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特集:総点検!アジアの非関税措置国内外の日系企業が多くの非関税措置に懸念(インドネシア)

2019年3月15日

インドネシアは人口2億6,000万人の巨大市場をもち、名目GDPが世界第16位の1兆ドル(2017年)を超えるなどASEANでは最大の経済規模を誇る。また、世界銀行の「Doing Business 2019」では73位と5年間で約50も順位を上げるなど、ビジネス環境はここ数年で改善傾向にある。

他方、インドネシア内外の進出日系企業のビジネスを阻害している「非関税措置」について、特に、輸入規制の継続・強化やインドネシア国家規格(SNI)への強制適用対象品目の増加などは多くの業種に影響を与えているようだ。これら措置の背景には、安全な製品の国内流通保証、自国産業の保護や輸入の抑制などがあるとみられる。

在ASEAN日系企業も非関税措置の影響を懸念

ジェトロが実施した「2018年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、インドネシアにおいてビジネスを阻害する非関税措置が「ある」と回答した在インドネシア日系企業は342社のうち222社(64.9%)と、ASEAN平均(43.0%)を上回った。また、在ASEANの日系企業からみても、インドネシアの非関税措置はビジネスへの影響が大きいと感じている。在ASEAN進出日系企業に対して、非関税措置が高いと感じる国を調査した結果、インドネシア(22.8%)が第1位となり、中国(15.5%)、ベトナム(12.0%)と続いた。

在インドネシア日系企業の経営環境との相関を見ると、今年度の営業見通しが「赤字」と回答した企業の7割強が、ビジネスを阻害する非関税措置が「ある」と回答した企業であった。一方で、「黒字」企業の64.3%も「ある」と回答していた(表1参照)。事業の好不調にかかわらず、日系企業は非関税措置の影響を受けている。

表1:今年度の営業見通しと非関税措置の有無についてのクロス分析(%)
今年度の営業見通し ビジネスを阻害する非関税措置
「あり」と回答した企業 「なし」と回答した企業
黒字(n=221) 64.3 35.8
均衡(n=46) 54.4 45.7
赤字(n=74) 73.0 27.0

出所:「2018年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

非関税措置を項目別にみると、「輸入制限」(47.4%)が最大であり、「基準・認証制度」(24.0%)、「外資規制(サービス貿易の阻害)」(23.7%)、「現地調達要求等」(20.2%)と続く(表2参照)。ASEAN諸国の回答結果と比較すると、特に「輸入制限」(ASEAN 平均は21.1%)の影響を受けている企業が多い点が特徴的だ。非関税措置の上位5項目を対象に、その影響を業種別にみると、「輸入制限」の影響を受けている企業は業種・規模を問わず比較的多く、特に製造業では約半数の企業が同項目の影響を受けていると回答した。非製造業では「外資規制(サービス貿易の阻害)」(35.9%)、「基準・認証制度」(30.3%)が、製造業をそれぞれ21.2ポイント、11.0ポイント上回る。

表2:インドネシアの非関税措置(業種・企業規模別)(%)
項目 全体平均(n=342) 製造(n=197) 非製造(n=145) 大企業(n=223) 中小企業(n=119)
輸入制限 47.4 49.8 44.1 47.1 47.9
基準・認証制度 24.0 19.3 30.3 29.2 14.3
外資規制(サービス貿易の阻害) 23.7 14.7 35.9 28.7 14.3
現地調達要求等 20.2 20.8 19.3 23.3 14.3
差別的な税制 11.7 11.2 12.4 13.9 7.6
特恵関税利用時の原産地証明書の否認 9.1 6.1 13.1 11.2 5.0
輸出制限 7.6 9.1 5.5 6.7 9.2
セーフガード・アンチダンピング(SG・AD)課税 6.1 7.6 4.1 7.2 4.2
知的財産の侵害 1.8 2.0 1.4 2.2 0.8

出所:「2018年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

影響を受けている日系企業が多い非関税措置上位5項目を対象に、業種分類別(有効回答数10以上で主要なもののみ抽出)に非関税措置の影響をみると、各種ビジネスに関わる卸売・小売業では多くの項目で上位に位置しており、特に「輸入制限」(67.1%)については非製造業の平均値を押し上げている(図1参照)。当該措置では、製造業の食料品、鉄・非鉄・金属も6割超が影響を受けており、これら関連製品を部品等として輸入したいメーカーや、輸入製品を販売したい企業にとっては影響が大きい。

