規制緩和や政府支援で経済は回復基調(コートジボワール)
2022年の注目点(6)

2022年4月12日

コートジボワールでは2021年に入って、新型コロナ感染動向の改善による行動制限緩和や国境封鎖解除に伴い、経済活動は回復基調を強めている。2021年9月の政府発表によると、2021年の実質GDP成長率の見込みは、前年の2.0%から4.5ポイント増の6.5%と、アフリカ地域でも上位の成長率になった。新型コロナ禍の影響で、経済活動は大きな打撃を受けたが、政府は早期の積極的な感染封じ込め策と並行して、生産と雇用の維持を目的とした、GDPの5%に当たる総額1兆7,000億CFAフラン(約3,400億円、1フラン=約0.2円)の大規模な社会・経済支援策による内需強化を実施した。加えて、一次産品価格の上昇による輸出の好転で弾みがつき、経済は力強い回復を続けている。IMFは2022年2月に、「コートジボワール経済は、パンデミックに対して極めて高いレジリエンスと、力強い回復の兆候を示している」と評価している。

表1:需要項目別GDP成長率予測(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2020年
(推定)
2021年
(予測)
2022年
(予測)
(1)実質GDP成長率(%) 2.0 6.5 7.1
階層レベル2の項目民間最終消費支出 △2.8 8.1 5.4
階層レベル2の項目政府最終消費支出 6.3 △5.8 3.2
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 8.4 10.2 13.6
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 △6.8 10.3 7.2
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 7.6 12.8 5.5
(2)消費者物価指数上昇率(%) 2.4 2.8 2.0

出所:経済財政省経済情勢分析・予測局

コートジボワール政府は、2021年3月から新型コロナワクチンの無料接種を開始するとともに、感染拡大防止と経済活動の活発化を両立する新たなフェーズへかじを切った。2022年3月現在で、ワクチン接種回数は人口の42%に当たる1,100万回を超え、人口の26%が1回目の接種を済ませ、16%が2回目の接種を済ませている。コートジボワールは、新型コロナの感染拡大が相対的に穏やかな上、アフリカの中では比較的ワクチン接種が進み、死亡率が低い国の1つだ。

経済政策は民間活力の推進がカギ

政府は、投資総額59兆CFAフランにのぼる「2021~2025年5カ年国家開発計画」を導入し、大規模なインフラ投資や公共事業を推進している。民間セクターによる投資が74%を占める同計画は、民間活力を推進力として、持続的・包摂的成長戦略と工業化による構造改革を主軸に据え、当該期で年平均7.7%の経済成長を目標としている。現在、進行している大型プロジェクトとして、アビジャン自治港の拡張、ココディ湾の開発、発電所の拡張、アビジャン縦断メトロ、高架橋、高層ビルの建設、バス高速輸送システムの開発などがある。


日本の円借款によるアビジャン自治港の穀物バース拡張プロジェクト
(アビジャン自治港提供)

政府は景気刺激を重視する姿勢を打ち出しており、財政出動による景気下支え策の動きが、冷え込んでいた消費を押し上げた。大型予算で積み増しされたインフラ整備や公共事業の進展とともに、新型コロナ禍で導入された企業向け金融支援策がプラスに作用し、固定資本投資も回復に向かっている。行動制限や国境封鎖措置を解除したことで、人の移動が回復するとともに企業活動も活発化し、企業マインドが大きく改善した。

ポスト・コロナを見据えて、外国企業による投資も増えてきた。主な動きとしては、イタリアのENIが石油開発、トルコ・カルパワーシップが浮体式LNG(液化天然ガス)発電設備の設置・運用、オランダ・クデイスが養鶏・飼料製造、オランダのフリースランド・カンピーナが乳製品工場刷新、米国カーギルがカカオ加工工場拡張、ベルギーのKKOインターナショナルがカカオ栽培・加工・流通・販売、中国復星医薬が製薬・医薬品物流プラットフォーム構築、ドイツ・ダズラボーアが新型コロナウイルス抗原検査キット製造、イタリアのIVECOがミニバス組み立て、セネガルのテイリオムグループがホテル、ベルギーのBIOが中小企業向け金融、米国・フランスのRAXIOグループがデータセンターなどの事業にそれぞれ進出した。また、西アフリカ地域における医療ハブ構想でビジネス機会が広がる医療分野、地域物流ハブとして貨物量の増加が予想される港湾開発、スマートフォンの普及や5G(第5世代移動通信システム)導入、基地局シェアリングの促進で成長が見込まれる通信タワー事業などにも、外国企業の注目が高まっている。

