アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探る「多様な日本」をエジプトに発信
国際交流基金30年間の取り組み
2025年8月12日
国際交流基金カイロ日本文化センターは2025年に開所30周年を迎え、これを記念して7月10日に「ジャパン・デー」を開催した。エジプトは日本への関心や好感度が高く、日本語学習者は約3,500人で、中東・アフリカ地域では最多だ。
ジェトロは、エジプトで日本文化浸透や、日本語教育振興を支えてきた国際交流基金カイロ日本文化センターの橋本歩所長に、これまでの取り組みや、エジプトでの日本文化の受容状況について、話を聞いた(取材日:2025年7月10日)。
開所30周年でジャパン・デー実施、予想以上の反響
- 質問:
- 今回のジャパン・デーの内容と反響は。
- 答え:
- 当センターは1995年開所で、開所30周年を記念し、カイロとアレクサンドリアでそれぞれ1日ずつ、「ジャパン・デー」として日本文化を体験するイベントを実施した。内容は習字、折り紙のワークショップ、浴衣の着付け、琴、生け花、かるた、茶道のデモンストレーションのほか、日本関連書籍の配布を実施しており、この取り組みが人気を呼んでいる。また、夏休み期間中でもあり、子供連れの家族の来場が多い。集客はインスタグラム、フェイスブック投稿のみだったが、事前の予測では300~400人の来場を見込んでいたところ、実際には1,500人を超えた。
- 質問:
- コンテンツの選定基準は。
- 答え:
- 老若男女を問わず、日本文化に触れることができるようなコンテンツとした。着付けや折り紙はエジプトの文化団体からも要望の多い人気コンテンツで、茶道、生け花といった伝統文化も「名前だけは知っている」というエジプト人が多く、有名だと言える。
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ジャパン・デーでのかるた体験(国際交流基金提供)
中東・アフリカ最多の日本語学習者を支える
- 質問:
- エジプトでの日本語学習の現状は。
- 答え:
- エジプトの日本語学習者は約3,500人で、中東・アフリカ地域で最も多い。約半数は日本語が必修科目となっている日本・エジプト科学技術大学(E-JUST)の学生で、E-JUSTに入学する学生数の増加に伴い、日本語学習者は急激に増加したが、国際交流基金が実施する海外日本語教育機関調査によると、その後も学習者数は微増を続けている。中国や韓国への関心もエジプトで高まる中で、日本語学習者数が保たれていることは特筆すべきだ。
- 質問:
- 日本語講座の概要は。
- 答え:
- 年間にカイロとアレクサンドリアでそれぞれ2学期実施しており、年間の受講者は計500人を超える。また、2025年1月からはオンラインコースも開講し、エジプト全国からのニーズに応えているほか、カイロやアレクサンドリアの受講生も多い。大学の日本語学科を除くと、エジプトで日本語講座を提供する民間機関は非常に限られているので、入門から中級レベルまでを扱う日本語講座へのニーズは高い。中級コースを終えた受講者はだいたいB1レベルで、職場や生活で使うような身近な話題について、ある程度のコミュニケーションが取れるようになる。当センターでは、言語能力のみならず、言語を通して異文化を理解し受容する力、グローバルなコミュニケーション能力を向上させることを目指しており、講座内容も学習者同士のワークなどを重視している。
- 質問:
- 日本語講座受講者が日本語を学ぶ理由は。
- 答え:
- 大学の日本語学科の学生がレベルアップのために活用する例がある。大学の授業は文法に重点が置かれることが多いため、コミュニケーション能力の向上を重視するこの講座には一定のニーズがある。日本語学科卒業生が日本語レベルのキープのために通っている場合もある。通訳や翻訳など、日本語を活用した就職機会は限られているが、修了生が当地の日系機関で職を得るケースも少なからずある。
- それ以外でやはり多いのは、日本のアニメやマンガに関心を持っている層だ。アニメやマンガをオリジナルの言葉、音声で楽しみたいという気持ちがモチベーションになっている。日本に実際に行くことは難しいが、それでも日本が好きという受講者も多い。寿司をはじめとした日本食の広がりから、一般的なエジプト人が日本に接する機会が増えており、日本語への関心も高まっていると考えられる。また、エジプトでは外国語を学ぶことが日本に比べて一般的で、教養や趣味の1つとして学んでいる受講者もみられる。
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日本語講座(文化体験)の様子(国際交流基金提供)
ポップカルチャーを含む「多様な日本」を発信
- 質問:
- ポップカルチャー関連の取り組みは。
- 答え:
- 例年、エジプト最大のコスプレイベント「エジコン(EGYCON)」をサポートしており、ステージイベントに出演するアーティスト紹介などを実施している。このイベントは主催者の意向もあって、規模は必ずしも拡大し続けているわけではないが、1日4,000人程度の集客があるようだ。また、国際交流基金として、日本映画上映祭を毎年主催しているが、この中でもアニメ映画は一番の人気コンテンツだ。2025年2月の開催時は「すずめの戸締まり」をオープニング作品として上映しており、カイロで2回の上映とも、300人定員の会場がほぼ満席となった。2024年に実施した寿司に関する展示も大盛況だった。JFF Theaterというオンライン日本映画上映プラットフォームも、国際交流基金がエジプトを含めた全世界向けに運営しており、当地では若年層を中心に、コメディーやラブコメなどキャッチーなものが人気だ。
- ポップカルチャーに特化した取り組みは多くはないが、「多様な日本」を紹介して日本への関心を保つことが重要だと考えている。例えば、2026年4月には「人形」に関する展示を実施する予定だが、伝統的な日本人形からフィギュアまで幅広く展示する予定だ。また、今年度は2025年8月のTICAD9(第9回アフリカ開発会議)開催を記念して、2025年10月にアニメソングのコンサートを予定しているほか、2026年2月に予定されている次回の日本映画上映祭では、ラインナップを拡大して実施する予定だ。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ) - 2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。