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特集:総点検!アジアの非関税措置EPAやTPP11を通じたNTMの整合に期待(オーストラリア)

2019年3月15日

貿易額でみると、オーストラリアにとって日本は2番目、日本にとってオーストラリアは5番目に大きく、両国は重要な貿易パートナーだ。アジア太平洋地域において自由貿易推進を掲げる同盟国同士であるが、非関税措置(NTM)という側面では、日本から輸出する上でのハードルとなる規制がオーストラリア内に存在する。逆もしかりで日本にもNTMがあり、こうした規制は国内の消費者を守るための措置であるが、基準・制度が自国と異なるので貿易障壁と受け取られがちだ。両国関係では、日豪EPA(経済連携協定)に加えて、2018年末にTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定、CPTPP)が発効した。こうした協定の枠組みを通じて対話を重ねることにより、両国が設ける規制の相互理解や基準の調和が進めば、両国間貿易がさらに円滑化されることが期待できる。

在豪日系企業の36%に非関税措置が影響

ジェトロが2018年10月~11月にかけて実施した2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査によると、オーストラリア進出日系企業(有効回答数は146社)のうち、ビジネスを阻害する非関税措置(NTM)について「特に問題なし」と回答した企業の割合は63.7%に上った。

ビジネスを阻害しているNTMを1つ以上挙げた企業は36.3%となっており、同じオセアニア地域のニュージーランド(26.7%)と比べると高いが、シンガポール(37.9%)や韓国(36.8%)など、他の先進国と同様の水準となっている。分野別では、製造業の方が非製造業よりもNTMを指摘する割合が高い(表1参照)。

表1:オーストラリア進出日系企業の回答したビジネスを阻害する非関税措置(単位:%)(-は値なし)
ビジネスを阻害する非関税措置 全体
(n=146)
製造業
(n=31)
非製造業
(n=115)
基準・認証制度(強制規格など) 17.1 25.8 14.8
輸入制限(輸入者登録義務、輸入ライセンス制度など) 15.8 25.8 12.1
現地調達(ローカルコンテント)要求、国産品優先補助金など 9.6 12.9 9.1
外資規制(サービス貿易の阻害) 7.5 9.7 7.0
セーフガード、アンチダンピング課税 4.8 6.5 4.4
差別的な税制(関税以外) 4.8 3.2 5.2
知的財産の侵害(水際での模倣品差し止め措置ができない) 3.4 6.5 2.6
輸出制限(未加工資源の輸出禁止、輸出税など) 2.7 - 1.5
特恵関税利用時の原産地証明書の否認 2.1 - 2.6
その他 0.7 - 0.9
特に問題なし 63.7 51.6 67.0

注:影響がある項目は複数回答、特に問題なしの場合は他の項目選択不可。
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

措置別では、「基準・認証制度」(17.1%)、「輸入制限」(15.8%)、「現地調達(ローカルコンテント)要求など」(9.6%)の3つの回答が多い(全業種)。そのうち、特に製造業では「基準・認証制度」と「輸入制限」の2つがそれぞれ25.8%に上る。

「基準・認証制度」と回答した割合を比較すると、調査対象の18カ国・地域(注)の中で、オーストラリアは、インドネシア(24.0%)、マレーシア(19.5%)、韓国(18.4%)に次いで4番目に高く、同措置をビジネス阻害要因と感じる企業は比較的多い。一方、「輸入制限」については7番目に低く、問題と感じている進出日系企業の割合は他国に比べて少ない。

調査では、アジア・オセアニア進出日系企業を対象に「非関税障壁が高いと感じる国・地域」を聞いたところ、オーストラリアを除く他国に立地する日系企業(有効回答数:延べ2,086社)で、オーストラリアの非関税障壁が高いと回答した企業数は15社とわずかだった(表2参照)。国・地域別ではシンガポール、ニュージーランド、ベトナムからの回答が数件ずつあり、措置別では「基準・認証制度」が多かった。

表2:オーストラリアの非関税障壁が高いと感じている進出日系企業(在オーストラリア企業を除く)(単位:社)
非関税障壁 シンガポール ニュージーランド ベトナム 香港 マレーシア インドネシア 総計
基準・認証制度 4 1 1 1 1 0 8
輸入制限 1 1 0 0 0 0 2
輸出制限 0 0 2 0 0 0 2
セーフガード、アンチダンピング課税 0 0 0 0 0 1 1
現地調達要求、国産品優先補助金など 0 0 0 1 0 0 1
その他 0 1 0 0 0 0 1
総計 5 3 3 2 1 1 15

注:回答企業は「非関税障壁が高いと感じる国・地域」を最大5ヵ国・地域を選択し、当該国のどのような非関税障壁がビジネスを最も阻害しているか選択する。オーストラリア進出日系企業を除いた有効回答数は、延べ2,086社。
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

非関税措置の約半数は衛生植物検疫

WTOのNTMのデータベースをみると、オーストラリアがWTOに通報しているNTMが960措置ある中で、衛生植物検疫(SPS)措置が465措置とほぼ半数を占めている(図参照)。貿易に関する技術的障壁(TBT)の209措置と合わせると、約7割が工業製品や食品の安全規格・工業標準に関するものだ。

図:オーストラリアの非関税措置の数
衛生植物検疫措置が465措置、貿易に関する技術的障壁が209措置、数量制限が178措置、アンチダンピングが86措置、相殺措置が14措置、輸出補助金が6措置、関税割当が2措置。