分野別の生産動向は、内需の回復を反映している。製造業をはじめ、建設、鉱業、石油精製、電気通信、運輸、小売りとも総じて好調に推移した。新型コロナ感染症に対する警戒感がみられる中で、さまざまなサービスのデジタル化が広がり、特に電気通信部門は、需要の押し上げがみられた。一方で、食糧やカカオをはじめとする輸出農産品の生産が減少した農業部門と、エネルギー部門が不調だった。カカオ豆の生産減少は、隔年結果や天候不順のほか、持続可能なカカオ豆生産に向けた森林伐採の規制強化などが要因だ。電力部門では、新型コロナ禍の影響により発電所拡張プロジェクトに遅れが生じたことに加えて、降雨量の不足で一時、計画停電が実施されるなど電力供給に支障を来した。

表2:産業別GDP成長率予測(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2020年
(推定)
2021年
(予測)
2022年
(予測)
実質GDP成長率(%) 2.0 6.5 7.1
階層レベル2の項目第一次産業 2.2 △1.5 1.6
階層レベル3の項目食用作物・畜産 2.0 △2.1 4.5
階層レベル3の項目輸出用作物 3.0 △1.4 0.4
階層レベル3の項目林業 △10.0 0.0 0.6
階層レベル3の項目漁業 △0.2 0.7 0.5
階層レベル2の項目第二次産業 1.9 7.4 10.4
階層レベル3の項目鉱物資源採掘 6.2 0.5 3.8
階層レベル3の項目農産品加工 △5.2 5.1 5.4
階層レベル3の項目石油精製 △25.7 23.9 △2.4
階層レベル3の項目エネルギー 5.6 △4.7 17.2
階層レベル3の項目建設 5.5 12.4 15.8
階層レベル3の項目その他製造業 4.6 7.7 6.8
階層レベル2の項目第三次産業 0.7 9.1 7.9
階層レベル3の項目輸送 △2.0 15.1 8.2
階層レベル3の項目電気通信 30.3 7.5 6.9
階層レベル3の項目商業 △2.5 8.3 8.4
階層レベル3の項目その他サービス業 △2.2 8.0 7.7

出所:経済財政省経済情勢分析・予測局

国の財政収支は、新型コロナ禍で税収が減少する中、財政・金融政策が積極的に発動されたため、悪化する見込みだ。西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)地域は、財政赤字をGDP比3%以内に抑える財政規律ルールを設けているが、コートジボワールは2020年に続き、2021年も財政赤字が5%を超える見通しだ。また、新型コロナ禍において短期間に多額の融資を受け入れたことで、公的債務が膨らんでいる。コロナ危機前の2019年にGDP比39%であったコートジボワールの公的債務残高は、2021年9月にはGDP比50%の19兆8,363億CFAフランに増加した。多額の債務返済は財政を圧迫するが、政府は、コートジボワールの公的債務水準が、UEMOAが設定した経済収斂(しゅうれん)基準のGDP比70%以内に抑えられており、持続可能な債務を担保する厳正な管理下に置かれているとしている。IMFは2022年2月、コートジボワールの過剰債務リスク評価を「中程度」に据え置いた。さらに、世界格付け大手のスタンダード&プアーズとフィッチ・レーティングスは2021年7月にそれぞれ、リスク評価を「Bプラス」から「BBマイナス」に格上げしている。コートジボワールが加盟するUEMOA地域の共通通貨CFAフランは、ユーロと固定レートで連動するため、6割近くがユーロ建てであるコートジボワールの対外債務は、為替変動のリスクが少ないとされ、今回のリスク評価につながったとみられる。ただ、同国のインフレ率は長らく、低位安定して推移してきたが、新型コロナ禍の影響を受けた世界的なサプライチェーンの混乱による輸入物価の上昇や、天候不順による国内の食糧生産減少などの要因が重なり、上昇圧力が高まっている。政府は2022年3月、物価高騰を抑制するため、生活必需品の価格規制や石油製品への補助金拠出を実施した。

