特集:AIを活用せよ!欧州の取り組みと企業動向産官学が一体となりAI促進に注力(ハンガリー)

2019年5月17日

ハンガリーの人工知能(AI)ビジネスは、まだ発展途上の段階にある。政府はAIに関する戦略を公表しておらず、AI人材への教育やビジネスに対しての促進策や優遇制度なども具体策がみられない。しかし、産業界では既に、自社開発またはAI専門企業から調達した技術の導入が始まり、大手自動車メーカーと業務提携するAIスタートアップも出てきた。

政府はAI促進の準備を進める

ハンガリー政府は、AIのビジネスや社会への影響やAI化を推進する上での政府の果たすべき役割を検討中である。従って、現時点でAI国家戦略は公表されておらず、AI人材の教育やAI業界に対する促進策や優遇制度はない。

しかし、政府内で準備は進められている。2018年に新設された技術・イノベーション省は、AIに関連する政府機関、大学、研究機関、企業から成る「AIコアリション(連合)」を同年10月に立ち上げ、メンバーは当初の78社から2019年3月時点で161社に倍増している。ハンガリーがAIの開発と活用で欧州のリーダーとなること、国際的なAIコミュニティーで重要なポジションに就くこと、を目標としている。

具体的には、(1)国家AI開発の方向性やフレームワーク(枠組み)の定義付け、(2)専門家同士の情報交換や連携に向けたフォーラム(公開討論の場)の創設、(3)国家AI戦略策定作業への参画、(4)AI普及の社会や経済への影響度の分析を行う。

AIコアリションの役員は、スウェーデン通信機器メーカーのエリクソンの地域マネージャー(コアリションのリーダー)、ブダペスト工科経済大学、技術・イノベーション省、ハンガリーIT協会(IVSZ)、AI中小企業のAIモーティブ、MKB銀行、ハンガリー商工会議所、スタートアップインキュベーターであるデザインターミナルの8機関が務める。

AIコアリションは、AI分野で連携できる組織や企業の参加を歓迎している。ビジネス関係者が参加することで、ハンガリーのAI市場や関連制度への理解促進や国家戦略策定への参画、AI市場での優位な位置につけることなどが、参加メリットとして挙げられる。

SZTAKIがAIをリード

コンピュータ科学・制御研究所(SZTAKI)は、基礎研究としてマシンラーニング(ディープラーニングなど)、新AIアルゴリズム開発および人とロボットの共働に関する研究を行う。また、自動運転(自動車やドローン)、自然言語処理、ビッグデータアルゴリズムの管理、映像を使った医療診断、カメラを使った事故回避、産業プロセスの予測保全などの研究も行っている。

大学においては、ブダペスト工科経済大学を始め、エトボシュ・ローランド大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)、オーブダ大学、パーズマーニ・ペーター・カトリック大学、セゲド大学などでAI研究が進められている。

このほか、自動運転の分野では、ブダペスト工科経済大学、科学アカデミー、SZTAKI、エトボシュ・ローランド大学、ドイツ自動車部品メーカーのボッシュ、コンチネンタル、クノール・ブルムゼを創設メンバーとする自動運転車両研究センター(RECAR)が立ち上がっている。ハンガリー西部ザラエゲルシェグ市には、政府が設立したAI技術を使った自動運転のテストコース「ザラゾーン(Zalazone)」があり、これを共同で活用することで、これまで個別に行われてきた自動運転の研究開発にシナジー効果が生まれることが期待されている。

AI関連のスタートアップから成長し、ビジネス市場で活躍している代表企業を紹介する。

  • AIモーティブ:カメラを使った自動運転制御技術。2017年にはPSAグループ(PSAプジョー・シトロエン)と業務提携。
  • リアル・アイズ:ウェブサイト上のコンテンツを見たユーザーの反応をウェブカメラとマシンラーニングにより分析、その結果をコンテンツ製作者にフィードバック。
  • サインオール:聴力に障害のある人のための同時手話通訳技術。
  • ソーシャルマップ:従業員間の会話や行動からチームワーク状況を分析、管理職に効果的な改善点などのフィードバック。
  • シネティック:広告の効果を分析して改善につなげる技術。
  • トゥルーモーション:スマートフォンのセンサー技術を活用してドライバーの運転行動や自動車事故の兆候を解析する技術。
  • タービンAI:がん細胞の動きを分子レベルで解析し、迅速な投薬を実現。
  • ウルティナス:小売店や公共交通機関などにおける利用者の行動分析技術。
  • Yusp:ウェブサイト閲覧実績から閲覧者個別におすすめのコンテンツを推薦する技術。

