特集:AIを活用せよ!欧州の取り組みと企業動向製造業大手を中心に進むAI導入(ドイツ)

2019年5月17日

ITの産業団体であるドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会(BITKOM)によれば、ドイツ企業は人工知能(AI)活用に対し、現状、まだ消極的だ。50人以上の従業員を持つドイツ企業の4社に1社のみが、AIに興味を持っていると述べている。また、職場でAIを活用している人の割合を比較した調査結果〔米国ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)〕によれば、ドイツではAIの普及が中国や北米のみならず、英国など他の欧州諸国の中でもやや遅れているという状況。一方で、AI主要研究機関や大企業では、古くから研究開発に力を入れ取り組んでいるところも多く、数年前から外資系大企業が新たにドイツへAI研究施設を設ける事例も増えるなど、AI分野の研究や投資は活発化している。

AIの活用について前向きだが、用心深く分析

BITKOMが2017年および2018年に実施したドイツの16歳以上の市民を対象としたAIに関するアンケート結果によると、AIの認知度を問う質問に対して、85%が「聞いたことがある」と回答しており、前年の73%から12ポイント上昇した。また、62%が「AIはチャンス」と回答しており、前年の48%よりも14ポイント増加しており、AIに対して前向きなイメージを持つ市民が増えている。改善が期待される内容として、「渋滞の緩和」や「工場での重労働」が挙げられ、今後、AIの活用を希望する分野として、「高齢者のサポート」、「医師のサポート」や「公的機関の管理業務」が挙げられた。一方、AI活用を脅威ととらえる住民も存在しており、AI活用による脅威として、「AIは権力・職権乱用や人の心情、判断を操作することを助長しうる」、「AIにはプログラマーの偏見が反映される」、「AIは事実に基づく意思決定だと思わせる」との意見を持つ市民もいる。また、9割の住民が「小さな子供の世話」にAIを活用することを拒否。「孤独な人の話し相手」や「学校や大学の教師」としてのAI活用にも6割が否定的。また、職場におけるAI活用に否定的な理由としては、問題が発生した場合「責任の所在が不明確」が最も頻繁に挙げられている。このことから、ドイツでは、感情を伴わない機械的な作業へのAI活用には肯定的であることがわかる。

南部での大手企業と大学による産学連携が活発

企業によるAIの活用も、現状は、大きく進んでいない。BITKOMによるドイツ企業へのアンケート結果によると、50人以上の従業員を持つドイツ企業の4社に1社しかAIに興味がないという結果が出ている。これは、AIに限らず、新技術がまずは大企業で導入されることが一般的であり、ドイツには中堅・中小企業の数が非常に多いこともあり、AI活用があまり進んでいない一因とみられる。

一方、大企業はAIの活用を積極的に進めている。世界知的所有権機関(WIPO)が、2019年1月に発表した資料によると、これまでのAI関連特許の申請数で、ドイツ企業は、インダストリー4.0(注1)の有力企業であるシーメンスが11位、自動車部品大手のロバート・ボッシュが21位に入っている。また、フラウンホーファー研究機構によると、応用分野別の機械学習(注2)の特許出願件数では、画像・映像処理分野でシーメンスが世界で3位、信号処理分野でボッシュが3位についている。そのほか、ドイツ企業ではドイツテレコム、ダイムラー、BMWの特許出願件数が多い。米国や中国では、IT・インターネット企業や通信企業がAI分野で有力だが、ドイツでは伝統的な製造業の企業がAIをリードしている。

ドイツ国内の集積を見ると、製造業が多く集積し、経済規模の大きいノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州、バーデン・ビュルテンベルク(BW)州、バイエルン州の3州に、AI分野で先行する研究機関や地場大企業、外資系大企業が集中しており、研究や投資が活発化している。

ダイムラーやフォルクスワーゲン(VW)、ロバート・ボッシュなどの自動車関連大手が本社を構えるバーデン・ビュルテンベルク(BW)州のシュトゥットガルトからチュービンゲン地域にかけて、「サイバーバレー(Cyber Valley外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )」というクラスターがある。2017年にBW州が資金提供し、機械学習、ロボット工学、コンピュータビジョン(注3)などのAI分野を研究している。同地域には企業のみならず、マックスプランク・インテリジェントシステム研究所、チュービンゲン大学、およびシュトゥットガルト大学などの優れた研究・教育ネットワークが存在しており、こうした高等教育・研究機関も、ダイムラー、ポルシェ、ロバート・ボッシュ、およびZFフリードリヒスハーフェン(自動車部品)などと研究開発に参加している。


