱狂的なファンも集い、規模は年々拡大している。

本稿では、アフリカでの日本のアニメやゲームなどポップカルチャーの動向について、各種統計などを基に解説する。

アフリカの対日意識

日本から近いASEANなどで、日本文化への関心が高いことは周知のとおりだが、日本から遠いアフリカでも、関心は高いという。欧州や中東よりも日本への関心が高いアフリカの国もある。外務省の「海外における対日世論調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、「日本に関してもっと知りたいと思う分野は次のうちどれですか」との問いに対して(複数選択可)、チュニジアでは7割以上が「文化(伝統文化、ポップカルチャー、和食など)」と答えた(図1参照)。これは中東7カ国、欧州5カ国、ASEANよりも多い(注)。なお、アフリカでは60%、中東7カ国では71%が「科学・技術」と答え、両地域で最多であり、日本の技術に関する関心が高いことも伺える。

図1:文化(伝統文化、ポップカルチャー、和食など)への関心割合
チュニジアは75%、ケニアは46%、南アフリカ共和国(南ア)40%、コートジボワールは35%、エジプトは27%、中東平均は52%、欧州5カ国は46%、ASEANは44%。

出所:外務省

「もっと知りたい分野」で「文化」と回答した人のうち、「アニメ、漫画、ゲーム、コスプレ」を選択したのは、アフリカ5カ国ではコートジボワールが最多で、中東、ASEAN、欧州よりも高かった。チュニジアも6割以上、エジプトは半数以上だった(複数選択可、図2参照)。なお、ケニアと南アでは「アニメ、漫画、ゲーム、コスプレ」が約4割のところ、「和食」が最多の割合となった。

図2:アニメ、漫画、ゲーム、コスプレへの関心割合
チュニジアは64%、ケニアは41%、南ア41%、コートジボワールは65%、エジプトは53%、中東平均は61%、欧州5カ国は34%、ASEANは61%。

出所:外務省

「文化」と回答した人のうち、「和食」に関心があると回答したのは、南アが7割以上と最多で、中東、欧州より多かった。ケニアでは6割以上、コートジボワール、エジプト、チュニジアでも半数以上だった(複数選択可、図3参照)。

図3:和食の関心割合
チュニジアは50%、ケニアは66%、南ア72%、コートジボワールは57%、エジプトは56%、中東平均は52%、欧州5カ国は71%、ASEANは81%。

出所:外務省

アフリカでもアニメ作品の契約も

日本動画協会の「アニメ産業レポート2024」によると、国内外のアニメ売り上げは増加傾向だ。2023年は海外売り上げが約1兆7,222億円で、国内売り上げの1兆6,243億円を超えている。海外での契約件数は1,298件で、うちアフリカのシェアは3.7%だという。また、アフリカの中では、エジプト、スーダン、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコなど北アフリカで、2023年は契約作品数が「5件以上10件未満」となっており、複数の作品が公開されている。

ソニーグループが所有している世界最大級の月額制アニメ配信サービス「クランチーロール」もアフリカで展開している。また、日本発のエンターテインメント・スタートアップAnique(アニーク)も、アフリカを含む海外でのコンテンツ展開を目指す(2025年6月20日付地域・分析レポート参照)。

中東・北アフリカでは、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイのメディアのスプラトゥーンなどがアラビア語字幕を付けて、エジプトなどアラビア語圏広域に展開するなどの動きがある(中東諸国でもおおむね北アフリカと同様の契約数)。

なお、アフリカ市場について、2D・3DアートコミュニティーのCGアフリカ(CGAfrica)によると、アニメーションの市場規模は2022年に約123億ドルで、2028年までに132億ドルに達するとの予測だ。映画、ドラマなどは欧米や韓国などのコンテンツの人気も根強いが、アニメでは日本にも強みがあり、普及の可能性もある。

