特集:コロナ禍後の新時代、中国企業はどう動く中国企業数は2015年の2.2倍(カザフスタン)
鉱業資源の活用に注目

2021年3月12日

カザフスタンは、中国の新疆ウイグル自治区と長い国境を接する隣国で、中国政府が力を入れて推進する「一帯一路」構想の沿線国にあたる。両国は近年良好な外交・経済関係を維持してきた。「一帯一路」構想が本格的に動きはじめた2015年と比較すると、カザフスタンでの中国企業の存在感は高まった。両国間の貿易も拡大している。

本稿では、企業数統計、投資統計、貿易統計を通じて、一部日本などとの比較も用いながら、近年の中国企業のカザフスタンでの展開状況や、中国とカザフスタンの貿易動向などを概観する。前編、後編の2回に分けて紹介する。

カザフスタンの中国企業数は2015年から2020年で2.2倍

習近平国家主席は2013年9月7日、中央アジア歴訪時にカザフスタンのナザルバエフ大学での演説で「シルクロード経済ベルト」を提起した。また、同年10月3日のASEAN歴訪時には「21世紀海上シルクロード」を提起。以後、両者は「一帯一路」構想と呼ばれ、中国の重要な国家戦略として展開されてきている。中国商務部などの「2019年度中国対外直接投資統計公報」によると、「一帯一路」沿線国として掲載されている63カ国のうち、カザフスタンは、2019年末までの中国からの投資金額順(ストック)で第7位だ。中国からの「一帯一路」沿線国への投資の4.0%の割合を占めている。ちなみに、上位6位はシンガポール(構成比:29.3%)、インドネシア(8.4%)、ロシア(7.1%)、ラオス(4.6%)、マレーシア(4.4%)、アラブ首長国連邦(4.3)%の順になる(表1参照)。

カザフスタンは、中国の新疆ウイグル自治区と長い国境を接する。また、中国とは近年良好な外交・経済関係を維持している(本特集「中国・カザフスタン関係の展開と課題」参照)。また、「⼀帯⼀路」構想を受けて、施設・インフラの相互連結でも進展が見られる(この相互連絡は、5つある「協力の重点」に含まれる)。中国と欧州を結ぶ貨物鉄道「中欧班列」の運行は、年々増加。カザフスタンを通過する「西通路」はそのメインルートの位置づけだ(本特集「鉄道・インフラ建設や資源分野で、中国企業に存在感(中国、カザフスタン)」参照、注1)。中国とカザフスタンでは、鉄道の軌道幅が異なり積み替え作業が必要になることから、近年、中国とカザフスタンの国境に位置するホルゴス・ドスティクの物流ハブ整備が進んだ。また、パイプラインを通じて、中国へ石油・天然ガスを輸送している。カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領の中国公式訪問時(注2)にあわせ、9月12日には両国の共同声明が出された。その中で、協力を拡大する分野として国際鉄道輸送や石油・ガス、原子力・再生エネルギーなどのエネルギー協力の拡大などが挙げられた(注3)。

表1:中国企業の「一帯一路」沿線国への投資(ストック)(単位:万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域 フロー ストック 構成比
合計 1,869,068 17,946,595 100.0
1 シンガポール 482,567 5,263,656 29.3
2 インドネシア 222,308 1,513,255 8.4
3 ロシア △ 37,923 1,280,397 7.1
4 ラオス 114,908 824,959 4.6
5 マレーシア 110,954 792,369 4.4
6 アラブ首長国連邦 120,741 763,567 4.3
7 カザフスタン 78,649 725,413 4.0
8 タイ 137,191 718,585 4.0
9 ベトナム 164,852 707,371 3.9
10 カンボジア 74,625 646,370 3.6
11 パキスタン 56,216 479,798 2.7
12 ミャンマー △ 4,194 413,445 2.3
13 イスラエル 19,168 377,502 2.1
14 インド 53,460 361,009 2.0
15 モンゴル 12,806 343,054 1.9
16 ウズベキスタン △ 44,583 324,621 1.8
17 イラン △ 5,917 305,562 1.7
18 サウジアラビア 65,437 252,773 1.4
19 タジキスタン 6,961 194,608 1.1
20 トルコ 2,883 186,786 1.0