中期的に高い成長を維持

2022年の実質GDP成長率は、堅調な内需に牽引され、7.1%の予測で、2023年以降も中期的に8%台の高い成長を維持することが見込まれる。経済環境の改善により、国際的な信用が拡大するとともに、経済活動の活発化が見込まれる。生産活動は全般に好調な見通しだが、製造業では原材料不足に悩む企業もあり、またガスや電力価格の高騰を懸念している。小売業は改善傾向にあるものの、商品不足に直面している。IMFは、下振れリスクとして、新たなコロナ変異株の出現、世界的なサプライチェーンの混乱、国際的な地政学的緊張、新興国や途上国への資本流入に影響を及ぼす世界金融市場の引き締め、などの要因を挙げている。

国民議会選挙が平和裏に実施、内政安定化

2021年3月に、過去20年で初めてとなる、国内全ての政治勢力が参加した国民議会選挙が平和裏に実施された。政権与党の、民主主義と平和のためのウフェ主義者連合(RHDP)は、議席を減らしたものの過半数を確保した。アシ新首相は4月に、内閣を組閣。テクノクラートを登用して閣僚の若返りを図り、経済発展に向けた指導力の発揮や安定的な政権運営にあたっている。6月には、2010年の大統領選挙をめぐる内戦についてオランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)に起訴されていたバグボ前大統領が、無罪判決の確定を受けて、10年ぶりに帰国した。ワタラ大統領は、国民和解を促す契機として帰国を容認している。2022年に入って、国民和解、社会平和と民主主義の強化を目的とした与野党間の政治対話が再開されるなど、社会融和の深化とともに内政の安定度が増している。

ECOWAS共通通貨ECOの導入を2027年に延期

15カ国が加盟する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は2021年6月、2020年に予定されていた単一通貨「ECO」の導入を2027年まで延期することを決定した。通貨統合のための2020-2021年の経済収斂協定は、新型コロナ禍の影響で履行が中断された。今後、新たに合意された経済収斂・安定成長協定の下、2022~2026年ロードマップに沿って、通貨統合プロセスを進めていく。

地域の安全保障問題への対応も急務

西アフリカのサヘル地域では、テロの脅威が増している。マリやブルキナファソ、ニジェールでは近年、イスラム過激派によるテロ襲撃が増加傾向にあり、テロに巻き込まれる犠牲者が後を絶たない。また周辺国でも、イスラム過激派の越境が懸念されており、特にコートジボワール、ガーナ、ベナン、トーゴのギニア湾岸諸国は、強く警戒している。最近では、ブルキナファソとの国境地帯にあるコートジボワールの北部地方で、ブルキナファソから越境したイスラム過激派とみられる武装集団がコートジボワール軍を襲撃した。大手シンクタンク「経済平和研究所」の2022年版世界テロ指数によると、サブサハラ地域は、世界のテロによる死者の48%を占めている。特にサヘル地域は、世界で最も急速に拡大し、新たなテロの中心地となっているという。テロによる死者が最も増加した10カ国のうちニジェール、マリ、ブルキナファソの3カ国はサヘル地域だ。同地域では、テロによる治安悪化に無策な政権への批判が高まり、クーデターが相次いでおり、混乱に乗じてテロ組織が活動を活発化させることも懸念される。コートジボワール政府は、地域のテロ情勢が悪化していることを受け、兵力や軍備の増強を図っている。コートジボワールを取り巻く安全保障問題への対応は、最重要課題の1つとなっている。

執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。