出所:WTO Integrated Intelligence Portalよりジェトロ作成

こうした措置は、オーストラリアの消費者を保護する目的で設けられている。その一方で、一部の措置が日系企業のビジネスを阻害する原因ともなっている。例えば、オーストラリアのSPSは、日本食レストランや日本の食材を扱う卸売業や小売業の経営に影響を与えている。ジェトロが日本産食材に関係する日系企業を中心に聞き取り調査を行ったところ、和食に欠かせない食材や、日本の食材を扱う小売店に重要な商品が、各種規制により実質的に輸入ができなかったり、一部商品に限定されたりしている(表3参照)。

表3:輸入が困難な日本産農林水産物・食品
輸入可否 品名 具体的な状況
輸入不可 コハク酸 日本のスープやドレッシングなどに利用されているが、オーストラリアでは使用が認められていない。
生鮮、液体、冷凍など、どの状態でも輸入が認められていない。
輸入困難 昆布、海藻 ヨウ素の含有量が多い昆布は輸入できない。昆布だしを取る昆布はヨウ素が多いため、ほぼ輸入できない。
豚骨 豚コレラが警戒されており、ほとんど輸入が認められない。
果物、野菜 各種規制により、ほとんど輸入できない。野菜は土や種が付いたものは困難。また、日本から船便で1ヵ月かかり、消費期限の問題もある。
条件あり 頭部、内臓、中骨を除去する必要がある。輸入許可があれば可能だが、1回500豪ドルの申請料が必要で、1~1.5ヵ月かかる。
鰹節 輸入許可証が必要。
漬物 パッケージングされていないものは輸入不可。
和牛 日本国内の許可された食肉処理場で処理されたものに限られる。
一部商品に
限定
お菓子 添加物が多いため、輸入が認められない商品が多い。
着色料 数種類しか使用が許可されない。各色1種類程度に限定される。
カップ麺 大部分のカップ麺にコハク酸が使用されており、輸入できない。

出所:在オーストラリア日系企業からの聞き取り調査

具体的な代表例を挙げると、複数の企業関係者は「日本のカップ麺を輸入したい」と口をそろえるが、日本のカップ麺にはコハク酸(貝類に含まれる、うまみ成分)などの添加物が含まれており、こうした添加物がオーストラリアの輸入ポジティブリストに掲載されていないため、大部分の日本産カップ麺は実質的に輸入ができない。

また、和食の重要な食材である昆布について、昆布のヨウ素含有量に基準値があるため、大部分の(昆布だし用の)昆布は輸入ができない。オーストラリア政府は、ヨウ素の過剰摂取が甲状腺疾患につながるため輸入を規制しているが、「だしを取るだけであれば問題ないはずで、科学的根拠がない」(卸売業A社)といった意見も出ており、関係企業にとってはフラストレーションになっている。昆布だしは和食の根幹となる要素となるため、日本産のだし用昆布が輸入できない点は、「日本食レストランにとって大きな障害」(A社)だと言う。

卵は、生鮮、液体、冷凍などを問わず、いずれの状態も輸入が認められていない。A社は「国内産業保護のためという見方が強い」と言う。

アンチダンピングで思わぬコスト増が発生

工業製品の安全規格や工業標準などについては、日系企業への聞き取り調査では「他国に比べて厳しいと感じたことはない」(輸入販売業B社、小売業C社ほか)という回答が多かった。

そうした中で、機械メーカーD社からは「最近になって、カメムシを除去するための燻蒸(くんじょう)処理が必要になり、追加コストとなっている」との声が聞かれた。オーストラリア農業水資源省は2018年9月~2019年4月の期間、米国、イタリア、ドイツなどから運搬される自動車、機械といった高リスク貨物に燻蒸処理を義務付けた。1コンテナ当たり1,100~1,350オーストラリア・ドル(約8万6,900円~約10万6,650円、1オーストラリア・ドル=約79円)の追加コストが発生している(日本からの貨物は船舶検査のみ義務付けられている)。

また、オーストラリアは日本の鋼材に対してアンチダンピング(AD)措置をとることがあり、D社は「ADの対象鋼材を原材料とするメーカーは影響を受けることがある」と言う。2017年12月に熱延鋼板に対するAD措置は終了となったが、形鋼、合金鋼熱処理厚板などに対するAD措置はまだ継続されており、日本機械輸出組合の「各国・地域の貿易・投資上の問題点と要望」でも問題として取り上げられている。

EPAが相互間の規制のすり合わせの機会に

オーストラリアではNTMによって、輸入販売されている商品の品質と安全性が担保されており、NTMが同国の消費者を守る一助となっていることは事実だ。従って、OECD(2018年)が指摘するように、関税撤廃と同様の方法でNTMsを取り払うのではなく、日本とオーストラリア相互で規制を近づけていく方が望ましいだろう。経済学者のオリビエ・カド氏の論文(2018年)によると、2国間のNTMや規制の差異(不均質性)を取り除いていくことが、貿易コストの削減につながる。

日本とオーストラリア間では2015年1月に日豪経済連携協定(EPA)が発効し、2018年12月30日には環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)も発効した。日系卸売業A社は「FTA(自由貿易協定)やEPAが発効すると、(日本産農産品や食品などの)輸入規制が改善されることがある。協定によって少しずつ改善が進んでいることを実感しており、良い効果があるのは確かだ」とする。こうしたFTA/EPAの枠組みを使った2国間協議によって、両国の規制に対する認識のすり合わせの機会が生まれ、規制の不均質性が除去されることで、相互間の貿易がより促進されることが期待できる。


注:
韓国、台湾、香港・マカオ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、オーストラリア、ニュージーランド。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2009~2012年)、ジェトロ大阪本部ビジネス情報サービス課(2012~2014年)、ジェトロ・カラチ事務所(2015~2017年)を経て現職。

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