中国EV台頭で域内産優遇に向け新提案
2025年のEU自動車産業(2)

2026年7月8日

EU製造業は、高止まりするエネルギー価格や規制順守負担が重荷となり、生産能力や国際競争力が低下、米国や中国との技術格差も拡大する一方だ。欧州委員会は2025年2月に発表した「クリーン産業ディール」(2025年12月8日付地域・分析レポート参照)を皮切りに、域内産業基盤の強化を急いでいる。

自動車産業については、産業界と戦略的対話を重ね、「自動車部門に関する産業行動計画」(2025年3月)と自動車産業支援パッケージ(同年12月)を発表した。2035年以降の乗用車・小型商用車(バン)の内燃機関搭載車の新車販売の継続容認や、安価な輸入車に対抗するためのEU域内産車の優遇策などを打ち出した。

後編となる本稿では、行動計画と支援パッケージに加え、2026年3月に発表された産業加速法案(IAA、2026年3月13日付ビジネス短信参照)における乗用車関連の施策や産業界の反応を概括する。

全新車のゼロエミッション化方針を転換も、厳しい条件を課す

行動計画では、イノベーション・デジタル化やクリーンモビリティー、公正な競争条件など5分野について政策の方向性が示された(2025年3月13日付ビジネス短信参照)(表1参照)。このうち、新車の乗用車・小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準に係る規則の改正など、一部を具体化したのが支援パッケージだ(2025年12月25日付ビジネス短信参照)(表2参照)。

表2:自動車産業支援パッケージ(2025年12月発表)の主な内容
法案など 内容
(1)新車の乗用車・バンのCO2排出基準に係る規則および自動車表示指令の改正案 2035年以降のCO2排出基準緩和、域内産小型電気自動車(EV)に優遇的な排出クレジットを付与することなどを提案
(2)自動車関連の規制簡素化(オムニバス)法案 全長4.2メートル以下の新たな小型車の規格導入などを提案
(3)社用車のグリーン化に係る規則案 加盟国別に大企業が調達する社用車におけるゼロ排出・低排出車(ZLEV)のシェア目標を設定
(4)政策文書「バッテリー産業支援戦略」 域内生産拡大や原材料の供給網強化、域内製品の需要喚起に向けた政策方針を示す
(5)大型車のCO2排出基準に係る一部改正案 2030年以前は、基準値を下回った場合に排出クレジットを得られるようにする。2026年3月30日、EU理事会(閣僚理事会)が承認し、EU官報掲載から20日後に適用開始

出所:欧州委員会、EU理事会の発表を基にジェトロ作成

支援パッケージで最も注目を集めたのが、新車の乗用車・小型商用車(バン)のCO2排出基準に係る規則の改正案だ。同規則は2023年の改正で、2035年以降の全ての新車のゼロエミッション車(ZEV)化を目標に掲げ、クリーンモビリティーへの移行を促す原動力とされた。しかし、電気自動車(EV)需要が想定より伸び悩み、基準未達に伴う巨額の罰金や脱炭素化関連投資への影響を懸念する産業界の声を受け、欧州委は2025年4月に、2025~2029年の排出基準を維持しつつ、2025~2027年に限り単年ではなく3年間の平均値で順守状況を評価する一部改正案を提案した(2025年4月7日付ビジネス短信参照)。同改正案は、2025年7月9日に施行された。その後、同年12月の支援パッケージで、2030年以降の基準値の修正などを提案した(表3参照)。

表3:新車の乗用車・バンのCO2排出基準に係る規則の改正案の主な内容注:削減率は対2021年比。
項目 現行排出基準 2025年12月の改正案内容
排出基準 その他
乗用車 バン 乗用車 バン
2030~2034年 55%削減(49.5g/km) 50%削減(90.6g/km) 現行基準を維持 40%削減 2030~2032年は3年間の平均値で達成状況を評価する
2035年以降 100%削減(0g/km) 100%削減(0g/km) 90%削減 90%削減 残る10%については、EU域内産の低炭素鉄鋼、合成燃料やバイオ燃料の使用で相殺

