治安に懸念も洋上LNGプラント計画は順調、再エネにも関心集まる(モザンビーク)
2022年の注目点(5)

2022年4月8日

モザンビークの経済は、2020年に約30年ぶりに実質GDP成長率がマイナス1.2%を記録したのち、2021年にかけて緩やかな回復傾向となった。IMFは2021年の成長率を2.2%、2022年を5.3%と予測している。本稿では、治安問題で国際的な関心を集める北部カーボ・デルガド州のガス開発を中心としたエネルギー分野の動向に焦点を当て、その経緯と2022年の動向について詳述する。

南部アフリカ共同体などからの軍事介入を受け入れ、治安問題解決を目指す

同州では、3つの大規模天然ガス開発プロジェクトが進行中で、2021年にイスラム系武装勢力による町村への襲撃、治安部隊との衝突などによる治安の悪化が一時ピークを迎えた。特に、陸上LNG(液化天然ガス)プラントの建設を計画しているエリア1およびエリア4ロブマ鉱区の2つのプロジェクトは、プロジェクトサイト近郊の治安状況が懸念事項となっている。2021年4月には、エリア1天然ガス開発プロジェクトのコンソーシアム筆頭であるトタルエナジーズ(フランス)が治安状況の悪化を理由に「不可抗力」を宣言し、プロジェクトが停止状態に追い込まれる事態となった(2021年4月30日付ビジネス短信参照)。モザンビーク政府は、7月以降、南部アフリカ共同体(SADC)およびルワンダからの軍事介入を含む対武装勢力や、復興支援を受け入れ、治安問題の解決に向けた取り組みを進めており(2021年10月12日付ビジネス短信参照)、被害地域への電力供給が再開するなど治安状況の好転と復旧が進んでいる。

エリア4コーラル・サウス鉱区の洋上LNGプラント計画は順調、年内の生産開始を予定

他方、3つの天然ガスプロジェクトのうち、アフリカ地域で初となる、洋上LNGプラントを採用するエリア4コーラル・サウス鉱区は順調に計画が進行している。2022年1月に洋上LNG船がカーボ・デルガド州沖合にある天然ガス鉱区に到着しており、2022年後半の生産開始が見込まれている。生産開始初年度である2022年には1億5,000万立方フィートの天然ガスの生産が計画されており、同鉱区は最大年間5億2,500万立方フィートの生産容量を持つと推定されている。

ガス開発による雇用の創出や地域経済の活性化に対する、民間セクターからの関心は依然として強く、モザンビークの不動産開発・投資企業であるアフリカン・センチュリーは、2022年1月にカーボ・デルガド州の州都ペンバに「ACREビジネスパーク」をオープンした。同商業地区には、南アフリカ共和国の大手銀行FNBなど民間企業の入居が始まっている。

エリア4コーラル・サウス鉱区およびロブマ鉱区のプロジェクトでは、日揮がLNGプラントの設計、建設を共同受注している。また、エリア1天然ガスプロジェクトのコンソーシアムに、三井物産が参画している。日本企業との関わりが深い、大規模な天然ガス開発プロジェクトが順調に進行するかどうかが、モザンビーク経済の成長のカギとなる。

電力不足解消のため、再生可能エネルギーが注目される

天然ガスもさることながら、モザンビークでは近年、再エネが注目を集めている。モザンビーク政府は2018年に「国家電化戦略」を立ち上げ、2030年までにすべての国民が電気にアクセス可能となることを目標に掲げている。同戦略によると、電力インフラは2020年の発電容量2,780メガワット(MW)から、2030年には6,001MWへ拡大することが予測される。電化を推進するうえで、低コストのソリューションとして再生可能エネルギーの採用が注目されており、再エネ分野では官民パートナーシップ(以下、PPP)による開発が進んでいる。2019年に稼働した中部ザンベジア州のモクバソーラー発電所 (発電容量41MW) を皮切りに、現在までに合計147MWのソーラー発電所の建設および契約締結がPPPによって進められている。2023年には発電容量40MWのイニャンバネ風力発電所のプレ入札が実施される計画であるほか、275MW分のソーラーおよび風力発電所建設計画が控える。この動きに合わせ、法整備も進んでおり、2022年は再生エネルギー事業者に対するライセンスなどを盛り込んだ電力法の改正が予定されている。

また、ビジネス環境の改善が、事業への追い風になると期待される。モザンビーク共和国議会は2021年3月に政府による商法の改正を承認し、改正に向けた動きが進行中だ。改正商法には、会社設立手続きの簡素化、デジタル化、費用体系の見直しなどが盛り込まれるとされており、同国での進出企業や外国投資家の活動を後押しすると期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・マプト事務所
松永 篤(まつなが あつし)
2015年からモザンビークで農業、BOPビジネスなどの事業に携わる。2019年からジェトロ・マプト事務所業務に従事。