特集:主要国・地域の越境EC タイの越境EC

2017年12月20日

EC市場規模

2016年のタイのEC市場規模は2兆5,240億バーツ(約703億ドル)となり、前年比12.4%増(タイ電子取引開発庁[ETDA])。これはB2B、B2C、B2Gの各市場の合計額であるが、最も成長したのがB2C市場で、前年比43.0%増の7,293億バーツ(約203億ドル)。

消費者の特徴

タイの消費者は1日当たり平均6.0時間インターネットを利用。最も利用時間が長いのは、「1981年~2000年生」の層で1日平均7.6時間。媒体別には、スマホ経由でのインターネット閲覧層が調査総数(1万6,661人)の85.5%と最多、以下、デスクトップPC(62.0%)、ラップトップPC(48.7%)の順(ETDA調査)。ただし、日中はデスクトップPC、夜はスマホやタブレットでの閲覧が増加傾向にあり、消費者は複数の媒体を使い分けインターネットにアクセスしている。

売れ筋商品

EC市場を商品分野別にみると、2016年の売り上げが最大であったのは食品・飲料分野(1,655億バーツ[約46億ドル])と化粧品・サプリメント分野(1,432億バーツ)で、これら2分野でB2C市場全体の4割強を占有。次いで電気電子製品(550億バーツ)、衣類・アクセサリー(469億バーツ)、スポーツ用品(347億バーツ)。特に食品は市場規模が2015年比62.0%増と大きく伸長。

日本製品の人気は高く、ラザダやウィ・ラブ・ショッピングなど大手に加え、日本製品を取り扱いの中心に据える中小ECサイトも多い。

出品に際する留意点

他方、事業者からのヒアリングによると、越境ECについては関税や、食品医薬品局(FDA)ライセンスの取得関連で、想定以上の関税支払いを要求されるケースや、商品が届かないなどのトラブルが多く、次回以降購入しなくなるケースがみられる、とのこと。具体的には、セール価格で購入した場合は、通常価格より安価に輸入することになるが、税関は彼らが正当と考える価格で課税価額を決定するため、想定より高額な関税支払いを強いられるというもの。

かつてはタイのインターネット掲示板である「パンティープ」や大手メディアの情報を参照して商品購入を決めることが多かったが、SNSの登場とスマホの普及により、フェイスブックやインスタグラム、LINE、ユーチューブなど、文字を入力せず、画像・映像と親和性が高い媒体に移行してきた(事業者からのヒアリング)。

なお、訪日観光客が購入するものは、タイでは高価過ぎて購入できないものか、入手できないもの。また友人などに配るため、化粧品であれば資生堂など知名度が高いブランドのコットンやペンなどを大量に買う傾向もみられるとのこと。

ECメインプレーヤー

近年、アリババが積極的にタイでも活動。2016年11月、アリババの金融子会社アント・フィナンシャルは、タイ最大財閥CP傘下のアセンド・マネーと戦略的提携を発表。アセンド社の事業規模を生かし、タイのみならずASEAN主要国のオンライン決済市場へ進出するとした。また、東部臨海地域(EEC)開発事業に関連し、アリババは同空港拡張に合わせて新設されるフリートレードゾーンへの進出を計画。カンボジア、ラオス、ミャンマーなど、周辺諸国に対する電子商取引のハブとしての活用を検討(ウタパオ空港長へのヒアリング)。

タイにおける越境ECの市場動向と制度

タイにおける越境EC市場動向
日本からの出品を可能にしている主なECサイト
  • トウキョウ・スウィート(Tokyo Sweet)
  • ジャパン・メンバー(Japan Member)
  • ジャパン2ショップ(Japan 2 Shop)
  • トウキョウ・クール(Tokyo Cool)
  • トウキョウ・バズ・オンライン(Tokyo Buss Online)
  • サイアム・ケーン(Siam Kane)
(以上のECサイトはタイ地場企業が運営し、日本の品物を主に取り扱っているサイト)
  • ラザダ
  • ウィ・ラブ・ショッピング(WeLoveShopping)
  • タラッド(Tarad)
主要ECサイトにおける販売上位品目(=売れ筋)
  • 飲料・食品(市場規模約1,655億バーツ(約46億ドル))
  • 化粧品・サプリメント(約40億ドル)
  • 電気電子製品(約15億ドル)
  • 衣類・アクセサリー(約13億ドル)
  • スポーツ用品(約10億ドル)
(注)為替レートは1ドル=35.9バーツ(16年末)で換算
(出所)Value of E-Commerce Survey in Thailand 2016
越境EC利用の際の主な決済システムの利用割合
  • クレジット・デビットカード(45.2%)
  • オンラインバンキング(28.9%)
  • モバイルペイメント (22.6%)
  • その他(3.3%)
(注)EC事業者が導入しているオンライン決済チャネル(2015年)
(出所)Value of E-Commerce Survey in Thailand 2016
タイにおけるEC(越境EC含む)に関する制度
国内規制 (1)データ制約に関する規制の有無
  • タイデジタル経済社会省は2017年5月24日、コンピューター犯罪法を施行。トラフィックデータの90日以上の保管義務や、コンピューターデータ審査委員会にデータブロック、破棄についての裁判所命令を要請する権限が与えられた。
  • 個人情報保護については、信用情報ビジネス法、民法、商法等で一部規定。2018年1月現在、個人情報保護法策定に向けた作業が進められている。
  • 現時点でデータローカリゼーション、ソースコード開示にかかる法令は導入されていない。
(2)規制取扱商品
  • 「輸入規制品目と同規制」(EC特有の輸入規制は今のところ無し)。
(3)その他のEC販売に関連する規制
  • タイ歳入局は、17年6月22日、「電子商取引事業者に対する課税についての歳入法典改正法案」を公表。(1)タイのローカルドメインを使用する場合、(2)タイ通貨の決済システムを利用する場合、(3)タイから代金を送金する場合、のそれぞれにおいて「恒久的施設」があると認定することや、年間180万バーツ以上の越境商品販売や役務提供による収入がある場合に付加価値税の登録・納税義務があることを規定。越境電子商取引に対する課税基準を明確化した。
小口配送に関する税制や輸入手続き関連制度(上のメリット)の有無と販売への影響
  • 左記歳入法典の改定により、これまで1,500THB以下の少額貨物の輸入については付加価値税を免除していたが、当該措置が廃止される見込み(※改定時期は未定)。

【注】本資料で提供している情報は、ご利用される方のご判断・責任においてご使用ください。ジェトロでは、できるだけ正確な情報の提供を心掛けておりますが、本資料で提供した内容に関連して、ご利用される方が不利益などを被る事態が生じたとしても、ジェトロは一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

ジェトロ海外調査部


変更履歴
表「タイにおけるEC(越境EC含む)に関する制度」に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(2018年1月30日)
国内規制
(1)データ制約に関する規制の有無
(誤)個人情報保護規定については、信用情報ビジネス法、個人情報保護法などで規定。個人情報保護規定は、経済協力開発機構(OECD)のガイドラインに沿ったもの。
(正)個人情報保護については、信用情報ビジネス法、民法、商法等で一部規定。2018年1月現在、個人情報保護法策定に向けた作業が進められている。