政治・経済状況の悪化、産業界は競争力向上を模索(チュニジア)
2022年の注目点(11)

2022年6月1日

新型コロナの影響で経済状況が悪化

観光業が主要産業で、欧州との加工貿易への依存度が高いチュニジアでは、新型コロナウイルス感染拡大による経済への打撃が顕著で、2020年のGDP成長率はマイナス8.8%を記録した。2021年に入り、感染状況が沈静化する中、工業は9.5%、サービス業は3.8%の成長を遂げ、GDP成長率は3.8%となった。

もっとも、チュニジア経済は、新型コロナ禍前のレベルまで回復するには至っていない。世界銀行は同国経済について、2022年の成長率を3%と予測しているが、2023年以降は約2%の成長にとどまるとしている。2010年にGDP比で38.8%であった財政赤字は、2021年末の時点で86.6%と大幅に増加し、1,078億ディナール(約4兆5,276億円、1円=約42.5ディナール)に達した。失業率は新型コロナ禍でさらに悪化し、2021年第3四半期に18.4%(男性15.9%、女性24.1%)を記録、15~24歳の若年層の失業率は42.8%にも及んでいる。また、小麦輸入量の40%をウクライナに依存するチュニジアでは、ウクライナ情勢悪化の影響で、小麦などの食料価格が高騰しており、さらに社会不安が広がっている状況だ。

国際通貨基金(IMF)のバッシェ在チュニジア代表は、チュニジアについて、経済・財政の抜本的改革の必要性を強調している。特に、国家支出の重荷となっている65万人を数える公務員給与の削減、公共企業の経営立て直し、ガソリン・ガスなどのエネルギー製品や基礎食品(穀物・食用油・パスタ・砂糖など)などに対する補助金制度の見直しが最重要課題と指摘している。

政局の大転換

新型コロナ感染拡大の深刻化と経済悪化への対応の遅れから、反政府抗議デモが全国的に相次いだ。こうした状況を踏まえ、カイス・サイード大統領は2021年7月25日、緊急事態における大統領の特別措置を発令し、首相解任と国民代表議会の活動一時停止を発表した(2021年7月28日付ビジネス短信参照)。同大統領は、国民との直接対話による国の立て直しを志向し、2022年1月1日から3月20日まで、憲法と選挙法の改正に係る国民との直接協議をオンラインで行った。今後、この協議の結果を指針として、特別委員会が憲法改正案の作成を行い、7月25日に憲法改正に関する国民投票が実施される。国民投票の結果により制定される新選挙法に基づいて、2022年12月17日に議会選挙が実施される予定だ。

一方、2022年3月30日に、イスラム穏健派与党「アンナハダ」党首でもあるラシード・ガンヌーシー国民代表議会議長が議会の再開をオンラインで強行したことに対して、サイード大統領は同日、議会の解散を決定した(2022年4月7日付ビジネス短信参照)。暫定的措置とはいえ、議会不在の中、サイード大統領に全ての権力が集中し、大統領令により政策を実行する政治体制に対しては、アンナハダ党支持者と「反クーデター市民イニシアディブ」を中心とする反対派は頻繁にデモを行っている。「アラブの春」の後、議会制民主主義を着実に進めてきた唯一の国チュニジアであるが、政治的にも2022年は要の年となる。

