特集:コロナ禍後の新時代、中国企業はどう動く中国・カザフスタン関係の展開と課題

2021年3月12日

近年、中国の「一帯一路」構想の展開に伴い、カザフスタンと中国との関係が強化されている。一方、カザフスタンとロシアの伝統的な関係も、「ユーラシア経済同盟」の成立などにより一定の制度化を見せている。カザフスタンは1991年の独立以来、中国とロシアという地域大国のはざまに位置し、難しいかじ取りを迫られてきた。それでも、中ロ両国との関係を処理し、一定の経済発展を達成した背景には、ソ連時代以来、長期にわたってカザフスタンの最高指導者の地位にあったヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領の熟練した手腕によるところが大きい。

2019年にナザルバエフ前大統領が辞任を表明し、カシムジョマルト・トカエフ氏が暫定大統領、のち正式な大統領に就任すると、カザフスタンの外交路線の今後に内外の関心が集まった。しかし、対中関係の面では、さほど大きな変化は生じていない。トカエフ政権はナザルバエフ時代の外交路線を基本的に継承し、中ロの間でバランスを取り続けている。本稿では、中国・カザフスタン関係を概観した上で、新型コロナウイルス禍における中国・カザフスタン関係と、両国関係の政治的課題について簡単に指摘したい。

中国・カザフスタン関係の概観

カザフスタンは、中国にとっていかなる重要性を持つのか(注1)。ここで想起されるのは、2013年9月、習近平国家主席がカザフスタンで初めて「シルクロード経済ベルト」を提唱し、ここから「一帯一路」構想が始まったことだ。「シルクロード経済ベルト」の発表がカザフスタンで行われたのは偶然ではない。中国にとってカザフスタンは、単に西部の隣国という以上に極めて重要な位置を占めている。石油、天然ガスなど地下資源の供給国であるとともに、「シルクロード経済ベルト」の出口でもある。中国と欧州を結ぶ定期貨物列車「中欧班列」の大半がカザフスタンを通過しており、その数はまた年々増加している。

さらに、カザフスタンは新疆ウイグル自治区と長大な国境を接する。民族問題を抱える新疆ウイグル自治区で中国が安定した統治を維持するためには、カザフスタンと歩調を合わせることが望ましい。カザフスタンはまた、西部大開発の観点では、中国西部の企業が国境を越えて進出する先としても魅力的だ。特に、カザフスタンは広大な土地を有し、農業投資の無限の可能性があると言われる。従って、資源、物流、安全保障、投資など、さまざまな観点から見て、カザフスタンは中国の周辺諸国の中で特に重要な存在である。

カザフスタンにとっても、中国は経済的に見て重要なパートナーだ。一般に中央アジア諸国にとって、ロシア以外の貿易相手を持つことの意義は大きい。「一帯一路」構想の展開に伴い、中欧班列をはじめ大型プロジェクトが動き出したことは、中国の重要性をさらに高めた。物流の活発化に伴い、中国(新疆)・カザフスタン国境に位置するホルゴスが、自由貿易区として一層発展すると期待されている。物流面だけでなく、中国企業がカザフスタン国内に投資し、例えば、カザフスタンで広大な農地を賃借し、リンゴの生産などの農業投資が計画された。こういった投資は、中国とカザフスタン双方にウィンウィンの利益をもたらすとうたわれた。この点を見れば、カザフスタンが「一帯一路」構想を拒む理由はないのだ。

カザフスタンには独自の構想である「光明の道」が存在する。「光明の道」は、革新的な近代化を進め、2050年までに先進国上位30カ国に加わるという「カザフスタン2050戦略」の一環として位置付けられており、その上で、「一帯一路」構想とは協力関係にあるとされている。他の中央アジア諸国も「一帯一路」構想への参加を表明しているが、カザフスタンの関与の度合いは比較的積極的で主体的だ。