注:削減率は対2021年比。

出所:欧州委員会発表を基にジェトロ作成

改正案が成立すれば、2035年以降もプラグインハイブリッド車(PHEV)、レンジエクステンダー(注1)やマイルドハイブリッド(注2)などの販売が可能となる。産業界の要望を受けた「脱炭素化に向け技術中立に即した方針への転換」にみえるが、残る排出量10%については、(1)車両生産にEU域内産の低炭素鉄鋼を使用(全体の7%まで)、または(2)合成燃料(e-fuel)やバイオ燃料を使用(同3%まで)することで走行時の排出量を削減し、これを相殺するとの条件を付された。このため、産業界はコスト上昇や手続きの複雑さを懸念している(2025年12月25日付ビジネス短信参照)。

欧州自動車工業会(ACEA)は2026年5月12日、改正案に関する提言を発表した(欧州自動車工業会ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。乗用車については、(1)2030年目標は、2028~2032年の5年間の平均値で達成状況を評価すること、(2)2035年目標は無条件で90%削減とし、残る10%について実行可能な相殺手段を策定すること、(3)低炭素アルミニウムの使用も相殺手段に加えることを提言した。また、低炭素鉄鋼などの使用による相殺手段を直ちに導入することに加え、市場・経済動向や地政学的情勢に即した規制適用とするため、2029年末までの規則見直しの条文化も求めた。

また、欧州委は全長4.2メートル以下の小型EVの新規格を導入し、域内産EVについては2034年まで、1台につき1.3台分の排出クレジット「スーパークレジット」の付与を提案した。小型車はメーカーにとって採算性が低いセグメントだが、環境団体のTransport & Environment(T&E)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、EU第3、第4の市場であるスペインとイタリアでは小型車が販売台数の半数以上を占めることから、小型EVへの潜在需要は大きいとする。一方で、消費者がEVを購入する際に最大の課題となる価格については、同サイズの内燃機関搭載車並みの2万ユーロ程度を目標とし、販売台数の拡大により採算性も高まるとして、新規格導入に対する期待を示した。

社用車のグリーン化規則案、欧州委のゼロエミッション車推進への意欲は衰えず

CO2排出基準の緩和に踏み切る一方で、欧州委のクリーンモビリティーへの移行意欲は後退していないことを示すのが、社用車のグリーン化に係る規則案だ。

社用車とは、リースやレンタカー、タクシー事業者などが保有する車両や、企業が役員送迎に使用する車両、または従業員に給与の一環として支給する車両などを指す。乗用車では新車販売の約6割、バンでは9割を占める。

規則案では、加盟国ごとに大企業(注3)の新車登録におけるゼロ排出・低排出車(ZLEV)のシェアと、そのうちのゼロエミッション車(ZEV)のシェア目標を設定し、達成を義務付けた。EU全体では、2030年に乗用車はZLEVを69%以上(うちZEVは45%以上)、バンはZLEVを40%以上(うちZEVは36%以上)とする目標を掲げている。各加盟国の乗用車に係る目標は表4のとおり。

表4:社用車のグリーン化規則案における乗用車の国別目標案
加盟国 2030~2034年 2035年以降
ZLEV全体 うちZEV ZLEV全体 うちZEV
オーストリア、ベルギー、デンマーク、アイルランド、ルクセンブルク、オランダ、スウェーデン 90% 58% 95% 95%
フィンランド、ドイツ 83% 54% 95% 95%
フランス、イタリア、マルタ 69% 45% 95% 80%
キプロス、チェコ、エストニア、スロベニア、スペイン 55% 36% 76% 64%
ブルガリア、クロアチア、ギリシャ、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア 48% 31% 67% 56%

