特集:コロナ禍後の新時代、中国企業はどう動く中国企業、カンボジアで圧倒的な存在感

2021年3月25日

カンボジアの対内直接投資統計で、中国は全体の約9割を占める。その分野も縫製業に加え、観光、インフラ分野に拡大している。本レポートでは、カンボジアにおける中国の対内直接投資統計を概観。その上で、カンボジアで圧倒的な地位を誇る中国企業の対カンボジア投資にかかわる状況をとりまとめた。

圧倒的な地位を占める中国企業の対カンボジア投資

カンボジアに、対内直接投資の統計は主に2種類ある。経済特区(SEZ)へ進出した投資案件をとりまとめた統計と、SEZ以外への投資案件をとりまとめたものだ。どちらも、投資適格案件(QIP:Qualified Investment Project)を対象とする。投資適格案件(QIP)とは、カンボジア開発協議会(CDC)または州・特別市投資小委員会(PMIS)が認可し、投資ライセンスを発行した投資案件を指し、自動的に優遇措置が付与される。

表1は、カンボジア開発評議会(CDC)が作成したQIP取得案件の金額割合順位表上位10位(SEZ内外を含む)の統計から、各国の投資割合によって投資額を算出したものだ。経済特区(SEZ)内とそれ以外、両方のQIPが含まれ、より実態に近いものになる。なお、この表の上では、便宜的にカンボジア企業による投資案件を削除した。

表1:カンボジアへの適格投資案件(QIP)の投資認可額 (単位:100万USドル)(—は値なし)
国・地域名 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2019年
構成比
中国 862 1,742 600 768 953 857 1,077 1,636 3,268 3,718 78.2%
英領バージン諸島 49 463 9.8%
日本 26 66 265 78 67 59 820 63 876 299 6.3%
タイ 131 214 34 54 166 16 51 73 1.5%
ベトナム 157 683 84 299 49 88 88 580 66 1.4%
シンガポール 16 75 50 35 100 109 260 18 30 0.6%
英国 2,443 15 21 44 138 22 55 15 26 0.6%
韓国 1,053 245 287 86 65 10 165 202 15 21 0.4%
オランダ 14 0.3%
総額 2,553 5,549 1,680 1,627 1,404 1,413 2,608 3,107 4,406 4,753

注1:10万ドル以下は四捨五入。
注2:金額が「‐」となっている箇所は、その年の上位10位に入っていないため割合、金額ともに不明。
出所:カンボジア開発評議会(CDC)

まず、2019年については中国が37億1,800万ドルで。全体の78.2%、国別で2位の英領バージン諸島と合わせると全体の約9割を占める。英領バージン諸島からの投資は、タックスヘイブンを利用する目的の中国企業による迂回投資と考えられる。

次に、2010年から2019年までのQIP投資認可額の推移を見た場合、中国は2012年以降、首位を維持し、他国を大きく引き離していることも分かる(注)。

直近2020年上半期のQIP認可額では、中国が11億2,400万ドル。対して、日本700万ドルだった。新型コロナウイルス感染拡大の影響などを受け、日本からの投資は2019年(2億9,900万ドル)から大幅減になった。一方、中国からの投資は2019年実績とほぼ同水準を維持したことになる。

中国企業の投資は縫製業に加え観光、インフラ分野へ

カンボジア開発評議会(CDC)の投資案件データによると、中国からの投資の大半が縫製業だ(図参照)。2011年で91.9%、その後も2017年まで中国からの投資の7〜8割が縫製業だった。カンボジア縫製業協会(Garment Manufacturers Association of Cambodia: GMAC)によれば、縫製業メンバー643社(2021年3月時点)のうち323社が中国系、53社が香港系、82社が台湾系、25社が日系となっている。

図:中国の対カンボジア投資案件における縫製業の割合(単位:%)
2010年は全体45件のうち、77.8%が非縫製業、22.2%が縫製業。 2011年は全体62件のうち、91.9%が非縫製業、8.1%が縫製業。 2012年は全体73件のうち、87.7%が非縫製業、12.3%が縫製業。 2013年は全体98件のうち、85.7%が非縫製業、14.3%が縫製業。 2014年は全体103件のうち、73.8%が非縫製業、26.2%が縫製業。 2015年は全体85件のうち、84.7%が非縫製業、15.3%が縫製業。 2016年は全体78件のうち、74.4%が非縫製業、25.6%が縫製業。 2017年は全体85件のうち、84.7%が非縫製業、15.3%が縫製業。 2018年は全体106件のうち、64.2%が非縫製業、35.8%が縫製業。 2019年は全体161件のうち、64.6%が非縫製業、35.4%が縫製業。

