特集:コロナ禍の中南米進出日系企業は今進出日系企業、8割が新型コロナ前の水準まで業績回復(ブラジル)
デジタル技術の積極活用に関心広がる

2022年2月28日

ジェトロは2021年8月~9月、「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」を実施した。

本レポートでは、ブラジル進出日系企業114社(製造業56社、非製造業58社)から得た回答を基に、在ブラジル日系企業の今後のビジネス展開などに加え、環境問題への対応やデジタル関連技術の活用などについての調査結果も解説していく。

新型コロナ禍から回復も、リスク残る

まず、2021年の営業利益見込みに関する回答結果を見てみる。

「黒字」「均衡」「赤字」のどれを見込むかとの問いについて、約7割の企業が「黒字」と回答した(図1参照)。前年の2020年と比較してどうかとの問い対しても、61.5%の企業が「改善」、29.4%が「横ばい」と回答(図2参照)。新型コロナウイルス危機から多くの企業が立ち直った様子が見て取れた。

新型コロナ危機前の2019年と比較するとどうかとの問いには、「改善」と回答した企業は46.4%、「横ばい」とした企業も33.6%に上った(図3参照)。つまり、回答企業の8割は、1年でその業績を新型コロナ前の水準に戻したということになる。

図1:2021年の営業利益見込み(n=111)
「黒字」と回答したのは69.4%。「均衡」と回答したのは13.5%。「赤字」と回答したのは17.1%。

出所:「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」からジェトロ作成

図2:前年比の営業利益見込み(n=109)
「改善」と回答したのは61.5%。「横ばい」と回答したのは29.4%。「悪化」と回答したのは9.2%。

出所:「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」からジェトロ作成

図3:2019年比の2021年の営業利益見込み(n=110)
「改善」と回答したのは46.4%。「横ばい」と回答したのは33.6%。「悪化」と回答したのは20.0%。

出所:「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」からジェトロ作成

図4:2022年の営業利益見通し(n=109、前年比)
「改善」と回答したのは49.5%。「横ばい」と回答したのは37.6%。「悪化」と回答したのは12.8%。

出所:「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」からジェトロ作成

ブラジルでは、国内最大の経済都市で多くの日系企業が進出するサンパウロ市を中心に、2021年8月から新型コロナ対策の経済活動制限が解除された。これが2021年の営業利益の見通し好転につながった。

実際、前年比で2021年の営業利益見込みが「改善」と回答した企業に、理由とその要因について聞いたところ、改善理由のうち最も回答が多かったのが「現地市場での売り上げ増加」だった。さらにその要因として、半数以上に当たる31社が「前年の新型コロナによる影響の反動」と回答した。また、9社が「新型コロナに起因」とも回答している。

このことから、新型コロナ危機が思わぬ巣ごもり需要や政府による大規模な財政出動を生み、それが国内市場での売り上げ増加につながったケースも少なくなかった状況が見て取れる(図5参照)。ブラジルの実質GDP成長率は、2020年はマイナス3.9%に落ち込んだ。しかし、2021年は反転して4.7%(IMFの1月25日付の予測)の伸びを示した。2020年の落ち込みを補って余りある成長を達成したもようだ。

図5:2021年の営業利益見込みが「改善」の理由とその要因 (n=66、複数回答可)
最も多かった改善理由は「現地市場での売り上げ増加」。その要因は多い順に「前年の新型コロナによる売り上げ減の反動(反動増)」が31社、「その他」が20社、「新型コロナウイルスに起因する売り上げ増」が9社だった。「現地市場での売り上げ増加」以下の改善理由は、多い順に「その他支出の削減」、「為替変動」、「人件費の削減」、「販売効率の改善」、「輸出拡大による売り上げ増加」、「稼働率の改善」、「生産効率の改善」、「その他」、「調達コストの削減」だった。

出所:「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」からジェトロ作成

次に、2022年の営業利益見通しについて見る。

前年の2021年に比べ「改善」との回答が約半数(49.5%)に上った。「悪化」の回答は12.8%。2021年の営業利益が前年比で「悪化」すると回答した割合9.2%と比べ3.6ポイント増加した(図4参照)。2022年の営業利益が前年比「悪化」と回答した企業が挙げた主な理由は、「為替変動」「調達コストの上昇」だった。現地通貨のレアルは、新型コロナの感染拡大が始まった2020年前半以降、一貫して対ドルで下落している(図6参照)。レアル安が輸入物価を押し上げる中、物流の停滞をはじめとした世界的な供給制約が発生して「調達コスト」を押し上げた。

図6:2011~2021年のレアルの対ドル為替レート
2011年には1.88だったものの、年々レアル安が進み、2021年末時点では5.58となった。

注:毎年の年末時点の為替レート。
出所:ブラジル中央銀行

販売戦略では、販売先見直しとデジタル化が軸

続いて、今後1~2年の事業展開の方向性について聞いた。

前回2020年度調査では42.5%が「拡大」、49.2%は「現状維持」と回答。2021年度調査では「拡大」が55.8%、「現状維持」が37.2%という結果になった。新型コロナ禍中にあった2020年は様子見する企業が多かったのに対し、2021年に入って今後の方向性を見定めた企業が増加した結果と考えられる(図7参照)。「拡大」と回答した企業に具体的に拡大する機能についても聞いたところ、「販売機能」が最も多く88.1%だった。