注:「2019年度中国対外直接投資統計公報」に掲載の63カ国のうち、ストックの金額順上位20カ国を抜粋。
出所:商務部・国家統計局・国家外貨管理局「2019年度中国対外直接投資統計公報」

中国の国家発展改革委員会と外交部、商務部は2015年3月28日、「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設推進におけるビジョンと行動」を共同で公表。「一帯一路」構想の展開が本格化した。カザフスタン国民経済省統計委員会の「カザフスタンにおける外国投資を伴う法人、同支店、および外国法人の支店(稼働ベース)」によると、同年1月1日時点で中国の拠点は581に過ぎなかった(外国全体では8,289、表2参照)。

しかし、2020年10月1日時点で中国の拠点数は2.1倍の1,239。ちなみにカザフスタンの外資誘致への積極的な取り組みもあり、外国全体も2万1,812へと急拡大している。ここでは、ロシア(注4)とトルコ(注5)を比較してみる。2020年10月1日時点での拠点数は、ロシア(7,397)、トルコ(2,474)とともに中国を上回り、依然として大きな存在感だ。しかし、2015年1月1日時点からの伸び率はそれぞれ30.9%増、51.5%増。中国の伸びを大きく下回っている(注6)。ちなみに、中国と同じ東アジアの日本と韓国をみてみると、その規模は2020年10月1日時点でそれぞれ41と440と小さい。かつ2015年1月1日時点からの比較では日本は22.6%減少し、韓国も18%増にとどまる。

表2:カザフスタンにおける外国投資を伴う法人、同支店、
および外国法人の支店(稼働ベース)(△はマイナス値)
国名 2015年1月1日時点 2020年10月1日時点 増減率
合計 8,289 21,812 163.1
中国 581 1,239 113.3
日本 53 41 △ 22.6
韓国 373 440 18.0
ロシア 5,649 7,397 30.9
トルコ 1,633 2,474 51.5

出所:カザフスタン国民経済省統計委員会

資源活用に注目が集まる

2020年10月1日時点で、カザフスタンで展開する中国企業を業種別にみると、上位5分野は、(1)卸・小売り、自動車・バイク修理(461)、(2)その他サービス(183)、(3)建設(161)、 (4)鉱業(100)、 (5)製造(77)だ(表3参照)。なお、外国企業全体の上位5分野は、(1)卸・小売り、自動車・バイク修理(8,646)、(2)その他サービス(2,644)、(3)建設(2,236)、 (4)専門・科学技術(1,643)、 (5)製造(1,177)。第4位以外は同様の順位となった。

中国および外国企業全体とも、最多が「卸・小売り、自動車・バイク修理」だ。自動車・バイク修理は大きくなく、卸・小売りがメインと考えられる。個人経営など含め小規模な企業が展開しやすいのが首位になっている理由と推察される。差異がみられた第4位の「鉱業」については、どうか。カザフスタンは石油、天然ガス、非鉄金属などの資源大国で、地理的近接性から中国が多くの資源をカザフスタンから輸入していることと関係があるとみられる(本特集「新型コロナが中国・カザフスタン間の投資・貿易に影響」参照)。ちなみに、カザフスタンの石油埋蔵量は300億バレル(世界の1.7%)、天然ガス埋蔵量2兆7,000億立方メートル(世界の1.8%)とされる(注7)。そして、ウランの埋蔵量は世界の18%、クロムは10%、亜鉛8%、マンガン5%、銅5%と開発のポテンシャルも大きい(注8)。「⼀帯⼀路」構想本格化以前から、中国企業は、大手石油メジャーなどを中心にカザフスタンでビジネスに取り組んできた経緯もある(本特集「鉄道・インフラ建設や資源分野で、中国企業に存在感(中国、カザフスタン)」参照)。

近年も、資源関連では、中曼石油天然ガスの関連会社が2018年8月にカザフスタンのTNG Holding LLP(注9)の90%の権益を取得した案件、中国有色金属建設の全額出資子会社(NFC)が2019年7月にKoksay銅プロジェクトの権益(19.4%)を7,000万ドルで取得した例(注10)、などがある(注11)。このほかの近年の事例をみると、2018年4月に中信銀行が中国煙草総公司傘下の双維投資と共同で、カザフスタンのHalyk Bankの子会社Altyn Bankの株式60%を取得した案件、2019年5月に中国通用技術集団傘下の中国機械輸出入(集団)と安徽江淮汽車集団がカザフスタンの自動車工業グループAllurの株式51%を取得した案件、などがあった(注12)。