「基準・認証制度」では、卸売・小売業(41.4%)、化学・医薬(31.0%)、運輸業(29.4%)と続き、非製造業、特に物流に係る業界に影響がある。運輸業では、「外資規制」においても5割の企業が影響を受けている。そのほか、「外資規制」については、卸売・小売業(37.1%)なども多い。

図1:インドネシアの非関税措置(業種分類別)
在インドネシア日系企業がビジネス阻害要因と感じる非関税措置を業種分類別に示す。製造業では有効回答数197社のうち輸入制限49.75%、現地調達要求など20.81%、基準・認証制度19.29%、外資規制14.72%、差別的な税制11.17%であった。 製造業のうち、食料品では有効回答数12社のうち、輸入制限66.67%、現地調達要求など33.33%、基準・認証制度25.00%、外資規制16.67%であった。 鉄・非鉄・金属では有効回答数29社のうち、輸入制限65.52%、現地調達要求など31.03%、基準・認証制度13.79%、外資規制13.79%、差別的な税制13.79%、 輸送機械器具では有効回答数56社のうち、輸入制限46.43%、現地調達要求など16.07%、基準・認証制度14.29%、外資規制14.29%、差別的な税制14.29%、 化学・医薬では有効回答数29社のうち、輸入制限44.83%、現地調達要求など27.59%、基準・認証制度31.03%、外資規制31.03%、差別的な税制20.69%、  電気機械器具では有効回答数13社のうち、輸入制限23.08%、現地調達要求など38.46%、基準・認証制度23.08%、外資規制7.69%、差別的な税制7.69%となった。 非製造業では有効回答数145社のうち輸入制限44.14%、現地調達要求など19.31%、基準・認証制度30.34%、外資規制35.86%、差別的な税制12.41%であった。 非製造業のうち、卸売小売業では有効回答数70社のうち、輸入制限67.14%、現地調達要求など25.71%、基準・認証制度41.43%、外資規制37.14%、差別的な税制17.14%、 運輸業では有効回答数17社のうち、輸入制限35.29%、現地調達要求など5.88%、基準・認証制度29.41%、外資規制52.94%、差別的な税制11.76%となった。

出所:「2018年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

様々なタイプの非関税措置が日系企業の活動に影響

インドネシアの非関税措置は多岐に及ぶが、ここでは現地ヒアリングを基に特に日系企業が障壁と考える措置を幾つか紹介する(表3参照)。

表3:日系企業が直面する非関税措置の具体例
輸入制限 インドネシアでは法人が輸入を行うための基本的なライセンスとしてAPIがあり、APIには販売業者、商社などが保有する一般輸入事業者番号(API−U)と製造業者が保有する製造輸入事業者番号(API−P)がある。ただ、両ライセンスを同時に保持できない。
各出荷地での船積み前検査が多くの商品について義務付けられており、輸入に時間がかかる一因となっている。
基準・認証制度 インドネシア国家規格(SNI)については家電製品等において、強制規格の対象になる商品もある。SNI取得に際し、出荷者が海外の工場の場合には現地検査が要求され、検査料金のほかに検査員派遣に係る諸経費も申請者負担になる。
現地調達要求、国産品優先補助金 ローコストグリーンカー (LCGC) 適合車対応のための現地調達を要請されているが、具体的な数値目標や現調化定義などが不明確。
差別的な税制 輸入金額に対して、品目により原則2.5~10%の所得税の前納義務がある。前納した所得税は、年度決算を経て過払いとなった場合に還付請求できるが、還付請求すると税務調査が入るなど手続きが煩雑な上、還付までに半年~1年程度の時間を要する。

出所:現地ヒアリングを基に作成

(1)輸入制限-鉄鋼輸入数量規制-

インドネシアでは輸入を実施する場合、原則として輸入事業者番号(API)を取得する必要がある。APIには2種類あり、輸入品をそのまま転売する事業者が保有する一般輸入事業者番号(API-U)と、製造業者が自社の生産活動に必要な原材料や資本財を輸入するために保有する製造輸入事業者番号(API-P)が存在する。1社で保有できるのは、事業形態に応じていずれか1つとなっている。そのため、製造業者は完成品を輸入して転売することは原則的にできない。