ゲーム市場も伸び示す

アフリカでは、スマホでのゲームプレイヤーが圧倒的に多い。「Candy Crash」や「PUBG MOBILE」などのモバイルゲームが人気だ。

南ア、ナイジェリアなどを中心に、アルジェリア、モロッコ、エジプトなどでもゲーム機やPCゲームのプレイヤーも徐々に増えている。なお、所得水準の低いアフリカ諸国では個人で機器を持てない人も多く、カフェなどに設置されたゲーム機でゲームをする習慣もある。

日本のゲームではポケモンなども人気だ。アフリカ各地でeスポーツ大会も開催されている。2025年6月にはコートジボワールでバンダイナムコのビデオゲーム「鉄拳(TEKKEN)」のワールドツアートーナメントの公式大会がアフリカ大陸で初めて開催された。

ユーロモニターによると、中東・アフリカのビデオゲーム市場は拡大傾向にある。2010年に15億ドルだったが、2020年に26億ドルとなり、2029年には65億ドルに達する見込みだ(図参照)。中東・アフリカでの売り上げをみると、2024年はソニーが首位で6億ドル以上、マイクロソフトが2位で5億ドル以上だという。任天堂が3位、コナミが10位と、日本企業も上位につけた。ゲーム機の売り上げは、PlayStation、Xbox、Nintendo Switchの順だ。

アフリカでは経済成長も続いており、所得が上昇すれば、個人でもゲーム機を持つ人が増えるだろう。なお、人口が1億人を超えるエジプトなど中東・北アフリカ(MENA)地域のゲーム市場詳細については、ジェトロの調査レポート参照。

図4:中東・アフリカのビデオゲーム市場推移
単位は100万ドル。2010年は1,540、2011年は1,711、2012年は1,815、2013年は1,745、2014年は1,938、2015年は 1,918、2016年は1,990、2017年は2,272、2018年は2,359、2019年は2,421、2020年は2,641、2021年は3,248、2022年は3,228、2023年は 3,449、2024年は3,761、2025年は4,173、2026年は4,684、2027年は5,222、2028年は5,832、2029年は 6,523。

出所:ユーロモニター

日本食やグッズ普及の可能性も

世界ではアニメやマンガ、ゲームなどの普及に伴い、日本のコンテンツで登場するラーメンやすしなどの日本食、グッズ・玩具など、関連ビジネスも拡大する可能性がある。

農林水産省の調査によると、2023年の世界の日本食レストラン数は、2021年の約15万9,000店から、約2割増の約18万7,000店になった。現状では、アフリカ全体では約690店でまだ少ない。特にまだ現地系やアジア系の日本食レストランが多いため、本格的な日本食レストランは限られる。

国別では、アフリカの経済大国・南アが最多の260店だった。モロッコでも日本食レストランが多いほか、丸善製茶が2018年に合弁会社を立ち上げ、現地で製茶工場を操業する。エジプトでは日本人シェフもいる日本食レストラン「牧野」(2020年11月12日付地域・分析レポート参照)があるほか、最近では、たこ焼き店も進出している。

南アでは、日本の人気アニメのプラモデルやフィギュアなどを販売するショップもある。

アニメ、マンガ、ゲーム、映画、音楽がさらに広まれば、日本食や関連ビジネスの拡大も期待できよう。

表:アフリカ諸国の日本食レストラン店舗数(2023年)
国名 店舗数
南アフリカ共和国 260
モロッコ 190
エジプト 50
チュニジア 30
モーリシャス 30
ケニア 20
ナイジェリア 20
ガーナ 10
コートジボワール 10
マダガスカル 10

出所:農林水産省

アフリカでのポップカルチャーイベント多数

日本のコンテンツ普及には、イベントの盛り上がりも重要だ。7万人が集うという南ア・ケープタウンのコミックコン(Comic Con)や、エジプトのエジコン(EgyCom)、ナイジェリアのラゴス・コミックコン(Lagos Comic Con)など、大規模なイベントもある(2024年10月23日付ビジネス短信参照)。そのほか、ケニアやアルジェリア、コートジボワールなどアフリカ各地で、ポップカルチャーイベントが開催される(表2と記事参照)。