表3:カザフスタンにおける外国投資を伴う法人、同支店、および外国法人の支店(稼働ベース、2020年10月1日時点)
項目 日本 韓国 中国 ロシア トルコ
社数 構成比 社数 構成比 社数 構成比 社数 構成比 社数 構成比 社数 構成比
21,812 100.0 41 100.0 440 100.0 1,239 100.0 7,397 100.0 2,474 100.0
農林水産 198 0.9 0 0.0 6 1.4 23 1.9 52 0.7 20 0.8
鉱業 421 1.9 0 0.0 2 0.5 100 8.1 68 0.9 13 0.5
製造 1,177 5.4 1 2.4 11 2.5 77 6.2 359 4.9 230 9.3
電気・ガス・水道 80 0.4 0 0.0 0 0.0 8 0.6 15 0.2 2 0.1
水供給、ゴミ回収・処理・焼却、汚染物 77 0.4 0 0.0 0 0.0 9 0.7 36 0.5 2 0.1
建設 2,236 10.3 3 7.3 87 19.8 161 13.0 642 8.7 648 26.2
卸・小売り、自動車・バイク修理 8,646 39.6 15 36.6 128 29.1 461 37.2 3,621 49.0 748 30.2
運輸・倉庫 906 4.2 1 2.4 12 2.7 21 1.7 371 5.0 59 2.4
宿泊・飲食サービス 588 2.7 0 0.0 22 5.0 21 1.7 89 1.2 173 7.0
情報・通信 608 2.8 1 2.4 10 2.3 14 1.1 265 3.6 36 1.5
金融・保険 528 2.4 0 0.0 5 1.1 26 2.1 147 2.0 32 1.3
不動産 618 2.8 0 0.0 24 5.5 17 1.4 243 3.3 43 1.7
専門・科学技術 1,643 7.5 3 7.3 36 8.2 71 5.7 460 6.2 80 3.2
管理・同分野サポートサービス 656 3.0 1 2.4 13 3.0 21 1.7 253 3.4 62 2.5
行政・国防・社会サービス 1 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 1 0.0 0 0.0
教育 369 1.7 0 0.0 6 1.4 6 0.5 97 1.3 25 1.0
保健・国民向け社会サービス 221 1.0 1 2.4 10 2.3 14 1.1 82 1.1 14 0.6
芸術・レクリエーション 194 0.9 0 0.0 3 0.7 6 0.5 80 1.1 6 0.2
その他サービス 2,644 12.1 15 36.6 65 14.8 183 14.8 515 7.0 281 11.4
カザフスタン領土外の組織・団体の事業 1 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 1 0.0 0 0.0

出所:カザフスタン国民経済省統計委員会

ちなみに、日本からの上位5分野は、(1)卸・小売り、自動車・バイク修理(15)、(1)その他サービス(15)、(3)建設(3)、 (3)専門・科学技術(3)、 (5)製造(1)などで、外国企業全体の上位5位と同じだった(注13)。

把握できた範囲で日本企業の具体的な事例をみる。例えば、住友商事などが国営原子力公社カザトムプロムと合弁会社を設立し、ウランの採掘・輸出事業を手掛ける例がある。このほか、丸紅などもカザトムプロムと合弁会社を設立し、ハラサン・ウラン鉱山で操業(注14)。また、2020年7月、日立建機の関連会社Eurasian Machinery LLPが、中央アジアの鉱山機械市場における技術サービス体制を拡充するため、カザフスタンのカラガンダに基幹部品となるコンポーネントの修理センターを設立した(注15)。中国企業の展開と同様に、豊富な鉱業資源に関連する展開事例である。

