エネルギー開発に新たな風(アルジェリア)
2022年の注目点(9)

2022年5月9日

2021年の原油価格の上昇および新型コロナウイルス禍からの回復により、アルジェリア経済は低迷期を乗り越えた。IMFによると、経済成長率予測は2021年に3.2%、2022年に2.4%となる。2021年末に黒字転換した貿易収支は、油価の上昇による輸出額の増加および輸入抑制策の継続により、2022年も黒字を維持すると見込まれている。

アルジェリアは輸出の約90%を炭化水素に依存しており、国内製造業および農業部門が十分に育成されていない状況だ。ウクライナ情勢の悪化に伴う油価の高騰がエネルギー部門をさらに後押ししているが、食料価格の上昇や穀物などの供給不足が予測される中、農業分野でも新たなニーズが生じている。

油価高騰、ガス・石油の重要性を再確認

世界的な景気回復に伴う堅調な需要を背景とした油価の高騰は、エネルギー部門を後押ししており、ウクライナ情勢の悪化に伴って、アルジェリアにおいてはこの傾向が一層強まっている。

欧米諸国はロシアを対象とした経済制裁を導入し、米国と英国はロシア産の原油や液化天然ガス(LNG)に対して輸入禁止措置を発動した。天然ガス輸入量の45%、石油輸入量の25%をロシアに依存する欧州連合(EU)は、同様の措置を即時に適用できない状況にありながらも、2030年までにロシア産エネルギーから脱却することを目指している。その目的を達成するには、化石燃料の消費量を減らすとともに、ガスの調達先を多角化することが求められる。

アルジェリアは現在、欧州諸国のガス需要量の11%を供給しており、主要供給国の1つだ。アルジェリア国営炭化水素公社ソナトラックのトゥーフィック・ハッカル総裁は、欧州にガスの追加供給をする準備ができていることを表明し、欧州諸国の要求に応じる姿勢を見せた。ただし、国内向け供給や他国向け輸出などもあり、実際には約10%程度の増加にとどまると推測される(2022年3月3日付ビジネス短信参照)。

ソナトラックは、ウクライナ情勢の悪化以前、ガス・石油の生産能力を強化するため、2022年から400億ドルの5カ年投資計画を発表している。外国企業とのパートナーシップに期待し、2022年は炭化水素の採掘・開発に80億ドルを投資するほか、2023年には初のオフショア事業も開始する予定だ。ウクライナ情勢の悪化を背景とした油価の高騰もあり、これらの実施に伴う新たな商機が生まれる可能性がある。

トランス・サハラ・ガスパイプライン計画の再始動

アルジェリア、ナイジェリアおよびニジェール政府は2022年2月16日、ナイジェリアからニジェールおよびアルジェリアを経由して天然ガスを欧州へ輸送する「トランス・サハラ・ガスパイプライン」の建設計画について、具体的なロードマップの策定に合意した。ナイジェリア南部のガス田と、欧州との既存のガスパイプラインの始点であるアルジェリアのハッシルメルをつなぐ、このパイプラインの長さは合計4,000キロメートルに及ぶ。ナイジェリアでは敷設工事が既に開始されており、稼働後には、欧州に対して数十億立方メートルの天然ガスを追加輸出することができると予測される。

同計画は2001年に合意され、その後、油価の低迷などにより進展がなかったものの、バレル価格高騰および欧州の脱ロシア依存が今回の動きを後押しするかたちとなった。もっとも、サヘル地域でのイスラム過激派テロ組織の活動に伴うセキュリティ上の懸念が残るなど、同計画には遅延の可能性があることには留意する必要がある。

シェールガス・オイルの開発可能性も

アルジェリア国家炭化水素活用庁(ALNAFT)の2019年の発表によると、アルジェリアのシェールガスの推定埋蔵量は9兆8,180億立方フィート(TCF)で、米国と中国に続いて世界第3位、シェールオイルの推定埋蔵量は1兆1,940億バレルで世界第7位になる。