出所:欧州委員会の発表を基にジェトロ作成

拘束力のある目標設定の背景には、社用車が個人所有車と比べてより早期に中古車市場に流れるため、より安価なEVの普及につながるとの考えがある。

欧州委の共同研究センター(JRC)のEU中古車市場に関する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2025年3月発表)では、EU4大市場(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)を分析している。これらの4カ国では、乗用車の年間販売台数に占める新車の割合は約3割にとどまり、中古車市場の規模が大きい。特にドイツとフランスでその傾向が強い。電動車(注4)の在庫は、販売台数が増加し始めた2019年以降、増加傾向にあり、2023年時点ではドイツが最多(約450万台)で、続いてフランス(約310万台)、イタリア(約240万台)、スペイン(約160万台)だった。バッテリー式電気自動車(BEV)の在庫は、データがないスペインを除く3カ国でいずれも拡大しているが、ドイツとフランスではBEVが電動車在庫全体の約30%を占めるのに対し、イタリアではBEVは10%にとどまり、ハイブリッド車(HEV)が90%を占めるといった違いがみられる。報告書では、新車の個人所有車の割合がドイツの33%に対しイタリアは71%(2023年時点)であることにも言及しており、国ごとのEV普及速度や所有形態の違いが影響していることがうかがえる。

さらに、環境・運輸分野のNPO国際クリーン交通委員会(ICCT)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(444KB)は、ドイツについて分析している。ドイツの新車乗用車の約3分の2が企業による登録だが、社用車に占めるBEVの割合は約18%と、個人所有車の20%を下回っている。ICCTは、社用車のグリーン化によって中古ZLEVが増加し、より多くの消費者の入手機会の拡大につながると期待している。

ICCTは、ドイツにおける2024~2025年のBEVの増加率(43%増)を踏まえ、2030年に社用車登録に占めるBEV比率54%の目標を達成するには、2026~2030年に年平均約24%の成長、またBEV・PHEV合計で83%目標には、年平均約21.5%の成長が必要になるとしている。ドイツ政府に対しては、企業のBEV調達への明確なインセンティブとして、他の車種よりも大幅かつ長期間の税優遇措置を、ルールや財源を明確にした上で実施することなどを提言した。その好例として、ベルギーでは2026年からはBEVのみを法人税の控除措置優遇の対象としていることを挙げた。

また、米国調査会社ロジウム・グループ(ロジウム)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、社用車のグリーン化規則が中国メーカーのEU市場での拡大を抑制する可能性があると指摘している。例えば、EUでの販売台数のうち、比亜迪(BYD)は88%、上海汽車(SAIC)傘下のMGは62%が社用車として登録されるなど、EU市場参入の足がかりとなっている。規則案どおり、2028年以降に加盟国による財政支援が域内産車に限定されれば、中国企業は競争上不利な立場に置かれる可能性がある。

一方で、同規則案に対してはEU自動車業界から「実質的に内燃機関搭載車の販売を困難にする」との声が上がっている。さらに、イタリア政府やドイツ連立政権の一角であるキリスト教民主同盟(CDU)なども強く反対しており、ロジウムは成立まで厳しい道のりとなると予測している。

「域内産車」の定義を提案、部品業界は歓迎も完成車メーカーからは不明確との声も

2026年3月に発表されたIAA案は、付属書IIIPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(251KB)で新車のCO2排出基準規則の改正案および社用車のグリーン化規則案における「域内産車」の定義を提案し、支援パッケージを補完した。また、自動車産業にも関連する施策として、許認可手続きの迅速化や、域外企業による1億ユーロ以上の投資に係る新たな要件も提案している(表5参照)。後者については、技術移転や域内での雇用・価値創出を重視し、EU共通の審査要件を設定することで、投資効果をEU全体に波及させることを目的としている。加盟国の安全保障リスクに主眼を置く対内直接投資審査規則(2025年12月16日付ビジネス短信参照)とは異なる位置付けとされている。

