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特集:コロナ禍後の新時代、中国企業はどう動く難航するインフラ投資、拡大するデジタル投資(タイ、中国)

2021年3月19日

中国の「一帯一路」構想における沿線国の主要な投資プロジェクトは、インフラ関連が多くを占める。例えば、(1)鉄道、道路、橋、運河、港湾などの交通インフラ建設、(2)天然ガスパイプライン、火力発電所、水力発電所などエネルギーインフラ建設、(3)通信インフラ建設、(4)工業団地、輸出加工区などの整備、などだ。タイとしても、産業高度化政策「タイランド4.0」で重点地域に位置付ける東部経済回廊(EEC)地域(注1)の開発関連事業と「一帯一路」構想とを接続させる考えを公式に示している。しかし、インフラプロジェクトは現在のところ、遅延が相次いでいる。そこで、主要なプロジェクトの進捗を具体的に確認してみたい。

「一帯一路」のウェブサイトに掲載されているタイ関連の事業は、バンコク~ノンカイ間の高速鉄道、バンコク~チェンマイ間の高速鉄道の2つだ。タイ高速鉄道計画は、中国・昆明~シンガポール間の高速鉄道のタイ国内での整備計画となっている。

このうち、チェンマイ線については進捗がないため、ノンカイ線についてみる。ノンカイ線は、2014年12月にはタイ・中国間で鉄道整備事業に関する覚書を締結した。しかし、建設費用や収用などの関係で実際の整備は遅延を繰り返している。建設費用については、(1)タイ側の見積もりに比べ、中国側の提示した見積もり額が大幅に高かったこと、 (2)タイ側が主張した特別目的会社の出資比率(中国側60%、タイ側40%)に中国側が難色を示したこと、などが要因となって折り合いがつかなかった。2016年3月に建設費用をタイ側が全額負担し、第1フェーズ区間を先行整備することとなった。土地収用についても時間がかかった。例えば、第1フェーズ区間うちの第1期区間(3.5キロ)だけを取り上げても、当該区間の収用が完了したのは2017年12月のくわ入れ式から3年弱後の2020年9月だった。

高速鉄道のほか、中国政府も積極的に支援するのがEEC地域開発関連事業だ(図参照)。しかし、こちらも土地収用や入札をめぐる混乱により遅延が目立っている。3空港接続の高速鉄道建設プロジェクトは、総工費2,200億バーツ(約7,700億円、1バーツ=約3.5円)の大型インフラ開発プロジェクトだ。建設大手イタリアンタイ社とチョーカンチャン社、中国鉄建、バンコク高速道路・メトロ社(BEM)がコンソーシアムを組むCP連合が応札した。政府の補助金額の設定や土地収用などで交渉は長引き、2019年10月にようやくタイ国鉄との間で正式契約を締結した。土地収用作業が遅れ、2020年10月時点で土地の引き渡し時期を2021年3~4月、開業は2026年を目指すと発表されている(契約時点では開業見込みを2024年としていた)。

また、レムチャバン港拡張工事についても、当初は2020年から開発を行い、2025年に運用を開始する計画となっていた。しかし、2018年11月から開始した入札をめぐる混乱が長引き、契約締結に至ったのは2020年5月だった(注2)。

なんとか契約手続きにこぎつけた各プロジェクトだが、足元では新型コロナウイルス感染拡大が計画の不確実性を高めている。通常、中国が請け負った建設契約では、中国から技術者や労働者が相当数派遣される。しかし、新型コロナによる移動制限により、労働者の派遣が滞っている。また、建設現場での作業を担うミャンマーなど近隣国からの外国人労働者についても、タイ政府が警戒を強めている。2020年12月に水産市場で働く外国人労働者間で、新型コロナ集団感染が発生するなどしているからだ。これらの状況から、インフラプロジェクトはさらなる遅れが見込まれるだろう。

図:EECにおける主要インフラプロジェクト
タイの東部3県は、バンコクの東に位置する。バンコクの真東に位置するチャチュンサオ県、チャチュンサオ県の南にチョンブリ県、チョンブリ県の南にラヨーン県がある。 1、2ウタパオ空港、4マプタプット港はラヨーン県に、3レムチャバン港はチョンブリ県にある。
(1)(2)ウタパオ空港拡張・増設 新滑走路と旅客ターミナル、商業施設の増設。
(3)レムチャバン港拡張工事 1,100万TEUの貨物取り扱い量を、1,800万TEUに拡大。
(4)マプタプット港第3期拡張工事 液化天然ガスのタンカー接岸港、ガス積替え桟橋増設。
(5)三空港接続高速鉄道建設プロジェクト ドンムアン空港、スワンナプーム空港およびラヨーン県に位置するウタパオ空港を連結し、最終的にマプタプット港まで接続。