さらに、政府が指定する輸入制限品目については、APIに加えて、別途、輸入ライセンスの取得を義務付けられる。特に、近年は鉄鋼の数量規制に多くの日系企業が困難を抱えている。インドネシアにおける日系製造業投資は輸送機器分野が多く、自動車、二輪車市場シェアの大半は日本メーカーが占めている。これらを下支えする産業として、鉄鋼の役割は大きい。商業省は2017年から、鉄鋼および鉄鋼製品の新たな輸入規制を導入している。関税分類番号(HSコード)73類(鉄鋼製品)の多くの品目で、事前の輸入許可(SPI)や船積み前検査が必要となったのだ。

本規制下では、1社で複数のHSコードの数量枠を申請できるが、特定のHSコードの数量枠を使い切った場合は、他のHSコードの数量枠を割り当てて総量で振替を行うことはできず、その都度、再申請する手間が生じる。大手鉄鋼商社は、粗悪な鉄鋼製品の流入阻止につながる点は理解するものの、申請者は需要を確実にあらかじめ読み込めるわけではないので、輸出元によって、規制の軽重を変えるなど、柔軟な対応を政府に要望している。

(2)基準認証-国家規格(Standar Nasional Indonesia :SNI)

各国は自国に安全・衛生・環境保護に合致した製品を流通させるために、基準を設ける一方、その基準認証取得に当たって、時間を含めたコストが必要以上にかかると、それはビジネスの障壁になるだろう。SNIは原則として任意規格だが、安全性や衛生、環境保護などの観点から、関係省庁やその他の関連機関が一部に強制適用を課しており、その対象品目については、SNIを取得しない限り国内流通が認められない。強制適用の対象は2018年11月時点で205品目になっており、2017年の105品目より増加した。

工場監査や船積み前検査を伴うSNI取得申請は、費用と時間の両面で負担が大きい。国家認定委員会(KAN)から承認を受けた国営あるいは民間の検査・認証機関による工場監査や製品のサンプル検査などを経る必要があるが、日本国内では対応できる提携先機関は限られる。また、一度取得したSNIは複数年の有効期間となっているものの、インドネシア向け輸出に当たっては別途、船積みごとに検査が義務付けられている品目もある。

取得には煩雑な手間を要するだけに、事前の準備が肝要だ。2019年に新たにSNIの強制規格対象に該当することになった製品を生産する大手電機メーカーは、2018年から取得の準備を開始している。また、鉄鋼関連では、従来は国内で生産不可能な鋼種はSNI取得の対象外にあったところ、近年はそうした理由であっても、当局がSNI取得を要求するなど硬直的な運用がされていることを懸念する声も上がっている。

(3)差別的な税制-前払い法人税-

インドネシアでは、輸入金額に対して、品目により原則2.5~10%の所得税の前納義務がある。前納した所得税は、年度決算を経て過払いとなった場合に還付請求できるが、還付請求すると税務調査が入るなど手続きが煩雑な上、還付までに半年~1年程度の時間を要するなど、企業にとって負担が大きい制度になっている。2018年9月には、消費財1,147点に対する輸入時の前払い所得税の税率引き上げが決定された。税率は、例えば、完成車や大型バイクで7.5%から10.0%に、一部の電化製品、化粧品、調理器具などで2.5%から10.0%と引き上げ幅は大きい。

本税制は、キャッシュフローへの影響も大きいだけに、負担に感じる日系企業が圧倒的だ。2018年9月の税率引き上げを受けて、食品・日用品を扱う企業は実質的にコストが5%アップしたとして、コストの負担に頭を悩ませる。日系コンサルタントによると、前払い税金の還付には税務調査が要件となることから、企業は税務調査を忌避して、還付を諦める例も多いという。キャッシュフローへの打撃が大きいだけに、中小企業は特に経営上の課題となっている。

巨額の貿易赤字は非関税措置導入の誘因に

インドネシアはASEANの中でも際立って、非関税措置の導入が目立つ。SNIの強制規格、鉄鋼の輸入規制、前払い法人税など、多くの日系企業のビジネス活動を阻害する措置が、近年対象範囲が拡大・強化されてきている。この理由は大きくわけて、3つあると考えられる。