注1:年の下にある件数は中国からの投資件数の合計。
注2:カンボジア開発評議会(CDC)の中国投資案件データ(経済特区外)を、縫製業(衣服・靴・鞄・雨具・マスク・テントなどの諸製品、および編み物・糸加工・刺しゅう・染め物・洗浄・ラベリング・プリントなどの周辺業務を含む)とそれ以外に分類し作成。
出所:カンボジア開発評議会(CDC)

このように、中国企業の投資は縫製業が主力だ。この状況は現在も変化はない。一方で2018年以降、中国からの投資も縫製業以外が約35%を占めるまで拡大している。非縫製業分野では、従来、容器包装、プラスチック、金属加工、精米、家具、電気製品などの業種が目立っていた。しかし2018年以降は、これらの業種に加えて、新たに観光業(ホテル、観光地開発)やインフラ(高速道路、病院、商業センター、発電所)分野への進出が顕著になっている。

なお、中国企業の観光やインフラ分野への投資の背景には、中国のカンボジアに対する資金援助があるとみられる。IMFのレポートによれば、2018年末時点で、カンボジアの対外公的債務のうち約半分を、中国のインフラプロジェクトに対する借款が占めている。現地報道などに基づいて、中国企業が参加する主なインフラプロジェクトをとりまとめてみたのが、表2だ。国道、空港、高速道路の建設など、大型プロジェクトが多いことがわかる。

表2:中国企業が参画する主なインフラプロジェクト
プロジェクト 概要
シェムリアップアンコール新国際空港 約900百万ドル規模で進行中のシェムリアップ新国際空港プロジェクトは2020年12月までに30%完成済み。2021年末までに67%完成予定。中国のYunnan Investment Holdings社の出資により開始した。現在使用されているシェムリアップアンコール国際空港はフランスのVINCIグループとの独占契約により運営されているが、新空港はこれに取って代わることになる。
コッコン州
ダラサコール国際空港
コッコン州のダラサコール国際空港はほぼ完成し、2021年中旬から運用開始予定。この空港は中国のUnion Development Groupが受注。隣接する巨大リゾート施設ダラサコールリゾートと一体となった施設だ。ダラサコールリゾートはUnion Development Groupが開発した民間総合リゾートで、360平方キロという広大な敷地にクルーズハーバー、ゴルフコース、カジノ、ホテル等が入る。
プノンペン新国際空港 プノンペン新国際空港は中国のMetallurgical Group Corporation of China社(MGC)が受注してカンダール州に建築中。2025年までの完成を目指している。
国道3号線改修工事 219百万ドルの予算で実施されているプノンペン市とカンポット州をつなぐ国道3号線の改修工事は、2020年10月時点で89%まで完成。2021年中に完成予定。このプロジェクトの予算はカンボジアの国家予算に加えて中国からのローンで賄われている。China Road and Bridge社が建築を請け負い、Guangzhou Wanan Construction Supervision社がテクニカルアドバイザーを務めている。
国道41号線、国道31号線、国道33号線 改修工事 2020年に発表されたカンポット州の国道改修工事。中国のChina Road and Bridge 社が受注。
シアヌークビル146号線 2020年4月、シアヌークビル港から内陸部をつなぐ146号線の建築が開始された。予算76百万ドル、予定工期28カ月、全長43キロ。国道4号線のプレイノップ郡ヴィエルレント地区ヴィエルトム村から派生してシアヌークビル港までを繋ぐ新しい道路で、シアヌークビル港の物流効率化が期待される。このプロジェクトは中国の支援で実施され、China Road and Bridge社が受注した。
バッタンバンからコッコンをつなぐ国道10号線新設工事 2020年3月、バッタンバン州からプルサット州を経由してコッコン州へ至る国道10号線の新設が発表された。全長198.71キロ、予算188.38百万ドルと見積もられ、中国からの資金援助、China Road and Bridge Corporationによる建築、Guangzhou Wanan Construction Supervision社による技術検査により、48か月間で実施される見込み。
プノンペン・シアヌークビル高速道路プロジェクト プノンペンとシアヌークビルをつなぐカンボジア初の高速道路計画は、2020年11月時点で約26%まで完了。2022年前半の完成を目指している。全長190キロ。カンボジア政府、China Road and Bridge社、中国開発銀行(CDB)の資金援助により2019年3月に着工 。

出所:各種報道からジェトロ作成

観光分野では、ホテルや観光施設、商業施設などでの進出が多い。最近の事例としては、中国人観光客も多いシアヌークビル州におけるXigang V-Continent International Investment社による2億2,600万ドル、Hai Gang Grand Hotel社による1億5,300万ドル規模の5つ星ホテル建設プロジェクトや、Prince Real Estate Group社によるシアヌークビルの沿岸部で大規模な観光複合施設「リアムシティー」の開発、首都プノンペンでの商業施設「プリンススクエア」建設などがある。

