特集:AIを活用せよ!欧州の取り組みと企業動向国家主導でAI開発に取り組む(フランス)
フランスの人工知能(AI)促進の取り組み(1)

2019年5月17日

マクロン大統領は2018年3月、人工知能(AI)国家戦略を発表し、国家主導でAI開発に積極的に取り組んでいる。AI学際研究機関(3IA)を設置し、国内外で研究機関間のネットワーク構築を図る。2回シリーズ前編の本稿では、フランス政府のAI促進策への取り組みや関連公的研究機関について紹介する。

マクロン大統領、AI国家戦略を発表

フランスは、米国と中国の巨大企業が席巻するAIの世界市場で持続的にトップ5に位置付けるため、国家主導でAI開発に積極的に取り組む。政府は2017年9月、与党議員でフィールズ賞を受賞したことのある数学者セドリック・ビラニ氏に、AI戦略に関わる報告書の策定を依頼した。2018年3月に公表された同報告書(通称「ビラニ報告」)では、データ資源の共有化に向けた制度整備、医療やモビリティーなどの戦略分野の設定、AI分野の研究機関・研究者間のネットワークの構築、AI人材の育成強化、AI倫理規定の策定などが提案された。

マクロン大統領は2018年3月、「ビラニ報告書」を基に総額15億ユーロのAI国家戦略を発表した。15億ユーロのうち、1億ユーロをAI分野のスタートアップ企業向けシードマネーに、7,000万ユーロはフランス公的投資銀行(BpiFrance)を通じ「ディープテクノロジー」(注1)分野の企業振興に、4億ユーロはAI関連プロジェクトの公募事業に充てられる。また、自動走行車を2022年までに実用化するため法制度の整備を行うほか、医療分野では病院、街の診療所、健康保険の医療データをAIが活用するためのデータハブを設立する。

さらに研究開発分野では、フランス国立情報学自動制御研究所(INRIA)を軸に、国家AI研究プログラムを立ち上げる。AI人材の育成を強化し、学生数を倍増するほか、プロジェクト公募を通じて海外から優秀な研究者を呼び込むことで、AI分野のエコシステムを拡充する。公的研究機関の研究者がポストを維持したまま、民間企業で働ける時間の割合を現行の最大20%から50%に引き上げ、AI技術の企業移転を促進する。AI技術が及ぼす倫理的、社会的、経済的な影響について、適切なルールや倫理規定づくりが重要になるとして、AIに関する政府間パネルを設置する方針などを示した。

政府はマクロン大統領が発表した国家戦略に基づき2018年11月、フランスをAI研究において欧州のリーダーとするため、総額6億6,500万ユーロの国家AI研究戦略を発表した。AI研究におけるエコシステムの整備、人材育成、スーパーコンピュータ事業の強化、EUやドイツとの協力の促進などが柱となる。

まず、エコシステムの整備については国立高等教育・高等研究機関の中に、AI学際研究機関(3IA:Institut interdisciplinaire de l’intelligence artificielle)を設置することで、AI分野における研究者、エンジニア、学生、企業などのネットワークを構築する。2018年11月、公募によりグルノーブル・アルプ人工知能学際研究機関(医療、エネルギー・環境)、コートダジュール人工知能学際研究機関(健康、都市整備・スマートシティー)、パリ人工知能研究機関(医療、モビリティー、環境)、トゥールーズ人口・自然知能学際研究機関(航空機・宇宙、環境、医療)の4つのプロジェクトが最終審査に選考された(2019年6月に最終決定)。これら学際研究機関に、向こう4年で総額3億ユーロ(うち民間資金1億ユーロ)の研究補助金を支給する。またINRIAが中心となり、これら学際研究機関間の連携を強めるほか、国内だけでなく、欧州、特にドイツの研究機関とネットワークを構築していく。