カザフスタンは中国との合意文書の中で、カザフスタンの経済構想「光明の道」と、中国の「一帯一路」構想の「シルクロード経済ベルト」建設が「接合」ないし「連携」(中:対接、ロ:сопряжение)するという見解を表明している(注2)。これは少なくとも建前の上では、カザフスタンが「一帯一路」の中に参入するのではなく、カザフスタン独自の経済構想が中国側の構想と協力関係にあるという図式だ。この構図は、ロシアがとっている「ユーラシア経済同盟」と「シルクロード経済ベルト」建設が「接合」ないし「連携」するという公式見解に類似する(注3)。中国との経済的関係をいかに構築するかという点で、カザフスタンとロシアの間には根本的に相通ずるところがある。これは、両国首脳がソ連解体以来、緊密に連携してきたこととも関連する。

こうした外交姿勢は、トカエフ大統領の政権発足後も引き継がれている。第1に、トカエフ政権においても、ロシアとの関係を重視する点は基本的に変わりない。トカエフ大統領は就任後初の外遊先にロシアを選び、2019年4月3日にプーチン大統領と会見した。トカエフ大統領はソ連時代に外交官として中国で在外研修と勤務の経験があり、中国語が流ちょうな「知中派」として知られるが、同時に、モスクワ国際関係大学出身で、ソ連の外交官としてソ連の国益のために働いた経歴がまず重要だろう。

第2に、中国との関係も、従前どおりの方針を踏まえている。トカエフ大統領も「一帯一路」構想を評価するとともに、中国との経済協力を積極的に進めていく方向性を明らかにしている。また、トカエフ大統領の訪ロから間もない2019年4月下旬、ナザルバエフ前大統領が中国を訪問し、第2回国際協力・「一帯一路」構想フォーラムに出席した。その後、9月11日から12日にかけて、トカエフ大統領は就任後初めて中国を公式訪問し、習近平国家主席との間で協議などを行い、協力関係強化に関する共同文書に署名した。

コロナ禍における中国・カザフスタン関係

2020年の年初に、中国・武漢を中心に新型コロナウイルス感染症の存在が知られるようになると、カザフスタンは中国への支援を行った。春以降、中国で感染が抑え込まれ、逆にカザフスタンで感染が広まると、中国が支援する側に転じ、医療物資、診療の経験などを提供した。

前年まで積極的に開催されてきた中国とカザフスタンの首脳会談は、感染症の流行以来、電話会談にかたちを変えた。中国外交部によると、習近平国家主席は2020年3月24日にトカエフ大統領と電話会談を開催し、感染症対策、「一帯一路」などの面での連携を確認した。会談の中で、習近平国家主席はカザフスタンからの支援に言及するとともに、カザフスタンへ積極的に支援を提供すると表明した(注4)。

しかし、2020年6月から7月にかけて感染拡大のペースが速まるとともに、ナザルバエフ前大統領が感染したこともあり、感染症に関してさまざまな臆測がささやかれ、一種の社会不安が生じた。7月上旬には、カザフスタンの主要都市で新型コロナウイルス感染症より致死率がさらに高い肺炎が流行しているという説が流れ、在カザフスタンの中国大使館が在留中国人に注意を促し、「環球時報」が記事に取り上げるほどの騒ぎとなった(注5)。カザフスタンでは、2020年末までに判明しているだけで累計20万人以上が感染するなど、被害が相当に深刻化した。感染症拡大による社会の打撃は甚大とみられ、市民の不満の蓄積、そして一部市民の中国への反感は、後述するように、両国関係の潜在的リスクとなり得よう。

一方、両国の経済関係では、コロナ禍にもかかわらず、「一帯一路」の代表的プロジェクトの1つである「中欧班列」が一大飛躍を遂げた。中国国家鉄路集団の発表によると、2020年に運行した本数は前年比50%増で過去最多の1万2,400本となった(注6)。そのうち、新疆、カザフスタンを経由する本数は前年比37%増で、過去最多の9679本となった(注7)。運行本数が大幅に増加した背景には、感染症拡大の影響で、海運、空輸が減少したことが関係していると考えられる。もっとも、中国の国境検問所における検疫強化と一部検問所の閉鎖により、2020年夏以降、中国・カザフスタン国境の物流が停滞しているという情報もあり(注8)、今後の動向を注視する必要がある。