第1は、インドネシア地場企業の競争力が満足に上昇しないために、政府が矢継ぎ早に非関税措置を打ち出すことで、自国産業を保護するとともに、様々な製品の国産化を促す方向に走っている可能性だ。石油ガスとパームオイルが輸出額の約3割を占める現状を打破すべく、現政権は輸出産業の育成を主要命題としている。第2は、貿易赤字を嫌う現政権が輸入を減らすために、なりふり構わずに輸入が難しくなる措置の導入に踏み切っているとみられることだ。インドネシア財務省は、貿易赤字により経常収支赤字が拡大し、通貨ルピアの為替レートが弱含むことに強い警戒感を持っているとされる。第3は、より具体的に、2019年4月17日の大統領選挙を控えて、国内関係者の支持を得たい現政権が、保護貿易を強化しているとの見方だ。

今後、インドネシアの非関税措置はどういった方向に進むのか。ASEANは、ASEAN経済共同体(AEC)を設立させ、各国が2016年から10年間の経済統合の方向性を定める「AECブループリント2025」の下で、非関税措置の撤廃を進めていく予定だ。また、インドネシア大統領選挙後に措置の導入は落ち着くとの見方もある。しかし、短期的には2019年1月に発表された2018年通年の貿易統計では貿易赤字が過去最大になっているだけに(図2参照)、政府は非関税措置の軽減・撤廃には踏み込みにくいだろう。他方、こうした措置は他国の企業にも影響し得るため、インドネシアで事業を展開する日系企業の非関税措置への対応が進めば、それは逆に他国・他社の製品流入抑止、ひいては自社製品の競争力強化につながることにもなり得る。同国の非関税措置を正しく理解し、中長期的に取り組む一方、政府・産業界が協力してビジネス環境改善に取り組む必要があるだろう。

図2:インドネシアの貿易動向
1996年から2018年までの輸出入と貿易収支を100万ドル単位で示した。 1996年では輸出49815百万ドル、輸入42929百万ドル、貿易収支6886百万ドルであった。 以降、1997年では輸出53444百万ドル、輸入41680百万ドル、貿易収支11764百万ドル、 1998年では輸出48848百万ドル、輸入27075百万ドル、貿易収支21772百万ドル、 1999年では輸出48665百万ドル、輸入24003百万ドル、貿易収支24662百万ドル、 2000年では輸出62124百万ドル、輸入33666百万ドル、貿易収支28458百万ドル、 2001年では輸出56321百万ドル、輸入30962百万ドル、貿易収支25359百万ドル、 2002年では輸出57159百万ドル、輸入31289百万ドル、貿易収支25870百万ドル、 2003年では輸出61058百万ドル、輸入32551百万ドル、貿易収支28508百万ドル、 2004年では輸出71585百万ドル、輸入46525百万ドル、貿易収支25060百万ドル、 2005年では輸出85660百万ドル、輸入57701百万ドル、貿易収支27959百万ドル、 2006年では輸出100799百万ドル、輸入61065百万ドル、貿易収支39733百万ドル、 2007年では輸出114101百万ドル、輸入74473百万ドル、貿易収支39627百万ドル、 2008年では輸出137020百万ドル、輸入129197百万ドル、貿易収支7823百万ドル、 2009年では輸出116510百万ドル、輸入96829百万ドル、貿易収支19681百万ドル、 2010年では輸出157779百万ドル、輸入135663百万ドル、貿易収支22116百万ドル、 2011年では輸出203497百万ドル、輸入177436百万ドル、貿易収支26061百万ドル、 2012年では輸出190032百万ドル、輸入191691百万ドル、貿易収支-1659百万ドル、 2013年では輸出182552百万ドル、輸入186629百万ドル、貿易収支-4077百万ドル、 2014年では輸出176292百万ドル、輸入178179百万ドル、貿易収支-1887百万ドル、 2015年では輸出150393百万ドル、輸入142695百万ドル、貿易収支7698百万ドル、 2016年では輸出144490百万ドル、輸入135653百万ドル、貿易収支8837百万ドル、 2017年では輸出168828百万ドル、輸入156986百万ドル、貿易収支11843百万ドル、 2018年では輸出180059百万ドル、輸入188626百万ドル、貿易収支-8566百万ドルとそれぞれ推移した。

資料:Global Trade Atlas(GTA)から作成

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課課長代理
新田 浩之(にった ひろゆき)
2001年、ジェトロ入構。海外調査部北米課(2008年~2011年)、同国際経済研究課(2011年~2013年)を経て、ジェトロ・クアラルンプール事務所(2013~2017年)勤務。その後、知的財産・イノベーション部イノベーション促進課(2017~2018年)を経て2018年7月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
原 知輝(はら ともき)
2013年4月、高圧ガス保安協会 入社。2018年10月から現職。

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