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特集:AIを活用せよ!欧州の取り組みと企業動向連邦政府はAI戦略を発表、中堅・中小企業への浸透を狙う(ドイツ)

2019年5月17日

ドイツを今後、人工知能(AI)研究拠点としてさらに強化し、中小企業などの産業界の競争力を保持するため、連邦政府は、2018年11月にAIの利活用を促進する新たな政策「AI国家戦略 -AI Made in Germany-」を発表した。加えて、AI利活用促進のためにはスタートアップがカギを握るとし、資金調達環境の改善などにも踏み出している。連邦政府の政策とAIスタートアップの現状を紹介する。

ドイツの人工知能(AI)戦略の発表

大企業を中心に産学連携の取り組みが進む中、ドイツ経済の屋台骨ともいえる中小企業へのAIの利活用促進を進めるべく、ドイツ連邦政府も動き出した。ドイツ連邦政府は2018年11月15日、ベルリン近郊のポツダムで開催したデジタル政策閣内協議において、「AI国家戦略 -AI Made in Germany-PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(424KB) 」という政策を発表し、ドイツにおけるAI活用の推進に向けた施策を提案した。AI国家戦略は、連邦政府が、AI分野における目覚しい技術の進歩やAI技術によってもたらされるグローバルな変化に注目し、ドイツを今後、AI研究拠点としてさらに強化し、特に中小企業などの産業界に対してAIの利活用を促進するよう、AI技術分野に関する連邦政府の行動指針として提示されたものだ。

連邦政府は、AI戦略の概要として、以下のように、大きく3項目を挙げている。第1に「ドイツと欧州を先進的なAI拠点にし、将来的なドイツの競争力を維持」、第2に「責任のある、公益のためのAI開発」、第3に「幅広い対話を通じた倫理的、合法的、文化的、構造的なAIの社会導入推進」としている(参考参照)。

1. ドイツと欧州を先進的なAI拠点にし、将来的なドイツの競争力を維持
既存のAI研究開発センターの強化、最低12の研究開発センターの設立およびネットワークの拡張
AI分野における若手研究者育成および教育のためのプログラム立ち上げ、100以上の教授ポスト新設、大学機関におけるAI分野の根付き
独仏研究・イノベーションネットワークの強化
飛躍的イノベーション庁の新設
欧州のAIイノベーションクラスターの立ち上げ
AIに特化した中堅企業へのサポート拡張
試験設備の立ち上げによる政府の企業支援
大学発スピンオフを支援するプログラム「EXIST」の予算増加
VC、ベンチャー向け融資の公的な支援プログラムの充実
起業に関する包括的なコンサルティングおよび支援の拡充
クラウドプラットフォームを基盤としたデータ等の解析インフラを構築
2. 責任のある、公益のためのAI開発
人工知能を監視するための機関を設置し、同等の監視機関を欧州、また、グローバルレベルに設置するよう働きかける
人間を中心に据えた、職場におけるでのAI活用に関する欧州域内、欧米間での対話企画
国家継続教育戦略の一環とした、労働者の能力研鑽を後押しする幅広い支援プログラムの整備
AIなどの新技術やデジタル化などを意識した専門家育成戦略の打ち出し
AI導入および利活用にあたり被雇用者側の意思決定への参加や意見表明の機会提供の保障
職場におけるAIの実用化推進のための試験設備の導入支援
環境保全や地球温暖化防止のためのAI利活用の促進
3. 幅広い対話を通じた倫理的、合法的、文化的、構造的なAIの社会導入推進
データ保護監督機関と経済団体とのラウンドテーブルを通じた、データ保護法に準拠したAIシステムの開発と応用に関するガイドラインの策定
市民のプライバシーを保護と、市民の社会参加を後押しする技術の開発支援
「労働および社会におけるデジタル化」を啓蒙し、社会のためになる多分野にまたがる技術活用方法を支援
学習型システムおよび人工知能分野の秀でた人材を産官学および市民団体から集め、交流の機会を提供する

出所:ドイツ連邦政府

連邦政府はAI戦略の中で、2019年度連邦予算において、AI戦略のために合計5億ユーロを計上していることに言及。また、「2025年までにGDP比で研究開発への投資費を3.5%に引き上げる」という政府目標とも連動させながら、2018年から2025年までにAI戦略の実現のためにおよそ30億ユーロの予算を拠出する予定だという。この予算は産業・学術研究・各州の投資の呼び水ともなり、AIの研究開発への官民合わせた投資額は連邦政府の予算の2倍以上となることが期待される。

中堅企業のAI活用を重要視

AI戦略の項目のうち、1項目には政府の企業に対する取り組みが複数示されている。連邦政府の目的は、欧州の製造業の競争力を維持し、特に、AI分野をはじめとした革新的な技術を幅広く実用化することにより、これまでドイツ中堅・中小企業層が持っていたキー・テクノロジーと掛け合わせることで、さらなる競争力強化を狙うとしており、こうした企業にターゲットを絞って支援していくとしている。

具体的には、連邦経済エネルギー省による、中小企業のデジタル化推進のための相談窓口である既存の「中小企業4.0コンピテンスセンター」を使用して、中小企業の競争力・革新力を持続的に強化する。例えば、市場に投入できる、中小企業にとって有益なAIアプリケーションを開拓し、活用できるまでに至るプロセスに導くコンサルテーションを、AI分野専門家であるAIコーチから受けることができる。中小企業4.0コンピテンスセンターでは、2019年には、20人以上のAIコーチが1,000社以上の中小企業を訪問し、AI技術の投入について助言、実現のためのサポートを行っていく。