中国・カザフスタン関係の政治的課題

中国・カザフスタン関係に存在する潜在的リスク、あるいは既に顕在している懸念材料として、カザフスタン内政の問題がまず挙げられる。汚職、腐敗などへの不満、選挙の不正への疑念、政権の正統性への疑義が渦巻いている。カザフスタンは格差社会でもあり、新型コロナウイルス感染症の流行が格差拡大、失業率の高まりに拍車をかけているとすれば、それもまた見過ごせないリスクである。

こうした内政面での懸念材料以外に、中国との関係で政治的課題と目されるのが、いわゆる中国脅威論の問題だ。中国とカザフスタンの政府間関係は着実に進展しているものの、市民は中国に対し、ある種の不信感や警戒心を抱いていることがしばしば指摘される。カザフスタン政府は少なくとも公式見解では中国と歩調を合わせており、政府に近いエリートは「親中的」に振る舞うのに対し、市民はさほど「親中的」ではなく、中国に対し懐疑的で、冷ややかなところがある(注9)。こうした状況は「政熱民冷」(熱い政府、冷たい市民)とも言われ、カザフスタンに限らず、世界各地で見られる現象だろう。

一般に、中国脅威論には確実なデータがなく、つかみどころのない問題だ。しかし、2016年にカザフスタンで起きた土地法改正に対する抗議行動は、近年の中国脅威論の事例として注目に値する。2016年4月、カザフスタンの主要都市で多くの市民が街頭に繰り出して抗議行動を行い、「土地の売却、それは売国だ!」(продажа земли – продать родину!)というスローガンが世界中に報道され、翌5月、ナザルバエフ大統領(当時)が談話を発表し、法改正の凍結が宣言された(注10)。一連のできごとは、この種の中国脅威論が今日もなお存在しているばかりか、政府の従前の方針を覆す潜在力があることを物語っている。

この中国脅威論とリンクしているのが、いわゆる新疆問題だ(注11)。近年、新疆ウイグル自治区で再教育施設に多数の人々が収容されていることが知られるようになった。そうした施設に収容された人の中には、カザフスタン国籍を持つ人々も含まれていることが明らかになっている。カザフスタンから中国に入国した人が中国国内で突然連絡が取れなくなったという事案が多数発生し、社会の関心を集めた。SNSなどで情報が拡散された結果、収容者の解放を求めたとみられる抗議行動も発生した。

また、中国国籍を持ち、中国の少数民族「カザフ族」と認定されているカザフ人の状況は一層深刻だ。このような中国籍カザフ人は、2010年の中国の統計によると、新疆ウイグル自治区内に146万人存在する(注12)。彼らの中には、収容の恐怖から逃れるため、国境を越えてカザフスタンに「密入国」した人もおり、その裁判は社会の同情を集めた(注13)。カザフスタン政府としては、中国の新疆問題は「内政」であるとして、これに干渉しない立場を取っているが、難しいかじ取りを迫られている。

2019年9月のトカエフ新大統領訪中の際にも、抗議行動が発生し、「中国の拡大に反対」というスローガンが登場した(注14)。2019年には大統領選挙の不正を訴える抗議行動も起こったが(注15)、社会に鬱積(うっせき)する不満、選挙および政権の正統性への疑義、それから中国脅威論が相互に結びついて抗議行動が発生する構造は、前政権のころからさほど変化していない。ポスト・ナザルバエフ、ポスト・コロナのカザフスタンも、こうした国内の不満を抑え込み、ガス抜きを図りつつ、中ロのはざまで両大国と安定的な関係を模索していくことになるだろう。

