アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探る世界に挑むアフリカ発アニメとアフリカの日本アニメ人気とは
日・アフリカのクリエーティブ産業の可能性

2025年7月29日

アフリカは急速な人口増加の真っただ中にあり、2050年には世界人口の4分の1をアフリカ人が占めるようになるといわれる。アフリカ大陸の人口の年齢中央値は約19歳と若い。中長期的に市場を見据えた際、アフリカの若年層へのアプローチ方法を模索することは、ビジネス上の課題になるだろう。ナイジェリアは人口が約2億3,000万人の人口大国だ。ナイジェリアの人口は2055年までに4億人を超え、米国に次ぐ世界第5位になるとみられている。特に同国は、アフロビーツやノリウッド(注1)など、音楽や映画製作で独自のアイデンティティーを持ち、クリエーティブ産業やエンターテインメント産業の伸長が著しい。同時に、若年層を中心にアニメやマンガを愛する「オタク」たちも増加傾向にある(2024年10月23日付ビジネス短信参照)。

クガリ・メディア(Kugali Media)は、英国やナイジェリアに拠点を構えるアニメーションスタジオだ。2024年にウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ(以下、ディズニー)とともに、オリジナル長編アニメシリーズ「イワジュ」を発表し、アフリカ文化とSFを融合させたストーリーが国際的評価を獲得したことで知られている。ジェトロは、同社で代表取締役社長兼出版部門責任者を務めるトルワラキン・オロウォフォイェク氏に、ナイジェリアでの日本アニメ人気や、日本とアフリカによる共同制作の可能性について話を聞いた(取材日:2025年6月3日)。


同社創業者ら(左からオロウォフォイェク氏、アデオラ氏、イブラヒム氏)(同社提供)

原点は幼少期、質の高いアフリカ発作品の少なさに疑問

質問:
クガリ・メディアの設立のきっかけや、米ディズニー社と共同制作に至った経緯は。
答え:
私は幼少期から米国や日本のアニメコンテンツに親しんできた。例えば、「ドラゴンボール」や「ポケモン」「NARUTO-ナルト-」「スパイダーマン」などだ。「日本や米国と同等のクオリティーのコンテンツを制作できる人はアフリカにいるのか」「誰もやっていないのであれば、それはなぜか」という疑問を持ち始めた。クガリ・メディアの設立は2015年にさかのぼる。まずは、私と現在の最高クリエーティブ責任者(CCO)のオルフィカヨ・アデオラ氏の2人でポッドキャストを始め、アフリカ各地のクリエーターと対談し、アフリカの良質で視覚的な物語作品を世界に発見してもらおうと考えていた。2017年にプロデュース業へ軸足を移し、アフリカ各地のクリエーターと協力してコミックを制作し、流通を支援するようになった。既にアフリカのクリエーターとの関係を築いていたため、事業開始時点で汎(はん)アフリカ的な展開が可能だった。
ディズニーとの協業に至ったのは、BBCによるインタビュー記事がディズニーの目にとまったことがきっかけだ。クラウドファンディングを用いて、アフリカ出身の若手アーティストがコミックを通じてアフリカの物語を語るというコンセプトの作品を制作した。インタビューの中で、共同設立者のハミド・イブラヒム氏が「アフリカでディズニーを打倒する」と述べた。アフリカでは、バーナ・ボーイやウィズキッドのようなアフリカ出身のミュージシャンの人気が外国人ミュージシャンに勝っている。イブラヒム氏は、たとえディズニーが世界最大のアニメーションスタジオであっても、ここ現地ではディズニーをしのぐことができるはずだと信じていた。このコメントが記事に掲載されるとは思っていなかったが、予想とは裏腹にBBCが見出しにした。記事を見たディズニー関係者から連絡がきたのが始まりだった。私たちの使命はアフリカの優れた物語をグローバルに紹介することで、ディズニーとの協業でさらに高みを目指せると感じたため、協業に至った。
質問:
現在はどのように収益を上げているのか。
答え:
マネタイズには主に出版、クリエーティブサービス、IP(知的財産)開発の3つの事業がある。出版事業では、ディズニー・パブリッシング・ワールドワイド社と共同で、「クガリ・インク」という児童書の出版ブランドを立ち上げた。これらの児童書は北米で販売を開始するが、アジアや欧州での出版も考えている。
クリエーティブサービス事業では、絵コンテやビジュアル開発など、IP制作に人手を必要とする顧客にサービスを提供する。
IP開発事業では、ストーリーや世界観の構築、ビジュアル開発、絵コンテ、キャラクターデザインなどを共同で行う。ディズニー社との共同作品「イワジュ」はその好例で、IP、ストーリー、世界観の構築などあらゆる面で、ディズニーといちから共同開発を行った。可能性としては、日本企業と協力して日本とアフリカのユーザーに親しみやすいIPを共同構築することも考えられる。日本のゲームソフトでも、舞台は米国や架空の欧州という設定の作品もある。日本のスタジオがアフリカを舞台にした物語を作るとしたら、世界観やキャラクター、衣装デザインにはアフリカのアーティストが必要になるだろう。その際、私たちはサポートすることができる。

同社がIPを保有する作品の数々(同社提供)