こうした提案の背景には、EU自動車産業がバリューチェーン全体で空洞化しつつあることへの危機感がある。特に深刻なのが部品業界だ。欧州自動車部品工業会(CLEPA)の2026年3月17日付発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2025年の中国からの部品輸入は前年比12%増と拡大し、EUの部品輸入全体の約3割に達した。また、2018年から2025年にかけて、中国の付加価値生産額は40%増加して3,800億ドルを超えたのに対し、EUは15%減少して約1,800億ドルとなり、中国の約半分の水準にとどまっている。2018年には自動車部品生産(付加価値ベース)の世界首位だったEUの競争力喪失は顕著だ。さらに、中国企業の進出が続くトルコ(2025年12月16日付ビジネス短信参照)からの輸入も、過去5年間で倍増した。

CLEPAは4月27日、IAAに関する提言書を発表した(CLEPAウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。域内産車の要件にある部品の域内調達率については欧州委案の維持を求めるとともに、迂回行為の抑止に向けて、貿易相手国の評価制度や抑止メカニズムの導入を提言した。また、EVとバッテリー関連の外国直接投資(FDI)の閾値(しきいち)については、1億ユーロ以上から3,000万ユーロ以上への引き上げなども提言した。さらに、IAAは自動車産業再興に向けた万能薬ではないとし、欧州にイノベーションを定着させるには他の施策も必要と述べた。

一方、ACEAは5月8日、初期見解を公表した(ACEAウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。その中で、(1)欧州委案における域内産車や低炭素鉄鋼の定義が不明確であり、順守可能性の観点からIAAの立法過程で明確化すること、(2)生産コスト上昇が見込まれる中、小型車に限らず全ての域内産BEVにスーパークレジットを付与するといったインセンティブを導入すること、(3)部品の原産地証明などの報告要件は、容易に監査可能なものとする必要があることを指摘した。特に、欧州委案は域内産バッテリーの供給について楽観的過ぎるとし、エネルギー価格の引き下げや許認可の迅速化、投資支援がなければ、IAAが定める域内調達率の達成に必要な生産拡大は見込めないと述べた。

実際、欧州のバッテリー企業によるギガファクトリーは稼働開始から間もないものが多く、中には生産拡大に課題を抱えるケースもみられる(表6参照)。早期に操業を開始したフランスのオートモーティブ・セルズ・カンパニー(ACC)も、生産拡大に想定以上の期間やコストを要し、一時的に研究開発部門の縮小を余儀なくされている。

ACCやパワーコー(ドイツ)、ベルコール(フランス)の最高経営責任者(CEO)は、2025年9月4日付の共同声明(パワーコーウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で、欧州自動車産業がアジア製バッテリーに大きく依存していることや、EUと中国、米国との支援規模に格差が存在することを指摘した。その上で、「EUバッテリー産業は成熟期を迎える前に、完全に競争に負けるリスクがある」と強い危機感を示した。

欧州委は2025年12月、支援パッケージの一環として、バッテリーセル事業者向けに約15億ユーロの無利子融資を含む新たな振興戦略を発表したが、バッテリー業界からは不十分との声が上がっている。

欧州委は、支援パッケージおよびIAAがクリーンモビリティー需要の予見性を高め、自動車産業復活の契機となると意気込んでいる。しかし、加盟国間や産業界では賛否が分かれているほか、日本を含む域外国・企業からも懸念の声が上がっており、法案審議の行方が注目される。


注1:
EVの航続距離延長を目的に搭載される小型発電機から成るシステム。 本文に戻る
注2:
一般的なハイブリッドシステムより小型で出力の低いモーターを備えたハイブリッド車。 本文に戻る
注3:
指令2013/34/EUで規定する、次の基準のうち少なくとも2つ以上の基準を満たす企業:(1)総資産残高2,000万ユーロ、(2)純売上高4,000万ユーロ、(3)年間平均従業員数250人。 本文に戻る
注4:
HEV、PHEV、BEVを含む。 本文に戻る

2025年のEU自動車産業

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執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
滝澤 祥子(たきざわ しょうこ)
2016年からジェトロ・ブリュッセル事務所勤務。