AI研究に関わる人材育成については、国内外の公募から40の研究プロジェクトを選出し、研究補助金を支給する。また、研究助成金を受ける博士課程在学者の数を現行の2倍の500人に増やす(総額7,000万ユーロ)。AI研究に特化したスーパーコンピュータ開発に向け、2022年までに政府とEUが総額1億7,000万ユーロを投資する。また、2019年にパリ郊外サクレー市にあるフランス国立科学研究センター(CNRS)に、研究者が自由に活用できる10メタフロップスのスーパーコンピュータを設置(1億1,500万ユーロ)する。国外ではドイツとのパートナーシップを強化し、2021年から2027年にかけての欧州研究・イノベーション計画「ホライズン・ヨーロッパ」を掲げる欧州を、AI研究で世界のリーダーにするAI戦略を支援するほか、AIのデファクトスタンダードを提案する。

他方、AIの利用や開発での倫理面のルール策定について、フランスとカナダは2018年12月、「人工知能に関する国際パネル(IPAI)」を設立することを発表した。2019年8月にフランス・ビアリッツで行われる主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、IPAIの具体的な枠組みを決定する方針で、日本にも協力を求めている。

AI関連公的研究機関が国内外ネットワークを構築

AI関連公的研究機関の数はおよそ70カ所。研究施設の半数以上はイル・ド・フランス圏に集中する。フランス国立科学研究センター(CNRS)や、そのグループ傘下で情報工学に特化した情報科学・インタラクション研究所(INS2I)、フランス国立情報学自動制御研究所(INRIA)が、理工系の国立大学やグランゼコール(高等職業専門機関)と連携し、研究プロジェクトを運営している。AI分野での研究では、INRIAとAI学際研究機関(3IA)に選定された4つプロジェクト(最終審査中)が軸となり、ネットワークを構築していく。また、CNRSやINRIAはフェイスブックやマイクロソフトなど米国IT企業と連携し、共同研究プロジェクトを実施している。主な公的研究機関や3IAの概要は次の通り(図参照)。

主な公的研究機関

  • フランス国立情報学自動制御研究所(INRIA)
    情報通信科学技術分野に特化した基礎研究および応用研究機関。アルゴリズム、AI、データプログラミングなどの技術を活用し、医療、エネルギー、環境、モビリティー、金融など経済・社会に影響を与える分野でのアプリケーション開発に重点を置く。人員は2,400人(うち研究者は1,600人)。予算2億3,100万ユーロ。パリのほか、グルノーブル、ソフィア・アンティポリスなど国内8カ所に研究拠点を持つ。