詳細はジェトロ「世界のポップカルチャー関連イベント」参照。

表2:アフリカにおける主なポップカルチャーイベント
イベント名
(ウェブ)
概要
Nerd Con Accra外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 対象:BtoC
分野:アニメ、マンガ、コスプレ
2024年7月6日
ガーナ/アクラ
概要:ガーナ初のポップカルチャーイベント。パネルディスカッション、コスプレ、アーテイストの出演、ゲームなどが開催される。マンガやフィギュア、コスプレグッズなどの販売もある。
会場:Goethe Institute
主催者:Nerd Con
Lagos Comic Con 対象:BtoC
分野:アニメ、マンガ、映画、ゲーム
2025年9月14日
ナイジェリア/ラゴス
概要:2012年から同国最大都市ラゴスで開催されるアニメーション、マンガイベント。地場コンテンツクリエーターやアニメファンなどの交流の場として1年に1度開催している。
参加人数:1,500人(2023年)、6,000人(2022年)
会場:Landmark Centre
主催者:Lagos Comic Con
Comic Con Africa 2024外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 対象:BtoC
分野:アニメ、 ゲーム、その他
2024年9月26日~29日
南アフリカ共和国/ヨハネスブルク
概要:アフリカ大陸最大のポップカルチャー&ゲームの祭典で、2025年で5年目を迎える。
参加人数:7万人
会場:Nasrec Expo Centre
主催者:Mogull Media / Reeds Exhibitions
Africa Games Week 2024外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 対象:BtoB
分野:ゲーム
2024年12月2日~7日
南アフリカ共和国/ケープタウン
概要:今回で7回目を迎えるAfrica Games Weekは、アフリカでビデオゲーム業界のプレミアムビジネスイベントとしての地位を確立している。開発者やコンテンツクリエーター、業界リーダーたちがアフリカのゲーム業界の結びつきや交流、成長を目的として、世界中から集まる場となっている。
参加人数:4,500人
会場:Cape Town International Convention Centre
主催者:Africa Games Week (AGW)
LS Con 2024外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 対象:BtoC
分野:ゲーム、 アニメ、コスプレ、その他
2024年9月21日
ザンビア/ルサカ
概要:年に1度開催されるポップカルチャーコンベンション。コスプレやアートショーケース、ゲーム、音楽、その他さまざまなアクティビティーを1~2日かけて開催するほか、マンガやグラフィックアート、アニメ、マンガ、ビデオゲーム、玩具、ガジェットなど展示がある。また、ファンと地元クリエーターが交流することができるパネルディスカッションや、テレビアニメや映画上映も行われる。
参加人数:500人
会場:The Showgrounds
主催者:NerdOtaku
Fame Week (MIPCOM Africa)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 対象:BtoC
分野:映画、コンテンツ、音楽
2024年9月1日~7日
南アフリカ共和国/ケープタウン
概要:FAME Week Africaはアフリカのクリエーターのためのイベントで、才能やストーリー、文化を発掘するプラットフォームを提供している。FAME Week Africaは、主要なクリエーティブ エコノミーに焦点を当てた関連イベントを一堂に集めている。FAME Week Africaで開催される一連のイベント:1. MIP Africa、2. Cape Town International Animation Festival、3. Muziki Africa、4. FAME Shorts Film Festival、5. FAME After Dark
参加人数:5,000人
会場:Cape Town International Convention Centre
主催者:Reed Exhibitions

出所:各イベントのウェブサイトやSNS、ビジネス短信を基にジェトロ作成

TICAD9イベントでもポップカルチャー展示設置

アフリカ現地でもイベントが盛り上がっていることを受け、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)では、ポップカルチャーにも焦点が当たる。TICADは政治・外交、開発・援助の議論もあるが、ジェトロは会期中の2025年8月20日から22日まで、ビジネスイベントとして、パシフィコ横浜で「TICAD Business Expo & Conference」を開催する(2025年5月13日付記者発表参照)。同イベントでは新たな試みとして、ポップカルチャーのテーマ展示を行う予定だ。