ソナトラックは2014年から南部インサラ地域で試掘を開始したが、環境汚染を懸念した国内各地の反発運動により、政府は一時的にシェールガスの開発を中止した。しかしながら、今後、人口増加や経済の多角化により国内需要の増加が見込まれており、アルジェリアは天然ガスの輸出量を2025年から制限せざるを得ない状況にある。政府は、2030年には天然ガス輸出は2,500億~3,000億立方メートルに制限されると推測しているが、天然ガスの輸出能力を維持するために、シェールガスの開発の必要性を表明している。ソナトラックは、2019年から欧米石油大手複数社と積極的に開発の検討を再開したが、同年の大統領交代後、目立った進展がなかった。

ウクライナ情勢の悪化に伴う、EUのガス調達先の多角化による需要増加と油価の高騰は、上記のパイプライン計画と同様に、アルジェリアにおけるシェールガスの開発を加速させる可能性がある。

再生可能エネルギーの展開

アルジェリアのエネルギー転換・再生可能エネルギー省は、2020年に公表された再生可能エネルギー国家計画に基づき、2021年12月にアルジェリア中部での複数の太陽光発電所建設計画「Solar 1000 MW」に関する入札を公示した。アルジェリアで太陽光発電所建設に関する入札は初めてで、政府は再エネの普及に向けて本格的に取り組み始めている(2022年1月14日付ビジネス短信参照)。

太陽光発電など再エネに係る発電事業は、外資比率制限の対象ではないため、外国企業も入札への参加が可能で、49%以上の出資も認められる。同省の発表によると、国内外110社に入札の仕様書を提供した。

また、同再生可能エネルギー国家計画に基づき、2035年をめどに16GW(ギガワット)の太陽光発電量、5GWの風力発電量、1GWのバイオマス発電量の実現を目指す。アルジェリアの電力は現在、約97%が天然ガスによる火力発電となるため、再エネの展開により、近年増加傾向にある炭化水素の国内消費を減少し、輸出能力を強化する狙いもある。

農産品の脱輸入依存に向けて灌漑拡大へ

アルジェリア政府は、産業の多角化を掲げているものの、国内の農業部門は十分に発達していない。そして、世界的な食料価格の上昇や穀物などの供給不足の予測が、アルジェリア農業に新たな課題をもたらしている。

アルジェリアにおける穀物の国内生産量は、2019年以降、年平均で523万トンに達する。政府の農業計画では、同生産量は2022年に650万トン、2024年に718万トンに拡大する予定だ。一方で、アルジェリアの農業部門は天候に大きく左右されており、国連食糧農業機関(FAO)によると、2021年の国内の小麦、大麦、トウモロコシなどの穀物収穫高は、降雨量不足など悪天候の影響で、前年比38%減となった。その結果、主要輸入品目である小麦の2021年/2022年の輸入量は約810万トンで、25%増になる見込みだ。

ウクライナ情勢の悪化を受けた世界的な食材の価格高騰は、アルジェリアにも影響が及んでいる。政府は補助金制度を設けて、砂糖、小麦粉、食料油などの価格を一部固定していて、政府の補助金支出の拡大が国家財政を悪化させている。アルジェリアの小麦の主要輸入元は欧米が中心で、他の北アフリカ諸国に比べるとウクライナとロシアに依存していなかったが、アルジェリア政府は輸入元の多角化を図り、2021年6月に5年ぶりにロシアからの輸入を再開した。しかし、ロシアを対象とした経済制裁の影響によって、小麦をはじめとする食糧の安定調達が今後の課題となっている。

政府は2020年7月に、食料自給率の増加と輸入の抑制を図る5カ年計画「農業政策ロードマップ」を導入したが、同計画の導入以降も、降雨量不足の影響で国内生産量の拡大には至っていない。政府は、自給自足社会を実現するためには灌漑技術を活用し、機械化を進める必要があるとしている。小麦の場合、国内の平均生産性は2トン/ヘクタールにとどまっているが、灌漑技術の活用により、この数字を6トン/ヘクタールまで増加できると予測している。

アフリカ最大の面積を持つアルジェリアは、農地がその面積の17%を占めるが、一方で水資源が不足しており、2021年夏にはアルジェリア各地に断水を引き起こした。アルジェリアでは農業用水、上水、節水に関する技術的なソリューションが必要とされており、今後、水インフラ整備の分野におけるビジネスチャンスも期待される。

執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。