ベンチャーキャピタルの現状

ハンガリーには、AIに特化したベンチャーキャピタル(VC)やインキュベータは存在しない。AIをサポートしている組織は以下のように分類される。

(1)政府系ベンチャーキャピタル
ハイベンチャーズ:国内最大級の政府系ファンド。EUやハンガリー開発銀行(MFB)の資金を活用して500億フォリント(約195億円、1フォリント=約0.39円)規模の投資を実施。ベンチャー企業のビジネスが軌道に乗る前、軌道に乗った後、そして成長ステージへの移行の各段階で、あらゆる製品や産業をサポート。
MFBインベスト:ハンガリー開発銀行(MFB)の100%出資企業。主に発展段階の中小企業に開発資金を提供。
セーチェニ・ファンド:財務省傘下のファンド。2011年に中小企業向けファイナンスを目的とする4つのベンチャーキャピタルファンドが統合。
EXIMファンド:政府系の輸出入銀行(EXIM Bank)傘下のファンドで、さまざまなメニューを展開。中国と中・東欧諸国(CEE)が設立したファンドは、両地域の貿易関係発展に寄与する中規模企業を支援し、エネルギー、通信、インフラ、機械製造、金融や農業分野などが対象。
(2)主な独立系ベンチャーキャピタル
ポートフォリオン:市中銀行国内最大手のOTP銀行傘下のファンド。シーズまたは発展段階のベンチャー企業に100億フォリントを超える資金を出資。現在、成長段階企業24社をサポート(前出のAIモーティブ、シネティック、Yuspを含む)。
リード・ベンチャーズ:エネルギー国内最大手のMOLやハンガリー開発銀行(MFB)、輸出入銀行が資金面をサポート。CEE域内のエネルギー、交通、小売り、ITやIoT(モノのインターネット)、科学分野のベンチャー企業を支援。
X-ベンチャーズ:国内業界をリードするファンドの1つ。支援対象は、ITやバイオのほか、ヘルスケア、輸送、電気電子、機械など。
(3) 主要インキュベータとアクセラレータ
CEU イノベーションラボ:ハンガリー出身の有名投資家ジョージ・ソロス氏が設立に関与。中央ヨーロッパ大学(ブダペスト)内に設置され、現在スタートアップ8社が入居。
デザインターミナル:非営利のスタートアップアクセラレータで、政府やエネルギー大手のイーオン(E.ON)、MOLなどの民間から資金援助を受けて運営。17スタートアップを支援中(前述のソーシャルマップ含む)。
キッチン・ブダペスト:ドイツ系ICT(情報通信技術)企業T-システムが運営するイノベーションラボで、インキュベーションやアクセレレータ機能よりも、プロトタイプ制作に向けた技術アイデアの開発に重点。IoTやAR(拡張現実)/VR(仮想現実)分野に特化。
ミレナリス・スタートアップ・キャンパス:政府系のコワーキングスペースを持つスタートアップインキュベート施設。2018年7月にハンガリーIT協会(IVSZ)も関与しながら設立。200のワークステーション、24のオフィス、2つのワークショップルーム、会議室を有し、現在20社が入居。
執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所長
本田 雅英 (ほんだ まさひで)
1988年、ジェトロ入構。本部総務部、企画部、ジェトロ福井、ジェトロ・ハンガリー事務所、ジェトロ静岡に勤務。お客様サポート部を経て2015年6月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ
2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。現地進出日系企業を対象としたセミナー運営なども行う。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。

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