特集:コロナ禍後の新時代、中国企業はどう動く環境重視で外国投資の選別を強める(中国、ベトナム)

2021年3月22日

ベトナム政府は、2010年ころから外国企業の対内投資に対し、環境配慮型や高度技術を重視する方針を打ち出した。しかし、そうした分野での中国企業の進出事例は目立たない。中国企業がベトナムにもたらす経済効果を疑問視する声も高まっている。

本稿では、中国企業のベトナム進出に対するベトナム政府の期待や対応について、現地有識者などの見方を中心に紹介する。

環境重視で外国企業の選別を強めるベトナム

ベトナムは2010年ごろから企業の投資に関し、高付加価値、ハイテク、環境配慮を重視する政策を整備してきた。2012年9月に政府は、2011年から2020年までの間の温室効果ガス排出量の削減目標などを示した「グリーン成長(注1)」と2050年までの方向性(ビジョン)に関する国家戦略(グリーン成長戦略)の決定(No. 1393/QD-TTg外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )を可決した。

同戦略では、ハイテク産業およびグリーンテック産業の対GDP比率、事業所の環境保全要件やグリーンテクノロジーの応用、環境を保護・改善する支援産業への投資などの目標値などが定められた。

2014年投資法(LOI 2014)では、高付加価値な製品・技術、情報技術関連など14分野の投資優遇分野を定めるとともに、工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、経済特区などの特定地域への投資に対する優遇措置を導入した(注2)。

2019年以降、ベトナムは外国投資に対して「質」を重視する方針を明確に打ち出している。ベトナム共産党中央委員会は2019年8月、政治局50号決議(50-NQ/TW外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )を公布し、2030年までの外国投資誘致に関する方向性を示した。同決議では、これまでの外国企業の投資が国家に与えた恩恵を評価しつつも、技術面や環境面などを評価基準として今後は選別を強める方針を明らかにした。また、環境配慮型の先進技術を有する企業による投資の割合を引き上げることなどを目標に掲げている。

ベトナムは環境・ハイテク分野の投資増を期待

2021年1月には、LOI 2014を改正したベトナム新投資法2020年(LOI 2020)を施行。外国人投資家に適用される市場参入条件を初めて明確に区別した。投資優遇策の適用条件に、環境保全要件を満たす技術、設備、製品、サービスを生産・供給する企業が追加された。また、環境に優しい技術を使用するビジネスを奨励するため、新素材、新エネルギー、クリーンエネルギー、再生可能エネルギーの生産や、省エネ製品を製造するビジネスに優遇措置を与え、同分野での外国企業の投資を促進している。

ベトナム側が環境配慮型やハイテク分野の企業を重視する中、2010年以降の中国からの投資案件をみると、全体としてはベトナム側の期待に沿った投資の傾向は読み取れない。2020年にシンガポール企業との協業による風力発電への投資案件が例外的に見られるくらいだ。ベトナム政府の中国企業に対する警戒心を払拭(ふっしょく)するには至っていないようだ。

参考:主な投資奨励分野

  • ハイテク活動、ハイテク補助工業製品、研究開発活動
  • 新素材、新エネルギー、クリーンエネルギー、再生エネルギーの生産、付加価値が30%以上認められる製品、省エネルギー製品の生産
  • 電子製品、重機、農業機械、自動車、自動車部品の生産、造船
  • 繊維、皮革分野および当条項3号に規定される各製品のための補助工業製品の生産
  • 情報技術、ソフトウエア、デジタルコンテンツ製品の生産

出所:外国投資庁2014年投資法(LOI 2014)

一帯一路へ参加も慎重姿勢へ

中国が推進する「一帯一路」政策は、道路、鉄道、港湾、空港、さらにはパイプラインや光ファイバー網まで含め、多国にわたり広大なインフラを整備。貿易、資金、人の交流促進を目指す。沿線諸国では、一帯一路を活用して自国のインフラ整備に必要な資金や技術を調達しようというニーズは高く、ASEANではカンボジア、ラオス、ミャンマーなどが積極的に関与している。

