米中向け輸出が大幅減、危機感深まる
2025年のEU自動車産業(1)

2026年7月8日

EUの2025年の乗用車の新車登録台数および生産台数は、前年比微増にとどまり、重要市場の米国や中国向け輸出が大幅に減少するなど、競争力低下がさらに鮮明になった。苦境が深まるEU自動車産業について、第1回(本稿)は欧州自動車工業会(ACEA)の2025年経済市場報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(799KB)(2026年4月発表)を基に市場動向を整理し、第2回はEUの自動車分野の競争力強化政策を概括する。

ハイブリッド車が燃料別で初めて最多、EV需要も回復

EUの2025年の新車登録台数は、前年比1.8%増の1,082万2,831台だった(国、燃料、メーカー別登録台数については2026年1月29日付ビジネス短信参照)。特筆すべきは、EU市場で初めて、ハイブリッド式電気自動車(HEV)が燃料別で最多となったことだ。電気自動車(EV)では、近年低調だったプラグインハイブリッド車(PHEV)が急回復(前年比33.4%増)し、初めてディーゼル車を上回った。バッテリー式電気自動車(BEV)は29.9%増となり、BEVとPHEVの合計で新車登録全体の26.8%を占めた。一方、北欧諸国ではEV(BEVおよびPHEV)の割合が60%超と高いが、EUの新車登録台数の4割を占めるドイツ、フランスのEV率は30%前後にとどまる。また、イタリア、スペインやポーランドではEV率は依然として低水準にあり、普及の遅れがみられる(図参照)。

図:2025年の新車登録台数におけるEUおよび主な加盟国の燃料別シェア
EU全体:BEV 17.4、PHEV 9.4、HEV 34.5、ガソリン 26.6、ディーゼル 8.9、その他 3.3。デンマーク:BEV 68.5、PHEV 2.5、HEV 13.6、ガソリン 12.7、ディーゼル 2.6、その他 0.0。スウェーデン:BEV 36.5、PHEV 26.7、HEV 11.1、ガソリン 19.4、ディーゼル 5.6、その他 0.7。オランダ:BEV 40.2、PHEV 18.9、HEV 26.4、ガソリン 13.1、ディーゼル 1.0、その他 0.4。ベルギー:BEV 34.7、PHEV 9.5、HEV 11.3、ガソリン 40.6、ディーゼル 3.1、その他 0.8。フランス:BEV 20.0、PHEV 6.7、HEV 43.9、ガソリン 21.2、ディーゼル 4.9、その他 3.4。ドイツ:BEV 19.1、PHEV 10.9、HEV 28.6、ガソリン 27.2、ディーゼル 13.8、その他 0.4。スペイン:BEV 8.8、PHEV 10.8、HEV 42.0、ガソリン 27.7、ディーゼル 5.5、その他 5.2。ハンガリー:BEV 8.5、PHEV 5.5、HEV 50.5、ガソリン 23.9、ディーゼル 11.1、その他 0.5。ポーランド:BEV 7.2、PHEV 5.7、HEV 45.7、ガソリン 31.0、ディーゼル 7.1、その他 3.2。イタリア:BEV 6.2、PHEV 6.4、HEV 44.1、ガソリン 24.4、ディーゼル 9.7、その他 9.2。チェコ:BEV 5.6、PHEV 4.4、HEV 23.0、ガソリン 47.3、ディーゼル 17.1、その他 2.6。

注:「その他」とは、燃料電池車(FCEV)、天然ガス車(NGV)、液化石油ガス(LPG)車、E85またはエタノール燃料車、その他の代替燃料車を指す。
出所:ACEA資料を基にジェトロ作成

生産台数(暫定値)は前年比0.3%増の1,147万235台だった(表1参照)。ACEAは、EU域外市場でのEU製車への需要低迷や、コスト圧力が継続的にかかったことにより、主要国で生産が伸び悩んでいると分析した。

表1:2025年のEUおよび域内上位10カ国の生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)注:2025年は暫定値。
順位 国名 2024年 2025年(注) 伸び率
1 ドイツ 3,941,457 4,032,756 2.3
2 スペイン 1,872,580 1,766,325 △ 5.7
3 チェコ 1,448,908 1,440,985 △ 0.5
4 スロバキア 993,088 1,073,050 8.1
5 フランス 854,254 986,275 15.5
6 ルーマニア 475,808 452,255 △ 5.0
7 ハンガリー 436,273 411,943 △ 5.6
8 スウェーデン 284,301 247,972 △ 12.8
9 ポルトガル 236,023 240,400 1.9
10 イタリア 308,822 237,975 △ 22.9
EU合計 11,440,621 11,470,235 0.3

