ケニアの若年層に広がる日本のサブカルチャー人気
オタ祭り主催者に聞く

2024年2月28日

地理的にも文化的にも日本から遠く離れたアフリカだが、若年層を中心にアニメやマンガなど日本のサブカルチャーが広がりつつある。東アフリカ最大級の日本のアニメ・マンガなどサブカルチャーのファンが集うイベント「オタ祭り」を主催するジョナサン・ミカー氏、ブライアン・キサ氏、ハルト・ムハト氏に、オタ祭りとケニアでの日本のサブカルチャー人気について聞いた(取材日:2023年9月13日)。


日本のアニメ・マンガに熱狂するケニアの若者(主催者提供)
質問:
オタ祭りはどのようなイベントか。
答え:
2023年8月26日にナイロビ市内のケニア・インターナショナル・スクールで「オタ祭り2023」を開催した。5回目となる今回のイベントには1日で3,000人以上が集まった。
オタ祭りは日本のサブカルチャーのファンが一堂に会するイベントだ。オタ祭りの名前の由来は、アニメ、マンガ、音楽、映画、ゲームやグッズなどに夢中な「オタク」が集まる「祭り」を掛け合わせた。メインステージではコスプレのコンテストやアニメに関するクイズ、そのほか、会場内ではさまざまなグッズの販売ブースやメイドカフェ、日本食の販売、ゲームのトーナメントなどを実施した。コスプレのコンテストには35組が参加した。グッズの販売ブースでは自作や日本から輸入したグッズ類を販売し、19社が出展して合計で200万ケニア・シリング(約200万円、1ケニア・シリング=約1円)以上の売り上げがあった。
日本食のコーナーでは、「アニメの味(Taste of Anime)」と称して、ケニアで日本食レストランを展開するChiQとChekafeが出店し、たこ焼きやラーメン、から揚げなどを提供し、大変な人気ですぐに売り切れた。ゲームコーナーでは、FIFA(国際サッカー連盟)のトーナメントを日本のサッカーマンガ「ブルーロック」にかけ合わせて開催した。