優秀な研究者を輩出するチュービンゲン大学(同大学提供)

また、BMWやアウディ(自動車)、シーメンス(電機・エンジニアリング)などの世界的な大手メーカーが集積するドイツ南部のバイエルン州も、ミュンヘン工科大学をはじめとした優れた研究・教育機関があり、AI研究が盛んな地域だ。例えば、ミュンヘン工科大学の関連団体として設立され、起業家の育成や事業の成長を支援するウンターネーマー・テゥーム(UnternehmerTUM)には、AIの応用に焦点を当てた「appliedAI」というイニチアチブがあり、教育やワークショップを通じての専門性の引き上げ、実証、知識共有などを行っている。2016年、クラウド内のデータ保護、データセキュリティ、およびAI用のソフトウエア製品の開発拠点として、同地に進出したグーグルは2018年2月に、ウンターネーマー・テゥームとパートナーシップを締結したことを発表しており、若手研究者育成のために、100万ユーロを同大学に寄付したほか、今後3年間で、「appliedAI」に対して、資金投入、研究開発のための設備や機器の提供、専門人材派遣による支援の形で25万ユーロ分の投資をしていく予定だ。AI分野の研究・開発において、産学連携はキーとなっている。


appliedAIのスタートアップ企業のミートアップ
(情報共有・ネットワークのための会合)(appliedAI提供)

そのほか、ドイツにおけるAI研究をリードする研究機関や民間企業の例として、表1のような企業や機関がある。

表1:ドイツの主なAI分野のキープレーヤー
研究機関名/所在地 概要・プロジェクトなど
ドイツ人工知能研究センター(DFKI)/ザールラント州 1988年設立、ドイツのAI分野研究を主導する中核的な研究センター。官と民が出資する非営利有限会社。応用を念頭に置いた基礎研究を進めており、情報通信技術の分野で機能の開発、プロトタイプ開発および特許化など行う。研究開発プロジェクトは、19の研究部門と研究グループ、8つのコンピテンスセンター(注4)、8つのリビングラボ(注5)で行われている。
ロバート・ボッシュ/BW州 自動車部品大手。AIの技術開発に積極姿勢を打ち出す。2017年初めに、最先端のAIテクノロジーをボッシュの製品やサービスに展開してソリューションを生み出すために、ボッシュ人工知能センターをドイツ南部のレニンゲンに設立。
アマゾン/BW州 2017年10月、チュービンゲンにAI研究施設の開設を発表。また、AI研究に取り組むシーメンスと提携と提携し、IoT(モノのインターネット)向け基本ソフトをアマゾン・ウェブ・サービスを通じて提供することで、工場デジタル化市場での地位強化を狙う。
IBM/バイエルン州 米国IT大手。グローバルIoT本社を2015年にミュンヘンに設立しており、2017年2月には、2億ユーロを投じ、フランス金融大手のBNPパリバ、米国電子機器部品のアヴネット、フランスITコンサルティングのキャップジェミニ、インドのテック・マヒンドラといった企業も入居するIoT研究開発施設を開所。専門家1,000人が業務に当たり、IBMの顧客であるBMWなどの企業とのIoTや人工知能などによる協業を推進する。
マイクロソフト/バイエルン州 米国IT大手。米国や中国に続く、欧州・中東・アフリカIoT&AI拠点として、2017年4月にミュンヘンにIoT・AIインサイダー・ラボを設立。スタートアップ企業は同社の持つAI技術を活用し、また専門的アドバイスを受けることによって、製品やサービスの試作などを支援、成長を後押しする。

出所:各社ウェブサイト、各社発表および報道などからジェトロ作成


注1:
製造業のデジタル化を推し進めるドイツの産業政策。
注2:
プログラムでの指示ではなく、コンピュータ自体に学習させ、新たな判定やそれに対応する行動などを自動的に実施できるようにすること。
注3:
コンピュータによる視覚(ビジョン)機能を実現すること。
注4:
核となる技術を集約し、研究開発を行う研究センター。
注5:
EUや各国政府が支援している、ユーザーや市民参加型の共創活動、およびその場所のこと。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所次長
是永 基樹(これなが もとき)
2000年、通商産業省入省。産業技術環境局、通商政策局、貿易経済協力局等を経て、2017年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所 ディレクター
油井原 詩菜子(ゆいはら しなこ)
2011年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部(2011~2013年2月)、ビジネス情報サービス部(2013年3月~2014年9月)、ジェトロ・ウィーン事務所(2014年10月~2015年9月)、ビジネス展開支援部(2015年10月~2017年10月)、海外調査部(2017年7月~2017年10月)を経て現職。

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