アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探るゲーム産業の可能性を現地発スタジオに聞く(ガーナ)

2025年7月28日

アフリカでのゲーム市場と産業は急速に成長している。アフリカのデジタルコンテンツ提供企業Carry1stとゲーム・モバイル市場調査を専門とするNewzooによる報告書によると、アフリカのゲーム市場は2024年に前年比12.4%増の18億ドルとなり、その成長率では全世界(前年比2.1%増)の約6倍と大きく上回っている。アフリカの人口は約15億人で、その60%以上が25歳未満の若年層であり、急速に拡大するスマートフォンの普及とインターネット接続によってより簡単にゲームにアクセスすることが可能となった。2024年だけでも約3,200万人の新規ゲームプレイヤーが誕生したと推定されている。

ジェトロは、ガーナ発のゲームスタジオであるレティ・アーツ(Leti Arts)のオペレーション兼ビジネス開発マネージャーのプリンス・トゥマシ・オセイ氏にインタビューを行った(取材日:2025年4月21日)。

質問:
レティ・アーツの概要は。
答え:
レティ・アーツは、ガーナ出身の最高経営責任者(CEO)エイラム・タウィア(Eyram Tawia)氏と、ケニア出身の最高技術責任者(CTO)ウェズリー・キリニャ(Wesley Kirinya)氏が2013年、創業。従業員25人のゲーム開発スタジオだ。アフリカのデジタルエンターテイメント分野のパイオニアとして、アフリカの伝統に根ざした、文化的で高品質なゲームの開発に注力している。アフリカの伝統、英雄、神話を題材にしたストーリー重視のゲームを制作し、ゲーム、コミック、仮想現実(VR: virtual reality)体験といったコンテンツを発信している。
これまでに発表したモバイルゲームには、「Africa’s Legends: Reawakening」「Sweave」「Puzzle Scout」「Karmzah: Blitz Racers」などがある。HTML5ゲーム(注1)としては、「Sojaman」「Connectricity」「Ringworm Attack」「Akonta」など。また現在、「Karmzah: the Awakening」を開発中だ〔パソコン(PC)とXbox向けに制作するゲームとして、当社初〕。発表済みのゲームすべてでダウンロード数が90万件超。月間リアルタイムプレイヤー数は、10万人を超えている。
また、他社と共同でゲームを共同制作・開発したり、外部クライアントにコンサルティングしたりすることもある。そうした相手は、Microsoft、MTN、Vodafone、UNDP、WFP、Riot Games、8D Gamesなど、60社以上に上る。さらに、非営利団体のAlliance Francaise Accra外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますと提携し、「Leti Alpha Center」というゲームスタジオをオープンした。ここでは、モバイル、PC、ゲーム機、VRなど、あらゆるジャンルのゲームをプレー・体験できる。
製品を開発するだけではない。人材育成にも投資している。インターンシッププログラムでは、アフリカ全土からの1,000人以上の若手クリエイターを育成。持続可能なゲームエコシステムの基盤を築いてきた。

創業者のキリニャ氏(左)とタウィア氏(レティ・アーツ提供)

ゲームタイトルの例(レティ・アーツ提供)

