政治経済の安定に向けた努力続く(エチオピア)
2022年の注目点(8)

2022年4月28日

よくもあしくも、エチオピアでは政府の力が強い。2022年は、その強い政府が政治と経済の両面で指導力を発揮して難局を乗り越えられるかの分水嶺になりそうだ。

安定化に向けた努力続く

ティグライ州に端を発した国内北部の紛争は、2021年後半に再燃した。同州に隣接するアムハラ州やアファール州では、インフラも被害を受けた。被害は病院や学校など社会インフラから、工業団地、電力施設、橋のように経済活動への影響が大きいものにも及んだ。2022年に入ってからも、ティグライ州近隣では局地的戦闘があるようだ。もっとも、当地で詳細が報道されることはない。エチオピア政府から公式な停戦合意はないものの、状況は管理されているためだ(政府は2022年3月24日、「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」に対して無期限の人道的停戦を発表していた)。

他方で、中南部のオロミア州では襲撃事件や衝突がやまない。この紛争は、政府がTPLFとは別にテロ組織と認定する過激派武装集団「OLFシェネ」(注)が関与するとされる。この状況下、同州と連邦政府は共同で、4月に入って1カ月間の掃討作戦を開始するに至った。エチオピア政府は今後も国内の安定に向け、我慢強く努力を続けていく必要がある。こうした努力の一環として、政府は「国民対話委員会」を設置し、2月には11人からなる委員も選出された。しかし、オロミア州やソマリ州などの主要な野党が参加を拒否するなど、委員会が成果を出せるかは分からない。いずれにせよ、この国民対話委員会が3年間の時限設置であることからも分かるように、国内全土の安定はこれから何年もかかる大きな課題だ。

外貨を稼げるかに注目

北部の紛争は、首都アディスアベバに直接的な被害はもたらさなかった。しかし、紛争再燃以前から続く物価上昇率は30%を超える水準で、高止まりが続く。生活物資が高騰し、道路にたたずむ物乞いも目に見えて増えている。他方で、週末の盛り場では、夜半まで音楽が鳴り響く。このように、非常事態宣言下での静けさから一転、夜間のにぎわいも戻っている。エチオピアは、もともと農村部と都市部との間に大きな経済格差がある。物価高騰が長期化するに連れて、都市部でも経済格差が感じられるようになりそうだ。

慢性的に外貨不足にあえぐエチオピア。その獲得のために、政府は輸出促進を志向する。その方策として工業団地を整備し、縫製などの輸出産業に目標を定めて外国企業誘致に努めてきた。近年はこれに加えて、外貨節約的な輸入代替産業の育成に注力している。加工には設備投資が必要で、そうした機械・機器が新たな商機になる可能性がある。しかし、輸入を最終製品から原材料に切り替えても、輸入原資としてやはり外貨が必要だ。外貨準備高は、2021年12月末の時点で輸入のわずか1.3カ月分との国内報道もある。結果として、銀行から輸入信用状の開設許可を取り付けるのもなかなか困難なようだ(2022年4月4日付ビジネス短信参照)。これは中央銀行が外貨管理を厳しくしたことからも裏付けられる。

外貨を稼ぐ輸出では、コーヒー豆が国際市況高騰の恩恵を受けている。そのほか、バラに代表される花きも好調だ。しかし、主要輸出産品でもゴマは、産地の北部で紛争の影響を受けている。2022年の収穫期(9月から11月)に向けて、不透明な状況が続く。エチオピア向けのビジネスを検討するためにも、エチオピアの輸出動向に注意したい。

エチオピアの外貨獲得手段は、輸出に限られるわけではない。しかし、北部の紛争は、援助の停止に加え、外国からの投資流入にも影響が避けられない。欧米などに住む在外エチオピア人からの送金も、ロシアのウクライナ侵攻が影響し、世界中で物価高騰に見舞われる中で不透明感が増している。

新型コロナは落ち着き、渡航しやすく

2022年4月前半の時点で、新型コロナウイルス感染症は落ち着いている。確かに2021年12月後半から2022年1月にかけては、陽性確認者数が急激に増加した(オミクロン型変異株の影響と考えられる)。しかし、その後は急速に減少。政府は4月1日から検疫体制を改め、一定の条件下でエチオピア入国後の自主隔離を廃した(2022年4月6日付ビジネス短信参照)。

なお、エチオピアに拠点を置く日本企業は11社にとどまる。当地で事業展開する場合も、多くの企業はロンドンやヨハネスブルク、ドバイ、ナイロビなどでの拠点から管轄している。過去2年間に入国規制と行動制限でエチオピアへの往来が途絶えてしまった企業も多い。しかし、新型コロナウイルス関連規制の緩和で、2022年は人的往来の回復が期待できる。ここで、人的往来を支える航空便について確認しておく。エチオピア航空は、現時点で110都市以上に就航。ロンドン、ヨハネスブルク、ドバイ、ナイロビとはもちろん、日本からも成田空港から週3日、アディスアベバに直行便が飛ぶ。従来は韓国・仁川空港を経由する必要があったのに対し、利便性が一層増したかたちだ。


注:
OLFシェネは、オロモ解放戦線(OLF)の一派。エチオピア政府とOLFの和平合意に反発し、武力闘争を続けている
執筆者紹介
ジェトロ・アディスアベバ事務所 事務所長
関 隆夫(せき たかお)
2003年、ジェトロ入構。中東アフリカ課、ジェトロ・ナイロビ事務所、ジェトロ名古屋などを経て、2016年3月から現職として事務所立ち上げに従事。事業、調査、事務所運営全般からの学びを日本企業に還元している。