日本アニメはストーリーとビジュアルの独創性に魅力

質問:
ナイジェリアの若者はアニメにどの程度関心があると感じるか。
答え:
日本アニメの持つ美的感覚はナイジェリア人にも人気だといえる。アニメを見る人以上に、アニメは見ないがグッズを買うという人が多い。小学生のころ、「ゲームボーイ」を友人が持っており「ポケモン」を楽しんでいたし、私の友人のなかには「ドラゴンボール」が描かれたかばんを持っていた人もみかけた。先日会った友人は「ドラゴンボール」のキャラクターが描かれたシャツを着ていたが、友人はシャツの見た目が気に入ったから買ったと言っていた。最近はネットフリックスがアニメを実写化することも増えているので、実写版を見て原作のアニメを知る人もいる。人気の高い作品としては「NARUTO-ナルト-」や「ONE PIECE」「BLEACH」など、世代を超えて楽しまれている作品のほか、「僕のヒーローアカデミア」や「チェンソーマン」「鬼滅の刃」も親しまれていると感じる。また、ラゴス・コミック・コンベンション(注2)には、アニメキャラクターのコスプレをした若い人たちの姿も目立っている。
質問:
日本アニメの人気がナイジェリアで広がる理由をどのように考えるか。
答え:
ストーリー性とビジュアルが独特だ。子どもの時に初めて見たアニメは「るろうに剣心」だった。英語吹き替え版を見ていたこともあり、当時は日本のアニメだという認識はなかったが、米国のカートゥーンとの違いを感じていた。キャラクターや背景描写、ビジュアルセンスの違いが影響していると思う。

課題あるも、ディアスポラとともに広がるクリエーティブ産業

質問:
ナイジェリアのクリエーティブ産業の課題をどう捉えるか。
答え:
市場が若いということは、流通経路や適切な収益のための構造化が実現していないということでもある。十分な統計情報もない。しかし、そこに大きなチャンスがあり、最初に配信やデータ収集の課題を解決した人が成功を収めると考えている。ナイジェリア人の視聴者数は過小評価されているが、実際には膨大な視聴者がいると思う。アフロビーツ(注3)を例にとると、ナイジェリアは本国の人口が多いだけでなく、ディアスポラと呼ばれる在外ナイジェリア人も多い。ナイジェリアで制作されたエンターテインメントコンテンツはディアスポラの多い国々でも人気だ。ナイジェリア人以外がコンテンツを楽しむ前に、ディアスポラが家族や友人らに紹介し始めるのだ。
加えて、ナイジェリアでは海賊版が大きな課題となっているが、海賊版は必ずしもアニメを安く見たいという動機ではなく、「見たいものがどこで見られるか分からない、手に入りづらい」といったことに起因するもので、決してお金の問題ではない。ナイジェリアでは「クランチーロール」(注4)の月額利用料は1,000ナイラ(約97円、1ナイラ=約0.097円)だ。ナイジェリアの若者がプラットフォームを安価に使えることが認知されれば、海賊版を使う人はいなくなるはずだ。
質問:
日本とナイジェリアはクリエーティブ産業でどのような協業が期待できるか。
答え:
世界的な配給や配信が可能なアニメーションを、日本とナイジェリアのスタジオで共同制作することが理想だ。日本はアニメやゲーム制作の歴史が長い。アフリカの共同制作者が日本に渡航し、日本のチームから学べるようなプログラムがあるとよいのではないか。共同制作に当たって知識や経験に大きな隔たりがあると、支障を来す場合もあるからだ。
アフリカの作品をグローバル市場に引き上げるには、クオリティーの担保が欠かせない。「イワジュ」がアフリカで作られたどの映画よりも大きな影響力を持ったのは、アニメーションの質や予算、実行力などの全てがノリウッドで通常制作される作品をはるかに上回っていたからだ。世界の視聴者に届けるためには、世界標準のクオリティーで作品を発信しなければならない。日本の支援を受けることができれば、アフリカの優れたアーティストや、ストーリーのレベルアップに大きな効果があると思う。
ナイジェリア人の最大の強みは「粘り強さ」だと思う。ナイジェリア人は困難に立ち向かい、創造性で打ち勝つ力を持っている。また、エンタメの才能も備えている。音楽、映画では既に強みが世界に認められていることがその証拠だ。独特の自己主張の強さも、創造力の源としてポジティブに働くと考えている。アフリカのアーティストの作品と世界の他のアーティストの作品を比べると、個々のアーティストの力は同等だ。つまり、作品のクオリティーはアーティストの制作力そのものではなく、照明技術や編集、カラー補正など細部に魂を宿す過程にある。私はディズニーと働く機会に恵まれ、照明やレイアウトデザイン、カラー補正など、一般的なアフリカのスタジオでは一度も見たことのないような技術を学ぶことができた。単に規模を拡大するだけでなく、双方が恩恵を受ける協業連携を行うことで、誰もが欲しいと思う製品を生むことができるだろう。

注1:
ナイジェリアの映画産業や、ナイジェリアで製作された映画を指す。「ハリウッド」と、ナイジェリアの頭文字「N」を組み合わせた造語。
注2:
主催者発表では、2024年の「ラゴス・コミックコンベンション」の来場者は7,000人を超えた(2024年10月23日付ビジネス短信参照)。
注3:
ナイジェリア発の音楽ジャンル。複雑なリズムと長尺の構成に特徴を持つスタイル。
注4:
ソニーグループが所有している世界最大級の月額制アニメ配信サービス。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
柴田 北斗(しばた ほくと)
2019年、ジェトロ入構。ビジネス展開・人材支援部、アクラ事務所を経て、2023年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
フォラシャデ・オデボデ
2017年、ジェトロ入構。イバダン大学を卒業後、複数の民間企業での勤務を経て、2017年4月から現職。