足元では新型コロナ禍で、関連投資は落ち込みを見せている。中国の独立系調査機関Green Belt and Road Initiative Centerの資料(注3)によると、2020年1~6月の一帯一路関連投資は234億ドル。前年の460億ドルからほぼ半減した。

G20の関連調査機関Global Infrastructure Hubによる「The Global Infrastructure Outlook 2017」では、2016~2040年にベトナムが必要とするインフラ投資額を6,050億ドルと見込み、約1,000億ドルの資金不足を予想している。また、この不足を補うため、ベトナム政府は一帯一路に期待し、2017年に中国と覚書に署名して中国との協力を促進するとした(注4)。

「中国国際輸入博覧会2018」での中国の国営新華社通信によるフック首相へのインタビュー(注5)では、「ベトナムは一帯一路による経済協力・企業連携を支持する。国際間の平和的な協力と繁栄を目的に、両国の必要性と強みに応じた分野での協力を促進。ベトナムが有利な条件で中国の資金を効果的に活用できるようにしたい」と強調。「中国企業がハイテクで環境にやさしいプロジェクトへの投資を増やし、ベトナムが質の高い経済成長を実現することで、中国企業のベトナム投資に対する良いイメージと評判が醸成される」とも述べた。ベトナム側の期待感について、中国側に強いメッセージを示したかたちだった。

しかし、覚書署名後のベトナムは消極姿勢に転じる。一帯一路が資金源とされる案件は現時点で確認できない。ベトナム政府の一帯一路に対する慎重なスタンスを示しているとも考えられる。スリランカや一部のアフリカ諸国などが陥ったとされる「債務の罠(わな)」はベトナムでも注目される。ベトナムの経済専門家は、中国の投資について「債務の罠」となりうると警告を発した(注6)。中国による融資を活用したEPC案件の契約では、中国の事業者を使う必要があることが多い。しかし、事業費や支払い利息の増加に苦しむ例は多くの国で報道されているとおりだ。一帯一路関連の投資は思ったほど「安い」ものではないとして、ベトナム政府は懸念を強めているようだ。

現地日系企業と競合も調達・販売チャンネルを期待

ベトナム外国投資庁の資料によれば、日本企業と中国企業の協力による投資案件(2010年~2020年)の多くを「製造・加工」分野が占めている。もっとも、これらには個人の投資家が資金協力している案件とみられるものや、在中国日系企業の投資案件とみられるものが相当数含まれている。この資料から、日中企業間の協力事例を見いだすことは極めて難しい。

ただ、前述のように、中国企業のベトナム進出増加により、日系企業とのビジネス上の接点が確実に増加する傾向にはある。中国企業は、日系企業にとって競合相手として警戒されている面がある。その一方で、中国企業をはじめとする中国から生産を移管してくる企業に対し、調達先や販売先として期待する声も聞かれる。ベトナム国内で事業展開する中国企業に対する販路拡大のため、中国語人材の営業担当者の採用を計画している企業もあるという(2020年1月7付地域分析レポート「米中貿易摩擦の影響、ベトナムの日系企業はプラスとマイナスが均衡か」参照)。

今後ベトナムに進出する日系企業には、中国企業との接点が増すことが見込まれる。将来は、ベトナム国内での調達先や販売先にも変化が生じる可能性もあるだろう。


注1:
気候変動や環境保護などに対応を目指す成長戦略。
注2:
外国企業だけでなく、国内企業を含む全ての企業を対象とする。
注3:
The Green Belt and Road Initiative Center:2020年7月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注4:
Global Infrastructure Hub「The Global Infrastructure Outlook 2017」、2017年7月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注5:
中国国際輸入博覧会2018:2018年11月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注6:
VEPR:2021年1月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部主査
原 実(はら みのる)
日系金融機関を経て1999年10月、ジェトロ入構。ジェトロ・ロサンゼルス事務所、ジェトロ熊本、ビジネス展開支援部などを経て、2019年4月から現職。