特集:総点検!アジアの非関税措置幅広い分野の非関税措置がみられる(ベトナム)
2019年3月15日
ベトナムにおける非関税措置は、さまざまな業種で見られる。日系企業が障壁とした非関税措置について、食品/農水産加工および化学品/石油製品を扱う企業からは、主に安全確保のための基準・認証制度に関する指摘が多くされた。基準を満たすために時間およびコスト負担がかかる要因として、「縦割り行政のため、所轄官庁が違うと法令、政令、通達の整合性が取れないケースがある」(コンサルティング会社)との声にあるように、所轄官庁を跨(また)いだ法制度の整備、運用ができていないことが挙げられる。
また、鉄鋼、輸送用機器・部品においては自国の産業を保護するための措置が、さらに医薬品などの卸・小売りにおいては国内流通業者保護のための外資規制が見られ、日系企業の輸入や投資が一部、制限されている。このような措置が取られる際、政令の公布から施行までの期間が短く、企業が対策できないことも、同国で事業を行うに当たり、支障となっているとの声が聞かれた。
2018年度アジア・オセアニア日系企業調査(以下、日系企業調査)によると、ベトナムにおいてビジネスを阻害する非関税措置があるとした企業は、648社中249社(38.4%)であった。その内訳についてみると、輸入者登録義務、輸入ライセンス制度、数量規制、輸入課徴金などの「輸入制限」を障壁とした企業が113社と最も多く、続いて強制規格などの「基準・認証制度」(100社)、サービス貿易の阻害となる「外資規制」(65社)が続いた(表1参照)。
項目 | 回答数 | 割合 |
---|---|---|
全 体 | 648 | 100 |
特に問題なし | 399 | 61.6 |
障壁あり(注) | 249 | 38.4 |
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113 | 17.4 |
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100 | 15.4 |
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65 | 10 |
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42 | 6.5 |
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41 | 6.3 |
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39 | 6 |
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37 | 5.7 |
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24 | 3.7 |
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23 | 3.6 |
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7 | 1.1 |
注:「障壁あり」の内訳は複数回答。
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)
非関税措置として回答が多かった「輸入制限」、「基準・認証制度」、「外資規制」の3項目について、業種別にみると(表2参照)、「輸入制限」と回答した割合が高かった業種は、輸送用機器・部品(34.7%)、運輸/倉庫(31.6%)、化学品/石油製品(30.8%)、卸売り/小売り/商社(30.3%)で、いずれも3割を超えた。「基準・認証制度」と回答した割合が高かった業種は、運輸/倉庫(31.6%)、鉄鋼(30.0%)、輸送用機器・部品(28.6%)であった。「外資規制」と回答した割合が高かった業種は、運輸/倉庫(31.6%)、専門・技術サービス(20.8%)、情報通信(18.9%)であった。なお、専門・技術サービスは主にコンサルティング会社を指す。
表2:輸入制限、基準・認証制度、外資規制の、障壁あり回答割合上位5業種
回答企業業種 | 回答割合 |
---|---|
輸送用機器・部品 | 34.7 |
運輸/倉庫 | 31.6 |
化学品/石油製品 | 30.8 |
卸売り/小売り/商社 | 30.3 |
金属製品 | 20.3 |
回答企業業種 | 回答割合 |
---|---|
運輸/倉庫 | 31.6 |
鉄鋼 | 30 |
輸送用機器・部品 | 28.6 |
食品/農水産加工 | 23.8 |
卸売り/小売り/商社 | 17.1 |
回答企業業種 | 回答割合 |
---|---|
運輸/倉庫 | 31.6 |
専門・技術サービス | 20.8 |
情報通信 | 18.9 |
衣服/繊維製品 | 13.3 |
卸売り/小売り/商社 | 13.2 |
注1:総回答数10社以上の業種を対象。
注2:複数回答。
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)
幅広い業種で多い輸入制限
輸送用機器・部品に対する輸入制限として、ベトナム政府は2017年10月、自動車の生産・組み立て、輸入および保証・保守サービス事業に関する条件を定める政令116号(116/2017/ND-CP)および、輸入関税率の優遇などを定めた政令125号(125/2017/ND-CP)を公布したが、特に前者には、完成車輸入に他国政府が発行する認可証取得を義務付けるなど、順守が難しい条件が盛り込まれている(2018年1月17日付ビジネス短信参照)。国内の自動車生産台数の増加を企図したものと推測されている当政令が、輸送用機器・部品の輸入における障壁となっている。
