サイード大統領、首相の解任と議会の一時停止を発表

(チュニジア)

パリ発

2021年07月28日

チュニジアのカイス・サイード大統領は7月25日、大統領府で治安関係者代表との緊急会合を行い、国民に向けたテレビ演説において、緊急事態における大統領の特別措置を定めた憲法第80条を適用し、ヒシェム・ムシーシ首相の解任と国民代表議会(以下、議会)の30日間の活動停止を発表した。大統領による次期首相の任命まで、大統領が行政権を担うこととなる。同時に、全議員の免責特権の剥奪も発表した。

チュニジアでは同日、新型コロナウイルス感染拡大の深刻化と、それに伴う経済悪化への政府対応の遅れに対し、チュニス、スース、スファックス、モナスティールなど全国的に抗議デモが行われ、議会解散と首相退陣をスローガンに、議会第1党のイスラム穏健派アンナハダの事務所への攻撃や、デモ隊と治安部隊の衝突が発生していた。

サイード大統領は、憲法第80条に従い、ラシェド・ガンヌーシ議長(アンナハダ党首)およびムシーシ首相との協議の上で議会の活動停止を決定したとしているが、ガンヌーシ議長は、大統領が憲法と2011年革命に対するクーデターを開始したとして、この決定を強く非難した。

チュニジアでは、大統領への権力集中を避けるため、2014年の憲法改正で、大統領は外交と安全保障に関してのみ権限を有し、行政の長は首相とする「混合議会制度」を採用していた。しかし、それ以降もサイード大統領は政策決定などに介入し、大統領と議会第1党アンナハダとの政治的対立が続いていた。

国民の政府に対する不満が高まる中、「共和国祭」の7月25日に行われた全国的な反政府抗議デモを踏まえ、サイード大統領は今回の決定に踏み切ったとみられる。大統領の発表を受け、都市部では路上で歓喜の声が上がるなど、国民の反応は好意的だと報じられている。ただし、サイード大統領が根拠とする憲法第80条は、議会の活動停止などの措置の継続可否は憲法裁判所が判断するとしているが、同裁判所は政治的混乱から設置されていない状況にある。

(渡辺智子)

(チュニジア)

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