特集:コロナ禍の中南米進出日系企業は今不安定な政経情勢懸念も、企業収益が若干改善(アルゼンチン)

2022年2月15日

ジェトロは2021年8月~9月、「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」を実施した。在アルゼンチン企業からは、40社から回答を得た(内訳は、「製造業」が18社、「非製造業」が22社)。

新型コロナ禍を経た経済再開で営業利益が好転

今回調査では回答企業の56.8%(21社)が、2021年の営業利益見込みについて「前年比で改善」と回答(図1参照)。「前年比で悪化」との回答は13.5%(5社)にとどまった。前回調査時(2020年9月)PDFファイル(7.6MB)の43.6%(17社)から大きく改善した(図2参照)。

2021年の営業利益見込みが「黒字」と回答した割合も73%(27社)に上った。前回調査比で24.3ポイント(pt)上昇したかたちだ(図3-1および3-2参照)。アルゼンチン国内では2020年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で10カ月以上にわたり外出制限措置が敷かれ、企業活動が大きく制限されていた。しかし、2021年8月に新型コロナ新規感染者数の減少とともに行動制限措置が緩和されたことで(注1)経済再開の兆しが見え始め、これが進出日系企業の景況感にも影響を与えたとみられる。

事実、2021年の営業利益見込みが「前年比で改善」と回答した企業(21社)のうち、その要因として最も割合が多かったのは「現地市場での売り上げ増加」で76.2%(16社)だ。もっとも、改善の増加幅は、「1割増」が38.9%(7社)と最多で、大幅な改善は見られていなさそうだ。

図1:前年と比べた2021年の営業利益見込み
中南米全体では有効回答476社のうち改善51.3%、横ばい33.0%、悪化15.8%。メキシコは有効回答238社のうち改善48.7%、横ばい31.5%、悪化19.7%。ベネズエラは有効回答8社のうち改善75.0%、横ばい0%、悪化25.0%。コロンビアは有効回答18社のうち改善50.0%、横ばい44.4%、悪化5.6%。ペルーは有効回答26社のうち、改善46.2%、横ばい42.3%、悪化11.5%。チリは有効回答40社のうち改善47.5%、横ばい35.0%、悪化17.5%。ブラジルは有効回答109社のうち改善61.5%、横ばい29.4%、悪化9.2%。アルゼンチンは有効回答37社のうち改善56.8%、横ばい29.7%、悪化13.5%。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

図2:前年と比べた2020年の営業利益見込み
中南米全体では有効回答529社のうち改善18.7%、横ばい27.8%、悪化53.5%。メキシコは有効回答261社のうち改善19.5%、横ばい23.0%、悪化57.5%。ベネズエラは有効回答13社のうち改善0.0%、横ばい46.2%、悪化53.8%。コロンビアは有効回答26社のうち改善3.8%、横ばい38.5%、悪化57.7%。ペルーは有効回答33社のうち、改善6.1%、横ばい36.4%、悪化57.6%。チリは有効回答37社のうち、改善32.4%、横ばい24.3%、悪化43.2%。ブラジルは有効回答120社のうち改善19.2%、横ばい31.7%、悪化49.2%。アルゼンチンは有効回答39社のうち改善25.6%、横ばい30.8%、悪化43.6%。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

図3-1:2020年の営業利益見込み(2020年度調査)
中南米全体では有効回答529社のうち黒字43.1%、均衡22.5%、赤字34.4%。メキシコは有効回答261社のうち黒字40.2%、均衡19.5%、赤字40.2%。ベネズエラは有効回答13社のうち黒字7.7%、均衡30.8%、赤字61.5%。コロンビアは有効回答26社のうち黒字30.8%、均衡46.2%、赤字23.1%。ペルーは有効回答33社のうち黒字42.4%、均衡24.2%、赤字33.3%。チリは有効回答37社のうち黒字51.4%、均衡27.0%、赤字21.6%。ブラジルは有効回答120社のうち黒字51.7%、均衡17.5%、赤字30.8%。アルゼンチンは有効回答39社のうち黒字48.7%、均衡33.3%、赤字17.9%。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

