アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探るアフリカゲーム市場が拡大
パラダイスゲームに聞くeスポーツ事情(1)

2025年8月7日

アフリカでは、モバイルゲームを軸に、ゲーム市場が急拡大している。ニューズー(Newzoo)とキャリーファースト(Carry1st)(注1)が2025年2月に発表した調査レポートによると、アフリカの2024年のゲーム市場は約18億ドルに達し、前年比12.4%増と、世界平均2.1%を大きく上回る成長を記録した。これは、ゲーム市場の約9割を占めるモバイルゲームの急成長によるところが大きく、2024年に新たに3,200万人のゲーマーが加わったと推定される。その結果、アフリカのゲーマー数は同年に推定3億4,900万人に達した。

この背景には、世界最大級の若年人口と、スマートフォンの浸透、インターネットの普及がある。特に人口の7割が30歳未満と、世界で最も若い人口を抱えるアフリカは、2050年までに若年層が50%増加すると予測されている。世界大手のパブリッシャー(ゲームの販売を行う会社)がアフリカ市場に注目し、現地のスタートアップや開発者とのパートナーシップを強化しており、アフリカのゲームコンテンツが国際的な舞台で評価される機会が徐々に増えている。

パラダイスゲーム〔PARADISE GAME(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕は、コートジボワールでゲームセンターをはじめ、アミューズメント事業を展開する企業だ。アフリカで人気が近年高まるeスポーツでも、早くからイベントを開催するなど、バラエティーに富んだサービスを積極的に提案し、新しい娯楽や教育の場をつくる取り組みにも注力している。3D対戦格闘ゲームの最高峰「鉄拳(TEKKEN)」のワールドツアートーナメントの公式大会がアフリカ大陸で初めて、コートジボワールで開催された。パラダイスゲーム創業者兼最高経営責任者(CEO)のシィディック・バカヨコ(Sidick Bakayoko)氏に、同国のゲームやeスポーツ市場の成長可能性を聞いた(2025年6月17日、6月27日)。


パラダイスゲームCEOのバカヨコ氏(同社提供)
質問:
経歴と事業立ち上げの経緯は。
答え:
米国のニューヨーク工科大学(NYIT)で電子情報工学を学んだ後、先端テクノロジーとイノベーションを推進する米国スタートアップで2年間働いた。2009年にコートジボワールに帰国し、インターネット・サービス・プロバイダーで、プロジェクトマネジャー、マーケティング・営業部長として実務経験を積んだ後、2017年にパラダイスゲームを創業した。コートジボワールでは当時、レジャー・娯楽サービスが限られていたことから、より多くの人々に「楽しみと感動」を届けていきたいと考え、アミューズメント事業を立ち上げた。若年人口とスマホユーザーも増加しているアフリカは、注目されるべき次世代のデジタル娯楽市場で、市場の成長性を見据えたビジネス機会を強く認識した。需要があるにもかかわらず、ゲーム、eスポーツ業界で過小評価されているアフリカの実情をみて、自らその潜在性やニーズに応えたいと考えた。特に人気が近年高まるeスポーツの普及とともに、人材の育成や、教育格差の是正、雇用の創出など、アフリカの社会課題解決に貢献していきたい。
質問:
会社とサービスの概要は。
答え:
パラダイスゲームは、国内最大都市アビジャンで最多の人口を抱えるヨプゴン・コミューンを拠点に、アミューズメント事業を展開している。ゲームを中心に遊具など娯楽の空間を融合させた物理的な施設だけでなく、eスポーツ、教育・トレーニング、デジタルコンテンツ、戦略設計コンサル、イベント企画、金融包摂、地域創造を組み合わせたエコシステムを形成し、連携して各種サービスを提供している。施設としては、ヨプゴンにあるコスモスショッピングモール内の1,200平方メートルのスペースに、西アフリカ最大規模のゲームセンターを開設した。当社は、テクノロジーとアイデアのラボラトリー、才能の触媒であると同時に、文化・伝統を継承していくことを企業理念としている。アフリカでより多くの人々に「遊び、学び、スキル」を磨く空間を提供し、若者に夢ある未来をつないでいくとともに、地域活性化に貢献することを使命として活動している。主なサービスはゲームセンター運営のほか、eスポーツトーナメントとフェスティバルの開催、教育プログラムの実施、マルチメディアコンテンツの制作、決済ソリューションの提供などだ。数十種類のゲーム(コンソール、PC、バーチャルリアリティー)を備えた没入型スペースを提供するアミューズメント施設では、FEJA(アフリカ電子ゲームフェスティバル)のような、アフリカ地域レベルの賞金付き競技会を開催している。ここでは、コーディングやストリーミング、クリエーションを学ぶためのワークショップも開催しており、100人以上が参加できるインタラクティブなセッションを実施している。また、パラダイスゲームショーのようなテレビ番組、ウェブコンテンツ、ストリーミングを制作・配信し、アフリカのクリエーター、プレーヤー、カルチャーの価値向上やブランディングに取り組んでいる。このほか、銀行口座を持たない人でも利用できる決済ソリューションとして、UBA (UNITED BANK FOR AFRICA) /Visaが発行するプリペイドカードを使って、デジタルサービスへの接続を容易にし、金融包摂を促進している。

eスポーツイベントを実況中継(同社提供)