グッズ販売でのケニアのファン(ジェトロ撮影)
質問:
なぜ、オタ祭りを始めたのか。
答え:
以前から「アニメカフェ」という小さな集まりを月1回程度開催していたが、手応えを感じるようになり、2019年にオタ祭りとして大規模にイベントを開催するに至った。2019年のイベントに集まったのは350人程度だったが、新型コロナウイルス感染拡大中も、オンライン開催でイベントを継続し、その後、対面開催に戻ってからは2021年には1,000人、2022年には1,500人と順調に規模を拡大した。会場の制約もあってチケットの販売数を絞ったが、今年(2023年)のオタ祭りには約3,000人が参加した。
質問:
ケニアのアニメ・マンガブームはいつから始まったのか。最近の傾向なのか。
答え:
いつからというのではなく、常に人気はあった。しかし、その人気は広く宣伝されてこなかった。問題は、ファンらがそれぞればらばらに孤立していたことだ。現在は、オタ祭りやアニメカフェのようなプラットフォームが存在することで、参加者が増え、ソーシャルメディアでもつながることで、互いに会ってファン活動がより活性化することができている。今は「私は一人ではない。ほかにも多くのファンがいるんだ」と、光に引きつけられて集まるかのように、ファンはどんどん増えている。
今では、21歳以上のファンは独立したイベントを求めるようになってきた。例えば、私は30代だが、「るろうに剣心」(英題Samurai X)」を見て育った。若い世代の間ではやっているアニメとは異なるため、アニメカフェもアルコールを出したり、家族連れで来られるような雰囲気を作ったり、少し大人向けの場を作るように工夫している。
質問:
ケニアのファンは日本のポップカルチャーの情報をどこで得ているのか。
答え:
われわれのような30代は主にテレビから日本のポップカルチャーの情報を得てきた。以前は、ケニアのテレビチャンネルSTVで日本のアニメを多く見ることができた。私はSTVで「るろうに剣心」のアニメを見ていた。ほかにも、「星銃士ビスマルク」(英題:Saber Riders)も放送されていた。
しかし、今はテレビではアニメは放送されておらず、インターネットが主流になり、ダウンロードして視聴するようになっている。ネットフリックスやクランチロール(ソニーグループが所有する米国のビデオ・オン・デマンドのストリーミングサービス)を除けば、合法的に視聴することはできないし、どちらの有料サイトでも人気のあるアニメは放映されていない。ファン同士が集まって、互いのハードドライブを交換するなどして見ているのが実情だ。
質問:
日本のアニメ・マンガのどこに引きつけられたのか。魅力は。
答え:
ソウル(魂)だ。日本のアニメはそれぞれのキャラクターが魅力にあふれ、愛着を持つことができる。マンガへの情熱が深く、キャラクターに魂がこもっている。日本のアニメ・マンガは欧米のものなどと比べ、文化とストーリーが異なると思う。欧米のものは政治的、社会的、性的、宗教的に多くのアジェンダを訴えてくるものが多い。一方、日本は「勇敢さ」「友情」「犠牲」のようなユニバーサルなテーマで強く訴えかけてくるものが多い。地理的にも文化的にも離れていても、理解でき、共感できるものゆえに、人気があるのではないか。また、ストーリーが非常に良く作りこまれていて、先の展開が予測不可能という点では、ほかに並ぶものはないだろう。
われわれ3人とも、残念ながらまだ日本に行ったことはないが、日本には文化があってうらやましく思っている。文化とはサムライや、食、歴史、田舎など。宮崎駿監督の映画はまるでわれわれが日本に住んでいるかのように感じる映画だと思う。
質問:
日本食など、日本のアニメを通じて関心を持ったものは。
答え:
なんといってもラーメンだ。日本食には関心が強い。ほかには着物や刀剣など。イベントで1本7000シリングのサムライの刀を売っていた業者は1時間で10本を完売した。1万5,000シリングで刀を販売していた業者もおり、それも売れていた。サムライの仮面やげたも売れると思うが、そこではよいものが見当たらなかった。
質問:
どのくらいのアニメファンがいるのか。世代間では好きなアニメ・マンガに違いはあるか。
答え:
ざっと見積もって、(ケニアの)人口5,000万人の6割くらいが若年層で、そのうち半数以上はアニメファンといっても過言ではないだろう。ケニアでも日本のアニメ・マンガのファン層の中ではZ世代が目立ってきている。われわれはこの世代を「TikTok世代」と呼んでいるが、ソーシャルメディアが深く根付いていて、ほかの人がどんなものを見ているのかなどトレンドをよくつかんでいる。
一方、ミレニアル世代は経済的に重要な層で、まさにマンガを買って読んでいる世代であり、数も多い。世代ごとで微妙に人気の違いはあると思うが、全体的にケニアで人気が高いのは「ONE PIECE」「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「進撃の巨人」だろう。「僕のヒーローアカデミア」や「BLEACH」も人気がある。
質問:
日本との関係で期待することは。
答え:
オタ祭りで、グッズのコーナーなど、もっと品質の高いものを輸入販売できるようにしたい。以前、オンラインで販売されていた日本のマンガは1冊が9,000シリングだった。品質が高いものは高価でもよく売れる。また、「呪術廻戦」や「進撃の巨人」のフィギュアも販売したい。日本のアイドルにも強い関心がある。K-POPは人気があるが、日本のJ-POPも人気がある。
残念ながら、現状ではアニメを違法ダウンロードしている人がいる一方で、ネットフリックスやショーマックス、DsTV、クランチロールなどの有料チャンネルをきちんと視聴している人もいる。どちらかというと、自分の情熱を満たすためであれば、合法的に視聴料金を支払ってでも手に入れたいという消費者が多いと思う。われわれもこうしたビジネスを非公式にではなく、合法的に行っていきたい。そのために日本企業とも公式な関係を結びたいという意向を持っている。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所長
佐藤 丈治(さとう じょうじ)
2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ロンドン事務所、展示事業部、調査部中東アフリカ課を経て、2023年5月から現職。