ゲームスタジオ(Leti Alpha Center)(ジェトロ撮影)
質問:
ガーナのゲーム産業の現状は。
答え:
ゲーム業界で働く多くのガーナ人は、この業界で明確なキャリアパスを見いだすことができていなかった。しかし、状況が変わり、若者はデジタルメディア、コーディング、ゲームデザインを、趣味とキャリアの両面で実現することが可能になった。スマートフォンとインターネットの普及により、デジタルネーティブの若者が増加。ゲーム、インフルエンサー、eスポーツに積極的に関わるようになっている。
アフリカ大陸には、モバイルユーザーが5億人以上いる。その中で、モバイルゲームが業界を席巻している。Android製品を手頃な価格で入手可能なことも、モバイルゲーム普及に貢献している。PCゲームは、都市部やサイバーカフェで人気がある。一方、コンソールゲーム(ゲーム機)には、コストとデバイス調達の壁がある。そのため、依然としてニッチな市場だ。
ジャンル別には、エンドレスランナーゲーム(注2)とパズルゲームが最もアクセスしやすい。物語ベースのRPGは、特に若年層や女性ゲーマーの間で人気が高まっている。また、地域スポーツや都市文化をテーマにしたゲームも、アフリカ独自のジャンルとして台頭している。
エンターテインメント分野との相乗効果も期待できる。確固たる地位を築いた音楽、映画、ファッション業界は、ゲームによるトランスメディア・クロスオーバー(注3)の可能性を秘めている。つまり、ノリウッド(ナイジェリアの映画産業)、アフロビート(西アフリカのポピュラー音楽ジャンル)といった文化現象が、現在、デジタルストーリーテリングに影響を与えている。これら業界が成長し、世界中の視聴者にリーチするにつれて、ゲーム業界も共同プロジェクトを通じて共に成長していくことになる。
質問:
ガーナのゲーム業界が直面している課題は。
答え:
資金調達が、依然として大きな課題になっている。多くのスタジオは外部から資金をほとんど調達できない。個人資産、補助金、あるいはボランティアに頼って運営しているのが実情だ。
インフラの問題もある。例えば、電力供給が不安定なこと、インターネット料金が高いこと、高性能デバイスがガーナで入手困難なこと、など。
アフリカならではの課題も。市場が細分化していて、54カ国にまたがって言語・通貨・規制枠組みが多様だ。また、当地ゲーム産業には可能性があふれる一方で、依然として世界的な露出が少ない。その結果、過小評価や誤った情報が多い。 人材の流出も続く。多くの優秀な開発者が、アフリカ国外に活躍の場を求めている。
質問:
今後の成長戦略は。
答え:
当社は、モバイルゲームやウェブコミックから、アニメーション、VR、グッズまで、あらゆるプラットフォームを扱う。それらプラットフォームで展開できる没入型のゲーム世界を開発するのが目標だ。
とりわけ、モバイルゲームは私たちの戦略の中核。モバイルデバイス向けに最適化されたゲームに注力するとともに、リワード広告(注4)、マイクロトランザクション(注5)、ローカライズされたプレミアム価格設定といった収益モデルを模索している。
通信事業者との提携も視野に入れている。サブスクリプションバンドル(注6)、モバイルマネーベースの販売を提供することで、アクセスと収益予測の可能性を向上していきたい。
また、レティ・アーツのゲームキャラクターをグローバルブランドにライセンス供与し、グローバルなIP(Intellectual Property/知的財産)パートナーシップの推進を目指している。ナイジェリアやケニアなどのゲームスタジオと提携して、分散型でありながら統合された開発エコシステムを成長させ、アフリカ市場の断片化された性質によって生じる問題を解決するとともに、アフリカ大陸を横断する共通のインフラの構築を推進することで、地域スタジオの拡大を目指す。
質問:
日本企業とは、どのような協業機会を構想しているか。
答え:
日本のゲーム産業は、物語の深み、アニメーションの芸術性、そして世界クラスの開発インフラの上に伝統を築いてきた。アフリカと日本のストーリーとビジュアルを融合させ、文化的な正統性を保ちつつ世界中のプレイヤーに響くゲームの共同開発を目指していきたい。レティ・アーツにとって、これは自然な流れだ。
また、ゲーム機器、モバイル、パソコン、IPなど、現地の出版チャンネル向けにコンテンツを翻訳・適応させることで、日本のゲームをアフリカ市場に投入することも可能になる。
さらに、ガーナと日本のゲームの共同開発は、アフリカのゲーム開発者を支援すると同時に、日本のゲーム開発者に新しいストーリーの枠組みや市場の可能性を認知してもらう機会にもなる。

注1:
HTML5ゲームはダウンロードや会員登録などが不要で、ブラウザでプレーできる。
注2:
エンドレスランナーゲームでは、制限時間内に障害物を避けながら、スタート地点からゴールを目指す。
注3:
ここでの「トランスメディア・クロスオーバー」とは、異なる複数メディアをあわせて横断展開することにより、作品が発展し産業が拡大していくことを指す。
注4:
リワード広告とは、ユーザーが特定の行動をとることで報酬を得られる広告のこと。
注5:
マイクロトランザクションとは、モバイルゲーム内の少額課金のこと。
注6:
サブスクリプションバンドルとは、複数のサブスクリプションのサービスをまとめて提供する形式を指す。
執筆者紹介
ジェトロ・アクラ事務所長
中川 翼(なかがわ つばさ)
2016年、ジェトロ入構。農林水産・食品部、ジェトロ青森、ジェトロ・ナイロビ事務所を経て2024年9月から現職。