図7:今後1~2年の事業展開の方向性
2020年度調査時点の結果について。N=120。「拡大」の回答が42.5%、「現状維持」の回答が49.2%、「縮小」の回答が6.7%、「第三国(地域)への移転、撤退」の回答が1.7%だった。2021年度調査時点の結果について。N=113。「拡大」の回答が55.8%に増加。「現状維持」の回答が37.2%に減少。「縮小」の回答が4.4%、「第三国(地域)への移転、撤退」の回答が2.7%。

出所:「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」からジェトロ作成

また、今後の事業展開を進めていく上での販売戦略と調達方針の見直し予定を質問したところ、全回答企業114社の35.1%に当たる40社が「販売戦略を見直す」と回答した。この40社に販売戦略の具体的な見直し内容について聞くと、回答の多い順に「販売先の見直し」(60.0%)、「販売価格の引き上げ」(52.5%)、「販売製品の見直し」(47.5%)だった(複数回答)。レアルの減価に加えて、新型コロナに起因するコンテナ不足による原材料や部品の供給不足、加速するインフレなどが影響を与えたとみられる。

販売戦略の見直し内容で、「デジタルマーケティング、AI(人工知能)利用などデジタル化の推進」(47.5%)の回答が多かったことも特徴的だ。同じ調査で、例えばメキシコの回答はわずか28.1%だった。国土が広大で人口も多く、かつ貧富の差が激しいブラジルでは、新型コロナ感染拡大によって経済・社会のデジタル化が想定以上に加速した。スマートフォンアプリを通じた政府による低所得層への支援金給付や、口座開設不要で利用者を拡大させたデジタル銀行「ヌーバンク」の急成長などが、その代表例だ。こうしたブラジル経済・社会の変化を受け、進出日系企業でもデジタル化を推進しようとする動きが出てきているとみられる。この点については、本稿後半でも改めて紹介する。

調達の見直しについては、全回答114社の20.2%に当たる23社が「調達を見直す」と回答した。23社に具体的な見直し内容を聞いたところ、66.9%が「調達先を見直す」、60.9%が「(不測の事態に備えるための)複数調達化(マルチプルソーシング)を実施する」と回答した(複数回答)。ただ、その理由について最も多く挙げられた回答は、いずれも「新型コロナ」ではなく「生産コストの適正化」だった。新型コロナに伴う物流の停滞や供給制約は一時的な現象だ。対して、生産コストの適正化は構造的要因を含む問題と理解される。調達を見直すと回答した企業の多くは、ブラジルの生産コストが現状割高と認識しているものと考えられる。それを是正するため、生産コスト削減のために調達先を見直す、あるいは複数購買化する、ことを検討していると解釈できるだろう。

環境問題への取り組みで高い成長可能性

本調査では、環境問題への対応やデジタル関連技術の活用など、世界で現在注目されているテーマに関しても聞いている。脱炭素化への対応については、「既に取り組んでいる」が41.4%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が29.7%、「取り組む予定はない」が28.8%という回答だった。約7割の企業は環境問題に対して関心を持っていることが分かる。

具体的な取り組み内容を聞いたところ、最も多かったのが「省エネ・省資源化」で64.5%だった。ブラジルは、発電量の8割以上が再生可能エネルギー由来(水力発電など)であることなどが背景にあるとみられる。一方で、過度な水力依存は、渇水期に電力不足をもたらすリスクをもたらす。さらに、社会環境的に巨大ダム建設が困難になっていること、大型水力発電は大消費地から遠く送電コストがかさむことなどから、過剰な依存からの脱却が課題だ。その代替として、太陽光発電と風力発電を拡充する方針を打ち立てる動きもある。

ブラジルは現在、環境再生可能天然資源院(IBAMA、注1)を中心に、森林違法伐採の取り締まり強化など、環境対策の取り組み強化を表明している。また、鉱山エネルギー省は2020年12月、国家エネルギー計画(PNE)を改定した。新たな「PNE2050外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(ポルトガル語、注2)では、バイオ燃料の活用が温室効果ガス削減の中心的な役割として位置付けられた。市場メカニズムを活用しつつ、燃料消費に占めるバイオ燃料の割合を拡大する方針を打ち出すという動きもある。加えて、広大な国土を有していることや、水力発電設備が整っていることなども踏まえると、政府が今後打ち出す環境問題への取り組み方針次第で、脱炭素化に向けた動きが一層加速する可能性もある。