注:2025年は暫定値。

出所:ACEA資料を基にジェトロ作成

輸出は米国の関税措置や中国市場の競争激化の影響色濃く

EUの2025年の乗用車輸出台数は448万6,102台(前年比4.3%減)、輸入台数は358万1,522台(3.4%増)だった(表2参照)。金額ベースでは、輸出額1,479億100万ユーロ(前年比6.2%減)に対し、輸入額は718億7,200万ユーロ(3.2%減)で、貿易収支は2021年以降最小の760億2,800万ユーロ(8.9%減)の黒字だった。特に、米国と中国向け輸出の大幅減が影響した。

表2:EUの2025年の乗用車の輸出入額および台数(△はマイナス値、ーは値なし)

輸出額(単位:100万ユーロ、%)
順位 相手国 2024年 2025年 伸び率 構成比
1 英国 34,106 35,822 5.0 24.2
2 米国 39,272 30,887 △ 21.4 20.9
3 トルコ 12,232 15,640 27.9 10.6
4 中国 14,627 8,342 △ 43.0 5.6
5 スイス 6,942 7,107 2.4 4.8
世界全体 157,731 147,901 △ 6.2
輸出台数(単位:台、%)
順位 相手国 2024年 2025年 伸び率 構成比
1 英国 1,275,778 1,290,748 1.2 28.8
2 トルコ 598,220 717,204 19.9 16.0
3 米国 771,838 667,694 △ 13.5 14.9
4 スイス 180,004 180,312 0.2 4.0
5 日本 144,682 163,277 12.9 3.6
世界全体 4,687,261 4,486,102 △ 4.3
輸入額(単位:100万ユーロ、%)
順位 相手国 2024年 2025年 伸び率 構成比
1 中国 13,195 13,724 4.0 19.1
2 日本 11,968 10,605 △ 11.4 14.8
3 トルコ 9,112 9,919 8.9 13.8
4 英国 10,473 9,297 △ 11.2 12.9
5 韓国 7,895 8,696 10.1 12.1
世界全体 74,231 71,872 △ 3.2
輸入台数(単位:台、%)
順位 相手国 2024年 2025年 伸び率 構成比
1 中国 769,935 1,006,188 30.7 28.1
2 トルコ 547,752 566,823 3.5 15.8
3 日本 508,163 432,144 △ 15.0 12.1
4 モロッコ 447,888 377,889 △ 15.6 10.6
5 韓国 358,235 375,643 4.9 10.5
世界全体 3,463,699 3,581,522 3.4

出所:ACEA資料を基にジェトロ作成

対米輸出は、同国の関税措置の影響を受け、輸出台数は前年比13.5%減の66万7,694台、輸出額は21.4%減の308億8,700万ユーロだった。

EUと米国は2025年8月、EU製自動車・同部品の関税率は15%とすることなどで合意した。しかし、EUが誓約した米国製工業製品に対する関税撤廃などに係る法案の成立が遅れ(2026年4月3日付ビジネス短信参照)、米国のドナルド・トランプ大統領は7月4日を期限に関税引き上げを示唆した。EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は2026年5月20日に政治合意し、7月1日に施行した(2026年7月2日付ビジネス短信参照)。

中国については、同国の国内メーカーとの競争激化などにより、輸出台数は前年比42.8%減の15万9,743台、輸出額も前年比43.0%減の83億4,200万ユーロと大幅に減少した。

一方、中国からの輸入台数は前年比30.7%増の100万6,188台に達し、輸入額は4.0%増の137億2,400万ユーロだった。

初の価格約束受け入れも、中国はますます無視できない存在に

2025年にEUで販売された乗用車の生産国を見ると、中国製車の割合は7%で、現時点ではドイツなどのEU製が圧倒的に多い(シェア73%)。EUおよび日本、韓国製車のシェアは2021年以降、大きな変化はみられないが、中国製車は同年の1%から急速にシェアを拡大している。

EUは中国製BEVに対し相殺関税措置を2024年10月31日から実施(2026年1月27日付地域・分析レポート参照)する一方で、中国とBEVの最低輸入価格を申し出る「価格約束」に関する交渉を継続してきた。2025年10月、大衆安徽〔ドイツのフォルクスワーゲン(VW)の中国法人と安徽江淮汽車集団(JAC)の合弁会社〕は、EUに輸出するクプラ・タバスカンの車種について価格約束を申請した。欧州委は2026年1月に輸出事業者に対する指針を発表した後、同年2月に同社の申請を承認し、初の価格約束受け入れとなった(2026年2月18日付ビジネス短信参照)。

なお、ブリュッセルのEU政策研究シンクタンクのブリューゲル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、価格約束には次のような課題があると指摘する。

(1)最低輸入価格は、EV価格が現在より高水準であった3年前の輸入価格を基に設定されるため、人為的に高く設定され、結果として、EU市場における販売価格の上昇や中国企業の利益拡大に資する可能性がある。