出所:報道、EEC発表資料等を基にジェトロ作成

拡大するデジタル投資

「一帯一路」構想でインフラ投資とともに重視されているのが、デジタル分野への投資だ。もっとも、この分野では活発な投資が行われている。停滞するインフラ投資とは対照的だ。

中国国家発展改革委員会の寧吉喆副主任は、2020年5月の記者会見で「一帯一路」について、従来のインフラプロジェクトに加え、健康シルクロード、デジタルシルクロードの協力分野を拡大すると述べた。

デジタルシルクロードについては、「ビッグデータ」「インターネット+(プラス)」「スマートシティー」の3分野での協力を推進。越境電子商取引やオンライン展示会、遠隔誘致活動、クラウドビデオなどに力を入れる。また、2020年11月に開催された中国・ASEAN博覧会の開幕あいさつで、習近平国家主席が、中国とASEANのデジタル経済協力を深化させ、質の高い「一帯一路」建設を推進すると述べた。スマートシティーや第5世代移動通信システム(5G)、人工知能(AI)などの領域でさらに多くの協力プロジェクトを作り出すとしている。

既に2019年11月にバンコクで開催された第22回中国・ASEAN首脳会議では「一帯一路」構想とスマートシティー開発に関する共同声明が発出された。共同声明では、デジタル技術を含めたスマートシティー開発で技術イノベーションを推進し、中国とASEANの都市のパートナーシップを相互に利益があるかたちで進めるとされている。

米国は安全保障上の問題から、中国の華為技術(ファーウェイ)への輸出規制を打ち出し、欧州各国でもファーウェイ排除の動きが強まっている。一方でASEAN各国は、中国との連携を強めている。ASEANでは、携帯電話や基地局を含む通信機器を輸入に頼っているのが現状だ。ファーウェイをはじめとする中国メーカーの製品は欧米メーカーに比べて価格が安く、技術面でも見劣りしない。そのため中国メーカー抜きにデジタル化を進めるのが難しいという実情もある。

タイのスマートシティー開発は「タイランド4.0」に位置付けられる国家政策だ。2017年10月に国家スマートシティー委員会を設立して以降、対象都市を拡大し、2022年までに全76都県に100のスマートシティーを整備することを定めている。具体的には、環境や経済、モビリティー、エネルギーなど7つのスマート化を目指すものだ。例えば、プーケット市ではデジタル経済社会省が所管し、WiFiスポットの整備や監視カメラの整備、顔認証システムの導入といったデジタル技術を通じて、ビッグデータを活用した安心・効率的な社会システムの構築を目指すとしている。

次に、ファーウェイ、アリババ、京東の動向を紹介する。これらは、スマートシティーとデジタル分野で、積極的にタイでのビジネスを拡大する中国企業だ。

スマートシティーと5Gを中心に投資を加速するファーウェイ

ファーウェイは、タイをASEANにおけるデジタルハブと位置付けている。スマートシティーについては、2017年6月に世界で7番目となるオープンラボをバンコク都内に開設。年間800人の情報通信技術(ICT)人材育成、年間500人へのICT技能証明書発給などを手掛けると発表した。同ラボを用い、地方の電力公社の電力管理や大学とのスマートシティースタートアップ協力事業など、政府や大学との連携を深めていくことが見込まれる。さらに2019年には、上述のプーケット市と連携して「タイにおけるスマートシティー枠組みとガイドライン」を策定。タイでのスマートシティー開発戦略や既存枠組みの整理、プーケット市固有の事象の整理、プーケット市の優先的スマートシティーサービスの提示や必要な取り組みのショートリスト化までを含む、包括的かつタイのスマートシティー政策全体にも影響を与え得るレポートとなっている。特に優先分野として、スマート電力計、スマート信号システム、スマート公共交通、スマート廃棄物処理、統合CCTVシステム、スマート観光の6分野を挙げている。