なお、資源関連では、カザフスタンのアティラウ製油所の近代化プロジェクト第3フェーズ案件(ユーロ5規格への品質改善のため)のプラント設計・調達・建設(EPC)契約を、丸紅、中国石化集団煉化工程(SINOPEC Engineering)およびKazStroyService(カザフスタン)のコンソーシアムで2011年に受注し、手掛けた案件があった。丸紅などが完工した第1フェーズ案件の実績とカザフスタン企業の日本製品に対する高い信頼性が結実した結果だ。この案件は、日本側が機器調達、中国側がEPC事業の提供という補完関係を形成し受注した日中協力案件としても知られる。

また、1人当たりGDPが約1万ドルの市場を狙った自動車関連事例もある。例えば豊田通商は、トヨタ自動車の車両、部品の販売・サービスを手掛ける。このほか、トヨタファイナンシャルサービスが自動車の販売金融を展開。あいおいニッセイ同和損害保険もトヨタ車の購入客に対して保険を提供している。なお、カザフスタン国民には「トヨタ車信仰」があるとの指摘もある。

この他、横河電機が工業計器、計測器など、マキタが電動工具など、理想科学工業が印刷機器製品の販売、東京製綱がエンジニアリング製品の製造および販売を手掛ける。日本たばこ産業(JT)の海外事業を統括する子会社JTインターナショナルもアルマトイに工場を持ち、カザフスタンをはじめ中央アジアやモンゴルに商品を販売する。

ただし、前述の通り、2015年1月1日時点と2020年10月1日時点を比較すると日系企業数は減少している。自動車の組み立て、コンビニ展開で撤退したケースもみられた。カザフスタンは前述のように資源大国だ。中央アジアの中では、経済レベルが高く市場規模が最も大きい国として注目されている。その一方で(2018年3月2日付地域・分析レポート参照)、近年改善の声も聞かれるものの、腐敗行為の存在や他国企業との競争激化なども見られる。そのため、日本企業にとってはビジネス展開が困難な市場環境との指摘もある。


注1:
このほかにも、「中通路」(内モンゴル自治区エレンホト(二連浩特)経由でモンゴルに抜けるルート)、「東通路」(内モンゴル自治区満州里経由ロシアに抜けるルート)がある。
注2:
公式訪問日程は、2019年9月11~12日。
注3:
「新華網」2019年9月12日。
注4:
ロシアは近隣国で、ともにユーラシア経済連合(EEU)の一員。ソ連邦であったという歴史的つながりもある。カザフスタンにとって、政治面・経済面で重要であることは間違いない。なお、カザフスタンでは、ロシア系民族が国民の2割を占める。
注5:
トルコはカザフスタンと地理的に近い。カザフスタン国民の約7割を占めるカザフ系は、トルコに通じるテュルク系民族でもある。
注6:
2020年11月1日時点の外国企業数(活動実態有ベース)は2万2,127に達しているが、上位5位をみると(1)ロシア(7,445)、(2)トルコ(2,588)、(3)中国(1,241)、(4)キルギスタン(1,225)、(5)ウズベキスタン(1,200)の順となった。
注7:
外務省ウェブサイトのカザフスタン基礎データ(元はBP統計で2019年)。
注8:
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構「世界の鉱業の趨勢 2013 カザフスタン共和国」。少し前のデータである点は、注意が必要。
注9:
100%子会社にTenge Oil&Gasがある。同社は石油プロジェクトを有する。
注10:
Koksay銅プロジェクトは、カザフスタンで探鉱事業を展開する大手KAZ Mineralsの関連会社が有する。
注11:
トムソン・ワンデータベース、「証券時報」2018年6月23日、2018年12月23日、2019年7月5日。
注12:
世界貿易投資動向シリーズ2019年版「中国」。
注13:
鉱業関連のビジネスを展開している企業があるが、鉱業が0となっており、分類が不明瞭な点はある。
注14:
日本企業の事例は、各社ウェブサイト、東洋経済「海外進出企業総覧[国別編]2020年版」、一般財団法人海外投融資情報財団「海外投融資」2015年7月号「丸紅、カザフスタン共和国・アティラウ製油所近代化」などを参考に記載。
注15:
Eurasian Machineryは、建設機械の販売・サービスを手掛ける。アルマトイに拠点を置いている。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジアチーム、ジェトロ岡山、北京センター、海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・北京事務所を経て、2018年8月より現職。