また、大企業よりも、AI技術を使用することに消極的な中小企業には、既存のAIの可能性を認識してもらい、具体的な活用事例を提示することが重要なことから、 2018年12月に、AI活用事例のオンラインマップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公開している。同サイトでは、ドイツで現在、また近い将来に使用される予定の500近いAIアプリケーションの例を知ることができる。このような事例から、特に中小企業が、自らの業務プロセスのデジタルを推進したり、スタートアップ企業と連携したりして、デジタル・ビジネスを開発するきっかけとなることを、連邦政府は期待している。

起業家やスタートアップにも注目

さらに、連邦政府はAI戦略の中で、AIベースのビジネスモデルや製品に分野での起業文化を活発化させたい意向だ。産業全体においてベンチャーキャピタルへのアクセスを改善することはもちろん、とりわけAIの事業では成長の重要な要素として、豊富な資金が重要であるため、資金へのアクセス改善を目指す。そのためには、投資家への投資に対するインセンティブを設け、研究室からより多くのスピンオフを実現させることを目指す。

具体的な支援策としては、研究の現場からのスピオンオフをサポートするための「EXISTプログラム」(注1)の2019年度予算を前年の2倍に引き上げると発表している。予算増額により、大学や大学外研究機関から生まれるスタートアップの数を安定化させ、拡大させていくことを狙う。


経済エネルギー省が主催した投資フォーラムでは、「EXISTプログラム」の支援を
受けた50の選ばれたスタートアップが登壇(ドイツ経済エネルギー省提供)

また政府は、これまでのスタートアップの資金面の支援策を今後も継続させていくことに加え、ドイツのベンチャーキャピタルや、資金借り入れ環境の充実化のための施策を行っていく。例えば、ドイツ復興金融公庫(KfW)は新たに市場から資金を調達し、ベンチャーキャピタルおよびベンチャー向け資金貸付金融機関への投資額を2020年までに年間2億ユーロへと引き上げ、若く革新的な急成長を遂げる企業に対して、立ち上げ期、成長期において積極的に融資を行っていく体制を整える。

appliedAIが2018年、ドイツのAIスタートアップ企業について行った調査によると、ドイツには132社のAIスタートアップ企業があるという。2015年に設立ラッシュがあり、ドイツのAIスタートアップ企業の62%が2015年以降の設立となっている。ドイツのAIスタートアップ企業の9割以上が、法人向け製品・サービスを手掛けており、個人向けを対象としている企業は4%のみ。分野別にみると、医療・医薬品(8%)、輸送・モビリティー(6%)、小売り分野(6%)が多い。ただし、59%のAIスタートアップ企業は、ある特定の業種向けではなく、業界横断型のソリューションを提供している。ドイツの注目AIスタートアップ企業の事例は表のとおりで、セロニス(Celonis)は、前述したEXISTプログラムを利用して成長したAI企業である。

表:ドイツ発の成功AIスタートアップ企業
企業名/所在地 企業概要
クレディテック(Kreditech)/ハンブルク州 2012年に設立。ネット上の様々な個人情報を機械学習と組み合わせ、弁済能力を判断した上で、消費者ローン・融資・決済などの銀行機能を提供するフィンテック企業。
ブルー・ヨンダー(Blue Yonder)/BW州 2008年にカールスルーエで設立。小売業向けAI活用ソリューションを提供。米国サプライチェーン関連ソフトウエア開発企業JDAソフトウエアが2018年2月に買収。
ADAヘルス(ADA Health)/ベルリン州 2011年に設立。AIも活用した医療診断などを行うアプリケーションを提供。130カ国で最も利用される医療関係アプリとなっている。
コナックス(Konux)/バイエルン州 2014年設立。センサー技術とデータ収集、AIを用いた分析を活用し、鉄道インフラにおける故障予測、メンテナンス最適化を実現。
ツェロニス(Celonis)/バイエルン州 2011年、ミュンヘン工科大学のスピンオフ・スタートアップとして、起業前の段階で、連邦経済エネルギー省のEXISTプログラムから8万3,000ユーロ以上の資金提供を受けている。当初3人で始まった同社は現在、世界で400人以上の従業員を抱えるまで成長し、「プロセスマイニング」(注2)の分野で先行する。

出所:appliedAIウェブサイト


コナックスのセンサー(コナックス提供)

注1:
大学や研究機関での起業環境促進やスタートアップに関する技術や知識の育成などを支援するプログラム。
注2:
業務における情報システムを分析・可視化し、今後の業務過程を検証、改善する技術。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所次長
是永 基樹(これなが もとき)
2000年、通商産業省入省。産業技術環境局、通商政策局、貿易経済協力局等を経て、2017年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所 ディレクター
油井原 詩菜子(ゆいはら しなこ)
2011年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部(2011~2013年2月)、ビジネス情報サービス部(2013年3月~2014年9月)、ジェトロ・ウィーン事務所(2014年10月~2015年9月)、ビジネス展開支援部(2015年10月~2017年10月)、海外調査部(2017年7月~2017年10月)を経て現職。

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