図3-2:2021年の営業利益見込み(2021年度調査)
中南米全体では有効回答478社のうち黒字61.7%、均衡15.1%、赤字23.2%。メキシコは有効回答239社のうち黒字54.8%、均衡18.0%、赤字27.2%。ベネズエラは有効回答8社のうち黒字0.0%、均衡12.5%、赤字87.5%。コロンビアは有効回答18社のうち黒字72.2%、均衡5.6%、赤字22.2%。ペルーは有効回答25社のうち有効回答68.0%、均衡4.0%、赤字28.0%。チリは有効回答40社のうち黒字75.0%、均衡10.0%、赤字15.0%。ブラジルは有効回答111社のうち黒字69.4%、均衡13.5%、赤字17.1%。アルゼンチンは有効回答37社のうち黒字73.0%、均衡18.9%、赤字8.1%。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

営業利益見込みの「悪化」要因に不安定な国内政治経済情勢

アルゼンチンで特徴的なのは、2021年の営業利益見込み「悪化」の要因が新型コロナ感染拡大の影響だけではないことだ。この調査では、営業利益見込みが悪化した「理由」と、その理由ごとの「悪化の要因」について聞いた。その回答を足し上げると、「新型コロナウイルスが要因」以上に、「その他が要因」の方が多かった(図4参照)。

図4:2021年の営業利益見込みが悪化した要因
新型コロナウイルスが要因と回答したのは2社、その他が要因と回答したのは7社、不明なのは2社。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

その要因を分析すると、国内の不安定な政治経済情勢に起因するところが大きいとみられる。投資環境面のリスクに関する設問への回答でも、「不安定な為替」(92.5%)、「不安定な政治・社会情勢」(87.5%)、「現地政府の不安定な政策運営」(82.5%)の回答割合が多い。多くの進出日系企業がこれらを危惧し、リスクと捉えていることがわかる(図5参照)。

図5:2021年度調査(n=40、複数回答可)
「不安定な為替」が92.5%、「不安定な政治・社会情勢」が87.5%、「現地政府の不透明な政策運営(産業政策、エネルギー政策、外資規制など)」が82.5%、「行政手続きの煩雑さ(許認可など)」が62.5%、「税制・税務手続きの煩雑さ」が60.0%、「労働争議・訴訟」「取引リスク(代金回収リスク等)」がともに42.5%、「法制度の未整備・不透明な運用」が40.0%、「人件費の高騰」が30.0%、「未成熟・未発展な裾野産業」「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」がともに12.5%、「インフラの未整備」「労働力不足・人材採用難(専門職・技術職、中間管理職等)」「知的財産権保護の欠如」がともに10.0%、「従業員の離職率の高さ」が7.5%、「労働力不足・人材採用難(一般ワーカー、一般スタッフ・事務員等)」が5.0%、「土地/事務所スペースの不足、地価/賃料の上昇」「外国人・企業を対象とした犯罪(殺傷害、誘拐、強盗・盗難、詐欺等)」「環境汚染」がともに2.5%、「消費者運動・排斥運動(不買運動、市民の抗議等)」「テロ」「自然災害」「特に問題はない」はともに0.0%。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

為替の問題は、現地通貨ペソ安が続いているだけではない。公定為替レート(インターバンクレート)と非公式の為替レート(ブルーレート)の乖離幅が急拡大していることも背景にある。本調査を開始した2021年8月24日時点のインターバンクレート1ドル=102.79ペソに対し、ブルーレートは1ドル=182.00ペソ。調査を終了した9月24日のインターバンクレートは104.12ペソで、ブルーレートは186.00ペソだ。なお、2022年1月14日時点のインターバンクレート(109.21ペソ)とブルーレート(209.50ペソ)の乖離幅は100%近い(図6参照、注2)。アルゼンチンでは現在、厳しい資本取引規制によって外貨が流入しづらい。その結果、外国為替市場での取引が貿易代金の決済などに限られるため公定レートの変動幅は小さい。一方、ブルーレートは市場心理に敏感に反応して大きく変動する。2022年1月5日付現地紙「メルコプレス」では、ジョンズホプキンズ大学通貨研究所の調査結果を紹介し、アルゼンチンペソは世界で6番目に価値の低い通貨と報じた。価値の低さは、ベネズエラ、レバノン、ジンバブエ、スーダン、シリアの現地通貨に次ぐという。