経済成長に期待される産業分野

このように政治・経済面で困難な状況にあるチュニジアだが、中・長期的な経済成長に向けては、以下の産業が注目される。

  • 繊維・衣料産業
    チュニジアの主要製造業である繊維・衣料産業はこれまで、アジア諸国との厳しい競争を強いられてきた。しかし、新型コロナ禍によって、サプライチェーンの世界的な見直しが進む中、喪失した市場を挽回する新たな商機になるとされている。欧州・中東市場に近いチュニジアの地の利によって、短いサイクルで新製品を発信することで売り上げを伸ばすファストファッションブランドへの対応が可能になったほか、高級下着などのニッチ市場への特化、ハイテク繊維への転換を図り、高付加価値化が進められている。また、地場産業の自動車・航空機産業と連携するかたちで座席シート用の特殊繊維の開発・製造や、新型コロナ禍で需要が増した個人防護具(PPE)製品および作業着、さらにスポーツウエアへの展開といった新しい方向性を見いだしている。南部沿岸都市モナスティールの繊維・衣料関連などの産業クラスター「モナスティール・エルフェッジャ(MFCPOLE)」が研究開発・研修機関の役割も果たしている。
  • 航空機部品産業
    航空機部品産業は十数年来、好調な伸びを示し、首都チュニスに近いエル・ムギラ工業地区と中部沿岸都市スースを中心に、フランスなど海外の航空機関連企業が多数進出している。国内外の企業を合わせて81社が1万7,000人を雇用し、開発、製造(機体・シート・電気系統・表面加工・塗装など)、メンテナンス、人材育成など、バリューチェーン全体をカバーしている。新型コロナ禍で大きな打撃を受けたものの、2021年後半以降、製造部門の回復が著しく、2022年末までには、生産量は新型コロナ前のレベルにほぼ追いつくと予測されている。今後もチュニジアで期待できるセクターといえる。
  • 自動車部品産業
    自動車部品を幅広く製造しているチュニジアは、欧州市場を中心に、モロッコに次ぐアフリカ第2の部品輸出国として、2019年までの10年間の売上高は平均12%の成長を続けてきた。関連する企業の数は20カ国から280社以上を数え、9万人以上の雇用を抱える。しかし、新型コロナ感染拡大の自動車産業へのインパクトは大きく、新型コロナ禍前の自動車販売台数を回復するのは早くて2025年になるという見方もある。チュニジアは現在、2027年までをめどとして、産業競争力強化のための官民パートナーシップ協定(PPP)の締結に向けて協議を進めており、電気自動車(EV)用部品への移行を含むグローバルバリューチェーンにおける地位向上と輸出拡大を目指している。すでにEV用高電圧ケーブルなどイノベーティブなワイヤーハーネスの開発・製造販売でグローバルに活躍するチュニジア企業グループのコフィキャブ(Coficab)や、2019年のスウェーデン企業アルバ(Alva)の工場買収に続き、2022年3月には新工場を開設して大規模にエアバッグの生産を拡大している東レ、矢崎総業、ドイツのレオニ(Leoni)、スウェーデンのオートリブ(Autoliv)といった企業が活動している。こうした外資系企業の進出が、チュニジアの競争力強化につながることが期待されている。
    もっとも、ウクライナ情勢の悪化は、自動車部品のサプライチェーンにも影響を及ぼしている。EUが輸入しているワイヤーハーネスの7~11%はウクライナ製であり、欧州の自動車メーカーは代替調達先を探し始めている。チュニジアにとっては輸出拡大の機会であり、同国自動車協会(TAA)は、国の関係機関と早々に欧州自動車産業へのバックアップ対応を協議している。
  • 有機農業、アグリビジネス
    チュニジアは、有機農業の作付面積ではアフリカで最大、世界で30位となっている。2019年にオーガニック製品に関連する事業者(農家・食品加工業者・販売業者・輸出業者など)の組合「UnoBio」が発足した。チュニジアのオーガニック認証はEUと相互認証しているため、輸出が容易である。2024年には、世界有機農業会議がチュニジアで開催される予定だ。チュニジアのオーガニック食品の代表はオリーブオイルで、32万6,000ヘクタールの有機農業作付面積全体の77%をオリーブが占める(2019年時点)。新型コロナ禍にもかかわらず、有機食品の輸出は順調に伸び、2013年に3万6,000トンであった輸出量は2020年には9万トンを記録し、チュニジアで生産される250種の有機食品のうち約60種が輸出されている。オリーブオイルに次いで注目されるのが、香料・医薬品用のハーブだ。2021年8月には、産業クラスター・ネオパーク・エルフェッジャに日本企業のサラヤがオリーブオイル製造工場とハーブを利用した化粧品工場の建設を開始している。

TICAD8に向けての動き

2022年8月27~28日にチュニスで開催が予定されているTICAD8(第8回アフリカ開発会議)を見据え、チュニジアでは日本との関係強化の動きが見られる。2月1日には、清水信介駐チュニジア日本大使とナジュラ・ブデン首相との間で意見交換が行われ、日本企業による投資が近年増加し、チュニジアへの外国直接投資で日本が第3位となったことにも触れられている。日・チュニジア商工会議所などが中心となり、TICAD8の準備セミナーなども開催され、TICAD8を機に日本企業によるチュニジア投資への期待は高まっている。

執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。