特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣海なし県企業の挑戦、日本の食文化を世界へ/外食チェーンRDC(埼玉県)

2022年8月18日

「がってん寿司」をはじめ、さまざまな外食チェーンを展開するRDC(アールディーシー)。現在、中国や韓国、台湾、フィリピンを中心に、グループ全体で合計40店舗(中国8、韓国18、フィリピン6、台湾6、ベトナム2)を出店し、今後も海外進出拡大を目指す。同社の海外展開の取り組みについて、アールディーシー海外事業部メンバーに話を聞いた(2022年4月19日)。

日本の素晴らしい食文化を海外へ広げたい

質問:
貴社の概要と海外ビジネスに取り組むきっかけは。
答え:
1986年に創業し、翌87年に埼玉県寄居町に前身の「元禄寿司」1号店をオープンした。それ以降、グループを代表するグルメ回転ずし店舗の「がってん寿司」をはじめ、ラーメン店やとんかつ店などにも業態を広げ、埼玉県内のほか、東日本を中心に多数のブランドを展開している。RDCとは「Reasonable & Delicious for Customers」の頭文字を取ったもので、「お客さまにリーズナブル、かつおいしい食・サービスを提供する」を意味する。企業理念には、創業以来の「手の届く贅沢(ぜいたく)の追求」を基本としつつ、時代の変化に応じて少しずつ変え、現在は「Good Person」(素晴らしい人)、「Good Company」(素晴らしい仲間)、「Good Future」(素晴らしい未来)の3つを掲げる。
2008年、創業者の「海なし県である埼玉県から、海外の人にも日本のおいしいすしを食べてほしい」との思いの下、中国の上海に回転ずし業態の「がってん寿司」1号店をオープンした。日本の食文化を正しく現地に広めたいとの考えから、苦労してでも100%独資による直営店形式の進出を選んだ。直営店形式の展開では、特に新鮮な食材の安定調達のため現地サプライヤーとの関係強化や、物流の効率化などが課題だった。その後、韓国ソウル、米国ロサンゼルスにも直営店を設ける一方、海外展開のノウハウが蓄積されてきたところで、現地資本によるフランチャイズ(FC)形式の店舗も開店した。
海外店舗では、現地で調達でき、日本産と品質の変わらない食材などはコストを抑えるため現地仕入れとしている。例えば、すしに使う米は現地調達とし、しょうゆや酢などの調味料は基本的に日本から輸出する形態を取る。すしネタは国によって好みが異なり、例えば韓国では白身魚や貝類が好まれる傾向にある。多様な現地ニーズに対応するため、加工先を分散させて多数の調達ルートを確保し、ラーメン店でも、例えばフィリピンでは濃い味の方が好まれるため、現地消費者の嗜好(しこう)に合わせることで高い人気を得ている。

韓国のがってん寿司外観(アールディーシー提供)
質問:
海外展開に当たっての重要なポイントは。
答え:
初めての海外進出時は、直営店方式で展開することで、国内で培ったノウハウサービスを正しく普及させる狙いがあったが、出店調査などに時間とコストがかかり、機動性が失われたところがあった。試行錯誤を繰り返す中で、地場に根付いた人材・経営資源を活用した方が効率的で持続可能性も高いのではないかとの考えに至り、徐々にFC形式へ変更していった。海外では、主にショッピングモールなどの商業施設内に出店している。
FC形式での展開に当たって最も重要なことは、信頼できる現地パートナー選びだ。その点、もともと日本の食文化に高い関心を持つところと提携関係を構築できており、協業先に恵まれていると感じている。パートナー選定に当たっては、自らの足で現地に赴き、市場調査や候補先との対面面談を行うようにしている。2017年に「シンガポール・フランチャイズショー」に出展し、現地パートナーを探したことがあったが、候補企業10社と商談を行ったうち、継続商談につながるのは2社(2割)ぐらいの割合だ。
現地店舗ですしを握るのもローカルスタッフに任せている。備品やユニフォームは国内店舗と同じものを使用し、スタッフのスキルアップやモチベーション向上の仕組みづくりを行っている。毎年実施している年1回の社員総会では、すしの早握りコンテストを実施し、これには海外店舗ですしを握る外国人スタッフも参加し、優勝者は当社代表として日本回転寿司協会が主催するコンテストへの出場権を得る。また、店舗単位で接客サービスや調理技術を競うコンテストも併せて実施しており、優秀店舗には社内表彰を行うことでモチベーション向上につなげている。
一方、日本の高付加価値サービスを定着させるため、現地店舗スタッフの人材育成にも注力する。今は新型コロナウイルス感染症の影響で難しい状況だが、以前はスタッフを県内にあるトレーニングセンターに呼び寄せて、店舗でのオペレーションや接客サービス、衛生管理などについて3~4カ月間のトレーニングを行い、ノウハウを身に着けてもらっていた(現在はリモートで実施)。また、海外店舗の衛生環境などを確認するため、日本から責任者を定期的に現地へ出張させ、指導に当たっている。このように、接客サービスを含めて品質管理を徹底していることが当社の強みと言える。

上海のスタッフ(アールディーシー提供)
質問:
新型コロナウイルスによる影響や、今後の海外ビジネス展望は。
答え:
新型コロナウイルス感染拡大による影響から、ロサンゼルスの店舗を閉鎖したり、ロックダウンによって上海の店舗の売り上げにも影響が出たりしている。ただ、海外店舗の方が日本よりも客単価が10~15%ほど高く、消費者の所得向上に伴い、高いお金を払ってでも高付加価値でおいしい日本の食事を食べたいというニーズが高まりつつあるのを感じる。少子高齢化で国内市場の縮小が見込まれる中、海外マーケットの取り込みは必須だと考えている。
創業者が環太平洋地域での店舗展開を志向していたこともあり、今後は香港やシンガポールなど、まずはアジア地域での店舗拡大を検討している。海外のアッパーミドル層をターゲットに「手の届くぜいたく」を味わってもらうため、「日本のグルメ回転ずしと言えば『がってん寿司』」と認知されるよう、これからもブランド力を高めていきたい。
執筆者紹介
ジェトロ埼玉 係長
清水 美香(しみず みか)
2010年、ジェトロ入構。産業技術部産業技術課/機械・環境産業部機械・環境産業企画課(当時)、海外調査部中東アフリカ課、海外調査企画課を経て、2021年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロお客様サポート部お客様サポート課
加藤 亮太郎(かとう りょうたろう)
2022年、ジェトロ入構。同年4月から現職。
執筆者紹介
ジェトロビジネス展開・人材支援部ビジネス展開支援課
角岸 右京(かどぎし うきょう)
2022年、ジェトロ入構。同年4月から現職。

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