図6:公定・非公式為替レート
2021年1月4日は公定レート90.22ペソ、非公式レート165.00ペソ、2021年2月1日は公定レート92.99ペソ、非公式レート153.00ペソ、2021年3月1日は公定レート95.49ペソ、非公式レート147.00ペソ、2021年4月5日は公定レート98.10ペソ、非公式レート140.00ペソ、2021年5月3日は公定レート99.21ペソ、非公式レート153.00ペソ、2021年6月1日は公定レート100.23ペソ、非公式レート155.00ペソ、2021年7月1日は公定レート101.19ペソ、非公式レート169.00ペソ、2021年8月2日は公定レート102.12ペソ、非公式レート180.50ペソ、2021年9月1日は公定レート103.22ペソ、非公式レート180.50ペソ、2021年10月1日は公定レート104.25ペソ、非公式レート186.00ペソ、2021年11月1日は公定レート105.35ペソ、非公式レート196.50ペソ、2021年12月1日は公定レート106.55ペソ、非公式レート200.50ペソ、2022年1月14日は公定レート109.21ペソ、非公式レート209.50ペソ。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

「現地政府の不透明な政策運営」を懸念する企業も多い。政権与党は、引き続き、資本取引を規制(注3)。さらに、矢継ぎ早に保護主義的な政策を打ち出してきた。例えば、輸入モニタリングシステム(SIMI)の見直し(注4)、価格凍結政策(注5)、国内供給を重視した輸出制限策(注6)などだ。こうした政策に影響を受ける日系企業も少なくない。SEMI見直しでは、通関の長時間化が懸念される。対応を余儀なくされているのが実情だ。

人口4,500万の大市場は引き続き日系企業にとって魅力

ただ、アルゼンチンが擁する大市場は、引き続き日系企業にとって重要だ。現地従業員数や日本人駐在員数の変化については、今後の予定について前者は「増加」が35.1%、「横ばい」が56.8%(図7参照)、後者は「横ばい」が100%(38社)だった(図8参照)。内政不安や経済情勢悪化があるにせよ、引き続きアルゼンチンを重要な市場ととらえているとみられる。

図7:今後の予定現地従業員
中南米全体では有効回答484社のうち増加38.0%、横ばい53.3%、減少8.7%。メキシコは有効回答240社のうち増加43.3%、横ばい49.2%、減少7.5%。ベネズエラは有効回答11社のうち増加0.0%、横ばい54.5%、減少45.5%。コロンビアは有効回答17社のうち増加52.9%、横ばい41.2%、減少5.9%。ベルーは有効回答32社のうち増加25.0%、横ばい62.5%、減少12.5%。チリは有効回答40社のうち増加30.0%、横ばい67.5%、減少2.5%。ブラジルは有効回答107社のうち増加35.5%、横ばい55.1%、減少9.3%。アルゼンチンは有効回答37社のうち増加35.1%、横ばい56.8%、減少8.1%。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

図8:今後の予定日本からの駐在員
中南米全体では有効回答485社のうち増加7.0%、横ばい80.6%、減少12.4%。メキシコは有効回答242社のうち増加7.0%、横ばい75.6%、減少17.4%。ベネズエラは有効回答11社のうち増加0.0%、横ばい81.8%、減少18.2%。コロンビアは有効回答18社のうち増加0.0%、横ばい94.4%、減少5.6%。ペルーは有効回答31社のうち増加6.5%、横ばい83.9%、減少9.7%。チリは有効回答41社のうち増加24.4%、横ばい73.2%、減少2.4%。ブラジルは有効回答104社のうち増加4.8%、横ばい84.6%、減少10.6%。アルゼンチンは有効回答38社のうち増加0.0%、横ばい100.0%、減少0.0%。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

投資環境面のメリットでも、引き続き「市場規模/成長性」を指摘する企業割合が最も多かった(図9参照)。前回調査比で8.9pt減少してはいるものの、人口4,000万人以上を有するアルゼンチン市場の魅力は引き続き大きいようだ。ただ、「特にない」との回答割合も40%(16社)ある。

