アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探るアフリカゲーム市場の課題
パラダイスゲームに聞くeスポーツ事情(2)

2025年8月15日

コートジボワールでゲームセンターをはじめアミューズメント事業を展開する、パラダイスゲーム (PARADISE GAME)創業者のシィディック・バカヨコ氏のインタビュー前半では、同社の概要と、eスポーツとゲーム市場の現状と展望を踏まえた取り組みを紹介した。後半となる本稿では、業界の課題と、ゲームを軸にした日本企業との連携の可能性について聞いた。

質問:
ビジネスモデルは。
答え:
当社のビジネスモデルは、影響力と収益性のバランスに基づいている。当社はスタートアップだが、エンターテインメント、教育、イノベーション、金融包摂を組み合わせたエコシステム形成を事業戦略としている。パラダイスゲームは、西アフリカにおけるeスポーツとビデオゲームのパイオニアだ。当社が運営するゲームセンターの利用者数は毎月2万人を超え、デジタルコミュニティには15万人以上が参加しているほか、当社のコンテンツはソーシャルメディアやテレビで数十万人の視聴者に配信されている。売上高は継続的に伸びており、収益の多様化が進んでいる。主な収入源は、「ゲームセンター(BtoC)」でのプレー料金や、飲食、イベント、グッズ販売、パーティーなどの付帯サービスをはじめ、「イベントとeスポーツ(B2B & B2C)」でのトーナメント、フェスティバル、競技会の開催によるスポンサーシップやチケット販売、商品販売などがある。また、パラダイスゲームショーのような番組やYouTube/Twitchでのストリーミング、オリジナルフォーマットの制作により視聴者を収益化し、スポンサーシップを通じてアフリカの才能やブランドの価値創造・向上を図っている。このほか、コーディング、ゲーム制作、ソフトスキルを学ぶための教育プログラムを学校、NGO、パートナー機関と共同で展開しており、協賛金、受講料の収入がある。「金融サービス」として、UBA(United Bank for Africa)のプリペイドカードを発行してゲーム関連取引の決済を容易にするだけでなく、銀行口座を持たない人々をデジタル経済に接続し、金融リテラシー教育を推進している。これらそれぞれが持つレバレッジ効果でビジネスを加速するポテンシャルが高まっており、当地ではゲームビジネスの本格的な波が到来しつつある。他方、数字以上に当社が目指す真の価値は、アフリカにおける経験の創造、スキルの発展、才能の開発を通じて、アフリカがゲーム産業の発展に貢献するという、パーパス重視の事業運営により企業を持続的な成長に導いていくことだ。

パラダイスバトルの入賞者(同社提供)

G4C(ゲームを通じて社会課題解決に挑む米国の非営利組織)と学生向けゲームデザインのトレーニングプログラムを実施(同社提供)

ビジネススキルトレーニングの様子(同社提供)

ワークショップの様子(同社提供)

第6回FEJA(アフリカ電子ゲームフェスティバル)を開催(同社提供)

児童向けスポーツイベント(同社提供)
質問:
従業員数とスキル。
答え:
パラダイスゲームは、若く情熱的で献身的な約30人(正社員)のチームで運営している。当社で勤務する従業員は、全てが理想的なスキルを身に付けているわけではないが、エネルギー、学習・活動意欲、改革の意志を持っており、継続的なトレーニング、メンターシップ、専門家との交流などを実施して、能力開発、人材育成に努めている。目標は、アフリカのゲーム界の未来のエリートを育成することだ。

