特集:コロナ禍の中南米進出日系企業は今消費回復と銅価格高騰で日系企業の業況感改善(チリ)

2022年2月18日

ジェトロは2021年8月~9月、「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」を実施した。チリからは、42社から回答を得た。その結果から、業況感や、投資環境面のリスク、脱炭素化の動きなどについて、分析・解説する。

年金引き出しと銅価格高騰で業況感改善

2021年の営業利益見込みについて聞いたところ、「黒字」と回答した企業の割合は75.0%。調査対象の中南米7カ国の中で、最も高い割合となった。前年と比べた2021年の営業利益見込みも47.5%が「改善」と回答した(図1参照)。

図1-1:2021年の営業利益見込み(2021年調査)
有効回答は40社。黒字は75.0%、均衡は10.0%、赤字は15.0%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

図1-2:前年と比べた2021年の営業利益見込み
有効回答は40社。改善は47.5%、横ばいは35.0%、悪化は17.5%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

改善の理由として最も多かったのは、「現地市場での売り上げ増加」。当該設問に対する回答の63.2%を占めた。この要因の1つとして、2020~2021年に複数回実施された「年金積立金の一部引き出し」が挙げられる。チリ政府は、確定拠出型年金(AFP)の積立金の一部を引き出し可能とする法律を2020年7月30日に施行した。新型コロナウイルス感染拡大により経済的に困窮した世帯への救済を目的としたもので、この引き出し措置はその後も同年12月、2021年4月と計3度にわたって実施された。年金監督庁によると、2021年末までに1回以上引き出しをした人は約1,120万人に上った。これはチリの人口の約6割に相当する。活用が多かったことで、消費の活性化につながったとみられる。事実、今回調査の回答でも、一般消費者向けの商品を扱う企業の多くが「現地市場での売り上げ増加」を営業利益見通し改善の要因とした。

銅価格の高騰も日系企業の業況見通しに好影響を与えた。ここ数年、銅価格は年平均1ポンド当たり2ドル台(注1)で推移してきた。しかし、2021年は中国経済の回復による需要増や電気自動車の生産増により、銅の需要が拡大。2021年の銅価格は1ポンド4.23ドルを記録した。多くが銅関連の産業に従事している日系企業にとって、追い風になった。

一方で、2022年の営業利益見込みについては、比較的慎重な見方が多かった。2021年と比べて「改善」とする回答は、20.0%にとどまった。65.0%が「横ばい」を選択している(図2参照)。中南米全体平均と比較しても「改善」の割合は非常に少なく、「横ばい」の割合が多い。年金引き出しによる消費の押し上げ効果が2021年のように期待できないことに加え、銅価格も落ち着いていくことなどがこの背景にあるとみられる(注2)。

図2:2021年と比べた2022年の営業利益見込み
中南米全体の有効回答は475社、チリの有効回答は40社。中南米全体では、改善が53.1%、横ばいが37.3%、悪化が9.7%。チリでは改善が20.0%、横ばいが65.0%、悪化が15.0%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

政治・社会情勢への信頼戻らず

2019年10月に勃発した大規模な反政府デモ以降、チリは社会的な安定性を取り戻せないままでいる。進出日系企業向けに実施している本調査でも、投資環境面のメリットとして「安定した政治・社会情勢」を指摘する企業の割合は31.7%。前回調査からさらに減少した。2018年までは8割がメリットと回答していた。一方で「不安定な政治・社会情勢」をデメリットとして考える企業は78.0%と、前回調査とほぼ同じ水準だった。こちらも、デメリットとの回答は2018年までは多くて1割程度だった(図3参照)。