図9:2021年度調査(n=40、複数回答可)
複数回答可で、有効回答は40社。「市場規模/成長性」は20.0%、「従業員の質の高さ(専門職・技術職)は17.5%、「人件費の安さ」「従業員の質の高さ(中間管理職)」はともに15.0%、「従業員の定着率の高さ」は12.5%、「土地/事務所スペースが豊富、地価/賃料の安さ」「従業員の雇いやすさ(一般ワーカー、一般スタッフ・事務員等)」「従業員の雇いやすさ(専門職・技術職、中間管理職等)」「言語・コミュニケーション上の障害の少なさ」はともに7.5%、「インフラの充実」「取引先(納入先)企業の集積」「従業員の質の高さ(一般ワーカー)」「駐在員の生活環境が優れている」はともに5.0%、「迅速で簡素なビザ・就労許可取得手続き」は2.5%、「安定した政治・社会情勢」「裾野産業の集積(現地調達が容易)」「(法人税、輸出入関税など)税制面でのインセンティブ」「迅速で簡素な行政手続き(許認可など)」「簡素で透明性の高い税制・税務手続き」「整備された法制度、明確な運用」「安定した為替」はともに0.0%、「その他」は7.5%、「特にない」は40.0%。

出所:ジェトロ「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」から作成

今後1~2年の事業展開の方向性について聞いたところ、42.5%(17社)が「拡大」すると回答している。52.5%(21社)が「現状維持」と回答。「縮小」や「第三国(地域)への移転、撤退」は、それぞれわずか2.5%だった。拡大する理由の中で最も割合が大きいのは「現地市場での売り上げ増加」で82.4%(14社)だ。一方で、「高付加価値製品・サービスへの高い需要性」を選択した割合(29.4%、5社)が、前回調査時から19.4pt増加しているのも興味深い。ペソ安や高インフレによる換物需要(注7)の高まりを背景に、高付加価値商品の需要が高まっていることから、事業を拡大する企業が一定数あることが分かる。

調達の見直しについては、9社が「見直しを行う」と回答。そのうち77.8%(7社)が「調達先の見直し」と回答した。その中で、日本を含むアジアから米州に調達先を移すという回答が複数みられる。これは、新型コロナ感染拡大によるサプライチェーンへの影響、供給制約といった外的要因や、為替変動などの内的要因によるものと考えられる。


注1:
アルベルト・フェルナンデス大統領は2021年8月、それまでの行動制限措置を緩和した(2021年8月10日付ビジネス短信参照)。新型コロナ新規感染者数と死者数が減少傾向にあることを受けた措置だ。
注2:
2021年11月、中間選挙の本選挙で与党の大敗が予測されるなど、先行き不透明感が増した。この結果、ブルーレートは過去最安値を記録。あわせて、公定為替レートとの乖離幅が100%を超えた。(2021年11月12日付ビジネス短信参照
注3:
アルゼンチン政府が2019年9月から導入している資本取引規制には、(1)居住者による外貨購入額の制限(1カ月最大200ドル)、(2)外国からのサービス購入や国外でのデビットカード、(3)クレジットカードの利用に対する30%の包括連帯税の課税、などが含まれる。詳細は、ジェトロレポート「アルゼンチンの資本取引規制(2021年3月)」を参照。
2021年12月以降は、クレジットカードの分割払いサービスを用いて外国旅行代金を支払うことができなくなっている(2021年12月8日付ビジネス短信参照)。
注4:
2021年9月、輸入者が「輸入の総合モニタリングシステム(SIMI)」を通じて行う申請に対する行政機関の回答期限が、従前の「10暦日以内」から「60暦日以内」に変更された。これにより輸入に係る承認を得るのに、従前以上の時間を要することが懸念される(2021年10月1日付ビジネス短信参照)。
注5:
2021年10月、食料品をはじめとした生活必需品など1,432品目の小売価格が90日間凍結された。インフレが加速する中で個人消費の拡大等を狙った措置。ただし、企業からの反発は大きい(2021年10月28日付ビジネス短信参照)。
注6:
2021年6月、時限的ではあるものの一部の牛肉部位の輸出を禁止。その他の部位の輸出量も前年比50%までに制限する措置を導入した(2021年6月25日付ビジネス短信参照)。2021年12月には、小麦とトウモロコシの輸出枠に関する新たな制度を発表し、輸出数量上限を設定した。(2021年12月23日付ビジネス短信参照
注7:
貨幣価値が減少するがゆえに、モノへ代替する需要が増加すること。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課 課長代理(中南米)
辻本 希世(つじもと きよ)
2006年、ジェトロ入構。ジェトロ北九州、ジェトロ・サンパウロ事務所などを経て、2019年7月から現職。

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