また、機械器具の輸入制限に関しては、科学技術省通達23号(23/2015/TT-BKHCN)により、中古設備・機械は原則として、製造から10年を超過しない場合のみ輸入が認められている。製造から10年以上の中古機械輸入については、輸出国の鑑定により許可されるケースが増えつつある(2018年6月5日付ビジネス短信参照)が、「承認基準が不明確」(日系物流企業)な点が障壁となっている。現在、科学技術省が中古機械・設備・製造ラインの新たな通達発行に向け準備しており、通達23号の適用は、新通達施行まで適用されることとなった(12月31日付162/NQ-CP)。なお、新通達施行日は未定である。医療機器の輸入に関してはベトナム保健省通達30/2015/TT-BYT号で規定のとおり、ライセンスが必要で、商品ラベルもベトナム人が分かるものを貼付しなければならない。
化学品/石油製品については、2017年に制定された「化学品法の詳細と施行の手引きに関する政令(113/2017/ND-CP)」に輸入禁止となる化学品が定められ、また一部の化学製品については商工省の輸入管理品目となっている。また、化学品の保管倉庫に関する規制について、「それぞれの品目で、商工省、公安、消防と管轄が異なるため、全ての条件を満たすための時間やコストがかかる」との声が聞かれた。
卸売り/小売り/商社からは、食品販売のために日本から輸入する場合の商品登録、商品検査にかかるリードタイムが長く、「賞味期限の長いものしか輸入できない」(日系小売業)との声が聞かれた。また、水産物をベトナムに輸出する際は最終加工施設の登録を行う必要があるが、「2018年6月から新設の施設登録ができなくなった」(食品販売会社)ようだ。その後、2019年1月に施設登録がされたという声が聞かれたものの、登録まで時間がかかる状況が続いているようである。さらに、食品全般に菌の検査が実施されるため、納豆は輸入ができないことなどが課題に挙げられた。
食品/農水産加工を行う企業からは、輸入ライセンスの取得における地場企業と外資の違いとして、「地場企業であれば50品目を一回の申請で取得可能であるが、外資は品目数が限られる」ことが挙げられた。また、「ヒ素が検出されやすい昆布やワカメは輸入が難しい」と、化学物質の輸入制限が食品輸入に影響がある点を指摘する声もあった。
基準・認証制度も多くの業種で障壁に
「基準・認証制度」に関する障壁として、食品/農水産加工分野においては、食品ラベルの運用が挙げられた。2018年2月に公布された「食品安全法の一部条項の執行を詳細に規定する政令(15/2018/ND-CP)」は、ラベル表示規制と食品安全規制の上位法令とされるが、現地コンサルティング会社は「当政令が両規制の内容を網羅しておらず、運用が不透明」と指摘した。
卸売り/小売り/商社分野においては、2018年8月に施行された電気・電子器具に対する安全の国家技術基準(21/2016/TT-BKHCN)による検査について、指摘があった。産業用電線・ケーブルを販売目的で製造または輸入する際、「15メートル分を検査機関に提出する必要があるため、時間とコストが増加した」ことが挙げられた。また、化粧品販売に当たり、輸入化粧品を市場で販売する前に、化粧品開示手続きを実施する必要があるが、「基準にないような証明書などを求められるケースがある」とのコメントが聞かれた。
外資規制に係る障壁は小売業や建設業などでみられる
同国の外資規制については、経営投資禁止分野と条件付経営投資分野に分けられ、後者は2017年1月から243分野に削減されている。特定の小売業、輸入・卸売りなどについて、ベトナムにおける外資系企業の商品売買活動などに関する商法および外国貿易管理法の細則を定める政令(09/2018/ND-CP)が2018年1月に施行され、外資系企業は営業許可証を取得する必要があることが明記された。こうした中、医薬品は国内流通業者保護のため卸、小売りができない点が、小売業を手掛ける日系企業から指摘された。
また、日本機械輸出組合(注1)によると、建設省が外国業者の事業を管理する通達(01/2012/TT-BXD)において、コンサルティング事業や建設工事などを行う外国事業者は、請負業者の認可を取得する必要があると規定され、地場企業と提携または下請け契約を結ぶ必要があるとされている。
セーフガード、アンチダンピング課税が障壁となる鉄鋼分野
鉄鋼分野において、2014年6月から、国内産と輸入鉄鋼製品の品質管理に関する商工省・科学技術省共同通達44号において鉄鋼製品の強制規格制度が導入され、2016年3月に施行された共同通達58号により規格適合条件が厳格化し、輸入制限が一段と強化された(2016年4月28日付ビジネス短信参照)。また、同月に一部鉄鋼製品に対してWTOの規定に基づく暫定セーフガード措置を発動する決定(商工省決定862/QD-BCT号)を発表し、同7月からビレットや棒線の輸入鉄鋼製品に対してセーフガード措置を発動した。さらに、2017年6月にはカラー鋼板の輸入に対して同措置および輸入割当を行っており、「カラー鋼板の通関問題をきっかけに、鉄鋼事業者同士の連絡会を立ち上げた」(日系商社)とされている。商工省が2017年8月に、H形鋼に対して課したアンチダンピング関税による影響を懸念する声も聞かれ、「ベトナム国内で製造可能なものは、産業保護のためにアンチダンピングやセーフガード措置が講じられる」(同商社)現状があるようだ。
そのほか、「特恵関税利用時の原産地証明書の否認」を障壁と回答した企業は6%と多くなかったものの、原産地証明書の取り扱いに関して指摘した企業も見受けられた。例えば、「バックトゥバック原産地証明書(Back to back CO)(注2)」を使う場合、ベトナムでは輸入した全量を輸出して初めて認められるという運用になっている点が指摘された。
- 注1:
- 日本機械輸出組合は貿易・投資円滑化ビジネス協議会を立ち上げ、「ベトナムにおける問題点と要望」を取りまとめている。
- 注2:
- バックトゥバック原産地証明書(Back to back CO)とは、日本語で「連続する原産地証明書」、また英語では「Movement Certificate」のことを指す。例えば、インドネシアから輸出された原産品が、一時シンガポールの倉庫に入庫した後に、ベトナムに輸入されるとする。経由国のシンガポールで入庫された貨物が加工されず、インドネシアで取得した原産資格が何ら変更されない場合に、シンガポールの原産地証明書発給機関により「Back to Back CO」が発給される。

- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
安野 亮太(あんの りょうた) - 2009年、明治安田生命保険相互会社入社。2018年より現職。