パラダイスゲームのスタッフ(同社提供)
質問:
使用している技術やアプリケーションは。
答え:
技術は、パラダイスゲームの活動の中心だ。顧客がゲーム機にアクセスするためのチケットやブレスレット(注)は全て、データプラットフォームで一元的に管理されている。
OdooのERP(Enterprise Resource Planning/企業資源計画)システムを導入してキャッシュ、在庫、販売、顧客、飲食、プロジェクトなどのデータを管理している。これにより、リアルタイムでの運営状況の追跡、パフォーマンスの管理、リソースの最適化が可能だ。また、ストリーミングやコンテンツプラットフォーム(YouTube、Twitch、RTI)などでコンテンツを制作・配信し、オーディエンスにアプローチしている。ビデオゲームでは、主にゲームコンソール(PS5、XBOX、Switch)やPC(パソコン)を使用している。
質問:
アフリカにおけるゲームとeスポーツの課題。
答え:
アフリカ市場の潜在性は大きいが、アフリカのエンターテインメント産業全般にわたり成長を妨げる課題も多く存在する。当社のビジネスモデルは、アフリカ地域で機能することを証明したが、今後、強力な戦略的パートナーシップとともに、長期的なビジョンを持ってスケールアップすることが課題だ。アフリカのコンテンツ産業は、特に映画やアニメーションの分野で、資金調達が難しい状況にあり、多くのプロジェクトは、政府の限られた助成金や自己資金に依存しており、十分な資金を確保できないことが多い。ゲームはいまだ、娯楽として見られることが多く、業界としての組織的な活動への理解不足により、資金アクセスが制限されている。コンテンツ制作や配信に必要なインフラが整っていないことも大きな問題だ。特に、制作施設や配信ネットワークが不足しており、これが作品の質や流通に影響を与えている。例えば、ゲームセンターの数が限られているため、作品を広く観客に届ける機会が限られている。また、コンテンツの違法配信や著作権侵害が深刻な問題となっており、クリエイターの収入を減少させている。多くのアフリカ諸国では、eスポーツが正式な競技として認識されておらず、制度的な枠組みや支援も必要だ。さらに、技術と接続コストの問題もある。ゲーム機器や光ファイバー、コンソール、サーバーのコストが高く、特に購買力が低い層にとっては負担が大きい。アフリカには確かに、才能豊かな人材が存在するが、それを最大限に生かすための人材育成が不可欠だ。当社は、スキル移転やマスタークラス、教育プログラムに多くの投資を行っている。
質問:
国際イベントへの参加と受賞歴。
答え:
これまでにE3、Gamescom、Paris Games Weekなど、世界の主要なゲームイベントに参加したほか、アフリカ創造祭のビデオゲームセクションのキュレーター(企画・管理など担当)、カンヌライオンズの審査員(2025年)を務めた。コートジボワールでは、レジャー施設最優秀賞(2024年)、観光サブリム賞(最優秀レジャー施設)(2024年)、観光サブリム賞(モバイルゲーム部門)(2023年)などの受賞歴がある。
質問:
西アフリカにおけるゲームとeスポーツ市場の競合他社は。
答え:
当社の強みは、単なるゲームやeスポーツにとどまらず、物理的な施設、教育プログラム、オーディオビジュアルコンテンツ、決済ソリューション、国際イベントを含む包括的なエコシステムを形成している点だ。競争は、市場を活性化させ、イノベーションを促進し、消費者にとってより良い製品やサービスを提供する原動力となり、産業の発展に不可欠だ。競合他社との健全な競争は、自社の成長や進化にも貢献する。当社の目標は、アフリカが世界の重要な市場となるよう、全体最適を目指すエコシステムを発展させていくことだ。
西アフリカのゲーム、eスポーツ業界で活動する主な企業を次に挙げる。
  • ゲーム制作セグメント:Masseka Game、Kiro'o Games、Maliyo Games
  • eスポーツセグメント:Gamers CI、Togo Esports、Bénin Esports
  • ゲームセンターセグメント:Dream Land
質問:
国内外からの支援の状況。
答え:
当社はこれまで、様々な技術、制度的支援を受けてきた。国内では、文化・仏語圏省、デジタル経済省、国営テレビRTIとのパートナーシップなどの支援があった。国際的には、米国スタンフォード大学のメンターシップやトレーニング、米国国務省とのプロジェクト「The Change Jam」、フランス外務省、Visa、Orange、UBAとのパートナーシップなど戦略的コラボレーションもある。しかし、長期的な資金調達は依然として課題だ。全般として、スタートアップを支援する専用のメカニズムが不足しているため、適切な助成金や銀行の保証基金などの制度が必要と考える。
質問:
日本企業とのコラボレーションについて。
答え:
日本の企業とのコラボレーションには非常に関心がある。特に、文化や技術的な共創の観点から協力に期待している。日本は、ゲーム、アニメーション、没入型技術、インタラクティブストーリーテリングの分野で世界的なリーダーだ。パラダイスゲームも、創造的なイノベーションに対する情熱を共有しており、日本のゲーム開発会社とのより深いパートナーシップに期待する。以下のような複数の軸でのコラボレーションが考えられる。
  • ハイブリッド文化コンテンツの共同制作
    アフリカの文化を、日本の美学や技術を用いて取り入れたゲームやアニメ、ウェブトゥーンを共同制作する。
  • VR(仮想現実)による文化的マルチメディア空間の開発
    アフリカの歴史、伝統、遺産を楽しくインタラクティブに探求できる没入型のVR空間を開発する。これらの空間では、日本の展示も開催し、双方向の文化交流を促進していく。
  • スキル移転とクロス・トレーニング
    ゲームデザイン、インタラクティブストーリーテリング、アニメーション、ゲームにおけるAI(人工知能)の応用など、日本の専門知識を活用してアフリカの新しい世代のクリエイターを育成していく。
  • 国際市場向けの製品と体験の開発
    双方の強みを結集し、博物館、学校、文化イベント、デジタルプラットフォーム向けのコンテンツなどを含む文化的、教育的な体験を世界に展開するために、協力して製品を開発する。

日本企業の訪問を熱烈に歓迎する同社社員
(同社提供)

日本企業がパラダイスゲームを視察(同社提供)
質問:
日本企業への提言は。
答え:
日本企業がコートジボワールをはじめアフリカに進出する際には、現地事情に詳しく信頼できる現地パートナーと提携することが大事だ。単なる業者を探すのではなく、共に創造し、リスクと成功を共有し、共通のビジョンを持つ真のアライアンスを築き、長期的な信頼関係を構築することが不可欠だ。また、アフリカの若者たちはアイデアが豊富で、創造性があり、学びたいという強い意欲を持っている。現地の能力開発、人材育成は単なる支援ではなく、優れた才能の宝庫への投資という認識を持って、現地の才能を評価してほしい。このほか、ゲームやアプリ、物理的なスペースを作る際には、地元の人々の想像力やアドバイスに根差したものにすることも重要だ。地域文化の尊重と融合により、プロジェクトは正当性を持ち、魅力的で持続可能なものになるだろう。

注:
入場チケットの代わりとしてや、整理番号など入場の管理に活用するイベント用リストバンドのこと。 

パラダイスゲームに聞くeスポーツ事情

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(1)アフリカゲーム市場が拡大

執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。