図3:「政治・社会情勢」の捉え方の変遷
2015年は「安定した政治・社会情勢」をメリットとして考える企業が75.7%、「不安定な政治・社会情勢」をデメリットとして考える企業が10.8%、2016年は「安定した政治・社会情勢」をメリットとして考える企業が81.1%、「不安定な政治・社会情勢」をデメリットとして考える企業が2.7%、2017年は「安定した政治・社会情勢」をメリットとして考える企業が86.5%、「不安定な政治・社会情勢」をデメリットとして考える企業が5.4%、2018年は「安定した政治・社会情勢」をメリットとして考える企業が85.4%、「不安定な政治・社会情勢」をデメリットとして考える企業が11.4%、2019年は「安定した政治・社会情勢」をメリットとして考える企業が54.5%、「不安定な政治・社会情勢」をデメリットとして考える企業が42.4%、2020年は「安定した政治・社会情勢」をメリットとして考える企業が45.9%、「不安定な政治・社会情勢」をデメリットとして考える企業が81.1%、2021年は「安定した政治・社会情勢」をメリットとして考える企業が31.7%、「不安定な政治・社会情勢」をデメリットとして考える企業が78.0%。

出所:2015~2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

今回調査では、「デモ」に加えて「大統領選挙の行方」が「不安定」要因に加わった。本調査実施期間中の2021年8月下旬に実施された大統領選の候補支持率の世論調査結果を見ると、首位を中道右派のセバスティアン・シチェル氏が押さえる。しかし、同氏の支持は2割程度。2位に、左派のガブリエル・ボリッチ氏が続いていた(結局、ボリッチ氏が大統領選で勝利した)。このような状況から、この時点で、次期政権が左傾化することに懸念を抱いた日系企業も少なくなかったと考えられる。

2022年3月に就任する次期大統領のボリッチ氏は、2019年の反政府デモを契機に新憲法制定を推進させた人物だ。主要課題に掲げる政策が格差是正。そのため、中低所得者層支援のための財源確保として、富裕層や大企業への課税を強化する意向だ。具体的には、富裕税導入や鉱業ロイヤルティー税引き上げといった政策を取っていくことを表明している。特に、鉱業ロイヤルティー税の引き上げは、進出日系企業への影響も大きい政策のため、注目が集まる。

再エネ・新エネ電力の調達進む

本調査では、環境問題への対応として、脱炭素化への対応状況についても聞いた。チリ進出日系企業のうち、脱炭素化に「すでに取り組んでいる」または「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した割合の合計は65.9%に上った(図4参照)。具体的な取り組み内容としては、「省エネ(注3)・省資源化」を選択した企業が6割超で最も多い。次いで、「再エネ(注3)・新エネ電力(注3)の調達」が5割を占めた(図5参照)。

図4:脱炭素化への対応状況
有効回答は41社。「すでに取り組んでいる」が36.6%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定である」が29.3%、「取り組む予定はない」が34.1%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

図5:脱炭素化に向けた取り組み内容
有効回答は26社。「省エネ・省資源化」が61.5%、「再エネ・新エネ電力の調達」が50.0%、「エネルギー源の電力化」が42.3%、「環境に配慮した新製品の開発」が19.2%、「社会貢献活動の実施」が19.2%、「調達先企業への脱炭素化の要請」が7.7%、「市場からの排出削減のクレジット購入」が3.8%、「社員の移動制限など」「原子力発電からの電力の利用」はともに0%、「その他」が11.5%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

「再エネ・新エネ電力の調達」の事例として、投資先鉱山での再エネ導入があった。鉱業では、大量の電力が必要になる。事実、チリでは国内の電力使用量の3割超を鉱業部門が占めている。在来型資源による発電は環境負荷が大きいと問題視されているため、再エネの活用が期待されている分野だ。実際に、日系企業が投資している鉱山の中にも、2022年以降は再エネ100%の操業を予定しているところもある。また、チリ政府が近年力を入れているグリーン水素の利用への関心を示す声もあった。今後も日系企業の脱炭素化の取り組みの進展が期待される。


注1:
ロンドン金属取引所の取引価格。
注2:
チリ銅委員会が1月27日に発表した2022年の年平均の銅価格の予想は、1ポンド3.95ドルとなっている。
注3:
「省エネ」は省エネルギー、「再エネ」は再生可能エネルギー、「新エネ」は新エネルギー。当該箇所以降の記載も同様。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
佐藤 輝美(さとう てるみ)
2012年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ・サンティアゴ事務所海外実習などを経て現職。

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