    ジェトロが2019年2月4~8日に派遣した「仏独イノベーション・ミッション」の
    パリにおける「AIセッション」で、INRIAのAI研究プログラムについて説明する
    ベルトラント・ブラウンシュバイクINRIA人工知能国家研究プラン・コーディネーター
    (ジェトロ撮影)
  • フランス国立科学研究センター(CNRS)
    フランス最大の基礎・応用科学研究および教育機関。予算総額33億ユーロ。研究者数3万3,000人。国内外に1,144の研究拠点を持つ。
  • 情報科学・インタラクション研究所(INS2I)
    CNRSグループに属する研究所の1つ。研究テーマは情報工学、自動制御、ロボティクス。研究者数1万225人。国内に23の研究拠点。
  • AI学際研究機関(3IA)
    マクロン大統領の国家戦略に従い、プロジェクトの公募を実施、2018年11月に最終審査で4つの学際研究機関プロジェクトが選考された。2019年6月に最終決定が下される。いずれもINRIA、CNRSの研究機関が参画している。
  • グルノーブル・アルプ人工知能学際研究機関
    グルノーブル・アルプ人工知能学際研究機関は、人工知能分野における世界トップクラスの研究ネットワークを構築、幾つかのレベルの教育プログラムを提供し、大企業、中小企業、スタートアップ企業におけるイノベーションを支援し、人工知能に関連する事柄について市民に情報を提供することを目的とする。優先分野は医療とエネルギー・環境。グルノーブルは科学者が集積する都市として知られる。人工知能について1,500人余りの研究者が働いており、毎年AI分野で200人を超える修士課程修了者を出している。人工知能に関連した企業は100社、スタートアップ企業も50を超える。グルノーブルにはCNRSのほか、INRIA、フランス原子力庁(CEA)の国立研究機関が研究拠点を持つ。
  • コートダジュール人工知能学際研究機関プロジェクト
    コートダジュールはニースおよびソフィア・アンティポリスを中心に、国内でもパリ、グルノーブルと並んで、デジタル・サイエンス、数学系の研究者数が集中している地域。コートダジュール大学、CNRS、INRIAが軸となり、ニースとソフィア・アンティポリス周辺の研究者を集結し、人工知能における学際研究機関を創る計画。同機関は教育、研究、民間企業への技術移転に関して100人以上の研究者を動員する。また、同機関は人工知能の学位(学士、修士、博士)取得プログラムのほか、ディープ・ラーニング(注2)に関する社会人向け教育プログラムを提供する。企業(IBM、ボッシュ、アクセンチュアなど)と学術研究者との連携も、共同研究プログラムなどを通じ増えている。また、研究の結果をスタートアップとして起業につなげるため、フレンチ・テックなどと協力する。
  • パリ人工知能研究機関(PRAIRIE:PaRis Artificial Intelligence Research InstitutE)
    医療、モビリティー、環境分野における人工知能の国際的な研究機関となることを目指し、CNRS、INRIA、パスツール研究所、パリ大学が、パートナー企業16社(グーグル、アマゾン、バレオ、スエズ、PSA、ファイザー、GEヘルスケアなど)の支援を得て設立された。企業と学術研究とのつながりを活性化するほか、人工知能に関わる未来の研究者を育て、関係者間の交流を促す。国内・海外の学術研究機関との連携を通じて進める基礎研究と、パートナー企業に支えられた応用研究とを統合し、相互作用の効果を狙う。ニューヨーク大学データ・サイエンス・センター、カリフォルニア大学バークレー校人工知能ラボ、カーネギーメロン大学のロボ研究所など海外研究機関と提携している。AI関連人材の育成にも力を入れる。
  • トゥールーズ人口・自然知能研究所(ANITI:Artificial and Natural Intelligence Tou-louse Institute)
    トゥールーズ大学を中心とした同研究所は、モビリティー、航空機・宇宙(トゥールーズにはエアバス航空機の組立工場があり、航空機・宇宙産業の一大集積地。約10万人が同産業で働く)、環境、医療分野での研究に力を入れる。トゥールーズ周辺の大学、CNRS、INRIAなど33の研究機関、海外の大学、エアバス、タレス、ルノーなど約30社の企業のエンジニアら約200人の研究者を受け入れる。AI関連のさまざまなレベルで学位取得プログラムを増やす。同研究所はAIの大学院を設置、2023年までにAI分野の学生を2倍に増やす政策を支援する。
    図:主な公的AI研究機関
    フランスの主な公的AI研究機関 AI学際研究機構(プロジェクト)は、次の4機関。 北部のパリ人工知能研究機関、 東部のグルノーブル・アルプ人工知能学際研究機関、 南東部のコートダジュール人口知能学際研究機関、 南部のトゥールーズ人口・自然知能学際研究機関。 INRIAの研究拠点は、次の8都市。 北部:パリ、リール、ナンシー、サクレ―、レンヌ。 南部:グルノーブル、ボルドー、ソフィア・アンティポリス

    出所:各サイトよりジェトロ作成


注1:
最先端の科学技術・研究成果を基礎とし、社会に大きな影響を及ぼす可能性のある技術。
注2:
機械が物事を理解するための学習方法で、人間の神経をまねてつくったネットワークを構築し、大量のデータのどこに注目すべきか、最適なデータの重み付けを自ら判断し、学習して、データに基づいた、より精度の高い分析や判断を可能としていくもの。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2019年7月3日)
第8段落
(誤)「人工知能に関する政府間パネル(IPAI)」
(正)「人工知能に関する国際パネル(IPAI)」
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
山﨑 あき(やまさき あき)
2000年よりジェトロ・パリ事務所勤務。
フランスの政治・経済・産業動向に関する調査を担当。

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