eスポーツイベントを楽しむ観戦者(同社提供)
質問:
コートジボワールのeスポーツとゲーム市場は。
答え:
現在、コートジボワールは、西アフリカのeスポーツ市場で重要な地位を占めている。当地で2017年から開催しているFEJAは、フランス語圏アフリカ地域で最大規模のeスポーツイベントとして認識されており、ナイジェリア、ガーナ、セネガル、カメルーンなどから何千人もの訪問者やプレーヤーが集まる。また、2024年には、アフリカ地域初の「鉄拳」ワールド・ツアー・トーナメントの予選イベントとして、パラダイスゲームバトルを開催した。アフリカ域内外から多くのプレーヤーが参加し、盛況を博した。2025年10月に第2回大会の開催を予定している。2025年6月には、「鉄拳」をプロデュースしているバンダイナムコスタジオの原田勝弘エグゼクティブゲームディレクター兼チーフプロデューサーが、アビジャンで開催されたコンテンツ国際会議「SICA」に特別ゲストとして参加した(2025年7月9日付ビジネス短信参照)。原田氏の訪問は、コートジボワールのeスポーツを国際舞台へ押し上げる一歩として大きな意味を持ち、さらにモチベーションを高める機会となった。また、パラダイスゲームを視察に訪れてくれたことは大きな励みとなった。原田氏によると、アフリカ各国の「鉄拳 (TEKKEN)」月間アクティブユーザー(MAU)の比較では、コートジボワールは南アフリカ共和国に次ぐ第2位で、潜在市場の強さを表しているという。実際、コートジボワールには世界各地で活躍する強豪プレーヤーがおり、eスポーツは当地でも人気が高い。ファンもどんどん増えており、活動も活発化している。一方、当地のゲーム産業はまだ歴史が浅く、専門的な経験を持つ人材が少ないことや、インフラ整備の遅れ、資金アクセスの困難という問題もある。アフリカのゲーム市場はいまだ小規模だが、成長の余地が大きく、今後、最も発展が期待できる成長市場の1つと確信している。パラダイスゲームは、イノベーション、教育、競技、インスピレーションの拠点として、ゲーム産業の持続的な成長に貢献していきたい。

SICAのeスポーツ特別セッションで、パラダイスゲームの
バカヨコ氏(左)、アマドゥ・クリバリ通信相(中央)と
ポーズを決める原田氏(右)(同社提供)

コートジボワールの世界的格闘ゲーム
プレーヤー、スカイウォーカー氏
(同社提供)
質問:
ビジネスプランと将来の展望。
答え:
当社のアプローチは、西アフリカでの地位を確立し、アフリカ全域に事業を拡大することだ。短・中期的な優先事項として、アフリカの大都市にアミューズメントセンターのネットワーク拡大を目指しており、全ての首都にパラダイスゲームを展開していく計画だ。これと並行して、eスポーツの地域ハブとしての基盤を築いていくため、大規模な国際レベルの競技会を継続して開催していく予定だ。また、eスポーツ部門の取引やゲーム開発能力の拡大に向けた取り組みを強化していく。人材育成にも注力しており、より高度なトレーニングプログラムの実施、認定資格制度の導入、学術的パートナーシップの促進を通じて、教育テック(edtech)を推進していく。また、アフリカの文化や伝統を織り込んだ100%アフリカ製のコンテンツ(ゲーム、アニメーション、ウェブシリーズ)開発を計画しており、戦略的にアプローチしていく構えだ。パラダイスゲームは、企業価値に基づいた強力なブランド構築を目指して、テクノロジー、戦略的パートナーシップの強化とともに、アフリカの若者の能力開発に取り組んでいく。単なるビジネスプロジェクトの枠を超え、eスポーツ振興を通じて、地域の社会課題解決にも貢献したいと考えており、そのための手段として、「表現と教育の場の提供」「地域の創造性と文化的誇りの向上」「質の高い雇用と新しいキャリアの創出」「創造的で強い未来志向のアフリカの発展」にコミットしている。
質問:
なぜアフリカでeスポーツやゲーム事業を行うのか。
答え:
アフリカは観客ではなく、アクターであるべきだと考える。今日、eスポーツやゲームは単なる娯楽や趣味ではなく、イノベーション、教育、価値創造、雇用、起業の原動力だ。また、普遍的な言語として、学び、連携、チャレンジ、未来を見据えるツールともなっている。アフリカのゲーム市場は10数億ドルの規模で、依然として存在感が薄いが、世界最大級の若年人口と、高いスマートフォン浸透率を背景に、これから注目されるべき市場だ。中でも、スマホさえあれば無料でプレーができ、アプリ内で段階的に課金していくモバイルゲームは、限られた可処分所得しかない若年層が多いアフリカ市場と親和性が高く、実際、若年層需要を取り込み急速に拡大している。アフリカでは、若年中間所得層の拡大とともに、アプリ内課金の支出も増加傾向にあるという。近年、グローバルなブランドがゲーム市場に強い関心を寄せ、ゲーミフィケーション(注2)を取り入れることで、ブランドイメージの強化を図るなど、ゲームビジネスもますます多様化している。eスポーツは、アフリカの才能が国際的に輝く舞台だと確信している。

注1:
Newzoo:ゲーム市場の世界的な市場調査会社。
Carry1st:アフリカの大手モバイルゲームパブリッシャー。
注2:
ゲームの仕組みや要素を用いて利用者のモチベーションを高めること。
執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。