インド社会への浸透が図られるプラスチック廃棄物管理規則(インド)
規制強化から半年経過

2023年1月13日

インド環境・森林・気候変動省(MoEFCC)が2022年7月にプラスチック廃棄物管理規則の規制を強化してから、半年が経過した。同規則は2016年3月の制定以降、複数回にわたり改正されてきたが、今回の規制強化はその影響力の大きさから、特に注目を集めた(注)。規制対象となっているプラスチック製品と実務上の運用について、これまでに判明した現状を報告する。

規制対象のプラスチック品目は3種類

この規則の目的は、プラスチック廃棄物の削減とリサイクルの推進とされる。プラスチック製の最終製品だけでなく、包装資材なども適用対象に含まれている点が特徴的だ。

主な規制対象品目には3種類ある。1つ目は使い捨て用プラスチック製品だ。2022年7月1日以降、特定19品目の同製品については、生産や使用などを禁止した(2022年7月12日付ビジネス短信参照)。禁止対象となったのは、綿棒(プラスチック棒を使用しているもの)、風船用のプラスチック棒、プラスチック製の旗、キャンディー用の棒、アイスクリーム用の棒、装飾用ポリスチレン、皿、コップ、グラス、フォーク、スプーン、ナイフ、ストロー、トレー、菓子の包装、招待状の包装、たばこ箱の包装、ビニールバナー(100ミクロン未満のもの)、マドラーの19品目だ。

2つ目は持ち運び用プラスチック袋(キャリーバッグ)だ。こちらは全面禁止というわけではないが、使用後の回収率とリサイクル率の向上を図ることを目的として、一定以上の厚みの要件を課している。2021年9月30日以降は75ミクロン以上、2022年12月31日以降は120ミクロン以上と、求められる厚みは段階的に増加した。同規則で、キャリーバッグは「持ち運ぶ機能」を有する袋として定義しており、持ち手など運ぶための機能がない場合は該当しない。また、未使用製品のパッケージの一部を構成する袋は含まないとされている。

3つ目はプラスチックシートだ。同規則は、プラスチックシートは原則として50ミクロン以上の厚みを有するものでなければ、生産・使用できないことを規定した。規制対象には、包装資材として使われるプラスチックシートも含まれる。一方、ラミネートフィルムに関しては厚みの規制対象外であることを明記している。

店頭から消えた使い捨て用プラスチック製品

同規則の強化に伴い、実際に首都ニューデリーの街中では変化が見られるようになった。例えば、ハンバーガーやサンドイッチなどを提供するファストフード店では、飲料の容器はコップ本体もふたも紙製を使うようになった。道路沿いのジューススタンドも紙製ストローを使用するようになっており、禁止対象の使い捨て用プラスチック製品19品目は、身の回りで見かけなくなってきている。とは言え、規制への対応が各地で徹底されている訳ではなく、全国的な浸透はまだまだこれからとの報道もみられる。

また、スーパーや商店が用意するレジ袋も規則にあるキャリーバッグに該当することを受け、各小売店は厚みのあるプラスチック製レジ袋や、不織布や紙製のレジ袋を用意するようになっている。また、レジ袋自体を有料化し、消費者に買い物袋の持参を促す店も出てきている。

税関では使い捨て用製品とキャリーバッグが検査対象に

プラスチックシートに関しては、特に輸入貨物の包装資材に対する運用がどうなるかが、輸入貨物を取り扱う在インド企業にとって最大の関心事となっていた。輸入貨物などをラッピングする場合、使うプラスチックシートは通常薄い形状のもので、同規則で定める厚みがあるものはラッピングに適さないためだ。

今のところ、輸入貨物の包装資材として使うプラスチックシートに関しては、各税関が特に重点的に検査しているわけではないようだ。インド財務省間接税・関税中央局(CBIC)が全国の税関に対し、6月22日付で同規則に伴う検査強化の通達(別添資料参照PDFファイル(7.85MB))を出している。同通達では、使い捨て用プラスチック製品とキャリーバッグの2種類には言及があるものの、プラスチックシートには触れていない。税関職員は、基本的にこの通達を基に輸入貨物の検査を実施していると考えられ、少なくとも執筆時点(2022年12月)では、プラスチックシートを理由に輸入貨物が止められた事例は耳にしていない。

ただし、税関職員が同通達の内容を必ずしも正確に理解していないため、不当な指摘を行うケースもあるようだ。例えば、持ち手など運ぶための機能がないプラスチック袋や、未使用製品のパッケージの一部を構成する袋をキャリーバッグと見なし、税関職員が厚み規制違反を主張するような場合がある。その際には、輸入者から税関職員に対し、これらの袋が規則の定義上キャリーバッグに該当しない旨を説明することが実務上必要になると考えられる。

なお、同通達では、規制対象のキャリーバッグやプラスチックシートなどの製品を輸入する企業は中央汚染管理委員会(CPCB)に登録する必要があることも明記している。このため、税関が輸入者に対し、CPCBへの企業登録の有無を確認する場合がある。該当プラスチック製品を輸入しようとする企業は、CPCBへの登録手続きを事前に行う必要がある点に留意が必要だ。


注:
プラスチック廃棄物管理規則に関する法的な観点からの解説(2022年8月時点)は、ジェトロ発行の調査レポート参照。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
広木 拓(ひろき たく)
2006年、ジェトロ入構。海外調査部、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ブリュッセル事務所、企画部、ジェトロ名古屋を経て、2021年8月から現職。