日本企業はアニメ、マンガ、ゲームなどのソフトパワーを用いて、特に若年層に対して日本の一般消費財、食品、外食、配信、スマホアプリ、教育その他のサービスの展開に活用できる可能性がある。このため、日本のコンテンツ関連企業以外の産業においても、アフリカにおける日本のポップカルチャーの状況は参考となるだろう。

日本企業もエンターテインメント展開の可能性に言及

日本の経団連もTICAD9に向けた提言で、エンターテインメント展開の可能性と政府の施策について言及している。

同提言では、巨大な人口を擁し、今後も大きな経済発展が見込まれるアフリカは、日本にとっても有望な市場と言及している。また、以下のようなアフリカ市場への戦略的取り組みが必要だとした。

  • 各国の言語での吹き替えや字幕作成への支援
  • 現地情報収集・発信のための拠点整備
  • 海賊版対策
  • プロモーション支援
  • アフリカ有望企業と日本企業のマッチング
  • アフリカ展開プロデューサー人材の育成

さらに、ナイジェリア、エチオピア、タンザニア、エジプト、ルワンダ、南アなど、人口や経済規模の大きい国々や、アフリカ地域の経済圏や世界広域の多国間との間でデジタル貿易や電子商取引に関連する協定を締結する準備を進めるよう提言している。

各国市場を知ることも重要

アフリカには54カ国もあり、それぞれの特色が異なる。例えば、イスラム圏では宗教的な背景から、マンガや映画を検閲する国もある。また、正規の方法ではなく違法ダウンロードでの視聴が多い国もある。一方で、前述のUAEのスプラトゥーンのように、正規に契約して広域で展開する例もある。映画館ではUAE本社のVOX Cinemasが中東・北アフリカでアラビア語などの字幕付きで配信している。これらのように広域展開する企業と組む方法も有用だ。なお、日本のヤマハがアフリカ広域で展開する音楽関連スタートアップと組む動きもある。

ナイジェリアではアフロビーツといった独自の音楽があるほか、現地の「ノリウッド映画」にも注目が集まる。アニメでは、2024年に英国とナイジェリアに拠点を持つアニメスタジオのクガリ・メディア(Kugali Media)がアフリカ初のオリジナル長編アニメシリーズ「イワジュ」を発表した。これはウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオと共同制作した作品であり、国際的に高い評価を得た。

さらに、コートジボワールのStudio KÄ(スタジオ カー)はアフリカと日本の文化を融合したアニメ映画を制作するほか、他の企業でもアフリカの文化に根ざしたコンテンツの制作に取り組む動きもある。現地政府などが産業創出の観点から、現地での制作や人材育成を支援するケースもある。民間企業でも、2023年アフリカ映画アカデミー賞で最優秀アニメーション賞を受賞したガーナのアニマックスFYBスタジオズ(AnimaxFYB Studios)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどがアニメーター育成を行っている。また、ガーナのゲーム開発スタジオ「Leti Arts」も若手クリエイターを育成しているという。

アフリカの主要国の市場や現地事情などの情報収集には、ジェトロの「アフリカ」ページも参照。本特集でも、アフリカ主要国のポップカルチャーの現状を紹介する。

また、前述のTICAD9では、各国市場に関するイベントが多数開催されるほか、アフリカでのポップカルチャーに関するステージイベントも開催される。現地事情を知る貴重な機会となる。


注:
中東7カ国は、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エジプト、サウジアラビア、チュニジア、トルコ、ヨルダンでの2024年度調査。欧州5カ国は、イタリア、英国、ドイツ、ハンガリー、フランスでの2024年度調査。ASEANは2023年度調査。アフリカ3カ国はケニア、コートジボワール、南アフリカ共和国(南ア)での2022年度調査。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。