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特集:AIを活用せよ!欧州の取り組みと企業動向総論:ルール作りと製造業の競争力とAIの融合でトップランナーを目指す欧州

2019年5月17日

近年、産業競争力のカギとして人工知能(AI)への関心が高まる中、AIの導入はビジネスモデルだけではなく、広く社会へ影響を及ぼすため、社会的影響にも配慮した法制度、倫理規定の導入も求められている。本特集ではEUの政策や欧州諸国の取り組み、核となる研究機関や企業を紹介することにより、欧州が目指すAI導入の方向性と現状を明示する。

世界的にAIへの関心が高まる、中核は機械学習

世界知的所有権機関(WIPO)は2019年1月、特許申請を分析し、技術動向を明らかにする「テクノロジートレンド2019」を発表、テーマとして人工知能(AI)を取り上げた。1960年から2018年年初までに申請されたAI関連の特許は34万件で、2011年から2017年までの間の申請件数の増加率は年率で6.5%に達する。技術としては、機械学習(注1)に関連のある特許がAI関連全体のうち実に89%に上った。2013年から2016年までで機械学習関連の特許申請数は年率28%の増加を示している。機械学習のうち、多層レイヤーにおける学習を行う深層学習は、中でも特に伸びが著しい技術であり、同期間の年率の増加は2.8倍にも上る。また、AI関連特許の応用先分野は、自動運転で活用が期待される画像処理を含んだものが多く、およそ半数の特許で関連がみられた。一方、急成長しているのは、ロボティクス、制御分野で、ともに年率で55%ともっとも高い伸び率を示した。

ルール作りで世界の先端を狙う欧州

一方、AIの導入については、GAFA(注2)やBAT(注3)による、AI研究開発のための投資活動やその学習のために用いられる個人データを含むデジタルデータの収集が急速に進むなど、米国や中国での進展が目覚ましい。欧州は、それらの進出に対抗し、自らの地域内での産業育成を図っていかなければ、産業競争力を損失するという強い危機感を有している。そのため、米国や中国への対抗措置として打ち出しているのが、個人情報保護のための一般データ保護規則(GDPR)や、EU域内を一つのデジタルデータ市場としてデジタル単一市場を作り出すための、各種研究開発・国民生活や産業構造の変容に向けた域内制度や基準の整合化の徹底、制度整備に関する取り組みである。AIはデジタルデータが潤沢に流通するようになった社会において、イノベーションを創出するための産業横断的な仕掛けと位置付けられ、EUによるAI関連の活動は2018年に入り加速している。

また、自動運転や医療診断支援をめぐる責任論で明らかなように、人間に代わる判断をAIに担わせる局面が今後想定されるが、AI活用に関する法的・倫理的な対応は確立されていない。AI技術の産業応用においては、これを明確にし、制度整備を進める必要がある。このように、AIの研究開発および成果の活用・普及については、個別企業や産業単位では対応が困難な課題を伴うことから、各国や地域における戦略策定につながっている。

欧州では、特にこのような人権に配慮した法的・倫理的なAIの枠組みを先進的に進めている点が、米中と比べて大きく異なる点だ。欧州委員会は4月8日、人工知能(AI)に関する倫理ガイドラインを発表した(2019年04月15日付ビジネス短信参照)。このガイドラインでは、AIは人間の主体性を尊重するべきであること、プライバシーとデータの保護、透明性の重視などが要件として挙げられており、日本やカナダ、シンガポールなど意思を共有するパートナー国との協力を強化し、EUによるAI倫理へのアプローチを世界的に普及させたい意向を示している。

欧州の強みは基礎的人材開発の厚みと組織横断の連携

また、ほかの地域と比べた欧州の強みは、人材と企業間、あるいは産官学の連携の密度の濃さにある。世界経済フォーラムの国際競争力レポート(2019)によると、デジタル技能の指標で上位10カ国・地域のうち、欧州が6カ国を占めた(表参照)。企業間やそれ以外の産官学の連携の指数では、トップ10のうち7カ国を欧州が占めている。一方、相対的にみると、資金の調達面でややランクを落とす傾向にある。

表:国際競争力の各項目で見た国・地域トップ10

市民のデジタル技能
1 スウェーデン
2 米国
3 フィンランド
4 オランダ
5 アイスランド
6 シンガポール
7 スイス
8 イスラエル
9 香港
10 エストニア
組織横断の連携 (企業間、産官学連携など)
1 米国
2 スイス
3 フィンランド
4 ドイツ
5 イスラエル
6 オランダ
7 スウェーデン
8 マレーシア
9 英国
10 ノルウェー
ベンチャーキャピタルへのアクセス
1 米国
2 イスラエル
3 フィンランド
4 シンガポール
5 ドイツ
6 スウェーデン
7 マレーシア
8 中国
9 香港
10 英国

出所:世界経済フォーラムの国際競争力レポート(2019)