一帯一路構想のモデル事業、シアヌークビル経済特区

シアヌークビル経済特区は、カンボジアの経済特区の中でも最大規模で、カンボジア・中国両国政府から「一帯一路」構想のモデル事業に認定されている。同経済特区開発業者は、中国の江蘇太湖カンボジア国際経済合作区投資社とカンボジアのCambodia International Investment Development Group社(CIIDG)による合弁会社だ。前者は江蘇省無錫の開発企業で、江蘇省を中心に同経済特区への誘致活動を実施する。また、後者はカンボジア地場の開発企業で、発電所の建設なども手掛ける。

同経済特区は1,100ヘクタールの敷地に300社が入居可能で、現地報道では現在165社が入居しているという。カンボジア開発評議会(CDC)のデータによれば、同経済特区には、107社の中国系企業が入居中だ。新型コロナウイルス感染が拡大した2020年にも、同経済特区は業績を伸ばした。同年2月にはラオスの食品製造工場、6月にスイスの眼鏡製造工場、8月にフランスの鞄製造工場などが新規進出した。2020年に同経済特区で輸出入されたコンテナ数は前年比22.1%増。輸出入金額は、26.13%増の9億5,000万ドルに達するという(「クメールタイムズ」2021年10月1日)。


シアヌークビル経済特区外観と同特区内の繊維縫製工場(ジェトロ撮影)

デジタル・通信分野でも進む中国企業の進出

デジタル・通信分野でも、今後、中国企業のカンボジア進出が加速する可能性がある。通信分野では、2019年3月にカンボジア政府が華為技術(ファーウェイ)と第5世代移動通信システム(5G)の導入・普及に関する覚書を締結。2020年1月には、同社がカンボジアに5Gの器材と技術トレーニングを提供するとの覚書も締結されている。中国系通信企業のキングテル・コミュニケーションズは2020年3月、カンボジアで5Gの試験運用が成功を収めたと発表。同社は華為技術と協力し、今後2~3年でカンボジアの3,000カ所に5G基地局の設置を計画する。

そのほかキャッシュレス決済の分野でも、中国のアリペイが2017年12月にパイペイと、2019年11月にダラペイと提携したことが話題となった。パイペイとダラペイは、カンボジアの有力な電子マネー決済プラットフォームの運営企業だ。パイペイとダラペイが利用可能な店舗でアリペイの利用が可能となった。

現地報道には中国の進出を警戒する見方も

前述のとおり、カンボジアの様々な分野に中国企業が進出する。その一方で、カンボジアで存在感を強める中国に対し、懸念を示す声も上がっている。現地報道では、中国からの投資で利益を受けるカンボジア人は、中国人相手のビジネスオーナーや土地所有者など、一部の特権階級に限定されている。中国企業はカンボジア人労働者を雇う代わりに中国から労働者を連れてくるため、不満をもつカンボジア人が多い、との見方を伝えている。中国企業とカンボジア企業の交流は限定的で、カンボジア労働者の技術向上につながっていない。縫製業のように中国企業が支配的な業界ではむしろ弱体化につながっている、との指摘もある(ドイチェ・ヴェレ、2019年8月22日)。

2018年末時点で、カンボジアの対外公的債務のうち約半分が中国からの借款に対する債務となっている。こうした中国依存の高まりは今後、例えばシアヌークビルの深海港のような戦略拠点の貸し出しを迫られる可能性〔債務の罠(わな)〕もあるとの懸念も提起されている(イーストアジアフォーラム、2020年12月26日)。

カンボジアにとって中国は、貿易・投資の両面で最も重要な戦略的・経済的パートナーだ。今後も安定的に資金、技術、ノウハウの提供を期待できる唯一のビジネスパートナーとして期待を寄せる。一方で、中国にとってカンボジアは、ASEANにおける「橋頭堡(ほ)」、また一帯一路政策のパートナーとして重要な位置を占める。

政治主導で深化するカンボジアと中国との経済関係が、カンボジアに進出する日本企業にどのような影響を与えるのか、協業のビジネスチャンがあるのか、今後も状況を注視する必要がある。


注:
2011年は、英国からの投資が24億4,300万ドルで1位だった。しかし、そのほぼ全額がカンボジア現地企業のロイヤルグループにより出資され、ケイマン諸島を経由した投資案件だった。そのため実質的には、同年も中国が1位とみられる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 中国北アジア課
友田 大介(ともだ だいすけ)
2001年4月ジェトロ入構。貿易開発部産業振興課、青森貿易情報センター、海外調査部調査企画課、ビジネス情報サービス部人材開発支援課、ジェトロ・ソウル事務所などを経て2018年9月より現職。

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