特集:総点検!アジアの非関税措置「非関税措置なし」とした割合は、アジア・オセアニア域内で最高(ニュージーランド)

2019年3月15日

ニュージーランドは、世界銀行が発表している報告書「ビジネス環境の現状(Doing Business)」で3年連続の世界1位になるなど、ビジネスのしやすさで非常に高い評価を得ている。行政手続きのオンライン化が進む同国において、進出日系企業から現地の輸出入手続き時の障壁を課題に挙げる声は皆無だった。一方、大陸から離れた地理的な特性から、自然生態系の保護などを目的とした厳格な衛生植物検疫措置(SPS)が取られており、特に、2018年は日本からの貨物を対象に規制強化が図られたことによる問題点の指摘が目立った。また、住宅建材の規格は建築許可の運用状況により、実質的な障壁として機能する点を懸念する声もある。

ジェトロが実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(以下、ジェトロ調査)」によると、「ビジネスを阻害する非関税措置の有無」の質問項目で、ニュージーランドでは「特に問題なし」と回答した企業は73.3%に上り、調査対象国・地域の中で最も高い割合となった。ジェトロが現地日系企業に対して実施したヒアリングでは、輸入手続きなどで既にオンライン化が進んでおり、「手続き自体で障壁を感じたことはない」というコメントが全ての企業から寄せられた。

「非関税措置あり」とした企業は26.7%だった。項目別では「基準・認証制度(強制規格など)」が14.7%で最多となり、10%を超える唯一の項目となった(図参照)。

図:ビジネスを阻害する非関税措置(ニュージーランド)
「ビジネスを阻害する非関税措置」について回答した進出日系企業75社のうち20社(26.7%)が「ビジネスを阻害する非関税措置がある」と回答した。 項目別では「基準・認証制度(強制規格など)」が14.7%で最多となり、唯一指摘割合が10%を超える項目となった。

出所:「2018年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

複数企業がSPSを懸念

企業へのヒアリングの中では、2018年に導入された自動車、機械類に対するカメムシ検疫強化問題としてを挙げる声が目立った。検疫強化の背景には、同年2月に日本発ニュージーランド向けの自動車運搬船(RORO船)からクサギカメムシが発見されたことがある。クサギカメムシは、同国の主要輸出品のキウイフルーツをはじめとする農産物に対する食害が懸念されるため、防除対象となっている。第一次産業省(MPI)が規定した「Import Health Standard for Vehicles, Machinery, and Equipment」に基づき、2018年9月以降に日本から輸出される中古車などは積地での薫蒸または熱処理が義務付けられた(ビジネス短信2018年8月13日記事参照)。この措置は、2019年4月30日までの「カメムシリスク期間」が対象とされているが、現地日系海運企業からは期間終了後も規制が続くことを懸念する声があった。また、別の日系自動車関連企業は「熱処理は60度以上で10分間行うことが求められているが、ハイブリッド車をその環境にさらすとメーカー保証対象外となるため、取り扱うことができない」と述べた。

同様のSPSとして、日系食品メーカーからは、原料小麦の輸入時における植物検疫証明書の要求事項が指摘された。具体的には、発芽小麦に対しては、ニュージーランドで規制される病原菌の混入がないことを植物検疫証明書に記載する必要があるが、主要輸入元のうち米国では、菌の検出方法が難しく検査自体を拒否されることなどから、実質的に輸入できないという。また、カナダについては、検査自体は可能だが、結果判明までに2週間程度かかるうえ、菌が検出された場合のシップバックのリスクを考慮すると、同国からの輸入も現実的ではない。このため、当該病原菌が検出されていないオーストラリアからの輸入しか事実上認められない実態があるとのことだ。

国内規格などに関する問題も

SPS以外では、ニュージーランド国内の規格に関する問題点も挙げられた。配管や電線など住宅建材の規格は、同国内で部材輸入から施工までを同一グループで手掛ける大手A社のものが実質的な基準となっている。現地日系商社は「住宅建築許可ではその規格が基準となるため、A社を通じて調達した部材を使用しないと許可が下りにくいことが判明した。A社と同一品質の商品を直接輸入しようと試みたものの、断念せざるを得なかった」と話す。この点は別の日系住宅メーカーも指摘しており、「A社の部材を使った方が建築許可が下りやすいようだ。日本からA社と同等の品質の資材を輸入することも検討したが、品質が同等だとの証明書類を作成する労力などを考えると、コストが合わない」とのコメントがあった。

直接的な非関税措置とは言えないものの、現地日系食品商社は、日本と海外で使用可能な食品添加物が異なるため、アミノ酸は注意が必要だと指摘した。このほか、添加物の使用量制限や賞味期限の概念、食品検査項目の違いなど、日本と海外での規制態様や業界慣行の違いにより、現地でニーズが見込まれるものでも取り扱えない商品があるという。こうした規制は、国内消費者保護などを目的とした措置だが、日本とニュージーランドの間で規制・基準が異なるために、日本から輸出阻害要因と捉えられがちだ。2018年末には両国で初の自由貿易協定(FTA)となる環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)が発効しており、こうした協定の枠組みなどを通じて、両国が設ける規制の相互理解や基準の調和を進められれば、問題が解消に向かうものと考えられる。

ニュージーランドは日本と同じ右ハンドル国で、中古車を中心に有数の自動車輸出市場であることや、政府が推進する大規模な住宅建設計画「キウイビルド」をはじめとするインフラ開発需要の高まりなど、進出日系企業にとっては一定の商機が期待される。一方、前述したSPSや住宅建材規格など、他国の制度と比較すると障壁性が高いとは言いにくいものの、現地での事業環境に影響を及ぼす措置・制度については、今後も動向を注視していく必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
竹内 直生(たけうち なおき)
2005年、ジェトロ入構。経済分析部知的財産課(2005年~2008年)、ジェトロ香川(2008年~2011年)、展示事業部海外見本市課(2011年~2014年)(部署名はいずれも当時)を経て、2014年~2018年ジェトロ・ハノイ事務所勤務。2018年7月より現職。