(2)EV関連技術は急速に発展し、製品仕様は短期間で更新される。欧州委がモデルごとの価格調整を適時かつ適正に監督する専門知識があるかは不明だ。検証手続きの長期化により、貿易や消費者の選択の幅に影響が及ぶ可能性がある。

一方、欧州委はBEV以外の製品販売による利益補塡(ほてん)を防ぐため、シンプルな製品ラインアップ、より明確な情報開示やBEV関連のEU域内における継続的な投資の誓約などを、最低輸入価格合意の条件としている。そのため、米国調査会社ロジウム・グループ(ロジウム)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、BEVやPHEVなど複数モデルを輸出する中国企業にとって、最低輸入価格を申請するハードルは高く、限定的となる可能性が高いとの見方を示している。

ロジウムはまた、中国からEUへのBEV輸出台数はおおむね同措置発動前の水準に回復しつつあり、措置の対象外のHEVなど内燃機関搭載車、PHEVの輸出が急速に増加していることを指摘する。欧州委がPHEVの輸入急増に対し、新たな通商防衛措置を取る可能性を予測している。


フランス・リール市のショッピングセンターでのBYDの小型EV「ドルフィン・サーフ」のプロモーションの様子。
「価格は1万9,990ユーロから」とある(ジェトロ撮影)

デジタル化・コネクテッド化が進む中国、EUは循環性向上で巻き返せるか

欧州委の研究機関・共同研究センター(JRC)は、EU市場における中国車に関する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2026年3月発表)で、中国企業の強みの1つとしてイノベーション力を挙げている。中国企業の研究開発投資は年率15~18%で拡大しており、自動車関連で研究開発の伸びが大きい主要企業30社のうち、22社を中国企業が占め、米国企業は6社、欧州企業は2社(ステランティスと部品メーカーのフォルビア)にとどまる。欧州は内燃機関の効率化やハイブリッド技術で優位性を有するが、中国では著しく発展する情報通信関連産業が、政府方針に沿って新エネルギー車(NEV)やインテリジェント・コネクテッド・ビークル(ICV)の開発・生産に力を入れてきた中国メーカーを後押ししてきた点も指摘する。

また、中国の自動車大手5社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)による関連投資は、国内での投資活動が9割を占め、米国のエコシステムへの投資活動が多いEUや日本とは対照的な動きを示している。EU製車は中国車よりエネルギー効率や安全性の面で優位に立つが、EU企業は研究成果を革新的な製品やシステムに結び付ける能力に課題があると指摘されている。 一方、中国企業は早期から車両のデジタル化、コネクテッド化を進めており、例えば先進運転支援システム(ADAS)について、EUは導入段階だが、中国では既に普及が進んでおり、中国企業はデジタル技術分野での優位性を背景に、EU市場をさらに席巻する可能性があるとした。

報告書はEU自動車産業の復活のカギの1つに循環性の強化を挙げた。EUでは2026年内に、新車におけるプラスチックなど再生材の一定割合の利用を義務化する自動車設計・廃車(End-of-Life Vehicles:ELV)規則が施行予定(2025年12月26日付ビジネス短信参照)など、規制が強化される。そのため、大規模な投資が必要になるが、循環性向上はEU自動車産業の強靭(きょうじん)化や競争優位性の回復に資すると分析した。一方、中国はバッテリーのリサイクルでも既に主導的な地位を築き、EU域内でも関連投資を行っており、EUは迅速に行動する必要があると警鐘を鳴らしている。

こうした中、ステランティスは2026年5月、中国EVメーカーの零跑汽車(リープモーター)との提携を拡大し、同社の車両生産や部品調達網の活用に加え、将来的な工場譲渡の意向も示した。さらに、東風汽車とも欧州での合弁会社を設立し、EUが進める「域内産(Made in EU)」の要件への適合を視野に入れ、車両生産も検討している(2026年5月22日付ビジネス短信参照)。現地報道によると、他のメーカーでも中国メーカーと協業を模索する動きがある。

2026年も中国企業のEUでの販売と生産の両面で攻勢は続いており、EUの最大輸出先市場の英国(2026年4月20日付ビジネス短信参照)や新興国などでも、中国メーカーとの競争が激しくなってくるだろう。報告書では、中国メーカーの成功には、15年以上にわたって明確な産業政策の方向性が示され、大規模な財政支援と規制の予見可能性があったとし、EUも長期的な政策戦略が必要と指摘している。欧州委はさまざまな支援策を示しているが、スピード感を持って難局を乗り越えることが求められている。

2025年のEU自動車産業

シリーズの次の記事も読む

(2)中国EV台頭で域内産優遇に向け新提案

執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
滝澤 祥子(たきざわ しょうこ)
2016年からジェトロ・ブリュッセル事務所勤務。