おわりに

ここまで述べてきたように、2019年春にカザフスタン大統領はナザルバエフ氏からトカエフ氏に交代したが、カザフスタンの対中関係はさほど変わらなかった。その背景としては、カザフスタン国内で、いわば「院政」が敷かれ、内政面における政権の性格が変化しなかったとともに、対外政策の面でも前政権の路線が継承されたことが指摘できよう。

一方、政権移行によって、政権と抗議勢力との対立軸が解消されるどころか、これもまた継承されたことも注目に値する。トカエフ政権は今後、中国脅威論という難題と向き合い、抗議勢力の抑え込みを図りつつ、安定的な対中関係の構築を模索していくことになるだろう。


注1:
本節および「中国・カザフスタン関係の政治的課題」では、熊倉潤・岡林明香里・樋渡雅人「一帯一路の展開とカザフスタン、ウズベキスタンの対中認識―大学生のアンケート調査から―」『問題と研究』(第49巻4号、2020年)、第2節の記述を一部引用している。
注2:
一例として、「中華人民共和国和哈薩克斯坦共和国聯合声明」新華網(2019年9月12日)。なお、ウェブサイトからの引用は全て2021年1月28日に最終アクセスしたもの。
注3:
「ユーラシア経済同盟」と「シルクロード経済ベルト」建設の関係に関しては、拙稿「中ロ蜜月の主導権――『一帯一路』構想と新疆問題のもたらす影響」、松本はる香編『〈米中新冷戦〉と中国外交――北東アジアのパワーポリティクス』(白水社、2020年)146頁。
注4:
「習近平同哈薩克斯坦総統托卡耶夫通電話」中国外交部外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2020年3月24日)。
注5:
「哈薩克斯坦暴発不明肺炎 僅6月就有628人死亡」環球網外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2020年7月10日)。
注6:
方越「国際貨物列車『中欧班列』の2020年の運行本数は過去最多の1万2,400本」2021年1月6日付ビジネス短信参照
注7:
「9679列!2020年経新疆進出境中欧班列創新高」『新疆日報』(2021年1月2日)。
注8:
増島繁延「新型コロナ検疫強化で中国・カザフスタン国境の物流が停滞」2020年12月25日付ビジネス短信参照
注9:
中央アジアにおける「親中」、中国脅威論の問題に関しては、ペイルーズ氏の研究を参照。Sébastien Peyrouse, “Discussing China: Sinophilia and sinophobia in Central Asia”, Journal of Eurasian Studies vol. 7 issue 1, 2016. pp. 14-23.
注10:
土地法改正反対デモの経緯については、拙稿「新疆ウイグル自治区におけるガバナンスの行方」『問題と研究』(第46巻2号、2017年)25頁、拙稿「一帯一路構想下的哈薩克 従2016年抗議行動看『中国脅威論』」、羅金義、趙致洋編『放寛一帯一路的視界 困難与考験』(香港中華書局、2018年)148頁を参照。
注11:
新疆問題とカザフスタンの中国脅威論との関係については、Temur Umarov, “What’s Behind Protests Against China in Kazakhstan?” Carnegie Moscow Center外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (October 30, 2019).
注12:
中国国家統計局「25-19 少数民族分布的主要地区及人口」『中国統計年鑑2020』
注13:
この問題については、岡奈津子「中国・新疆ウイグル自治区のカザフ人――不法入国とカザフスタン政府のジレンマ」IDEスクエア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2020年4月)。
注14:
Paule Goble, “Anti-Chinese Protests Spread Across Kazakhstan,” Eurasia Daily Monitor, vol. 16 issue 122外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (September 10, 2019).
注15:
Andrew Higgins, “Kazakhstan Gets New Leader, but Old System’s Grip on Power Remains,” The New York Times外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (June 10, 2019)
執筆者紹介
アジア経済研究所 新領域研究センター グローバル研究グループ
熊倉 潤(くまくら じゅん)
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程を修了後、日本学術振興会海外特別研究員・台湾政治大学客員助研究員を経て現職。博士(法学)。著書に『民族自決と民族団結:ソ連と中国の民族エリート』(東京大学出版会、2020年)がある。

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