新型コロナ禍で進んだデジタル化、引き続き関心高く

デジタル関連技術の活用・課題について聞いたところ、「既に活用している」と回答したのは48.2%、「今後活用予定」が21.8%だった。約7割の企業が関心を持っていることが分かった。また、デジタル関連技術の活用のメリットについても聞くと、「マーケティングの強化・販売先の拡大」を選択した企業が64.4%と最も多かった(図8参照)。ブラジルでは、新型コロナを契機に、デジタル化が他の中南米各国と比べても進んでいる。国土が広いブラジルでは、デジタル技術を活用して物理的距離の障壁を軽減しようと考える企業が多いとみられる。他方で「導入や運用のコストが高い」「デジタル技術を扱える技術者等人材が不足している」といった課題も残る。そういった課題を克服することで、さらなるデジタル技術の促進が見込まれる。

現在関心を有しているデジタル関連技術の政策を聞いたところ、「法規制の対象となる機密情報」と回答した企業が51.4%と最も多かった。2020年9月には、個人情報保護法が施行されていた。EUの一般データ保護規則(GDPR)の影響を受けた、個人情報を扱う法律として国内で初だ。それだけに、一定数の関心を集めたとみられる。今回調査を行った中南米6カ国(注3)のうち、ブラジル以外の5カ国では関心を持っている政策について「特にない」と回答する企業が半数に及んだ。対照的に、ブラジルでのデジタル関連技術関心の高さが目立ったかたちだ。

図8:デジタル関連技術の活用のメリット(n=73、複数回答可)
最も多かったのが「マーケティングの強化・販売先の拡大」で64.4%だった。以下多い順に「製品・サービスの品質が安定・向上」で54.8%、「新しい製品・サービス・ビジネスモデルを創出できる」で49.3%、「個々の顧客ニーズに応じた製品・サービスの提供が実現」で37.0%、「開発・生産工程や業務の効率化・最適化が可能」で35.6%、「賃金上昇や労働力不足に対処できる」で30.1%、「熟練技術の「見える化」・継承が可能」で24.7%、「越境ビジネスがより容易になる」で11.0%。「ビジネスへの参入障壁が低下する」、「デジタル技術活用のメリットは低い」、「メリットについてよく分からない」、「その他」は0%だった。

出所:「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」からジェトロ作成

大統領選挙を控えた不透明感が投資環境面上のリスクに

この調査では、投資環境面のメリットやリスクについても聞いた。例年、恒例の設問だ。今年も、「市場規模/成長性」が引き続き大きなメリットと捉えられていた。その一方で、2022年10月に控える次期大統領選による不透明さなどにより、投資環境面のリスクとして「不安定な政治・社会情勢」や「不安定な為替」が挙げられた(注4)。

「税制・税務手続きの煩雑さ」といった制度上の問題点も、前年に引き続きリスクの上位項目として捉えられた。自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)の活用状況と問題点についても聞いた。輸入面でのFTA/EPA活用の問題点として「主要な輸入元との間にFTA/EPAが存在しない」といった回答も多く見受けられた。

本調査の結果全体を通じて、デジタル関連技術への関心の高さや、新型コロナ感染拡大による影響からも順調な回復を見せるなど、ブラジルの良い面も多く見えてきた。その一方で、不安定な政治や社会情勢など投資環境面上の問題、環境課題への取り組みの遅れといった課題も見つかった。また、デジタル化への関心の高さが目立った一方で、デジタル化に対応できる人材は不足しているといった問題もある。課題も多く残るブラジルの現状も浮き彫りとなったかたちだ。

次期大統領選挙の結果により、さまざまな制度変更や環境対策への取り組み方針などが変わっていく可能性がある。そうした動きに、引き続き注目していきたい。


注1:
IBAMAは、環境保全を目的として活動する機関。ブラジル環境省傘下にある。2021年12月24日付に環境省が発したプレスリリースによると、IBAMAとブラジル連邦政府、ブラジル連邦高速道路警察(PRF)などが連携し、森林の違法伐採に使用されたとみられるチェーンソーやトラクターの押収、違法伐採集団の拠点摘発にも成功している。
注2:
「国家エネルギー計画2050(PNE2050)」では、2050年(計画の終期)までの間に実施する長期的なエネルギー需給政策の在り方が定められた。盛り込まれた事項は、エネルギーの生産や消費に関する横断的課題から、電源構成に関する方針、エネルギー輸送に関連するインフラ整備、技術開発など、多岐にわたる。
注3:
当該調査の対象は7カ国。ただし、デジタル関連技術の活用に関する質問については、ベネズエラを調査対象外とした。そのため、この箇所では「6カ国」とした。
注4:
本調査実施直前の2021年7月に行われた世論調査ダータ・フォーリャ(Datafolha)では、回答者2,074人のうち46%が「1回目の投票でルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ元大統領に投票する」と回答。最も支持率が高かった。片や、現職で中道右派のジャイール・ボルソナーロ大統領の支持率は25%にとどまった。
ルーラ政権下では、保護主義的な政策が取られていた。このことから、左派政権への転換を危惧する進出日系企業が一定数あるとみられる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
髙氏 朋佳(たかうじ ともか)
2020年、ジェトロ入構。2020年4月から現職。

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