また、学術機関の層の厚さも、欧州の強みになっている。米スタンフォード大学の「AIインデックス2018年報告書」によると、2017年に発表されたAIに関する論文のうち28%は欧州の執筆者で、中国(25%)、米国(17%)を上回った。中でも、医学・健康科学分野の論文の割合が高い点が特徴となっている。また同報告書によると、企業側のAI導入の機能については、ロボットによる加工オートメーションが他地域に比べて高いという傾向もみられている。

都市レベルでのエコシステムの進展も特長だ。AI関連企業への投資を行うドイツのアスガルドとコンサルティング大手のローランドベルガーが実施した2018年の調査によると、AI関連のスタートアップの欧州の最大の集積地となっているのがロンドンで、サンフランシスコに次ぐ世界2番手につけている。また、AIスタートアップ企業集積で欧州第3位のパリ(全世界では10位)、第4位のベルリン(同12位)は、近年、注目を集める中国の広州(11位)とほぼ同水準で、イノベーション分野で躍進するフィンランドのヘルシンキ(欧州第5位、全世界で20位)は、インドの先進都市ベンガルール(19位)と同レベルの集積を誇る。

米中にない製造業などの伝統的技術にAIを組み合わせることで商機を狙う

欧州最大のAI集積地ロンドンを有する英国には、世界最高レベルの人材・学術機関が集まる。ケンブリッジ大学やユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)に代表される教育・研究機関と、政府、企業による垣根を越えた連携が強みだ。産業界が資金を拠出し、高等教育機関に専門課程を設置するなど、英国人材の専門性向上とともに優秀な国外人材の流入も狙う。フランスでは、マクロン大統領が2018年3月、AI国家戦略を発表、国家主導でAI開発に積極的に取り組んでいる。フェイスブック、グーグル、アップルなどのAI関連開発責任者などにおける多くのトップ研究者がフランスで輩出されるなど、フランスは伝統的に数学、情報工学など理工系の基礎研究に強みを持つ。こうした強みを活用しつつ、AI研究において欧州のリーダーとなるため、総額6億6,500万ユーロを投じ、AI研究におけるエコシステムの整備、人材育成、スーパーコンピュータ事業の強化を進める。また、ドイツとの協力の促進も大きな柱とっている。

そのドイツでは、AIは大企業を中心に活用が進んでいる。インダストリー4.0の有力企業であるシーメンスや、自動車部品大手ロバート・ボッシュなどが、画像・映像処理分野、信号処理分野などでのAI研究で先行しているほか、ドイツテレコム、ダイムラー、BMWなども積極的な取り組みを見せている。米国や中国では、IT・インターネット企業や通信企業がAI分野で有力だが、ドイツでは伝統的な製造業の企業がAIをリードしている。また、ドイツ人工知能研究センター(DFKI)やマックス・プランク研究所などのトップレベルの研究所も、企業との連携に積極的だ。今後は、導入が進まない中小企業へのAI導入支援に本腰を入れる。

欧州のイノベーション大国スイスでは、研究開発は現状、主に民間主導で進められている。また、欧州屈指の工科大学であるチューリッヒ工科大学(ETH)とスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)に支えられた豊富な高度人材を求め世界のIT企業や、エンターテインメント企業が進出し、高度なAI研究開発センターの集積を形成している。国としても、デジタル研究開発戦略の中に盛り込む形でAI活用を推進している。

一方、欧州の工場となっている中・東欧地域では、研究領域としてはコンピュータビジョン、機械知覚、ロボティクスなど、実際の製造現場で活用される技術に、特に注目が集まっている。チェコでは、プラハ、ブルノの研究機関とドイツのDFKIが、生産工程のデジタル化などのための研究で連携関係を強め、研究としてテストベットの共用を行うなどの活動を行っているほか、チェコ工科大学CIIRC に人工知能(AI)の欧州研究センターを設立し、ロボット化された生産ラインの開発を目指す。また、ハンガリーでは、自動運転の分野で、工科経済大学や科学アカデミーなどの研究機関、SZTAKI、ドイツの自動車部品メーカーのボッシュ、コンチネンタル、クノール・ブルムゼなどが自動運転車両研究センターを立ち上げたほか、スウェーデンの通信機器メーカーのエリクソンなどをコアメンバーとする産学官連携のAIのイニシアチブが立ち上がるなど、西欧のキープレーヤーを含めた全欧州体制での取り組みが目につく。

本特集では、EUのAIに関する政策やそのほかの欧州主要国の政策、企業動向を紹介していく。


注1:
プログラムでの指示ではなく、コンピュータ自身に学習させ、新たな判定やそれに対応する行動などを自動的に実施できるようにすること。
注2:
米国の主要IT企業であるグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの4社。
注3:
中国の主要IT企業である百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントの3社。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所長
和田 恭(わだ たかし)
1993年通商産業省(現経済産業省)入省、情報プロジェクト室、製品安全課長などを経て、2018年6月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 欧州ロシアCIS課
福井 崇泰(ふくい たかやす)
2004年、ジェトロ入構。貿易投資相談センター対日ビジネス課、ジェトロ北九州、総務部広報課、ジェトロ・デュッセルドルフ事務所(調査及び海外展開支援担当)等を経て現職。

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