新エネルギー政策や国営企業改革が焦点(南アフリカ共和国)
2022年の注目点(7)

2022年4月20日

南アフリカ共和国(以下「南ア」)は2021年、治安の悪化や新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた。7月にはハウテン州とクワズール・ナタール州で、ジェイコブ・ズマ前大統領の支持者が大規模な略奪・暴動を引き起こし、南ア日系コミュニティにも緊張が走った。市民の暴動は、工場への襲撃などに発展。事業停止に追い込まれたほか、ダーバン港や幹線道路など物流を混乱に陥らせた(2021年7月14日付ビジネス短信参照)。同時期に感染拡大第3波があったことも重なり、第3四半期(7~9月)はマイナス1.7%。第2四半期(4~6月)の1.1%のプラス成長(前期比、季節調整済み)から一転したかたちだ。2020年第3四半期から4四半期連続でプラス成長を記録していた中で、マイナス成長になった。

12月は、オミクロン株による第4波が襲来。各国の渡航制限引き上げにより、最盛期を迎えるはずだった観光業は大きな打撃を受けた。しかし、政府は一貫してロックダウン規制を最低レベルにとどめた。このことにより、経済への打撃を最小限に抑え、第4四半期は1.2%のプラス成長を達成した。

グリーン水素開発・生産に投資、将来的には水素輸出も

2022年2月10日の施政方針演説(SONA)で、シリル・ラマポーザ大統領は、再生可能エネルギー(再エネ)開発に投資し、民間セクターと協力して生産力を強化する取り組みについて説明した(2022年2月17日付ビジネス短信参照)。世界的にグリーンエネルギーへ注目が集まる中、グローバル市場で関連産業に関わる南ア企業の競争力が高まることに期待を示したといえるだろう。

南ア政府が積極的に取り組んでいるのが、グリーン水素の開発・生産だ。同国は、広大な土地と風力や太陽光に恵まれる。そうした地の利を生かし、北ケープ州ボホバイにグリーン水素関連づけた経済特区(SEZ)を設置。生産のためのインフラ整備を進めている。また政府は、水素バレー構想を事前に調査し、水素のトラック輸送について実証実験を実施中だ(実証実験にあたっては、水素生産技術を持つ南ア大手化学メーカー、サソールなどと連携)。将来的にヨーロッパ向けの輸出も想定し、欧州との連携も始動した(2022年1月31日付ビジネス短信参照)。輸出先の有望候補としては日本にも言及されている。また、2022年2月17日には、科学・イノベーション省が「水素社会ロードマップ」を公開(2022年2月28日付ビジネス短信参照)し、ジェトロは3月に南アの水素関連政策をまとめた「南アフリカ共和国の水素市場」を公開した。南ア政府は、大型輸送機器などの脱炭素化、グリーン電力セクターの強化などを通して、2050年までにカーボンネットゼロを目標に掲げている。

インフラの安定化を目指し、国有企業の構造改革に着手

政府は、非効率で不安定なインフラシステムの改善に向けて、2021年に引き続き様々な取り組みを予定している。特に、国営企業の立て直しに向けた動きには注目だ。例えば、運輸公社トランスネットの管理下にあるダーバン港は、南部アフリカ港湾の中でトップクラスの貨物を誇る。しかし、南アの経済団体、ビジネス・リーダーシップ・サウスアフリカ(BLSA)によると、同港はコストが高く、効率面で世界のハブ港湾に大きく遅れをとっている。こうした状況を打開すべく、ラマポーザ大統領は2021年6月、トランスネットの港湾管理部門(Transnet National Ports Authority:TNPA)を子会社化。取締役会を設置した。また、同社が管理するダーバン港とングクァラ港の運営について民間セクターから協力を募り、2022年10月から構造改革に取り組む予定だ。港湾改革を成功させ、政府としてはグローバル市場における南ア主要港の競争力を高めたい。4月からは、鉄道貨物部門でも一部民間企業の参入が始まる。

また、南アでは長らく慢性的な電力不足に悩まされており、定期的な計画停電が頻発し、経済発展を阻害する要因の1つにあがる。発電力の増強のため、政府は再エネ独立発電事業調達計画(REIPPPP)を実施し、第6回の民間調達の入札公告を実施(2022年4月19日付ビジネス短信参照)。また、電力規制法の改正案が閣議決定され、現在パブリックコメントを募集中だ。さらに、2022年の12月までに公社エスコムの送電部門を子会社化することも、発表されている。

汚職の撲滅に取り組む大統領、2021年の党選挙の行方は

ラマポーザ大統領は、ズマ前大統領時代にまん延した汚職の撲滅にも力を入れている。国家の汚職を調査する司法調査委員会(Zondo Commission)は、前政権時代の汚職に関する調査結果をまとめ、2021年にその第1部と第2部として報告した。第2部には、エスコムやトランスネットの前最高経営責任者(CEO)ら関係者の実名を記載。公共調達などに関して汚職の実際が明るみになった。調査結果をもとに、検察庁が関係者を告訴する可能性がある。

2022年3月に発行された第3部は、当時の政府と刑務所などの運営業務を請け負うボササとの間に汚職があり、汚職に関連した60名以上の実名を公表した。今回初めて、前大統領のズマ氏についても検察当局に起訴するよう勧告している。今後第4~6部が順次発行されるとしている。

政治に目を向けると、2022年の12月には与党・アフリカ民族会議(ANC)の党首選挙が予定されている。現時点で、ラマポーザ大統領の脅威になりそうな対抗馬は現れていない。ただし、ズマ前大統領の派閥などからの立候補が予想され、今後の政治動向に注目が集まる。2024年4月には、国民総選挙も控えている。


注:
司法調査委員会の原文名称にある「Zondo」は、委員長の個人名に依拠。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。