民間主導のインフラ投資やイノベーションに期待(ナイジェリア)
2022年の注目点(4)

2022年4月5日

2億人超の人口と消費意欲の高さによる内需の下支えもあり、2021年の実質GDP成長率は3.4%。2015年以降で最高の実績だ。当初の予測を上回る成長率を記録できたことになる。2020年からの反動を考慮しても、ナイジェリアにとって喜ばしいニュースといえる。

他方で、外貨不足とインフレが経済に影を落とす。企業や市民にとって、厳しい状況が続く。

外貨供給不足とインフレは、なおも継続か

ナイジェリア国家統計局(NBS)から入手した貿易額のデータによると、2020年の輸出額は12兆5,000億ナイラ(約3兆7,500億円、1ナイラ=約0.3円)。これに対し輸入額は19兆9,000億ナイラで、貿易収支は7兆4,000億ナイラの赤字だった。輸出総額の約7割(9兆4,500億ナイラ)が、原油や天然ガスなど、鉱物性生産品だ。にもかかわらず、輸入のうち3兆1,500億ナイラが、ガソリンを中心とした石油製品で占められる。精製能力不足がその原因だ。また、これが貿易赤字の要因の1つになっている。

加えてナイジェリア国内では、ガソリンが周辺国の半額以下(1リットルあたり約165ナイラ)で販売されている。これは、多額の燃料補助金が投入された結果だ。その支出額は、1兆4,000億ナイラ(2021年時点)。必然的に、政府の財政圧迫になる。他の産油国が原油高から恩恵を受けているのと対照的に、これではナイジェリアの懐事情は一向に改善しない。そのため、燃料補助金の撤廃は政府内でも議論されている。ただし、少なくとも総選挙が実施される2023年までは投入され続ける見込みだ。

厳しい財政の中で、中央銀行(CBN)による公定レート(1ドル=約415ナイラ)による外貨供給は引き続き厳しい状況だ。結果として、輸入業者や原料を輸入する製造業者は市中両替商(1ドル=約580ナイラ)で外貨を調達せざるを得ない。これが、物価上昇を招いている。2021年12月の消費者物価指数(CPI)上昇率は総合で15.63%。食品に限ると17.37%に達した。現時点で、外貨事情が大幅に改善する要素は少ない。となると、引き続き物価上昇が続くだろう。

2023年大統領選に向け、活動本格化

2022年はブハリ第2期政権(2019年~2023年)にとって、評価が下される年になる。コロナ禍という不運に加え、高失業率やインフレが市民に与えた影響や、警察特殊部隊への抗議活動参加者に対する発砲事件(2020年10月23日付ビジネス短信参照)、フラニ牧畜民の盗賊への対応の甘さなどの問題も指摘されている。与党・全進歩会議(APC)の立場は、盤石とは言えない。

2023年2月25日に予定されている大統領選挙に向けて、候補者の名前も徐々に挙がってきた。秋口に実施される予備選挙で、大統領・副大統領・州知事の各政党候補が出そろう予定だ。現在、最も勢いのある候補者は、与党APCのアシワジュ・ボラ・ティヌブ氏と言われる。ラゴス州知事やAPC議長を歴任した同氏は2022年1月、正式に大統領選への立候補を表明した。ただしAPCでは、内部対立が激化。最近では、分裂を起こす可能性まで指摘されている。例えば、ブハリ大統領による次期APC議長の人選をめぐって反発の声が上がっている(注1)。


ティヌブ氏の自宅前には、投票を呼び掛ける看板が設置された(ジェトロ撮影)

インフラ投資とイノベーションを経済の起爆剤に

既述のとおり、財政の改善には、ガソリンなどの石油製品を国産化する体制の再構築が不可欠だ。政府は2023年のブハリ大統領の退任までに、東部ポートハーコートで、製油所のリハビリテーションを60%完了させる計画だ。加えて、ラゴス州レッキ地区に建設中のダンゴテ製油所も、2022年第3四半期中の稼働を目指している(注2)。この製油所が完成すると、シングルトラックとして世界最大になる。

石油関連以外でもレッキ地区では、レッキ深海港(Lekki Sea Port)とラゴス自由貿易区(Lagos Free Zone)の整備も進む(注3)。

こうしたプロジェクトを通じ、脆弱(ぜいじゃく)なインフラの改善が期待されている。当地のインフラギャップは、3兆ドルに及ぶといわれる。ナイジェリア中央銀行は、その解消に向けて整備に向けたファンドを組成する予定だ。その規模15兆ナイラ。運用にあたっては民間企業の資力に頼るべく、官民連携(PPP)の活用を模索している。

さらに、ナイジェリア経済に活気を与えているのが、スタートアップ企業の活躍だ。2021年には、ナイジェリア発のスタートアップ4社が企業価値10億ドルを超えるユニコーンになった(いずれも、フィンテック関係)。社会課題があふれるナイジェリアでは、イノベーションが果たす役割が大きい。ナイジェリア発のスタートアップが日系企業から出資を受ける事例も増加している。例えば、豊田通商系列のベンチャーキャピタル(VC)、モビリティ54 インベストメントS.A.S.は、オートチェク(自動車オンライン販売プラットフォーム)に出資した(2021年11月1日付ビジネス短信参照)。また、ソフトバンクグループ傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)もリードインベスターとして、オーペイ(モバイル決済プラットフォームを提供)に出資した(2021年8月27日付ビジネス短信参照)。


現在の海の玄関口アパパ港に続く道路に、コンテナを積んだトラックが順番待ち待機している(ジェトロ撮影)

注1:
ブハリ大統領は、北中部ナサラワ州のアブドゥラヒ・アダム上院議員を次期APC議長に推したとされる。北西部出身の政治家には、これに反対する声が出ているという。
注2:
ダンゴテ製油所の建設は、当初計画より遅れている。
注3:
レッキ深海港・ラゴス自由貿易区の整備は、州政府、中国政府系企業、地場コングロマリットのトララムグループの3者を中心に進められている。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
谷波 拓真(たになみ たくま)
2013年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ金沢、ジェトロ・アジア経済研究所を経て、2019年12月から現職。