スマートシティーのほか、5G関連投資にも力を入れている。タイはASEAN各国と同様、ファーウェイ製品を排除する方針を示していない。むしろ積極的に連携する姿勢だ。2020年9月、ファーウェイはバンコクのデジタル経済振興公社(DEPA)内に「5Gエコシステム・イノベーション・センター」を開設。2022年末までに4億8,000万バーツを投資し、同社の5G機器やソリューションの導入を図るほか、毎年100社の中小企業・スタートアップを育成するとしている。また、2020年3月にはタイで初めて携帯キャリアによる5Gの商用サービスがスタートした。これはファーウェイと最大手通信会社アドバンスト・インフォ・サービス(AIS)が提携し、「AIS Fibre」ブランドで展開するものだ。2020年10月には国立シリラート病院との間で、5Gシステムを活用した病院のスマート化について覚書を締結した。

アリババ、京東も人材育成から輸出促進まで包括的に協力

電子商取引プラットフォーム大手のアリババと京東も、早期からタイ政府と連携して事業拡大を図っている。アリババは、2016年にジャック・マー取締役(当時)が世界電子商取引プラットフォーム(eWTP)構想を発表すると、タイ政府からの働き掛けもあり、「タイランド4.0」への貢献と中小企業支援を目的に、電子商取引分野の人材育成・物流開発などにかかる趣意書(LOI)に署名。2018年8月には、EEC事務局との間で、(1)コメやドリアンをはじめとする農産品や一村一品製品の輸出促進、(2)電子商取引の利活用を促す中小企業開発、(3)中国人観光客の誘致促進のためのデジタルプラットフォーム開発、(4)電子商取引のスマートデジタルハブの建設の4つの覚書を締結した。

このうち、デジタル人材育成に関しては、2020年8月、国立マヒドン大学がナコンパトム県にあるサラヤキャンパスで、アリババクラウド社とタイ初となる教育関連協力を行うとした。あわせて、エンジニアリング学部とICT学部で、同社のクラウドコンピューティング技術を教えるナレッジセンターを設立すると発表された。また、スマートデジタルハブについては、2019年9月にタイ税関が通達第204号/仏歴2562年を発出。EEC地域での電子商取引フリーゾーンの要件設定を行い、ハブを設置する制度的枠組みが整えられた。

京東は、2017年11月に5億ドルを投じ、タイ小売り大手セントラルグループと合弁で、JD セントラルを設立することを発表。2018年6月から試験運営をスタートして以来、経営は順調だ。2020年の売上高は新型コロナ禍に伴うEC需要拡大もあり、前年比2.65倍に拡大した。また、京東は2017年にタイ政府と、JDセントラルを活用し、タイ企業の中国での販路拡大やデジタル教育などの分野で協力する覚書を取り交わしている。2019年9月にはセントラルJDフィンテックが電子マネーやデジタル貸し付け、保険・健康管理を行う金融サービスアプリ「ドルフィン」を発表。タイ政府が主導する金融機関の統一決済システム「プロンプトペイ」と接続し、タイ国内の約300万店で支払いできるようにするとしている。

「一帯一路」構想との連携は、タイにとっても「タイランド4.0」をはじめとする産業高度化政策を推進する上で好都合だ。中国・タイ双方の利害が合致し、インフラやデジタル分野を中心にさまざまな投資プロジェクトが生まれた。既述のように、現状では、インフラ投資とデジタル投資では進捗と今後の展望に明暗が分かれるかたちとなっている。新型コロナウイルス感染収束に至る明確な見通しが立たない状況では、「一帯一路」構想との連携は今後しばらく、デジタル分野を中心に進むことになるだろう。


注1:
「中所得国のわな」を回避するためのターゲット産業への投資育成策「タイランド4.0」政策の中心地域。タイ湾東部3県(チャチュンサオ県、チョンブリ県、ラヨーン県)を指す。次世代自動車やスマートエレクトロニクス、デジタルなど10のターゲット業種の投資を定め、同地域にターゲット産業の投資が行われる場合、事業内容や共同研究、寄付、高度技術訓練などの特定活動に対して法人税が減免される。
注2:
最終的に、タイ石油最大手のPTT系列のPTTタンクターミナル社と、同じくエネルギー大手ガルフエナジーディベロップメント社を中核とし、中国港湾工程社が加わった企業連合のGPC社がタイ港湾公社(PAT)と契約を締結した。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
江田 真由美(えだ まゆみ)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、企画部企画課海外地域戦略班、イノベーション・知的財産部知的財産課を経て、2020年4月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ対日投資部対日投資課 課長代理
蒲田 亮平(がまだ りょうへい)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・バンコク事務所を経て、2021年から現職。

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